昔抱いた憧れを
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ツクヨが読み取った宿題の真意は試行錯誤の末にアヤトが完成させた剣術をリースに教えるか否かの試し稽古。
対するリースが提出した答えは自問自答の末に導き出した自分の求める強さに必要な覚悟であり、真意には辿り着いていない。
しかし結果としてアヤトの真意とリースの望みは一致している。
故に開始前のやり取りでは教わる側としてリースは謙虚な姿勢を崩さなかった。
開始早々の好戦もまず教えるだけの価値が自分にあるかをアヤトに見定めてもらうためだった。
だからこそ朧月を抜いた時、我を忘れるほど歓喜した。
それは教える価値があると認めてもらえたからではなく、純粋にリースが朧月を振るうアヤトと立ち合いたかったからで。
「ふっ」
共に距離を詰め間合いに入るなりリースは紅暁を左下段から一閃、アヤトは朧月を振るい防ぐ。更に繰り出す連撃も防ぎ、いなしと両刃が交じり続けていた。
「ほらよ」
「ぐっ!」
そして僅かな間が空くなりアヤトの反撃、辛うじてリースは紅暁で防いだ。
ただ防げたのはどこから繰り出すか分かっていたから。
流れるように続く連撃も先ほどリースが繰り出したものと全く同じ。でなければリースは防ぐことは出来なかっただろう。
なんせ同じ攻撃でもアヤトの振るう朧月は鋭さが別物。しかも攻防当初はリースの剣速に合わせていたが、斬り合う度に僅かながらでも速度が増している。
同じ角度、同じ順序で来ると分かるからこそ今もギリギリ防げていた。
また戯れのような反撃でまだアヤトが自分を見定めていると理解はしている。
故にリースはまだまだ気を抜くことが出来ない。
基準が分からないなら今の自分が出来る精一杯を続けるのみ。
「……っ」
しかしアヤトの連撃を防ぎきり、一度距離を空けるもリースはすぐさま距離を詰める。
呼吸を整えるのがもどかしいほどこの時間を無駄にしたくない。
ワクワクした気持ちが抑えられない。
一合でも多く刃を交えたい。
試し稽古だろうと刃を交える度にアヤトの一振りを学べている。
同じ攻撃を返してくるからこそ、こう振ればより剣筋が良くなると教えてくれるから。
アヤトの重心、腕の振り、体の使い方など全てが参考になる。修正すればもっと美しい一閃を繰り出せる。
それが楽しくてリースは疲労も忘れて繰り返す。
自分も早くアヤトのような美しい一振りをモノにしたい。
アヤトの振るう朧月の美しい軌跡。
この一振りこそリースが刀を使いたかった理由だ。
偶然知ったアヤトの個人訓練で見た朧月の一振り。
その一振りから伝わる地味な反復練習を愚直に繰り返し、誰よりも必死に高みを目指し続けている姿勢。
それは父のように全ての国民を守る理想を諦めず求めた強さに比べて軽いのかもしれない。
しかしそれでも、アヤトの大切ななにかを守る為に求め続けた軌跡にリースは父の剣以上に魅入られた。
もしかすると父のように国民を守る、ではなく家族や親友といった自分の大切な人を守りたいと強さを求めていたが故の共鳴かもしれない。
不遇な過去を持ちながらも、神との契約で大切な記憶を奪われ朧気な根源になろうと、大切な人との約束を果たすため直向きに求め続けた、他の誰にもない強さに惹かれたのかもしれない。
自分のように周囲や常識に流されず、仕方なく受け入れるような妥協もない。
己を貫き続けた軌跡に憧れたのかもしれない。
リース自身も明確な理由はハッキリしていないが自問自答を繰り返した際、アヤトの強さに父以上に憧れている気持ちには自信があった。
故に昔抱いた憧れ、父のような騎士になりたいと剣を握ったように。
アヤトのような美しい一振りを自分も振るいたいと刀を握った。
だから半端はやめた。
その為に不必要だと精霊術を捨てた。
精霊術の可能性に時間をかけるより一振りでも多く刀を振るいたいと。
その為に炎覇とお別れした。
槍術を磨く時間も、他の武器を試す時間も惜しいと。
アヤトから刀の振り方を、技術を、可能にする為に必要な全てを教わりたい。
だから自分が魅入られた朧月の一振り一振りを間近で見て、学べることが嬉しい。
自分の求める強さは。
昔求めていた強さは。
憧れの人に近づきたい――それが強さを求めたリースの根源だ。
実に単純で子どもっぽく。
周囲は呆れ、笑うだろう。
だがリースにとっては真剣で譲れない。
譲りたくなかったはずの純粋な気持ち。
自問自答を繰り返しすことで思い出した。
周囲の助言もしがらみもない、自分で決めた最初の道なら。
もう半端な覚悟で歩みたくない。
この答えが宿題に正しいのか分からなくても。
(関係ないっ)
磨き続けた槍術を捨ててまで刀を握る自分に周囲が呆れようと。
(知らないっ)
精霊術士が精霊術を捨ててまで求める強さかと笑われようと。
(どうでもいいっ)
自分で決めたはずの道を気付けば流され、受け入れてきた弱さとお別れする意味でも。
(貫くっ)
自分の求める強さを知るアヤトに教わるために。
自分の求める強さを手に入れたアヤトに認めてもらうために。
(わたしは――)
その先に理想の強さがあるのなら。
(わたしの大切を守る為に強くなるっ)
必ず手に入れるとリースは無我夢中で紅暁を振るい、憧れの一振りを学び続けた。
しかし試合終了の宣言よりも、試し稽古の結果が出るよりも先にアヤトは朧月の峰を肩に乗せてしまう。
「なんだ、もう終いか」
「は! は! は! か……はぁ!」
対するリースは返答する余裕もなく、紅暁を支えに立ち上がろうと藻掻いていた。
リースの根源は子どもっぽいかもしれませんが、子どもが抱いた純粋な思いは何年経っても強い原動力になると思います。
そして長くなりましたがアヤトVSリースも次回で決着となります。
リースの覚悟がどのような結果を迎えるのか、最後までお楽しみに!
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