幕間 四人の見え方
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攻防入れ替わりの激しいアヤトとリースの選考戦。
事情を知らない者たちはハイレベルな近接戦を様々な感情で観覧していた。
多くは持たぬ者のアヤトが精霊術士と互角に立ち回る疑問。
選抜戦でも、選考戦でも現在上位にいる面々に勝利したことで、精霊力を持つ者を相手にできるのは精霊力を持つ者のみという常識は覆されたとさすがに認めざる得ない。
未だどんな不正を行っているかと疑惑の目を向ける者は居るが、それ以上にラタニはどのような英才教育をアヤトに施したのか好奇的な見方を。
またリースには主力にしていた槍ではなく刀という珍しい武器に持ち替えた疑問や、なぜ精霊術士が精霊術を使わず近接戦に拘るのか理解に苦しみ、中には嫌悪を抱く者もいる。
他にも炎覇と同じ製作者の作品らしい武器をどこで手に入れたのか、ニコレスカ商会が何か関わっているのかと注視している者と、全体的に好意的な感情を向けられていない。
しかしある程度事情を知る者たちはみな二人の攻防を好意的に捉えていた。
特に元序列保持者の四人。
アヤトの宿題について知らなくても、リースから伝わる並々ならぬ覚悟に感じるものがある。
「まったく……選考戦で何をしているんだ」
西側観覧席の最前列からフィールドを見据えていたエレノアは苦笑い。
武器を持ち替えていた以前に、試合前に見せたリースのパフォーマンスから強い覚悟を秘めていたとは察していた。エレノアも序列戦でレイドと対峙した時に同じパフォーマンスをしたからだ。
以降は慣れない刀を巧く扱うリースやアヤトが珍しく朧月を抜いて驚きはしたが、予想通りというか二人が始めたのはいつもの訓練。
選考戦という栄えある舞台ですることではないと呆れてしまう。
しかし呆れこそすれ咎めるつもりはない。むしろリースの姿に感銘を受けていた。
エレノアもまたアヤトから弱さを教わり発起した身。
一度全てを捨て、アヤトを始めとした才能あるライバルの特性を研究し、模索し、自分なりに取り入れ続け、ゼロから自分を再構築した。
故に磨き続けた自分の在り方を、馴染んだ戦い方を捨てる怖さを知っている。
だがリースの覚悟は自分の非ではない。
武器変更はまだいい。もし再構築する中で必要と感じれば変更できたかもしれない。
それでも精霊術だけは無理だと断言できる。
元よりそれなりでも才があったので捨てる必要もなかったが、もしリースのような苦手意識があろうと捨てられるはずがない。特にリースクラスの保有量があれば苦手だろうと研鑽すればいいとの結論になってしまう。
あの保有量なら精霊術の可能性を捨てきれない。それほど精霊術は強大な力だ。
リースも精霊術の可能性は重々承知だったはず。選抜戦以降から精霊術を使わなくなったが、それは言霊を取得していないから使う暇がないだけ。訓練では精霊術も学んでいたし、模擬戦でも追い詰められると使えないジレンマのようなものが伝わっていた。
根が素直なリースも感情が伝わりやすい。故に今のリースには迷いがなく、手にする刀で成し遂げようとの意思が伝わる。
選考戦で対戦した時は刀ではなく炎覇を使用していたが、既に迷いはなく感じたのならあの時から精霊術を捨てていたのか。
とにかく同じように悩んだ経験があるからこそ、エレノアは素直に称賛できる。
自分に出来ない強さを見せつけられては当然の感情で。
「私も序列戦を私的に利用した身だ。存分にカルヴァシアから学べ、リース」
出来ればその強さを教授して欲しいと、エレノアは静かにエールを送っていた。
◇
エレノアと同じく西側観覧席の最後尾に居たミューズもリースの姿に感銘を受けていた。
開始前はリースの武器変更やパフォーマンスよりも、斜め前方で観戦するロロベリアが現れた時から周辺の精霊力が妙にざわついていたり、一人で誰かと話しているような素振りを見せるので疑問視していたが。
「……わたしの精霊力も、あのような輝きを放てるでしょうか」
今はアヤトと対峙するリースの精霊力の輝きから目が離せない。
開始前は昨日の試合後と同じく青空のように澄んだ輝き。
開始直後からは必死に抑制する凝縮した輝き。
アヤトが朧月に持ち替えた時は全てを焼き付くす炎のように荒れ狂っていたが、今は限りなく白い眩い輝きを放ち続けている。
相手に刃を向ける、または相手の刃を受ける時は輝きが悪意に染まり、揺らいだりするもの。しかしリースの感情にはそういった穢れが見当たらない。
ただ純粋に、目標に向かって突き進むのみ。
気持ちの良いほど直向きな姿勢でアヤトとの訓練でなにかを手に入れようとしている。
それがなにかまでは読み取れないが、教わる側としてこれほど模範的な感情はない。
「学ばせて頂いています……リースさん」
◇
そして東側の観覧席では。
「隣りいいか」
「……なにしに来たのよ」
フィールドで激しくぶつかり合う両者に集中していたランは視線も向けず棘のある声音で返す。
そんな冷遇を受けてもディーンは無視、了承も得ずに隣席に腰掛けた。
「あいつら選考戦で何してんだろうな」
「その選考戦はまだ終わってませんー。つまりあたしたちはライバル、なれ合うつもりないんだけど」
「そのライバルに愚痴言いに来たのはどこのどいつだよ……」
選考戦に選ばれて以降は互いに距離を置いていた中、二日目でアヤトとの対戦後にランが自室に乗り込んできたのをディーンは批判。
それ以外は接触を控えていたにも関わらず、人目のある観覧席で普段通りに声をかければランが不服に感じるのも無理はない。
などとディーンは読み取っているが、実際はなぜこの察しの良さが恋愛ごとで発揮されないとランは不服に感じているだけだった。
つまりランはいま無性に誰かと話したい気分なわけで、察してくれたディーンが来てくれたのだろう。
「そもそも俺たちがライバルなのはいつものことだろ」
「……それもそうね」
故に複雑ではあるがディーンの建て前に合わせて遠慮なく相手をしてもらうことに。
「んで、ランはあの二人をどう見るよ」
「ほんと、持たぬ者と精霊術士でこんな近接戦やられると精霊士の立場ないんだけど」
視線は二人の動きを捉えたままランはため息一つ。
近接戦は精霊騎士クラスの専売特許、今回選ばれた精霊学クラスや仕官クラスからは精霊術士しかいないので尚更だ。
しかし今回の選考戦で最もハイレベルな近接戦を繰り広げているのは騎士クラスと精霊術クラス。精霊騎士クラス代表のランが嘆くのは無理もない。
「アヤトはもう人外だからこの際無視するとして、問題はリースよリース。あの子絶対にツクヨさんの作品よね? いつの間に打ってもらったのよ? あたし聞いてないんだけど?」
「そりゃお前に話す必要ないからだろ。まあ俺から見ても扱い慣れてるように感じるなら、ずいぶん前から訓練してたんじゃないか?」
「だったらどうしてあたしとの対戦では使わなかったの? 出し惜しみ? 出し惜しみされたのあたし?」
「それこそ本人に聞けよ……」
「アヤトもアヤトよ。散々嫌がらせした時も月守しか使わなかったじゃない。いや、月守も素敵な子だし、どっちの子を使うのもアヤトの自由だけど朧月は特別な子なのよ。なのにあたしの時は使ってくれないのに出し惜しみ? ねえ、あたし舐められてるの? どっちの子を使われても結果は同じだけどさあ」
「それも本人に聞けよ……というか、俺は武器を子どもみたいに呼ぶお前の感覚が分かんないんだけど」
だがそれ以上に不満をぶちまけられてディーンの方が嘆いてしまう。
ただランの不満も当然。
近接戦主体の精霊士だからこそリースの武器変更も、アヤトが滅多に抜かない主力の朧月で相手をしているのもランとしては面白くない。
もちろん朧月を抜くまでもない相手と判断されている自分の未熟さが原因と受け入れられる。しかしリースが今まで刀を使わなかったのは別。
確かにリースの槍術はレベルが高く、選考戦で勝利したのはレベルが高くとも読みやすいからこそ。また刀に持ち替えたところで槍術ほどの脅威は感じられない。
それでもランは歓迎していた。
まだ馴染んでないが故の伸びしろか、アヤトと斬り合う度に少しずつリースの剣筋が鋭くなっている。槍術にはない速さを活かした戦法も向いているのか、このままアヤトの剣術を吸収すればリースがどこまで伸びるのか予想も付かない。
つまりこのままリースが刀を使い続ければ確実に強くなる。
ならフロイスやミラーが学院を卒業した今、自分と近接戦で互角以上に渡り合える相手がいなくなったランとしては大歓迎だ。
だからこそランは誰かとこの喜びを分かち合いたくて。
恐らく高ぶっていると察したディーンが付き合っていたりする。
まあ下手をすればフロイスから受け継いだ学院最強の精霊騎士の座をリースに奪われるかもしれない。それほどの可能性を感じるが、だからこそ自分も成長できるというもの。
「なによりリースは精霊術クラス、精霊騎士の座は別ってことで」
「それアリなのかよ」
「アリなのよ。とにかく……こんな戦い見せられて滾らない精霊士はいないでしょ」
「……お前くらいだと思うけど」
自身の立場を脅かすライバルを歓迎するランに呆れながらもディーンは微笑ましく見守っていた。
今回詳しい事情を知らない四人がこの一戦をどう捉えているかでした。
特にランが喜んでいましたね。まあ人外認定のアヤトくんを除けば近接戦というフィールドで共に研鑽し合うライバルがいなくなったので当然でしょうか。
そして次回からリースメインの内容となります。
ツクヨが読み取ったアヤトの真意とは別に、リースがアヤトの宿題とどう向き合い、決断したのかをお楽しみに!
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