待ち望んでいた姿
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「後は紅暁を完成させる為に鍛冶場籠もって、集中きれたらリビングのソファで寝ての繰り返し。気分転換がてら飯の準備はしてたけど、それ以外は全部リースに任せきりだ」
短期間でリースが刀の扱いをモノにした理由を簡潔に話したツクヨはカラカラと笑う。
「完成するまでは白月でひたすらアヤトから見て学んだ稽古をさせて、完成してからはひたすら模擬戦の繰り返しでここまでもってこれたわけだ」
「じゃあ刀に持ち替えると決めてから、リースはずっと剣術を磨いてたんですか?」
「選考戦が始まってからもずっとな。元から間に合うのは運次第って伝えてたけど、もし紅暁が宿題提出に間に合わなけりゃリースは選考戦を辞退するつもりだったみてーだぞ」
「……そうなんですか?」
「理由までは知らねーけどな。でもま、運良く今日になったのはその覚悟が引き寄せたのか、それとも神さまのご慈悲でしょーか?」
「わたくしは何も関与していないので、リースさまの覚悟が引き寄せたのかと」
ツクヨの疑問にクスクスと否定するマヤを他所にロロベリアは驚きを隠せない。
てっきり紅暁がアヤトとの対戦に間に合わなければ白月を借りるつもりでいたと考えていただけに、間に合わなければ選考戦そのものを辞退する決断をしていたとは思いもよらず。
総当たり戦の組み合わせが決定した時、決して良い引きではなかったリースが安堵したのは確実に間に合う日程だったからだろう。また昨日の次戦を辞退したのもこの一戦に向けて少しでも紅暁に馴れる為とも理解できる。
しかしなぜ昨日の次戦のみ辞退したのか。更に言えばなぜ紅暁が間に合わなければ辞退する決断をしていて、昨日まで炎覇で出場していたのか。
もしかしてある種アヤトと同じ理由で、敢えて元序列保持者やユースと戦うつもりだったのか。
「ですがなるほどです。あの時、ツクヨさまが確認されたのは紅暁の素材だったのですね」
いまいち真意が掴めない中、別の真意に辿り着いたマヤが両手の平を合わせた。
「ほんとアイツときたら捻くれてるっつーか。お陰で紅暁にちょいとした細工も出来て助かったけどよ」
「それはどのような細工でしょう?」
「アヤトは気付いたみてーだから後で聞け。それくらいは教えてくれると思うぜ?」
「だと良いですけど。しかし兄様がリースさまの刀の為に、精霊石や鉱石を既に準備していたとよくお気づきになりましたね」
「……それはアヤトがリースに刀を持たせるつもりでいたからでしょ」
紅暁の細工は気になるも、続く疑問はロロベリアが変わって返答を。
刀の完成に時間が足りない問題はアヤトのお陰で解決したとは先ほど聞いている。
そして自分が出した宿題に刀が必要なら、ツクヨだけでなくアヤトもリースには刀が向いていると考えていたのだろう。
まあいつから気付いて、なぜ今まで提案しなかった持ち替えを宿題という回りくどい形で勧めたのかは思いつかない。
ただツクヨに指摘された宿題に対する勘違いが、ここに関係しているとはロロベリアも察しているわけで。
「少しは頭を使えてるようでなによりだ。とまあ、白いのちゃんが気付いたように、アタシが最初にお邪魔した時にはアヤトとそんな話してたんだよ」
「そういえばされていましたね」
「……マジで観察してんだな」
マヤの返答にツクヨは苦笑い。
姿が見えなくてもアヤトが居るところには基本マヤも居ると実感しても諦めが肝心、気を取り直して。
「ただま、そん時は時期尚早つーか、本人に刀使ってみたいって頼まれてもないなら放っておけって言われたんだけど……」
「宿題を知って、その時期が来たとツクヨさんは提案した。アヤトの考えも色々と気付いたから」
「なんせアタシはアヤトのダチだからな。つってもダチが捻くれてる分、いまいち自信はねーけどよ」
ツクヨの言い分は同意できるが少なくともアヤトは信頼している。
教国の一件と同じでツクヨを信頼しているからこそアヤトはリースの問題を託した。そして今回もツクヨはアヤトの信頼に応えた。
対しロロベリアはまだ信頼を得るだけの何かを成し遂げていない。それに思い詰めていた親友の為に何も出来なかった自分が不甲斐ない。
ただ何も出来なかったと目を伏せるより、何も出来なかったならせめて最後まで見届けるべき。
「ではツクヨさまが気付かれた兄様の考えとは何でしょう? そろそろご教授して頂きたいですわ」
「だから今は見てろって言ったろ」
気持ちを改めフィールドに注目するロロベリアを他所に興味津々と質問を続けるマヤにツクヨはため息一つ。
「つーかもうすぐアヤトが動くぜ」
「動く?」
「アタシの予想が当たってればの話だが――」
◇
フィールドでは開始と変わらず猛攻を続けるリースにアヤトは防戦に徹していた。
月守で防ぎ、いなし、時には躱しながらと繰り出す太刀筋を見定めているような視線を感じてもリースは無心で紅暁を振るい続けた。
「ふん」
「――っ」
が、振り下ろし合わせて振り上げられた月守の刃が接触した瞬間、アヤトが手首を返すなり紅暁の刃が搦め捕られたような感触が伝わる。
咄嗟の判断でリースは柄から左手を離し、感触に逆らわないよう柄を軸に地を蹴り身体ごと宙を舞う。
ギリギリ右手一本は紅暁を離さず着地できたが体勢を崩されてしまった。
「得物を手放さなかったのは褒めてやろう」
にも関わらずアヤトは反撃もせず月守の峰で肩を叩きつつ余裕の称賛。
「……ふぅ」
「それなりに悪足掻きもしてきたようだ」
その間に一度距離を空けて呼吸を整えるリースを無視してアヤトは月守を鞘に納めてしまう。
無防備なアヤトをチャンスと攻めるよりも、落ち着かせていたリースの鼓動が嫌でも跳ね上がっていく。
何故なら鞘に納めた月守の代わりに、アヤトの左手が腰後ろに帯刀している朧月の柄に触れたからで。
「そろそろ本格的に遊んでやるか」
期待していた通り、不敵な笑みと共にアヤトは朧月を抜いてくれた。
待ち望んでいた朧月の刀身を肩に乗せるその姿を前にリースはうずうずして。
「遊ぶ――っ」
わき上がる感情のままアヤト目がけて飛び出した。
リースはアヤトが朧月を抜くのを待っていました。
理由は次回として、アヤトVSリースも本格化。
ほとんどツクヨさんが頑張ってますけど、リースの頑張りを最後まで見届けて頂ければと……。
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