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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
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リースの答え

アクセスありがとうございます!



 長期休暇に入って四日目。

 リースは改めてツクヨの提案について詳しい説明を受けたのだが。


「……精霊術を捨てる?」


 その切り出しにキョトンとなるもツクヨは構わず続ける。


「更に踏み込んで言えば、テメェ自身が精霊術士であることを捨てる、だな」

「……よく分からない。わたしは精霊術士だから捨てられない」

「要は意識的なもんだって。そうだな……例えばさっき色んな訓練しまくったって言ってたよな。その中に制御力の基礎訓練や精霊術の向上、精霊術士としての訓練もしまくったんだろ? それはどーしてだ?」

「……わたしは制御が苦手だから。伸ばせるところがあるなら伸ばすべきで……みんなにもわたしの保有量なら精霊術で色んな戦い方ができるって……だから」

「たしかに、リースの保有量は他が羨むレベルだ。アタシもその意見は正しいと思う……んだけどよ」


 同意しながらもツクヨは僅かな躊躇い後、頭をガシガシかきつつ視線を向けて。


「自分で自覚してるからもうぶっちゃけるけど、リースに精霊術士の才能ねーよ」


 ハッキリと断定されてしまいリースは少なからずショックを受けた。

 前置きされたように精霊術士の本質、精霊術の才能はないと自覚はしている。

 それでも面と向かって否定されればやはり辛いわけで。


「つーかリースは精霊力って力をあやふやにしか感じ取れてねーだろ? アタシが視る限りでも、お前が精霊術を扱う時もこんだけ流し込めば足りるって雑な感覚で制御してるよーだった」


 そんなリースの心情も無視してツクヨが指摘するのは、精霊力を視認できる彼女だからこその指摘で。あやふやな感覚と指摘されては否定できない。


「アタシは精霊士だから精霊術士の感覚は直接知らんけど、親父が精霊術士だったから精霊術を扱う精霊力の流れは飽きるほど視てきた。最近だけど他の連中のもだ。それ踏まえて言わせてもらえば、リースほど雑で危なっかしい精霊術を扱う精霊術士はいねーぞ」


 確かにリースは相手の精霊力を感じ取る能力が乏しい。

 制御の訓練がいまいち向上しないのも内外関係なく精霊力という力を上手く感知できないから。

 暴解放は解放の感覚に近いので習得できたが、精霊術となれば他にも様々な要素が関わるので未だ苦手なのだ。


「後は……ま、リースの近接戦に精霊術を組み込めれば、精霊士や精霊術士関係なく脅威なんだろーけど……遣り合ってる最中に相手の呼吸や動き、状況判断しつつ近接戦に精霊術を上手く取り入れながらって小器用な戦術ができるとは思えん」


 更に続く指摘も的確だ。

 そもそも昔から精霊術を苦手としているのは精霊術の制御法、同士討ちを避けるために周囲を意識した戦術、扱いすぎると襲う負荷も考慮に入れたりと、一度に多くの事柄を考えるのが苦手だったから。


「でも近接戦では小器用に得物扱えるだろ? これはアタシなりにリースの戦い方見てきた考察だけど、リースは精霊術……つーか精霊力ってのは見えない得物だから意識できない。でも見える得物は意識できる。その意識から精霊力の扱いが苦手なんじゃねーか?」


 精霊力は感じ取れこそするがあやふやなので意識がし辛い。

 しかし手にしている武器は見えるから意識しやすい。説明を聞くのも、実際に動いてもらうのも理解しやすくて難しくない。


「だからいっそのこと近接戦の訓練に絞る。精霊術士としての自分なんざ忘れてよ、精霊力も精霊士と同じ身体能力に必要なもんとして捉えて、頼れるのは手にしている得物だけだって集中した方が伸びるんじゃねーかと」


 そして精霊術士を目指すために嫌いなことを続けるのをうんざりしていたように、元々精霊術士になりたくなかった。

 故にツクヨの指摘は的確で否定できない。

 故にツクヨの提案は魅力的に聞こえる。


 それでも制御の訓練を続け、苦手なことにも挑戦してきたのは強くなる為だ。

 選抜戦前、苦手意識を言い訳にして強くなる方法から逃げているとアヤトに指摘されたから逃げるのを止めた。苦手な制御の訓練も、精霊術の訓練も続けた。

 周囲からも自分ほどの保有量があるなら、精霊術で色んな戦い方ができると教えてもらったから。

 その方が強くなれると――


(…………?)


 ツクヨの提案から、今まで受けていた助言を思い返していたリースは違和感を抱く。

 確かにアヤトから苦手意識を言い訳にして逃げていると指摘された。


 しかしそのアヤトが精霊力という才能がない自分を受け入れた上で、どうすれば強くなれるかを模索し続けたことで規格外の強さを手に入れたとラタニが教えてくれた。

 また周囲から保有量を理由に精霊術の扱いを磨けば強くなれると助言を受けているが、アヤトからは精霊術を磨くよう助言を受けた記憶がない。制御力の向上も精霊術というより暴解放を習得するに必要と言われただけ。

 なにより宿題を出される前、アヤトが口にした独り言。


 ある意味で自分たちは同類だと。


 そして宿題を出した後、アヤトの助言めいた言葉。


 気にいらない自分に頭を下げた覚悟を忘れるなと。


 自分が頭を下げてまでアヤトの個人訓練に参加をお願いしたのは、ロロベリアやユースのように精霊術を組み込む器用な戦闘が出来ないのなら、自身の長所を徹底的に磨くべきと覚悟を固めたからだ。

 故にアヤトは一度も精霊術の可能性を口にせず、近接戦の訓練を徹底的にしてくれた。


 なら――


「むう……」


 必死に思考を巡らせていたリースは頭を抱えてしまう。

 違和感の正体に辿り着けたのではなく、単純に考えすぎて頭がクラクラしてきたからで。


「どうしたよ?」

「考えすぎて頭クラクラする……」


 心配するツクヨに感じたまま伝えればとても冷ややかな視線を向けられた。


「なに考えてたか知らねーけど、少なくともアタシの指摘は間違ってないかもな」

「……かもしれない」


 どの指摘かを聞かなくともさすがに分かるとリースも同意。


「でもま、精霊術を組み込んだ戦術もこれから苦手な頭使って経験積めばいい。それに精霊術が強力なのは確か。今もきついこと言ったけど、才能ないから捨てるんじゃなくて、才能ないなら努力しまくればいい。それだけ精霊術って手札は捨てるに惜しい力だ」

「…………」


 それでもツクヨが励ますように苦手なら克服すればいいだけ。

 精霊術が強力なのも確かなのだが、やはり先ほどの違和感が拭えずもやもやして頷けない。


「とにかく大雑把っつーか……無責任な助言をしちまったけど、今のがアタシの本音だ。参考にでもしてくれ」

「うん……」


 なのでツクヨが纏めるように、後ほど改めてこの違和感について考えることにした。

 今までは深く考えず放置していたのも悪い部分だ。


「んで、こっからが提案だ」


 などと反省したところでツクヨから妙な切り出しが。


「ああ、こっちはアタシの本職だからな。的確な助言になる自信はあるぜ?」

「……まだあるの?」

「あるぞ? つーか今のはあくまでアタシなりにリースは精霊術士に向いてないってぶっちゃけだ。今のお前は色んな方法を模索してるみてーだからな。もちろん関係もあるっちゃあるけど、メインはこっからだ」

「……よく分からない」

「今はよく分からなくてもいいんだよ。要はアタシの提案やぶっちゃけも参考にして、最後はリースが出した答えをアヤトに提出しろ。それが筋ってもんだ」


 宿題を出されたのがリースなら、答えを全てツクヨに教わるのは違う。

 つまり今までツクヨを含めた色んな人から受けた助言から、最後はリース自身で導き出す。それが自分の強さに繋がるなら、自分で答えを見つけるべきとは理解できた。


「がんばる」


 理解できたなら、やはり迷いはないと気合いを入れるリースに満足したのかツクヨはカラカラと笑い。


「お前も刀使ってみねーか?」


 その切り出しにやはりリースはキョトンとなったが、鍛冶が本職のツクヨから刀に持ち替える理由や的確な助言を受け。

 以降は違和感についても改めて、苦手でも頭を使ってたくさん考えた。

 残された時間もツクヨに助けてもらうだけでなく、必要な手段も考え実行して続けた。

 例え流された結果でも。

 周囲の優しさに甘えた結果でも。


 最後は自分の意志で出した答えを胸に選考戦八日目――



「よう」

「うん」



 リースは闘技場の中央でアヤトと向き合った。


「提出できそうか」


 刀を帯刀していても特に驚きもせず、触れることもなくアヤトは問いかける。


「炎覇とお別れした」


 対しリースは左腰の鞘に納まる紅暁の柄を握り締め。


「精霊術も捨てた」


 引き抜いた紅暁の黒い刀身に炎のような紅い刃紋が露わになり。


()()()()()()


 答えと共に切っ先をアヤトに向けた。



 

ツクヨの提案や今までの助言、抱いた違和感も含めて考え抜いてリースの出した答えでした。

己の強さを知る、という宿題に対しなぜリースがこの答えを出したのか。またアヤトの助言についても次回から(やっと)始まるアヤトVSリース戦で明かされていくのでお楽しみに!



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読んでいただき、ありがとうございました!


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