知らされる
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「いってきます」
「おう。しっかり遊んでもらえよ」
選考戦のため学院に向かうリースを呆れつつツクヨは見送った。
というのも今から向かえば学院に到着するのはギリギリ。開始時間の午前十時までに学院の敷地内に居れば問題ないらしいが確実に第一試合は見逃す。
ただリースは第一試合どころか自分の試合まで闘技場周辺で最終調整をするそうなので関係ない。出発がギリギリになったのもアヤト戦に向けての調整の為と、リースにとって選考戦はこの一戦が全て。
例え序列入りできなくても、それこそ次戦のロロベリアとの一戦を棄権しても構わない。
余力を残す余裕もないと、それだけアヤトの宿題にかける意気込みが強い。
今日まで宿題提出に協力したツクヨも見届けてやりたい気持ちがあるも、残念ながら関係者以外は観覧不可。
故に一通りの清掃を済ませてからサクラの屋敷に向かうつもりだったが――
「――お久しぶりです。ツクヨさま」
家に入るなり笑顔でマヤが出迎えた。
◇
「とまあ、神さまのご慈悲でアタシも簡単に忍び込めたわけだけど……神さまってのは何でもありだな」
「……ですね」
観覧席でカラカラと笑うツクヨに隣りに腰掛けるロロベリアは呆れながらも彼女がここに居る理由に納得……というよりツクヨの背後でクスクスと笑っているマヤを確認して何となく察してはいた。
要はマヤの力でツクヨは周囲から認識できないようになっていただけなのだが声は別。まあ選考戦の観覧は少人数、周囲もかなり距離を空けているので聞こえないだろうがもう少し声を抑えて欲しいとロロベリアは内心ヒヤヒヤしていた。
ただ平然とマヤを神と口にしているならツクヨは、アヤトが約束を果たしてくれたわけで。
「アヤトから聞いたんですね」
「詳しい事情はラタニさんからだけどな。ま、マヤが神さまってことやアヤトの過去……白いのちゃんとの関係まで一通り聞いたぜ」
なぜラタニが話す流れになったかは謎だが、重大な秘密を打ち明けるまで認められたのが嬉しいのかツクヨは誇らしげ。
教国でも協力を求めたことも踏まえてアヤトにとってツクヨは頼れる存在なのか。それが少しだけ羨ましくもあるが、それ以上にロロベリアは嬉しく思う。
「とにかくだ。マヤと一緒に観戦するのもビミョーだし、せっかくだから白いのちゃんを誘おうと待ってたわけだ」
「ツクヨさまったら酷いですわ」
ツクヨの身も蓋のない物言いに逆隣りに腰掛けるマヤは笑顔のまま。特に気にしてはいないようだが、ロロベリアとしては疑問がある。
「でも、どうしてツクヨさんを連れてきたの?」
そう、マヤの助力を受けるには対価が必要。しかしツクヨを連れてきたのはマヤの意志。
観覧したいツクヨを思っての誘いではないと断言できるだけに、マヤの真意がいまいち分からない。
「ツクヨさまには解説をお願いしようと思いまして。今日までリースさまに協力していたのであれば、兄様が出された宿題について詳しくお話しできるでしょう?」
「…………?」
が、マヤの返答にロロベリアは眉根を潜めた。
「んなのアヤトに聞けばいいとは思ったんけどよ、マヤがどうしてもって言うから」
「兄様はいけずなので教えてくれないんです。わたくしとしては兄様がリースさまに何を求められているのか興味深いので、ご理解しているであろうツクヨさまにお願いしました」
「なんせアタシはアヤトのダチだからな。つっても正解かどうかは見てのお楽しみになるぞ」
「充分です」
そんなロロベリアを無視で話は進むが、アヤトの全てに興味があるマヤが詳しく理解する為にツクヨを連れてきたとは納得できた。
「……アヤトの宿題って、どういうこと?」
しかしそれとは別にロロベリアは初耳情報ばかりで困惑していた。
◇
「オレも仲間に入れて欲しいけど……変に思われるか」
一方、対面の東口付近の観覧席では、西口付近の観覧席にいるロロベリア、ツクヨ、マヤの並びにユースはため息一つ。
ロロベリアと一緒なのは恐らくツクヨが誘ったのか、何にせよマヤは正体を知る者に対して認識阻害をしていないようだ。
そして元よりアヤトがリースに出した宿題を知るだけに、アヤトが口にしていたお人好しがツクヨなことも察している。また、そのツクヨを連れてきたマヤの目的も察していた。
つまりあそこに行けばツクヨから詳しい話が聞けるのだが、今までライバル関係として距離を取っていた自分たちが急に仲良く観覧すれば周囲も違和感を抱くので自重するしかない。
まあそれとは別にロロベリアは気づいていないのか。
「ただでさえ悪目立ちしてるもんな」
ユースにはツクヨやマヤと話しているように見えても、周囲はロロベリア以外を認識していない。
ロロベリアが空席に向かって話しかけたり、様々な反応をしている奇妙な様子は地味に目立っていた。
◇
ユースが心配するように、周囲からどう見られているか全く気付いていないロロベリアはツクヨやマヤの情報に耳を傾けていた。
精霊祭以降、リースがアヤトの自主訓練に参加していたことから始まり、秘密訓練を続けても未だ伸び悩んでいること。
下克上戦を切っ掛けに自分が更に取り残されていると焦っていたリースに、己の強さを知るようアヤトから宿題を出されていたことまで。
今まで自分たちが寝ている時に二人で訓練をしていたのを秘密にされていたことに不満はない。偶然だろうとリースは毎夜アヤトが自主訓練をしていると知っただけ。
アヤトの自主訓練に興味はあるが、わざわざ報告するのも違うし、教えてもらっても精霊力の消費からロロベリアは参加することができない。むしろ不満があるとすれば自分にもリースのように宿題を出したり、助言などして欲しいとアヤトにあるくらいだ。
それでも親友がそこまで思い詰めていると今まで気づけなかった自分に対し、色々と配慮してくれたアヤトに感謝もしているわけで。
「リースさまに抽象的な助言のみで、以降は全く関わらず静観していた兄様の真意に興味があるのですが……先もお伝えしたように兄様は秘密主義ですから」
「リースの宿題に協力したアタシに詳しいご教授して欲しいそうな。つっても今からその提出するんだから見てりゃわかるんだけどよ」
「人間の感情とは複雑なので、ただ結果を見るだけでは理解しがたいことも多いのですよ。なのでそういった部分をツクヨさまに補って頂こうと」
「へいへい。ま、こうしてご招待してもらったならお役に立つよう補うけどよ。ただアタシの予想がアヤトの狙いと一致してるとは限らねーからな」
最終的に親友の為に尽力してくれたツクヨにも感謝していた。
とにかく楽しみにしていたリースの秘策が、アヤトの宿題に対する答えなら。
己の強さを知れ、との助言からツクヨの協力を得て、リースがどんな答えを導き出したのかロロベリアとしても興味深く。
『――両者入場!』
インターバルが終わり、審判の宣言にいよいよとロロベリアが注目する中、対面の東口からリースが姿を見せた。
「…………あれ?」
同時にロロベリアは首を傾げてしまう。遠目からでも分かるようにリースは炎覇を手にしていないのだ。
しかし疑問は一瞬、リースの腰に揺れる白い何かが見えて精霊力を解放。
強化した視力で確認するなり息を呑む。
「まさか……」
無意識に視線を移せばツクヨはニヤリとほくそ笑み。
「命は紅暁。アヤトの宿題に必要とアタシが打ったリース専用の刀だ」
ここでリースの秘密訓練や宿題をロロが知ることになりました。もちろんユースが裏でアヤトとそれなりに仲良くしてるのは知りませんが。
そしてアヤトの宿題に用意した刀、紅暁も踏まえて、次回はツクヨがリースにした助言についてがメインです。
つまりアヤトVSリースはもう少々お待ちを……。
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