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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
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幕間 確認

アクセスありがとうございます!



 選考戦七日目――



「勝者、ミューズ=リム=イディルツ!」


「…………」


 審判の宣言に踏み出していた右足の力を緩めると共にリースは炎覇の矛先をゆっくりと下ろす。

 対戦していたミューズは五メル以上先、しかし足元には無数の氷鏃が突き刺さっている。

 牽制でもなければ回避したわけでもない。意図的に外されたとリースも察していた。

 例え精霊結界によって精霊力を対価に致命傷を避けらても傷を負う、急激な精霊力の消費に足は止まる。後は良い的にされるだけ。審判の判断は妥当とリースに不服はない。


 対するミューズは勝利に安堵しつつ精霊力を解除。

 一分も掛からない試合でも精神的な疲労はある。なんせリースの速度では精霊術を当てるのが難しく、近接戦でも炎覇の持ち位置を自在に変えて小器用な攻撃を仕掛けてくる。また小柄でも槍の特性を活かした刺突や薙ぎ払いは脅威だ。

 しかし表情から感情が読みづらくとも、アヤトから忠告されたようにまだまだ動きが素直なのは否めない。特に精霊力の視認から動きを先読みできるミューズは遠心力を利用した一撃を冷静に弾き返し、体勢が崩れた隙を上手く衝いた形で。

 なにより今回の選考戦でリースは一度も精霊術を使っていない。学院トップクラスの保有量があっても精霊術に必要な制御が未だ苦手なことから控えているのか。

 もし精霊術を組み込めれば結果は違ったかもしれないが、勝敗が付いた今になって掘り返す必要はない。


「ありがとうございました」


 それでも序列を争うライバルである前に、大切な友人として健闘を称えるべくミューズは手を差し出す。


「ありがとでした」

「…………?」


 リースも握り替えすが、応じてくれたとは別の理由からミューズはキョトン。


「どうかした……ました?」

「あ……いえ、なんでもありません。リースさんも最後まで頑張って下さい」


 その反応に訝しむリースに首を振り、ミューズはエールを送る。


「ありがとです。ミューズさまも頑張って」


 リースも淡々とだが返してくれて、手を離すとそのままフィールドから去って行く。


「……ありがとうございます」


 遅れて感謝を述べつつ、離れていくリースの背中をミューズは目で追ってしまう。

 何故なら勝敗が付いた直後は悔しさから揺れ動いていた精霊力の輝きが、今は青空のように澄んだ輝きに変わっている。

 まるで敗北からなにかを吹っ切ったような変化に戸惑ってしまったが、精霊力の輝きで感情を読めるとリースは知らないので確認することが出来ず。


「ミューズ=リム=イディルツ。次の試合が控えている、速やかに退場しなさい」

「も、申し訳ございません」


 審判に注意を受けたミューズは慌てて退場をすることになった。

 リースの変化は気になるも、まだ選考戦は終わっていない。


(……いけませんね)


 なにより次戦はエレノア、今は勝利に集中するべきと切り替えた。



 ◇



 一方、フィールドを後にしたリースは試合前にチェックをしてもらった講師を見つけて次戦の棄権を伝えていた。

 体調も悪くない上に精霊力もまだ充分ある状態での棄権申し出に講師は敗北によるショックと捉え心配してくれたが、戦略的な理由とだけ告げて早々に立ち去った。

 もちろん敗北は悔しい。

 ミューズ戦だけでなくこれまでユース、ラン、ディーン、エレノア戦も全力で勝ちを狙ったが見せ場もなく敗北。通用したのは元序列保持者やユースのようにアヤトの訓練を受けていない学院生のみ。

 例え序列候補に選ばれようとこれまで過ごした経験、訓練の密度、なにより志が違う。

 元の素質もあるだろう。しかしプライドをズタズタにされて、否が応でも現実を突きつけられ、それでも自身の弱さを受け入れ、立ち止まることなく必死に高みを目指し続けるからこそこの一年で大きな差が開いた。

 ただ自分も同じはずなのに半端なまま。故に不安から焦り、心が弱っていた。


 しかし今ならこの差も理解できる。


 ろくに試行錯誤もせず、己を知ろうともせず、半端なまま流されていれば半端なままで当然と。

 結局は今も流されているだけでしかない。

 アヤトの宿題がなければ。

 ツクヨの助言がなければ。

 同じように考えもせず、己を見つめ直すこともせず焦り続けていただけ。

 それでもツクヨから助けを求める強さだと、周囲の優しさも自分の強さだと教わり吹っ切れた。

 まだその強さの意味がよく分からなくても、向けられた優しさに甘えて終わるだけは絶対にしない。

 そして優しさを向けられるに相応しい自分でいられるように。

 いつか向けられるだけでなく、自分も向けられる強さを手に入れる。

 

 この誓いを胸に今はまだまだ弱い自分は素直に甘えさせてもらう。

 でもその中で自分に出来ること、手に入れる為に必要な手段をちゃんと考えて実行してきた。

 全力で挑み敗北の悔しさを胸に刻んだのも、棄権したのも、母に手紙を送ったのもその一つで――


「リス」


 校門に続く噴水広場まで来たところで名を呼ばれたリースは立ち止まった。

 視線の先には噴水付近のベンチに腰掛け、視線も向けずにあやとりに興じるアヤトがいる。

 昨日に続いて今日も熱を出した妹の看病で選考戦を棄権したはずなのに――などとリースは驚かない。

 棄権を続ける理由までは分からなくても、何となく学院には来ている気がしていた。

 そしてこのタイミングで姿を見せた理由も確認の為とも。


「宿題の提出は明日でいいんだな」


 故にリースは迷わず頷き、アヤトを真っ直ぐ見据えて口にした。


「その為に棄権した」

「……やれやれ。ギリギリまで追われるなんざ、所詮はリスか」


 対するアヤトはあやとりの紐を無雑作にコートのポケットに押し込みつつ立ち上がり。


「ま、期待しないで待っててやるよ」


 最後まで視線を向けずに姿を消した。

 残されたリースは憤りもなく再び歩き出す。


 アヤトやツクヨのお陰で導き出せた答えは明日提出すればいい。



 

アヤトくんの宿題に対してリースがどんな答えを用意したかについてはもちろん後ほどとして。

次回から選考戦とは別の今章もう一つのメイン、アヤトVSリースが始まります。

……実際に戦うのはもう少し引っ張りますけど(汗)。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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