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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
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悔しさと呆れ

アクセスありがとうございます!



 選考戦五日目。


 昨日の初戦でロロベリアに敗北したユースと同じく初戦でアヤトに敗北したミューズに対し、初戦の勢いそのまま次戦のエレノアに勝利したことでロロベリアが唯一の無敗。次戦に勝利したユースとミューズに加えて昨日二連勝のディーンが六勝一敗と後を追う形に。

 初戦こそ勝利したものの次戦でロロベリアに敗北したエレノアは、昨日二連勝のランと並び五勝二敗。序列一位候補の一人だったエレノアの二敗目は他の学院生に少なからず動揺を与える結果となった。

 また前評価では序列入りの有力候補の一人として上げられていたリースは昨日の初戦でランに、次戦のディーンに敗北して四勝三敗に。

 そしてエレノアと同じく序列一位候補とされていたミューズにも勝利したアヤトと言えば次戦を棄権したことで同じく四勝三敗。ただリースと違い元序列保持者や序列入り候補のジュードという実力者ばかりから白星を上げ、黒星全ては棄権という結果にアヤトをよく知らない学院生らは困惑していた。


 まあそれなりに知る者も同じく困惑していたりするが――



「ほんと意味不ね……あいつ」


 その一人であるランは初戦を終えて闘技場内の医療室に向かいつつため息を零す。

 というのも次の試合に出場するはずのアヤトは棄権と審判が宣言。戦略的な棄権と説明されたなら、とりあえず学院に来ているのだろう。

 なんせアヤトは試合以外は観覧席にも姿を見せないので来ているかどうかも判断できないのだ。


 それはさておき、組み合わせから体力や精霊力を温存する為に戦略的に棄権をするのは選考戦では珍しくない。現に今回もアヤト以外でも棄権を申し出た者はいる。

 しかし本来は相性の悪い相手や実力者を避けて一つでも多く白星を上げる為。なのにアヤトは今まで入れ替え戦に出場できなかった精霊術クラスの一学生を避け、序列入りを確実視されているユースとの対戦を選んだ。

 昨日の次戦も疲労の蓄積から棄権したのでまだ万全ではないにしても、なぜより実力視されている相手を選ぶのかと今ごろアヤトをよく知らない者は更に困惑しているだろう。


 アヤトが敢えて普段から訓練相手をしている自分たちに嫌がらせ……もとい訓練の一環としてある意味らしい教育をしているとはランも察していた。

 ただほとんど接点のないジュードとの試合を棄権しなかったのは気になる。ジュードも序列入り候補の一人だが、だからと言って遊び相手に選んだわけでもないだろう。なんせ昨日の次戦で当たるはずだったライザも候補の一人と評価されている。

 いったいなに基準で試合に出る出ないを決めているのか。そもそも序列入りするつもりなのかも分からない。


 まあ普段から意味不明な行動の多いアヤトについて考えても仕方がないとランは首を振り、今し方終えたばかりの試合を思い返す。

 楽しみにしていたディーンとの対決は敗北という結果に終わった。

 お互いに手の内を知る者同士。一年前は何とか勝利、以降の模擬戦でも僅かに勝っていたが、やはりディーンが変換術を習得したことが大きい。

 風よりも疾い雷に加えて攻撃のバリエーションが増えた分だけ差が出来てしまった。

 それでも良い試合に変わりはない。嫌味こそ含んだがディーンの勝利を素直に祝福できた。また妙に評価の低い幼なじみが着々と実力を付け、周囲が見直しつつある状況も純粋に嬉しくもある。

 しかし同じくらい敗北が悔しい。

 元より精霊士と精霊術士では精霊士が不利でも。

 幼なじみで好きな人だろうと、昔から切磋琢磨を続けた一番のライバルに負けるのは悔しくて。

 だからこそ己を戒めるよう敗北の瞬間を心に刻み込む。

 そして刻み込んだ悔しさを糧に、次の原動力に変えていく。

 公式戦、模擬戦関係なくランが敗北後に行う儀式のようなものだ。

 溢れそうになる涙も堪えて一人胸を締め付ける感情に絶えていた。


「残念だったね」


 が、そんな心情を邪魔する甘い声が耳に届き、ランは敗北とは関係ない不快感を露わに顔を上げる。

 声の主は精霊騎士クラスの二学生、ルイ=フィン=リオンダート。

 肩口まで伸ばした金髪に切れ長な赤瞳ではあるも声質と同じく甘い顔立ちをした美男子で、身長も高く異性から人気がある男爵家の次男だがランはあまり良い印象を持っていない。

 しかし悪い人ではない。貴族でありながら平民のランにも対等に接してくれて、勤勉で努力家なのは同じ精霊騎士クラスなので知るところ。特に去年の選考戦では実力不足で選出されなかったが、今ではランに次ぐ精霊騎士クラスの実力者と噂されているのがその証拠だ。

 ただ少々空気を読まないキザな振る舞いや、度々ディーンを挑発することから苦手意識があった。まあディーンを挑発するのも、ランに気を配るのも入学当初から密かに好意を寄せているからなのだが当の本人は気付いていなかったりする。


「……どうしてあんたがここにいるのよ」


 故に儀式の邪魔をされたランは棘のある問いかけをしてしまうも、ルイは動じず髪をかき上げ笑みを返す。


「次の試合が流れたから控え室に向かっていたんだけど、キミが心配でね」

「そう……」


 言われてみれば自分とディーンの次々戦がルイとライザの試合だった気がする。その結果でランに次ぐ精霊騎士クラスの強者が決まると注目されていた。

 だがランはあまり関心がなく、むしろ余裕な態度が気に障ると一蹴。


「ならご心配なく。あんたは自分の心配でもしてなさい。今からライザとでしょ」

「応援してくれるのか。嬉しいなぁ」

「……してないっての」


 表情をほころばせるルイに呆れながらランは早々に立ち去るべく横を通り過ぎるも、ルイはまだ用があるらしく。


「ランくんならきっと序列入りするだろう。そして僕もだ」

「…………」

「だから安心して待っていてくれ」

「……だから、そんな心配してないっての」


 背後から聞こえる自信に満ちた宣言に突っこみつつランは歩を進める。

 ルイの戦績は現在五勝二敗。二日目にエレノアとロロベリアに敗北したのみで、他は順当に勝ち星を増やしている。ジュードやライザと同じく序列入り候補と評価されていることから決して夢物語ではない。

 ただ自分程度に勝てない実力で自惚れるのはお門違いと。


「……アヤトがボッコボコにしてくれないかな」


 悪い人手はないだけに、自分のようにその自惚れをへし折ってくれないかと精霊騎士クラスの代表として望んでいた。



 そのアヤトと言えば、予想通り午後のユースとの試合は棄権することなく。



「お前……オレたちに対する嫌がらせは……どうしたよ……」

「あん? なんの話だ」


 試合終了と同時に精根尽きて倒れるユースに冷ややかな視線を向けていた。

 結果は初戦を棄権したことで温存したアヤトの圧勝。まあ温存目的ではないだろうが、てっきり早々に試合を終わらせると予想していたユースの当ては外れてランやミューズ以上に遊ばれてしまった。

 お陰で今回の選考戦最長時間を樹立、体力気力に精霊力も尽きたユースは起き上がるのも億劫で。


「オレは……お前が初戦で当たる面子に嫌がらせで……削ってると思ってたんだよ」

「ああ、そのことか。よく分かったな」

「わからいでか……なのになんで次戦なのに、オレは嫌がらせ……受けてんの」

「お前が他のひよっこに比べて精神的に弱っちいからだよ。ま、俺の嫌がらせに気付いてなお最後まで悪足掻きしたのは評価するがな」

「オレにも……意地があるんで」


 その返答に納得の笑みを浮かべつつ、差し出されたアヤトの手を借りユースは何とか立ち上がり。


「必要なら医療室まで付き添ってやるが」

「……お前が?」

「それなりに意地みせたからな。それに少々話がある」

「なら……遠慮なく」


 思わぬ申し出に怪訝な表情になりながらもユースはアヤトの肩を借りてフィールドを後に。


「明日はマヤが熱を出す予定だ。故に俺は棄権すると伝えておけ」

「……またサボるのかよ。そもそもなんでオレが」

「世話になっているケーリッヒにわざわざ学院まで足を運ばせるのは忍びなくてな。お前が宿泊している宿も近くだ。道中で俺から事情を聞いたとしても不自然ではないだろ」

「マヤちゃんが熱出したってのは一部に不自然だけどな……」


 一見健闘した者同士の心温まる退場に思えるが、実際は無粋なやり取りにユースは苦笑い。

 連続でアヤトが熱を出すよりは不自然ではないが、マヤが熱を出すなどあり得るはずもなく、少なくともロロベリアとリースには不自然きわまりない言い訳だ。

 まあアヤトも元よりサボりを隠すつもりはなく、あくまで学院側に対する建て前でしかないわけで。


「んで、サボりまくってるのはなんでだ」


 なら伝令係を任されるついでに、この機会に疑問を解消するべくユースは投げかける。

 本当はリースの様子について聞きたいところだが、この話題はお約束で返されるだろう。それなりの関係を築けているだけあり、ある程度の線引きも把握している。


「別に大した理由じゃねぇよ」


 またそれなりの関係からか、それとも隠す程度の理由でもないからか、アヤトはすんなりと打ち明けてくれたが。


「お前らしいけど……ほんと大した理由じゃないな」


 その理由に対するユースの感想は他になかった。




ランに絡んでいたルイは第八章の入れ替え戦でディーンの挑戦者になっていた学院生です。

ディーンもですがランも鈍感ですねはさておいて、選考戦も順調に進みつつアヤトも順調に好きかってしてますね。

その理由をユースは知りましたが、もちろんそれは後ほど。


ちなみにアヤトくんとユース、どんどん仲良くなってる気が……ロロ不憫。



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