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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
437/781

気がかりな状況

アクセスありがとうございます!



 選考戦四日目。


 現時点で序列入り確実とされているメンバーではロロベリア、ユース、ミューズの三名が五戦全勝。

 初日でアヤトに敗北したエレノア、二日目の次戦でユースに敗北したリース、二日目の初戦で同じくユースに敗北したディーンの三名は四勝一敗。

 ランは二日目の初戦でアヤトに、三日目の次戦でミューズに敗北して三勝二敗という結果。


 そして初日にエレノアを秒殺。二日目にラン、ジュードにも勝利したことで一気に序列入り有力候補に名乗りを上げたアヤトだったが三日目は不戦敗で三勝二敗。

 講師陣の話によると朝早くに、兄は高熱を出しているので三日目は棄権するとアヤトの妹が学院に訪れ伝えたらしい。

 また精霊術士や精霊士との連戦で無理が祟ったのかも知れない。兄様はとても無念そうでしたとその妹も悲しそうにしていたらしいが――



『――勝者、アヤト=カルヴァシア!』


「……ぜってー嘘だろ」


 四日目の初戦、第三試合の結果を見届けたディーンは、ミューズの背後に月守の切っ先を向けるアヤトに冷ややかな視線を向けていた。

 下克上戦の刺激からか、ミューズは以前にはない好戦的な近接戦だけでなく、長期休暇中に習得したらしい変換術も駆使して猛攻を続けていた。

 しかし相手はアヤト。ミューズの攻めを全てギリギリで回避し、疲労しきったところで攻めに転じての勝利。あれほどの動きが出来る者が前日に高熱を出していたなど信じる方がどうかしている。

 まあ順調に勝ち続けている序列選考戦を仮病で棄権するメリットがないことからほとんどの者は信じていたが、ある程度アヤトと交流をしている側からすればそんな常識など通用しない。

 故にディーンだけでなく、ミューズ以外の全員が仮病と察していたが、なぜアヤトが急に仮病を使ったのかは分からない。


 ただ、これまで勝利した四戦を踏まえてディーンはある推測を立てていた。

 初戦のエレノア、二日目次戦のジュードは秒殺。

 対し二日目と三日目初戦のラン、ミューズとは十分近く掛かっている。

 お陰で好戦を続けたミューズは疲労困憊、精霊力も三分の二は消費しただろう。

 またランもアヤト相手にギリギリの近接戦を繰り広げたことで終了時には心身共に削られ、勝利こそしたが次戦は万全な状態で挑めず大変だったとなぜかディーンが八つ当たりを受ける結果になった。

 それはさておき仮病の真意は分からなくとも、アヤトは次戦のない相手には虚を衝く戦法で秒殺、しかし次戦があればギリギリまで削り取る戦法を選んでいるなら。

 もしかすると訓練相手をしている者には敢えて疲労させ、万全な状態で次戦に挑めさせないつもりか。

 だとすれば嫌がらせ以外の何でもないと憤る反面、ある意味らしい教育法とも受け入れられるわけで。

 序列入り確実視されているからこそ、気を抜かせないよう追い込む。公式戦だろうと所詮は模擬戦、こう言った教育法も取れる。

 自分たち相手にこうした調整も出来るほどの実力がある、と知らない者はアヤトの実力に再び困惑しているようだがとにかく。

 選考戦の組み合わせは運次第なら、初戦のエレノアや明日の次戦で当たるユース、最終日の次戦で当たるロロベリアは運が良かったのだろう。

 そしてランやミューズ、八日目初戦で当たるリースは運がなかったと割り切るしかないのだが。


「……マジでどうしよう」


 最終日の初戦でこの教育を受けるディーンは、次戦のエレノアを考慮して消化試合にするか、それとも精霊術クラス代表のプライドを優先するかで悩んでいた。



 ◇



「まさかとは思うけど、この嫌がらせが愉快なイベントなのか」


 同時刻、ディーンと同じ推測を立てたユースは控え室で呆れていたりする。

 ただユースは事前にアヤトが何かをやらかすと知っていただけに引っかかりもあった。

 運次第の組み合わせで自分たちを疲労させた上で連戦を強いる。訓練でも実戦を想定させるアヤトらしいが順当なイベント、という前置きには当てはまらない。

 一昨日のランも、今日のミューズもかなり消耗させられたが、その程度で後れを取るような鍛え方をしていない。

 事前の評価でも分かるよう、元序列保持者と自分やリースは序列入りは確実と言われている。もちろんアヤトからすればひよっこに変わりはないが、直接指導をしているからこそ簡単に番狂わせが起きないとも理解しているはず。

 まあ元より真意不明なのもアヤト。言葉通り捉えるだけ無駄な可能性もある。


それよりもユースが気にかけているのはリースのこと。

 昨日、直接対戦した様子では気負いも迷いもなく自分の知る普段通りの姉だった。また敗北した時も淡々としていたが悔しさもしっかりと抱いていた。

 しかし、その普段通りに違和感がある。

 アヤトから宿題を出されて、恐らくツクヨの助力から何かを見出したはず。

 故にユースも集中して挑んだが、ハッキリ言って()()()()()()()()()()()()()

 十日程度で劇的な成長を遂げなくとも不思議ではないが、その兆候すら感じられなかったのは何故か。

 リースは手を抜くようなタイプでもなければ出し惜しみするタイプでもない。

 にも関わらず長期休暇前と後の様子から必ず変化していると踏んでいたのに――


「……とりあえず今は忘れるか」


 深入りしかけていた思考を振り払い、ユースは控え室を後にする。

 なんせ今は姉の心配よりも目前の一戦に集中するべきと東口を抜けてフィールド内に。

 それなりに注目されているのか、少ない観覧だろうと熱い視線を感じつつ西口から向かってきたロロベリアと向き合った。


「アヤトはなに考えてんのかね」

「色々と問い詰めたいんですけど、全然会えないから」


 自分の軽口に乗ってくるようにロロベリアの構ってちゃんはウズウズしているようで、心なしか表情が曇っている。


「でも今は関係ありません」


 しかし右手を差し出すなり一変、微笑ながらも挑戦者としての顔つきになる。

 切り替えの早さもロロベリアの美点。

 アヤトやリースを気にかけていても、今はユースに勝利することしか考えていない。

 まあこの分かりやすさもある意味美点か。

 とにかくロロベリアの切り替えは見習うべきとユースも勝利に集中するべく。


「入れ替え戦のリベンジさせてもらうぜ」

「させませんよ」


 握手を交わして同時に背を向け距離を取る。

 二〇メルまで空けたところで再び向き合いロロベリアは瑠璃姫を抜き、ユースも夕雲を抜いて構えつつ思考を巡らせる。

 初戦のジュードを含めてここまでの五戦、ロロベリアの戦法は部分集約と精霊術のみで対処していた。

 だが自惚れではなく自分には別の戦法を取るはず。

 出し惜しみをするタイプではないが、総当たり戦で簡単に手札を空かすような愚策はとらない。特に自分の強みを知るならこそ先手必勝を狙う。

 次戦でエレノアが相手なら精霊力の消費を出来るだけ抑えたいなら、新解放の部分集約を初手で使う。


『試合開始!』


 審判の合図と共にユースは精霊力を解放。

 対するロロベリアも解放するが、精霊力の高まり方から新解放と察した。

 更に髪や瞳に帯びる碧い煌めきが両足に収束していく。

 予想通りの展開にユースは集中力を高めた。

 新解放の部分集約は脅威でも速度に振り回される弱点がある。

 当然ロロベリアも承知の上。この十日間で間隔のズレを修正しているだろう。

 それでも速いだけなら対処は難しくないと、動きを読むべくロロベリアの一挙手一投足に注目する。


「…………マジで」


 が、予想外の展開にユースの表情が歪んだ。

 何故なら碧の煌めきが両足ではなく全身を覆っていく。

 しかも両足から上半身に行くにつれて煌めきが薄くなっている。

 恐らく出来る限り間隔にズレが生じないよう、また脳に与える精霊力の負荷を最小限に押さえ込むよう制御しているのか。感じ取れる精霊力の強さでもそれが伝わっていた。

 とにかく間隔のズレを修正するのではなく、あの暴力的な精霊力の高まりを()()()()()()()()()()()()調()()()()発想に行き当たるのがロロベリアで。

 通常の部分集約より速度こそ落ちるが、理性を保った状態で強化されたロロベリアとの近接戦となれば難しいどころではない。

 そもそもこの発想に行き当たってから僅か十日間で可能にしてしまう規格外な制御力。

 ラタニですら敗北を認める理由を改めて痛感しつつ。


「これだから姫ちゃんは怖いんだよ……」


 それでもユースは意地を見せるべく集中を維持した。



 ◇



『勝者――ロロベリア=リーズベルト!』



「…………私の勝ちです」

「オレの負けです……」


 結果、目前に瑠璃姫の先端を突きつけられたユースは両手を挙げて降参の意趣表示。

 一分ほど粘ったものの、最後は力負けで敗北してしまった。


「ていうか、新解放の精霊力を全身に調整するとか発想がぶっ飛びすぎだろ」

「そう言われても……両足に集約したら間隔が追いつかないなら、出来るだけ間隔がかみ合うように調整すれば安定するかなって思いついただけですし……」


 共に精霊力を解除しつつ早速ユースが不満を漏らせばロロベリアは困ったように反論。


「安定するかなって……んな簡単に言われても」

「簡単でもないんですよ。制御し続けるのは部分的に集約するよりもきつくて、まだクラクラしてます」

「うん……もういいです」


 その程度の負担なのかと敢えて突っこまず、未だ自身の規格外な制御力に自覚のないロロベリアにため息で返す。

 とにかく敗北の悔しさを受け入れながらも今度はユースから手を伸ばす。


「ま、ゆっくり休んで次の試合も頑張れよ」

「ユースさんも頑張って下さい」


 手を握り返すロロベリアと短い激励を交わして背を向けた。

 自分たちの試合は終わってもまだ選考戦は続くなら最後までライバルとしての姿勢を変えるつもりはない。

 故に今は選考戦に集中すると気を抜かず次戦の相手に照準を定めるべきなのだが、それとは別として――



『アヤト=カルヴァシアの棄権により、ライザ=フィン=ダナリスの不戦勝とする!』


「……あいつはなに考えてんだろうな」


 初戦の疲労が祟り次戦を棄権した()()()アヤトの動向にうんざりしていた。



  

リベンジ戦に敗北したユースですが、着々とバケモノ……もとい目標に近づくロロ相手では分が悪いかと。

それはさておきユースが気にかけるリースの状態、アヤトの好き放題についてはもちろん後ほど。



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