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序列選考戦当日。
午前十時、来期序列候補に選ばれた二〇名は報告会などで使われる講堂に集結。
闘技場内には二〇名以外は講師陣と学院生会のみ。
長期休暇中というのもあるが、観客を設けず試合に集中する為の処置。故に学院生の代表として学院生会が新たな序列争いを見届けるのが通例。
そして今日から十日間、終結した二〇名で総当たり戦が行われる。
スケジュールは初日のみ午後一時から一試合ずつ、二日目から午前十時と午後一時の二試合ずつの計十九戦。勝率の高い者から順に序列が決定される。
勝率が同率の場合、両者の試合で勝利した者が、複数いた場合はその者らの試合による勝率で、それでも同率になれば終了後再試合で上位を決定する。
ただいくら相性があろうと過去の選考戦で同率になったのは一組程度。複数の同率は一度もないが念のための処置として。
また過去の選考戦では選抜戦と同じくインターバルを含めて一試合に一五分と決められていたが、レイドとロロベリアの下克上戦を考慮に入れて試合開始時刻は前試合の終了から十分後に変更となった。
なので出場する学院生は前試合の終了後、五分以内に控え室で講師のチェックを受けることになり、以降は開始時間まで控え室に待機。また午前午後の第一試合も含めて開始時刻五分前までに講師のチェックを受けなければ不戦敗とされる。
後は選抜戦と同じく学院内で自由に過ごせるが、ルール以前に偵察も含めて闘技場内に待機するだろう。
しかし選考戦は選抜戦と違い初日以降は午前と午後の二試合ずつ。午前の試合を終えた後に治療を受ける場合もあれば、精霊力の残量次第ではドクターストップもありえる。また疲弊した心身を休める必要もあるので常に闘技場内に留まるのは難しい。
なにより対戦相手によって相性があるなら午前中はいかに体力や精霊力を温存するか、待機中にどれだけ休息を取れるかが大きなカギになる。
実力のみならず試合以外の戦略や運も必要とされるだけ選抜戦よりも勝ち抜くのが難しく、だからこそ学院を代表する序列保持者に相応しい学院生とも言えるだろう。
とにかく長期休暇前に開かれた説明会と同じ項目を講堂内で散り散りになり耳を傾ける二〇名に壇上に立つ講師が改めて説明した後、いよいよ対戦カードの抽選が始まる。
総当たり戦なので講師陣が振り分けた一から二〇の数字が書かれた日程表が講堂前に張り出され、一人ずつ同じく一から二〇の数字が書かれたカードを引いていく。
ちなみに前序列保持者は上位者から順に張り出された数字を自由に選べるようになっている。
少しでも上位に入るなら強者との連戦が避けれれば有利なら、なによりも前序列保持者との連戦を避けるべき。
また出来る限り公平な振り分けをしているが連戦の間隔が長ければそれだけ休息できる。
自らの意志で有利な日程を選べる前序列保持者の特権で、特にランやディーンが下克上戦を避けていた理由だった。
しかし毎年必ず数名いるはずの前序列保持者が、今年に限り卒業前の下克上戦で全員敗北したことでこの特権を使える者はいないので全員がカードを引くことに。
その順番も今日、講堂に足を踏み入れた者から順に引くと説明会で事前に通達されている。まあ運次第なので早ければ良いとは限らないが、逸る気持ちから誰もが早めに集まっていた。
「アヤトらしいと言えばらしいけど……」
が、抽選が始まるなり一人講堂の隅で我関せずとあやとりを始めるアヤトを一瞥したロロベリアはため息一つ。
つまり最後に講堂に訪れたのはアヤトだったりする。
時間ギリギリにだったので内心ヒヤヒヤしたが、いくらカードを引かずに済むとはいえ少しくらい興味を持てばいいのにと呆れていた。
他のメンバーも呆れや苦笑を漏らす中(ミューズは微笑ましげだが)、アヤトをよく知らない面々はその態度が不快なのか明らかな敵意を向けている。
それでも抽選は淡々と進み、自動的に決まるアヤトも含めて日程の数字枠に全て名前が記入された。
「では予定通り、午後一時より選考戦を始める。第一試合に決まった者は一〇分前に控え室に来るように。他の者は説明した通り、前試合終了後の五分以内に控え室へ。それ以外は学院敷地内なら自由とする」
講師が解散宣言をするなり無言で講堂を去る者、開始前に親しい者同士で最後のやり取りをする者と様々な動きを見せる中、真っ先にアヤトが立ち去ったのは言うまでもない。
◇
「……マジかぁ」
「ご愁傷様」
頭を抱えて蹲るディーンに歩み寄るランは哀れみの表情を。
なんせディーンは元序列保持者との連戦は避けられたが最終日にアヤト、エレノアとの連戦。ただでさえエレノアは強敵なのに午前中にアヤトとの対戦なのだ。
元より勝てる気がしない相手なら棄権も一つの手段。しかし精霊術クラス代表としての面子がつぶれると難しい判断を要求される結果に。
ただランの引きも微妙なもの。同じく元序列保持者との連戦は避けられたが八日目の午前はエレノアと、午後はユースとの連戦。
精霊士なので精霊力の消費量は問題ないが、実力派の精霊術士との連戦は心身共にかなり疲弊する。
「……お前に言われたくないっての。でもまあ……俺たちはまだマシな方か」
故にディーンは反論するも、自分の引きは良い方かもしれないと切り替える。
と言うのも、自分たちよりも引きの悪い結果になった者が三人いた。
特に初戦の第一試合でアヤトと対戦するエレノアは不運でしかない。
元序列保持者やニコレスカ姉弟との連戦こそ避けられたものの、いきなりバケモノが相手となれば出鼻が挫かれるわけで。
「どうかな? 少なくともエレノアはマシかも。最初に当たっておけば後は気楽だし」
「それは自分のこと言ってんのか」
「もち」
ディーンの意見に反論するよう、ランは二日目の午前でアヤトと対戦。前向きに考えれば確かにランの言い分は最も。
だからこそ最終日になったディーンの引きはやはり最悪かもしれない。
しかし決まってしまったなら後には引けないとディーンも覚悟を決めて。
「五日目が楽しみだわ」
「奇遇ね。あたしもよ」
互いに牽制するようディーンとランは五日目の午前に対戦。
幼なじみとしてペアを組んだ同士である前に、ライバルとして鎬を削り合ってきた仲だからこそ最も負けられない気持ちが強かった。
◇
「……まあ、ミューズよりは運が良かったと思おう」
「クジの結果なので仕方ないかと」
ランのように前向きに捉えるエレノアに対し、この結果にさすがのミューズも気落ちしていた。
エレノアは初戦がアヤトとなったが以降は元序列保持者やニコレスカ姉弟との連戦はない。しかしミューズは六日目にディーンとユース、七日目にリースとエレノアとの連戦。
元序列保持者との連戦はないがニコレスカ姉弟の実力は序列保持者と同クラス。普段の行いに対してあまりにも不運な結果だ。
ただこれも試練とミューズは嘆くことなく、エレノアに手を差し出す。
「負けませんよ」
「私の台詞だ」
親友の変化を喜ばしく思いつつ、エレノアはその手を握り替えしながら不敵に笑った。
◇
「この中ではオレが一番運が良かったな」
ロロベリアとリースに向けて余裕の笑みを浮かべるユースも六日目にエレノア、ミューズと連戦になったので決して良い引きではなかった。
それでも打倒を誓ったロロベリアとは少なくとも気兼ねなく戦える。対するロロベリアはユースとの対戦後、エレノアとの試合が待っている。保有量の少ないロロベリアにとってこの二人との連戦はかなり辛い。
またアヤトとの対戦は最終日の午後、つまり最終戦とある意味運命的な引きを見せた。
「ですね。ただ負けるつもりはありませんけど、まずは一戦ずつ集中しないと」
「なんの因果か姫ちゃんの初戦はあの先輩だしな」
しかしロロベリアらしい前向きな気持ちにユースは笑いつつ一瞥するのはジュード=フィン=マルケス。
ロロベリアが勝ち取る前の元序列十位で最もライバル視している相手で、今もやる気に満ちた視線を向けていて。
最後の入れ替え戦で退けているが関係なく、常に挑戦者としての気持ちで挑むロロベリアは軽視しないだろう。
ただ最も引きが悪かったのはやはりリースか。
四日目にラン、ディーンとの連戦だけでなく八日目はアヤト、ロロベリアとの連戦。ミューズと同じくらいの引きの悪さもだが、万全な状態で挑みたかったアヤトやロロベリアとの対戦が同日に重なるとは皮肉なもので。
「姉貴も大変だろうけど……ま、その前にオレとの対戦に集中してくれよ」
それでも今はライバルとして励ますよりも挑戦的な視線をユースは向ける。
姉弟対決は二日目午後、アヤトを含めた四人の中で一番最初にぶつかるだけにまずは自分が訓練の成果を実感する。
故にユースにとっては最初の難敵になるのだが――
「…………むしろよかった」
リースは首を振り眠たげな視線をユースではなくロロベリアに向けた。
「ロロ、楽しみにしててね」
「……そう」
「ついでにユースも。じゃあわたしは行く」
「おお……」
一応最後は目を合わせてくれたが、妙な安堵を見せるリースに怪訝そうにしながらも二人は追求することなく見送った。
「……本当に楽しみ」
「オレも同じく」
しかしこの日程でも尚、楽しみにと口に出来るなら期待感もあるわけで。
「では私との対戦も集中してくださいね」
「言われるまでもないっての」
次に言葉を交わすのは闘技場で向き合う時との意志を込めてロロベリアとユースも背を向けた。
選考戦の開始直前のやり取りでした。
なので次回から本戦も開始、ここまで出番の少ないアヤトくんがちょいちょい引っかき回します(笑)。
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