届いた望み
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選考戦二日前になると来期の序列候補に選ばれた学院生は帰省を終えてラナクスに戻ってくる。
前日は最終調整をした後、早めに休んで選考戦に備える為で、ロロベリアやユースも正午過ぎには使用人に見送られて王都を出発。サーヴェルやクローネは居なかったが、前夜は共に夕食を囲みつつ激励をしてくれた。
またラナクスに残ったリースの手紙も預かっている。元よりライバル同士として選考戦が終了するまで別々の場所で過ごすが、二人の帰省終了に合わせて一度合流する予定なので渡すよう頼まれていた。
ちなみに三人で話し合った結果、ラナクスの住居にリースが、入れ替え戦と同じようユースは宿を利用。ただディーンも選考戦に出場するので別の宿を既に予約していた。
アヤトもケーリッヒの住居で世話になるらしく、王都では一度だけ会ったのみだが恐らく既に戻っているだろう。別行動ばかりでロロベリアが不服そうにしていたのは言うまでもない。
そのロロベリアも期間中は帰宅せず、サクラの屋敷でお世話になる予定。
元々ロロベリアもユースとは別の宿を利用するつもりでいたが、サクラから自分の屋敷で寝泊まりすればいいと提案された。
いくら同じ学院の後輩になろうとサクラは帝国の皇族。本来はあり得ない提案だがロロベリアは友人であり学院見学でも学院代表の一人として懇意にしていたこともあり、エニシを始めとした使用人からも是非と勧められた。
なにより一番の理由として友人が泊まりに来るという状況をサクラが憧れていたらしい。立場上親しい友人が作れなかっただけに、ロロベリアも断り切れず予定を変更した結果だったりする。
「あの野良猫はどこで何をしておるのやら」
なのでサクラの好意でユースと共にラナクスの向かう馬車に同席させてもらっていたのだが、正面に座るサクラはロロベリアと同じく嘆いていた。
来月からマイレーヌ学院に入学するサクラは早めに王都入りした後、国王との謁見や両国の合同研究に関する進捗の確認をしたりと多忙を極めた。
その合間にアヤトも交えてお茶会のような場を設けたものの、以降まったく顔を出さなかったので嘆く気持ちがロロベリアはとてもよく分かった。
「ツクヨもじゃ。再会を楽しみにしておったのに留守とは……」
「それは……本当に申し訳ありません……」
「うちの姉貴が迷惑をかけたようで……」
だが続く嘆きにはツクヨに変わってロロベリアだけでなくユースも謝罪を。
入学試験での交流時に王都に滞在すると聞いていたサクラはツクヨとも会う約束をしていたらしい。しかしサクラが王都入りした同日、リースに会う為ラナクスに向かったままツクヨが戻らなく叶わず終い。
皇女との面会を反故にするのは不敬でしかないが、ツクヨがラナクスに滞在しているのはリースの為。マヤ伝手で『皇女さまに謝っといてくれ』と連絡が来たときはさすがに血の気が引いた。
それでもロロベリアは親友として、ユースは弟としてツクヨを攻めるよりも見逃して欲しいわけで。
「いや、気にするでない。野良猫は別としてつい漏らした愚痴じゃ。リースも妾の友人なら理解しておるよ」
「そう言っていただけて助かります」
「さすがサクラさま、懐が深い」
ただサクラも事情が事情と受け入れてくれているだけに、むしろ気を遣わせたと首を振る。
皇女であろうと親しみある対応に感謝しかないと二人は胸をなで下ろすも、不意にサクラがニヤリと笑みを浮かべて嫌な予感が。
「故にお主らも理解して欲しいものじゃ。お主らと妾は友人同士であり、これからは同じ学舎の先輩後輩。ならば妾をサクラさま、と呼ぶのもどうかと思うのじゃが? 爺やはどう思うかのう」
「公私混同は必要でありますが、ご友人ならばお堅すぎるかと。また学院の理念に則るのであれば多少砕けた呼び名でよいのでは? 例えばお嬢さまはお二人方の後輩になられるのでサッちゃん、など親しみがあってよろしいと思いますが」
「サッちゃんか、良いではないか。まさに後輩の友人らしいフランクな呼び名じゃ」
「「…………」」
サクラとエニシの楽しそうな悪のりを他所に予感的中と二人は押し黙る。
いくら友人でも、学院の理念があろうとさすがに皇女をサッちゃん呼びするのは抵抗があった。
「なら妾も後輩らしく先輩と呼ぶべきか。ロロベリア先輩、ユース先輩はどうじゃ?」
「「……普段通りでお願いします」」
「ふむ? 先輩呼びは気に入らんと。なら自重するが、妾はお主らに敬われた呼び名が気に入らんよりも寂しくてのう」
「同じご友人のアヤトさまは気兼ねなく接して頂けているので尚更ですな。ロロベリアさま、ユースさま。ここは一つ、お嬢さまが寂しくないよう、今後はもっと仲良しさんな接し方をして頂ければと……」
抵抗があろうとサクラの方が一枚上手。
エニシの期待半分、悪のり半分な視線から逃れることが出来ず、最終的にサッちゃんこそ免れたが。
「……どうして私がサクラなのにユースさんはサクラさんなんですか」
「だって後輩のお友だちだろうと、女の子を呼び捨てれば変な勘ぐりも受けるだろ」
「ならアヤトも変な勘ぐりを受けるじゃないですか」
「今さらあいつがそんな勘ぐり受けるとでも? サクラさんもそう思うっすよね」
「アヤトじゃしな」
「…………」
二人の意見にロロベリアは反論できなかった。
◇
序盤こそサクラやエニシのペースに気疲れするも、アヤトに振り回されて妙な耐性が出来たロロベリア。
「サクラ、送ってくれてありがとう」
「助かりました」
「どういたしましてじゃ」
道中のあやとり対決も功を奏し、ラナクスに到着する頃には抵抗どころか口調も友人と接するような感覚になっていた。
「ではロロベリアは後ほどとして、ユースも頑張るがよい。リースにもそう伝えてくれ」
それはさておき、ラナクスに入る直前で下車した二人は先に領主との面会を済ませるサクラと別れて工業区に。
ラナクスに残ったリースの様子が気になるも、ツクヨはどのような理由で残っているのか。逸る気持ちが抑えきれず二人は足早に向かったが――
「……ロロ?」
「リース?」
工業区に入ってすぐの雑木林前でリースと思わぬ再会。
買い出しに行っていたのか両手に食材の入った袋を持つリースも見開いた目を向けていて。
「おかえり。早かったね」
「ただいま。サクラが送ってくれたから」
「サクラさまが?」
「……オレも居るんだけどな」
しかし切り替えるなりロロベリアと楽しげにやり取りを始め、放置されたユースは肩を落とす。
だが七日ぶりに再会したリースは思い詰めた様子もなく、安心して二人の会話を見守ることに。
「ならロロはサクラさまのところに居るの?」
「後輩の好意を無駄にできないから、なんてね。それよりも……これ、お義父さまとお義母さまから」
そんな中、ロロベリアはバッグから取り出した手紙をリースの持つ買い物袋に入れて。
「あと、サクラからツクヨさんに言伝。約束を破ったことを許す代わりに、いつでも良いから必ず屋敷に来ること、だそうよ」
「ちゃんと伝える。わたしからもサクラさまにごめんなさいって伝えておいて」
「必ず伝えるわ。じゃあリース、また明後日」
「うん。また明後日……愚弟も」
「え? あ、ああ……」
最後は忘れず声をかけてくれたがリースはそのまま住居に続く一本道に入ってしまい、ロロベリアも気にせず背を向けてしまう。
「さて……あ、もしかしてユースさんは家に立ち寄った方がよかった?」
「……別にないけど、えらくあっさりしてますね」
今さらながら気を遣うロロベリアにユースは苦笑。
帰省したので一通りの荷物はあるので問題なく、合流する予定でも長いするつもりはなかった。
ただ久しぶりに会ったにしてはロロベリアもリースも淡泊で、特にリースの態度が予想外で。
「手紙も渡せたし、言伝も伝えられたから。それにお邪魔かなって」
そんな疑問に対しロロベリアは遠のくリースの背中を一瞥し、ユースに向けて微笑んだ。
「だってリース、ワクワクしてた。ツクヨさんとどんな訓練をしてるのか気になるけど……なら、ライバル以前にあまり時間を取るのも無粋だから」
「ワクワクしてましたか」
「眠そうでもね。ユースさんは気付かなかった?」
「目合わせてくれなかったから全く。でも姫ちゃんがそう言うなら、そうなんだろうな」
周囲の変化に鈍感でも妙なところで鋭いロロベリアにユースは呆れつつ。
「ならオレたちも明後日にお会いしましょうか」
「ですね」
アヤトの宿題にリースがどんな答えを見つけたのか、内心楽しみにしながらロロベリアと別れた。
同時刻、王都では――
「奥様。リースお嬢さまから手紙が届いております」
「……リースから?」
商会の執務室で書類を確認していたクローネは使用人に渡された封筒に首を傾げていた。
ロロベリアに渡した手紙の返事にしては速すぎるなら、少なくとも昨日か一昨日に出された物で。
さすがのクローネも内容が読めず、まずは手紙に目を通す。
「……あの子、なに考えてるのかしら」
書かれていた願いに思わず嘆息するもどこか楽しげで。
「とりあえずサーヴェルに相談するとして、叶えてあげられるよう動きましょうか」
愛する娘が望んでいるのならと使用人に指示を出した。
少しお久しぶりなサクラさまとエニシも合流、まあ選考戦に直接関係しませんが。
とにかくリースがクローネに何を望んだかは後ほどとして、次回から今章メインの選考戦が開始。
アヤトが参戦したことで、どのような波乱が起きるのか。
またリースが出した答えも含めて楽しんで頂ければと思います。
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