不安と決断 後編
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マイレーヌ学院に入学した当初、ロロベリアに総合力では劣っていたが近接戦では負けたことはない。また精霊力の保有量や武芸の評価からロロベリアに次いで一学生の序列保持者になると期待もされていた。
しかしアヤトに敗北して以降、ロロベリアとの差は一気に開いた。
アヤトに追いつく為に弱さを受け入れ、それでも試行錯誤を繰り返し続けたことで得意の近接戦でも勝てなくなった。
選抜戦を前にそのアヤトから訓練を受けるようになり、弱さを受け入れたことでリースも強くなった。
総合力ではやはり劣っているも、少なくとも近接戦なら互角に戦えるまで近づけた。
それでもロロベリアは先を行く。
自身の得意分野を活かし、弱点を補うことで様々な技能を身に付け、帝国や教国の一件では修羅場をくぐり抜けて。
僅か一年後には学院最強のレイドに、序列一位というプライドを捨てさせるまでの存在になった。
対する自分はロロベリアどころか他の学院実力者にも追いつけない。
選抜戦で得意の近接戦を磨いても、同じようにアヤトの訓練を受けた序列保持者からも簡単に引き離されて。
後に同じ立場になったミラーもそうだ。
入学前では僅かに劣っていた実力差を覆したはずなのに、アヤトの訓練を受けるようになってからは着実に実力を身に付けて。
下克上戦の裏で行われたユースとの勝負に勝利し、最後は六人がかりの挑戦でアヤトに一太刀を浴びせる大役を務めるまでに強くなった。
近づけたと実感しても同じように訓練を受ければ離されて、アヤトから秘密裏の訓練を受けても一向に追いつけず。
なにより入学前は自分よりも弱いと思っていたユースだ。
実力を隠していただけで本来は当時の自分は疎かロロベリアよりも強かった。
その実力を見抜いていたアヤトに暴解放という切り札を与えられて勝利こそしたものの、不意打ちの結果でしかなく。
実際は成長したロロベリアと互角に戦えるほどで、アヤトやレイド達から序列保持者と同格とまで認められ、挑戦権を得る相手にまで選ばれた。
帝国や教国で起きた事件だけでなく、学院という平和な世界ですら自分は強者の立ち合いに入れなかった。
弱さを受け入れても。
秘密裏に訓練をしても。
一人取り残された事実がなによりも辛く、悔しかった。
着実に成長していく周囲と開き続ける差に焦り、追い詰められていた自分の心を見透かすようにアヤトが宿題を出してくれた。
己の弱さを知った次は己の強さを知れと。
口が悪く自己中だろうとアヤトの強さは本物で、理由もなくこのような宿題を出したりしない。
故に周囲の――ロロベリアやユースに追いつく為に必要な助言と信じてリースは必死に考えた。
ラナクスに残って訓練をしている時も、食事の時も、自分を見つめ直しながらたくさん、たくさん考えた。
その結果、アヤトの言うように自分はバカなんだと痛感した。
今までリースは一人で居ることがまずなかった。
物心ついた頃から両親や使用人は当然、常に弟が一緒にいてくれた。
ロロベリアが養子になってからは三人でいることが当たり前で。
アヤトが赴任してからはロロベリアやユースと別行動することがあっても、一人で過ごすことはなく。
選抜戦で二人と敵対した時もアヤトやミューズがいた。
ロロベリアがアヤトと教国に行ってもユースはいてくれた。
しかしラナクスに残り、初めてこの家で一人過ごしていると寂しくて。
色々な訓練に手を付けたのも、一人で何をすれば良いか分からないから今まで学んだ方法を反すうしていただけ。
孤独を紛らわすように、何かをしていないと寂しさが不安を煽って。
実のところ食事を抜いたのも一人で食べても美味しくない上に、より孤独を感じるから空腹を無視して訓練をしていただけと、ロロ成分の枯渇以前の理由で。
とにかくアヤトの宿題は己の強さを知ることなのに、知っていくのは己の弱さばかり。 強さを知れと助言をしてもらったのに、真逆の答えを見つける結果になったのは自分がバカだからで。
また最初は一人で考えて答えを見つける決意でラナクスに残ったはずなのに、こうしてツクヨに不安を零しているのは、孤独から抜け出せた安心感や自分の為に作ってくれた料理の温かさに弱音が押し出されて。
「……どうしてわたしは、こんなに……弱いの」
自分で決意したことも簡単に揺らぐ自分の弱さにリースは俯きポタポタと涙を零す。
「ま、ロロ成分ってのよりは色々と納得できたか」
対するツクヨは抱えていた不安や葛藤を知ってボリボリと頭をかきつつ、改めてリースと向き合うことに。
「でだ、アタシなりの考え言わせてもらうなら、その弱さ知ったなら次だろ次」
「……つぎって……?」
「リースは一人だとなにも出来ない。なにも分からないって弱さ知った。ならその次っていや、誰かに助けを求める強さ以外にねーだろ」
「誰かに……助けてもらうのが強さ、なの……?」
「テメェの弱さをさらけ出して、助けを求めるってのも結構勇気がいるもんだ。つーか何でもかんでも一人で全部できる奴なんざこの世にいねーよ。だから人ってのは誰かに助けてもらって、助けてあげて、ちょっとずつ成長しながら色んな強さを教え合うんだろ」
持論を語っていたツクヨはソファにもたれ掛かり、涙目を向けるリースを真っ直ぐ見据えて苦笑する。
「それに、困ってる自分に手を差し伸べてもらえるってのも強さじゃねーか? 少なくともアタシは誰でも手を差し伸べるようなお人好しじゃねーけど」
強さとは腕っ節だけではない。
それぞれの心の在り方、生き様に惹かれた周囲の力もまた自身の強さだ。
「そんなアタシに手を差しのばしてやりてーなって思わせたなら、リースの強さがそうさせたんだよ」
なら一人ラナクスに残ったと知るなり心配した自分をここに訪れさせたのも、リースの強さの現れだとツクヨはカラカラと笑う。
正直なところ助けを求める強さ、ツクヨをわざわざラナクスにまで足を運ばせた自分の強さをリースはいまいちピンとこない。
ただ大切な人が困っていたら、自分は何があろうと駆けつける。その時に抱く感情を同じようにツクヨが抱いてくれたのなら。
「ありがとござます……」
純粋に嬉しいと感じるままリースはお礼を告げた。
「礼は良いって。つーかいつまでもメソメソ下向いてたら見えるもんも見えねーぞ? なによりこう……アタシがむず痒いから普段通りでいてくれ」
「……うん」
そしていつか目の前にいる強い人を助けられるような自分になりたい。
故に泣いている暇はないと袖口でごしごしと涙を拭いて、真っ直ぐツクヨの瞳を見詰め返す。
落ち込むよりも、俯くよりも、今すべきことと向き合う。
少なくともリースの知る強い人はみんなそうしてきたなら模範するべきで、解決策を模索する。
一人ではなく誰かと、その為にツクヨが手を差し伸べてくれるのなら。
「……ツクヨさん。わたしの強さって……なにかわかりませんか」
「あ~……アヤトの宿題か。それについてなんだけど……たく、なーんか手の平の上で踊らされてる気分だぜ」
「?」
「つーか……提出期限が選考戦なら最短で五日……ちょい厳しいな」
無碍にしないのが誠意と思い切って相談してみたが、なぜかツクヨは複雑な表情のままブツブツと独り言を漏らす。
「とにかく、アタシがアヤトのダチでも正解かどうか分からねーけど、このまま闇雲に突っ走るよりは一か八かで賭けに出るのもありか。てなわけでリース、今の話聞いてアタシなりに試してみてーことがあるんだけど、やってみるか?」
が、急に納得したと思えば突然の提案。
「ただ上手くいくとは限らんし、上手くいったとしてもリースの可能性を一つ潰すことになる。ぶっちゃけ利口な道とは思えんけど、それでよければだ」
更にツクヨ自身が否定的なように感じるが、その念押しが逆にリースの気持ちを煽る。
自分の強みはバカだとアヤトに皮肉られた。
しかしその皮肉も助言なら意味は分からなくとも、ツクヨの提案が利口な道でないのならむしろぴったりな道だ。
ならリースの答えは一つ。
「やる」
進むことに迷いはない。
ツクヨの提案、アヤトの助言がどう繋がるか。
またリースがどのような答えを見つけるかは後ほどとして……二回目ですがツクヨさん本当に面倒見いいっすね。
そして次回はちょいお久しぶりな人も登場して、次々回から今章メインの選考戦がいよいよ始まります(予定)!
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