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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
430/782

不安の解消

アクセスありがとうございます!



 序列選考戦の二〇名が発表された日の夜。


「おっす」


 みなが寝静まった後、ランニングを終えたユースは訓練場に顔を出した。

 リースの秘密訓練を一時中断しているだけでアヤトは自主訓練を続けている。また選考戦で戦うライバル同士という理由から、通常訓練を自粛すると決めても関係なく訪れたのは訓練とは別の要件から。

 なのでいつも通り夕雲を手に素振りをしつつアヤトの訓練が一区切りするのを待つことしばし。


「選考戦が終わるまでは遊んでやらんと言ったはずだが」

「その選考戦について確認したいことがあるんだよ」


 朧月を鞘に納めるアヤトに合わせてユースも夕雲を鞘に。

 ユースにとってこの時間は訓練だけでなくロロベリアやリース抜きした情報交換をする時間でもある。

 帰宅後では敢えて追求しなかったのもまずはアヤトの考えを確認する為で。


「選考戦に参戦したのは先輩方に頼まれてか」

「それなりに楽しめれば望みを聞いてやる約束だったんでな」


 やはり二人でいる時はそれなりでも真意を語ってくれるようで隠すことなく返答が。

 タイミング的にレイド達との一戦が関係しているとユースも予想できていた。

 ただ条件が勝利ではなく、それなりに楽しめるというのは予想外。元々序列に興味がなく、目立つのを嫌うなら無理難題を押しつけても不思議ではない。


「そりゃ意外。選考戦みたいな面倒な場をその程度の条件で了承するなら、何だかんだで序列入りしたかったんじゃないの?」

「かもしれんな」

「……絶対に嘘だろ」

「よく分かったな」


 ジト目を向けるユースを嘲笑するよう小馬鹿にしたところで改めてアヤトが口を開く。


「別に大した理由じゃねぇよ。一応でもラタニが学院のひよっこ共の目を覚まさせる為に呼んだなら、俺もそれなりに協力しようと思ったまでだ」

「……律義な奴。ていうか、ラタニさんの頼みはわりと素直に聞くんだな」

「あいつには散々カリ作ってるからな。この程度で返せるなら楽なもんだろ」

「マジ律義な奴……」

「ま、順当なイベントもつまらんしな。せっかく出るなら暇つぶしがてら、愉快なイベントになるよう盛り上げてやるよ」

「……何するつもりだよ」


 苦笑を漏らすアヤトにユースは嫌な予感しかしない。

 選考戦をイベント扱いするのはこの際いいし、順当というのも分かる。

 今回の選考戦で少なくとも上位に入るのは旧序列保持者に自分やリース、残り三席も入れ替え戦の常連が固いと学院生の中で予想されている。

 この予想で分かるよう選抜戦で異例の記録を作り、決勝では降参しただけでロロベリアも圧倒したアヤトが軽視されていた。中には未だ不正を唱える者もいると、相変わらず精霊力に拘り現実を見ない学院生は多い。

 もしアヤトが序列一位になれば大騒ぎになるだろう。盛り上がるは置いといて、普通に実力を示せば既に順当ではなくなるのに、今の言い分だと確実に何かやらかすつもりでいるようだ。

 まあラタニから聞いた話では国王も含め、アヤトが選考戦に参戦するのを認めている。選抜戦以降の反応から多少公の舞台に立とうと、周囲のフォローがあれば不遇な過去に辿り着く者はいないと判断したようだ。

 どのような形で学院に貢献するかも本人に一任しているらしいなら、自分が口を挟むのはお門違い……何よりアヤトを止めるのは不可能と覚悟だけしておくことに。


「白いのに話さなかったのも大した理由じゃねぇよ。少し考えりゃ大凡の見当付くくらいの疑問を安易に構ってちゃんしてるから、あいつはいつまで経っても構ってちゃんなんだろ」


 それはさておきロロベリアに真相を伝えなかった理由について、アヤトは嘆きつつ教えてくれた。


「つまり簡単に答えを与えるのは成長の機会を失わせると」

「そうなるな」

「なら別に隠してるわけでもないわけだ」

「お前みたいに気付く奴は気付くからな」


 故に話したければ好きにしろと一蹴されるも、アヤトの言うことも一理あるので静観することに決めた。

 とにかく確認したいことも出来たので、後は訓練の邪魔をしないよう自室に戻るだけ――


「で、甘えん坊な弟の話は終いか」


「…………」


 ――なのだが、切り出す前にアヤトから話題を振られてユースは開けかけた口を閉じてしまう。

 皮肉めいた言い方から最初から本題を察していたようで。


「甘えん坊は良いとして……まあ、心配ではあるか。なんせ姉貴が姫ちゃんと離れるんだぞ」


 ならユースも遠慮なく相談することに。


「たかだか数日程度だろ。随分と大げさなことだ」

「だって姉貴だぞ? 前もそのたかだか数日でロロ成分が枯渇するって飯の量が減るほど落ち込んでたんだぞ?」

「……なんだそのアホな成分は」

「オレも知らね。いや、それはいいんだよ……とにかく、姉貴があそこまで思い詰めてるのも初めてで。なんつーか……このまま放っておくのも良いのかってよ」


 リースが思い詰めている原因を理解しているからこそ見守る姿勢を取っていたが、ラナクスに一人残ると言い出した時はさすがに焦った。

 ロロベリアは当然のこと家族を大切にしているリースが帰省をしないほど思い詰めているならなにか手助けしたい。

 しかし自分やロロベリアが気遣っても逆効果になるだけ。何が出来るかも見当が付かないと八方ふさがり。

 故にアヤトを頼った。

 相手の実力を的確に計る能力や必要な助言も出来る指導力はラタニすら上と認めるほど。

 またロロベリアを守る戦力として自分やリースを見込んだなら、リースの実力向上はアヤトにも利がある。

 なにより口が悪く捻くれて秘密主義で唯我独尊だろうと、いつまでも過去に囚われていた自分を鼓舞してくれたようにリースも見放さないと信じている。

 だからリースについても協力してくれると相談を持ちかけるつもりでここに来たユースの決意を他所に、どこか冷めた視線を向けていたアヤトは盛大なため息を一つ。


「姉の心配とは随分と偉くなったもんだ」

「偉いとかじゃなくて、オレは――」

「リスには既に宿題を出している」


 更にユースの反論も面倒げに無視されたが、その言葉にポカンとなる。


「下地も出来てるなら、後は活かすも殺すもあいつ次第だ。どうなるかまでは知らんが」

「……下地って? そもそも宿題ってなんだ?」

「さあな」


 意味不明な助言に質問を投げるも、そこはお約束で一蹴された。


「なんにせよ、リスの周囲にはお人好しも多い。何とかなるだろ。どうなるかは知らんがな」

「結局投げやりじゃん……」


 挙げ句二度も念押しする曖昧な助言にうな垂れてしまうが一つだけ理解した。

 簡単に答えを与えるのは成長の機会を失わせると同じ。


 アヤトはもうリースにその機会を与えてくれている。


 どんな宿題かは知らなくてもリースなら必ず答えを見つけるだろう。

 なら心配無用と苦笑を漏らすユースを他所にアヤトは背を向けて。


「安心したならテメェはテメェで地獄みておけ」

「なんだよ、遊んでくれないんじゃなかったのか」

「そう思いたければ勝手に思ってろ」


 最後まで意味不明な発言をされるも、不安が解消されたユースは上機嫌で夕雲を抜いた。


「せっかくだし遊んでもらうか」



 からの五日後――



「……あの野郎……絶対に、泣かす……」


 当時のやり取りを思い出しつつユースは恨みを零していたりする。

 あの時はアヤトとの訓練で地獄を見ると捉えていたが、実際は別の地獄を見ろとの言い回しだった。

 なんせラタニの訓練はアヤトとの訓練以上の地獄。しかもラタニにユースの訓練を依頼したのはアヤトだった。

 つまり最後の助言めいた言葉はこの時間で――


『パチン』


「うお!」


 などと恨んでいたからか、背後でパンっと炸裂する音にユースは驚きと恐怖から足をもつれさせ盛大に転んでしまう。


「こらこら、集中しないと怪我しちゃうよん」

「あんたの精霊術で怪我しかけましたよ!」


 そんな自分を心配するどころかケラケラと笑うラタニに全力で突っこんだ。


「だから、ユーちゃんが集中しないからだって。つーか突っこむ元気があるならさっさと走る」

「…………バケモノじゃなくて悪魔かよ」


 もちろんそこはラタニ、全く気にせず続行を促すので愚痴りながらもユースは走り始める。

 ちなみに二人がいるのは王都の外れ。ユースの個人訓練に毎日軍施設を使うのも難しく、精霊力の解放や精霊術を使うのは決められた場所のみとの規則から王都外になった。

 またラタニの軍務とユースの休息も踏まえて訓練開始は正午前から。つまりラタニは必要な執務を午前中に全て終わらせ、午後の小隊訓練の時間を利用している。

 サボり癖がなければ書類業務も含めてとても仕事が早いのにと嘆くカナリアが可哀想だった。


 それはさておきユースの行っている訓練は街道外れの野原でラタニの周辺をひたすら走る。ただし、常に一定量の精霊力を両手に集約した状態を維持するもの。

 もし集約量が上下すれば先ほどのように精霊術でお仕置きされる。

 また訓練を始めて既に一時間は経過している。一般的な制御力の基礎訓練でもきついレベルな上、精霊力を解放しても体力は増加しない。

 走るペースは自由でも一時間も走り続ければ疲労で精霊力の制御も更に難しくなると、単純だが心身共に追い詰められる。

 しかも走れなくなるほど疲労困憊になった後、僅かな休憩のみで今度はラタニと模擬戦を日が暮れるまで行う。最後はボロボロにされて迎えに来たカナリアが治療術をかけて終了ともう完全な地獄だった。


「だいたい……あの野郎、は……なんでオレだけに地獄見せてんだ……よ……」


 故に逆恨みと頭で理解してもこの訓練を課したアヤトに対する恨み節が止まらない。

 制御力の基礎訓練が大切なのも分かるし、この訓練がアヤトに出来ないのも分かる。

 しかし制御力は一長一短で上達するものではなく、選考戦を睨んだ訓練なら完全なオーバーワークだ。


「んなもん、この手の訓練はユーちゃんにだけ必要だからさね」


 などと心の中で愚痴っていると見透かしたようにラタニが指摘。


「ユーちゃんは賢すぎるから体力必要と分かってても、無理ないようにってセーブするでしょ」

「まあ……それは……すけど……」

「つーかこの訓練は選考戦よりも先を見据えてやってんの。ユーちゃんは選考戦で序列一位になれれば満足かい? なら付け焼き刃な訓練に切り替えるけど?」


 ニマニマと確認されて嫌々ながらもユースは首を振るしかない。

 自分が目指すのは序列一位ではなく、大英雄になるロロベリアを支えるだけの強さを手に入れること。

 そしてロロベリアとリースの三人でアヤトに一撃くれてやること。

 後者は私怨も含まれるがアヤトが自分に望む立ち位置を考慮すれば、ラタニに頼んでこの訓練を課したのも理解できた。


「もち選考戦でも活かせるかもだけど、限界まで追い込まれた状態で何ができるか。どこまで制御できるかってーのは経験しておくの大事。経験してるのとしてないのとじゃいざって時の立ち回りで全然変わるからねん」

「だから……オレにだけ必要……で――」


『パチン』


「あだっ!」

「お喋りしながらでも気を抜かない」

「メチャクチャだろ……」


 再び跳んできたお仕置きと無茶ぶりに倒れたまま嘆くユースに仕方ないとラタニはため息一つ。

 休憩を兼ねてユースの疑問に答えつつやる気を奮い立たせることに。

 

「そのメチャクチャをロロちゃんは平然としちゃうよん」

「……姫ちゃんが? さすがに……それは……」

「ユーちゃんにだけ必要なもう一つの理由。あたしも大天才だけど……ま、ぶっちゃけちゃうと制御力ではロロちゃんに負けるだろうね。あたしだけでなくツクちゃんも」

「でも……ラタニさんもツクヨさんも、姫ちゃんより制御上手いじゃないっすか……」

「経験の差でそう感じるだけ。あたしもツクちゃんもロロちゃんより場数を踏んでるから試行錯誤で色んな技術を身に付けた。でもロロちゃんはあたしらが身に付けた技術を短時間で身に付ける。そもそもあたしらは昔から試行錯誤した基礎訓練を積んできてるのに、あの子は本当に普通の基礎訓練だけで今の制御力なんよ?」


 倒れたまま疑問を返していたユースもその反論に考えを改めた。

 ツクヨの制御力は鍛冶に必要と幼少期から父に特種な訓練を教わっている。

 ラタニは才能に溺れず独自の訓練法を続けたからこそ規格外の制御を可能としている。

 しかしロロベリアは精霊術士に開花して六年の間、自分たちと同じような一般的に広まっている基礎訓練しかしていない。

 なら規格外な制御を可能としている三人でも訓練の質や量を踏まえると、最も規格外なのはロロベリアで。

 少なくとも制御力に論点を絞ればロロベリアの才能だけが群を抜いていると認めるしかない。


「ただあの子は自分の制御力がそこそこ自信があるって自覚しはてる。でもあたしやツクちゃんの方が格上って認識してる。だからあたしら独自の技術は難しい、無理って意識しちゃうんよね。その意識が邪魔してるだけで――」


『パチン』


「あたしが苦労して編み出した()()()()、あの子は余裕でしちゃうよん」


 精霊術は精神面が大きく作用するので制御力もラタニが上、難しいけど訓練すれば出来るかもしれない、という意識がある内はロロベリアも習得は難しい。

 しかしそういった意識を除外すれば音による精霊術の発動という規格外な技能も習得できるというのがラタニの見解で。


「……なるほど。追い詰められた姫ちゃんが怖いわけだ」


 確かにエニシの秘伝や蒼月を始めとした規格外な技能をロロベリアが習得したのは精神的に追い詰められた状況下ばかり。

 故に王国最強の精霊術士でさえ敗北を認める制御力が本領を発揮したと、色んな意味でユースも納得。


「もちロロちゃんも基礎訓練は必要だけど、今はとにかく色んな経験を積むのが一番かにゃ? その経験から新解放の部分集約ってぶっ飛んだ方法を思いついたんだしねん」

「ちなみに……ラタニさんはそのぶっ飛んだ方法……できるんっすか」

「あたしが暴走しても良いなら試してみるけど?」

「……今のは聞かなかったことにしてください」


 新解放の高揚感を知るだけにユースは想像して震えが止まらない。

 もしラタニが暴走すればアヤト以外に止められる者はいなく、バケモノ二人が本気でぶつかり合えば待っているのは惨劇しかない。


「話は逸れたけど、ロロちゃんとユーちゃんは必要な訓練が別物ってことだ。んで、ユーちゃんの場合は才能を活かす下地作りかにゃー」

「下地……すか」


 とにかくロロベリアに比べて自分には体力や制御力といった基礎の基礎が必要なのは理解したが、下地という言葉にユースの脳裏にアヤトとのやり取りが過ぎる。


「なになに? まだ納得できんの?」

「いや……ちょっと思うところがあるというか……ラタニさんは何か聞いてないかって……」


 自分よりもアヤトの信頼を得ているラタニならとユースは五日前の出来事を打ち明けることに。

 アヤトの言っていた宿題や下地という意味。

 またラタニが思う今のリースに必要な訓練について意見を求めた。


「リーちゃんね。残念だけどあの子はあたしの専門外さね」

「……専門外?」

「つーかなるほろねー。だからあの子がわざわざあんな頼み事したんか」

「……自分だけ納得してないで、オレにも教えてくれませんか……?」

「教えるも何も、あたしはあの子がリーちゃんに出した宿題や下地についてまったく分からんよ」


 やはり何かを察したようでニマニマ顔のラタニを追求するもさらりと交わされ。


「強いて教えられるなら、あの子が言うお人好しがどの子か思い当たったくらいかにゃー」

「…………ちなみにどの子っすか」

「さあねん」


 一応な質問もアヤトのお約束を真似されて交わされたが、疑問は解消できなくてもユースは満足げに笑った。


「とまあ? この訓練の必要性をご理解したならユーちゃんはやることあるんじゃね?」

「……そっすね」


 まさにラタニの思惑通り、先ほどよりもユースはやる気に満ちあふれるまま起き上がり精霊力を両手に集約。


「このままだとマジ姫ちゃんや姉貴に置いて行かれるんで……こうなりゃ地獄でも何でも見てやるってのっ」

「その意気だー。てなわけでこっからは更に上限幅をシビアにするからねん」


「なにがてなわけか知らんけど望むところっすよ!」


 多少やけくそだろうと格好いい英雄二人に負けないよう走り始めた。




アヤトくんやラタニさんに不安を解消してもらって頑張っているユースでした。

そしてミューズ、ロロ、ユースに続き選考戦に向けて長期休暇をリースがどう過ごしているか……の前に、まずはラタニさんが思いついたお人好しが誰なのかを次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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