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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十一章 波乱の序列選考戦編
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信頼の瞳

アクセスありがとうございます!



 序列選考戦の説明会を終えたロロベリアとニコレスカ姉弟は早々に帰宅。


 ちなみにアヤトは説明会が終わるなり挨拶も無しで姿を消しているが、昨日の内に長期休暇中の予定は確認しているので問題はない。まあ挨拶くらいあってもいいとロロベリアは不服だったが。


 それはさておき、アヤトの代わりに特別講師の業務を終えたラタニが一緒だったりする。

 元より序列選考戦に選ばれると想定して今日中に帰省する予定だった。選ばれたら休暇も半分、なら少しでも家族と過ごす時間を増やそうとの考えで、同じく王都に戻るラタニも一緒にと決まったのだが。


「……本当にいいの?」


 帰宅後、着替えを済ませたロロベリアは荷物を手にリースへ念押ししていた。

 というのも昨夜、急にリースが今回は帰省しないと言い出したのだ。

 ロロベリア、リース、ユースも選考戦に選ばれたならさすがに訓練を一緒にしない。

 いくら手の内を知る者同士とはいえ選考戦では序列を争うライバル。訓練とは違う緊張感の中で、本気でぶつかるなら当日まで個々で備えるつもりだった。

 また長期休暇中はアヤトも王都に滞在すると聞いていたので、ギリギリまで王都の屋敷で訓練をしてもらう予定でいたがまさかの参戦。いくら実力差がハッキリしているとはいえライバルに訓練を付けてもらうのも違う。アヤトにも急な参戦について問いただしても交わされたが、選考戦まで悪足掻きしていろと断られていた。


 訓練は個々でもそれはそれ、ライバルである前に家族ならそれ以外の時間はいつも通りでいい。なのにリースが直前になってラナクスに残ると言い出せば心配もする。

 料理が出来ないリースを一人残すのも心配だが、生活費は充分な額を置いている。それよりもロロベリアが心配しているのは別のことで。


「わたしを気にせず、ロロはいつも通り頑張ればいい」

「…………」

「あと、お父さまとお母さまに手紙書いたから渡しておいて」

「……確かに受け取ったわ」


 しかしじっと見据えたまま手紙を差し出すリース根負けしたのか、ロロベリアは受け取った手紙をバッグに収めた。

 その間にユースもリビングに姿を見せ、外で待っているラタニの元へ。


「リース、行ってきます」

「食い過ぎでオレたちが戻ってくるまでに金使い切るなよ」

「みんなによろしく。気をつけてね」


 ユースの軽口も無視で手を振るリースに見送られながら三人は馬車乗り場へ向かった。


「さすがに姫ちゃんも気付くか」

「それは……はい」


 その姿が見えなくなるなりユースが確認すればロロベリアは顔を伏せてしまう。

 落ち込んでいるのは急に帰省しないと言い出すまでリースの変化に気づけなかったからか。リースは普段から眠そうで感情の起伏が表に出ず、ロロベリアは周囲の感情に鈍感。加えて下克上戦から色々と考えることが多かったので尚更。

 それでも間近で親友が思い悩んでいるのに気づいてあげられなかった自責の念は抱いてしまう。

 またリースの不安が下克上戦とも感づいているだろう。

 序列保持者の自分は仕方ないとしても、アヤトがミラーの対戦相手にユースを指名したなら疎外感もある。自分が同じ立場に置かれればリースがどのような心情に陥るかはロロベリアも理解できる。

 故に今まで一緒に行動を共にしていたリースが一人の時間を望むほど思い詰めていると知れば心配するわけで。


「気付いたのにリーちゃんをボッチにしたのかい? それは意外だねぇ」


 言うまでもなくリースの心情を察していたラタニが疑問視するよう、真っ直ぐすぎるが故に周囲の変化に鈍感なロロベリアだが決して薄情ではない。

 むしろ一度家族を失った経験から身内に対する情愛は強い。現にリースが帰省をしないと言い出してからはロロベリアの方が不安定、それこそ心配から自分も残ると言い出してもおかしくないほどだった。

 ラタニの疑問に対し、伏せていた顔を上げたロロベリアは微笑んでいて。


「リースに言われました。自分は気にしなくていいから、私はいつも通り頑張ってって」


 そう告げたリースは自分を応援するほど余裕はなかったはず。

 それでもいつも通り応援してくれた気持ちを酌むことが、ロロベリアが唯一親友にしてあげられることだ。

 なにより自分を見据えるリースの瞳。

 いつも通り眠そうな瞳に秘められた確固たる意志が伝わった瞬間、ロロベリアは確信した。

 今は思い詰めているかもしれない。


「リースなら絶対に大丈夫」


 しかし次会う時は()()()()()()()()()()

 なら心配よりも序列選考戦でリースと戦うのが今から楽しみで仕方がない。


「だから選考戦でリースに負けないよう、私は私の出来ることを精一杯するだけです」

「さよか」

「……姫ちゃんらしいわ」


 ロロベリアの言葉以上に伝わる真っ直ぐな瞳にラタニは苦笑し、呆れながらユースは少しだけ嫉妬していた。

 ロロ成分とやらが枯渇するとべったりだったリースが自らロロベリアと離れる決断をした時、ユースは平静を装いつつも心配したものだ。

 ただ()()()()()()()()()()()()自分に比べて、ロロベリアは純粋にリースを信じて見守る側に回った。

 この差が信頼される親友と、心配される弟か。

 正直なところリースは取り残された焦りを感じているが、心の強さはとっくに取り残されているとユースは思うわけで。


「ま、いつもべったりが仲良しでもない。今回の一件はリーちゃんにとって良い機会かもねん」


 ロロベリアとユース、そしてリースの心情を察してか、ラタニは満足そうにケラケラと笑った。


「とにかくリーちゃんに負けてられんなら、選考戦まであたしがみっちり鍛えて進ぜよう」

「本当ですか!?」

「願ってもないっすけど……ラタニさん、お仕事はいいんですか?」


 からの、思わぬ提案にロロベリアは真っ先に反応。その気持ちは分かるがユースとしては心配もある。

 特別講師として王都とラナクスを頻繁に行き来しているラタニは小隊長。今回もラナクスに滞在していた分だけ軍務も溜まっているはず。

 もしカナリアに全て押しつけるつもりなら申し訳ないと、つまりカナリアを気遣っての発言だった。


「その辺は問題ナッシング。ユーちゃんが心配しているような方法はとらんよ。あたしもカナちゃんに叱られたくないからねん」

「そっすか……」


 核心を突いた返答にも不安しかないが、ラタニが問題ないというなら問題ないだろうと考えるのを止めて肩を落とす。


「ただお目々キラッキラさせてるとこ申し訳ないけど、あたしが鍛えるのはユーちゃんだけねん」

「……え?」


 が、続く発言にやる気満々だったロロベリアの表情が一気に曇る。


「ライバル同士が一緒に訓練も違うんでしょ? それにロロちゃんばかり贔屓するのもねー」

「それは……」

「だからお姉ちゃんとはまた今度遊ぼうぜ」

「…………」

「……なんか、すんません」


 自分が優先されたことであからさまに落ち込むロロベリアに、居たたまれなくなったユースは謝罪した。

 それはさておき切り替えの早さもロロベリアの美点、馬車乗り場に到着した頃には持ち直し。


「寄り合い馬車とか久しぶりだにゃー」

「? じゃあいつも何で……あ、走ってか」

「そだよん。さすがに霊獣地帯に行く時は別だけど、良い鍛錬になるからあたしも含め小隊の子らは基本使わんよ」


 何気ない雑談からユースは嫌な予感が。

 以前ラタニは霊獣地帯にも走ってきたし、アヤトも一人で行動する際は基本馬車を使わないと言っていた。

 要はラナクスから王都までの距離を走るのは良い鍛錬どころではなく、それを鍛錬の一環に捉えているバケモノ二人と鍛えられた小隊員の感覚でしかない。

 そしてバケモノ二人を目標にしているロロベリアの感覚も若干麻痺しかけているなら。


「ならいつも通りに走って王都まで行きませんか?」

「ん? ロロちゃんはあたしと走りたいのかい」

「せっかくお姉ちゃんと一緒なので。私たちに合わせてくれると助かりますけど……」

「別に構わんよ。二人のペースでも日が暮れるまでには着くだろうからねん」

「じゃあお願いします」


 予感的中の展開になるのは言うまでもなく。

 ユースの意見を聞かないのは、強くなる為に必要な鍛錬なら確認するまでもないと考えているのか。たしかに基礎体力の向上は今のユースに必要で、ロロベリアの信用も含めて拒否するのは無粋。

 また今回どころか今後もロロベリアは帰省で馬車を使わないだろうがこれも良い機会。自身の甘え根性を叩き直す為にも付き合うべきだ。


「マジかぁ……」


 そう鼓舞しつつも二人に続いて列から離れるユースの足どりはとても重かった。




ユースが割り切れたアヤトの言葉は後ほどとして、思い詰めていると気付いても最後はリースを信じられるのがロロですね。



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