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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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次に知ること

アクセスありがとうございます!



 卒業式が行われた日の深夜。


 ロロベリアやユース、長期休暇まで特別講師として在宅しているラタニが寝静まった頃、仮眠を取ったリースは着替えを済ませて炎覇を手にして訓練場に向かった。

 下克上戦が行われた日はアヤトがロロベリアの付き添いをしていたので留守(目を覚まして間もなく姿を消したらしいが)、昨夜はいつも通りの時間に訪れても居なかったのでアヤトとの訓練は三日ぶりになる。

 まあロロベリアは昨日今日と安静の為、訓練を受けられなかったので下克上戦が決まって以降空いているが、今のリースには後ろめたさよりも焦燥感が勝っていた。

 なので訓練場の扉を開けてアヤトが自主訓練をしているのを確認するなり胸をなで下ろす。

 昨日も一昨日も休まず訓練はしていただろう。

 ただこの二日参加させてもらえなかったことが妙な不安に繋がっていたのか。

 それだけ今のリースは追い詰められていた。


 しかし――


「お願いします」

「さっさとこい……と言いたいが、今日は終いだ」


 いつも通り素振りや見立て稽古を見学させてもらい、ようやく自分の訓練をしてくれると思いきや、アヤトは抜いたばかりの月守を鞘に納めてしまう。


「勘違いするな。終いなのはお前の相手だぞ」

「…………どうして」


 その訂正にリースは構えを解き詰め寄るもアヤトは面倒げに肩を竦める。


「あの二人が絡むとお前はどうもうざくなる」

「…………っ」


 端的な物言いでも、リースは目を見開く。

 入れ替え戦前に指摘されたのと同じ。既に心ここにあらずなのが読まれていた。

 ただ今回はアヤトが告げた二人、ユースだけでなくロロベリアも原因。

 下克上戦でラタニに注意されたように、ロロベリアは学院最強のレイドに序列一位のプライドを捨てさせてまで勝利に拘らせた。

 入学時ではほぼ互角だったはずなのに、僅か一年で大きく差を付けられている。

 更に翌日知った下克上の裏で交わされた条件がリースに追い打ちをかけた。

 アヤトが出した条件、挑戦権を得るのに唯一序列入りをしていないミラーの対戦相手として選ばれたのはユース。

 つまりアヤトが考える学院生の実力者十二名にリースは選ばれなかった。

 もちろん自分の実力がユースに劣っているのは認めている。現に模擬戦とはいえランやディーンに勝利しているユースに対し、リースは序列保持者の誰にも勝利していない。

 またミラーには勝利したものの、挑戦権を得る戦いでユースに勝利しているのなら今の自分もまたミラーに劣っていると同意。


 なにより教国での一件では共に蚊帳の外だったユースが、学院内の出来事とはいえアヤトに認められ参加したのに対し、自分だけは代わらず蚊帳の外。

 秘密裏にアヤトの訓練に参加させてもらっているにも関わらず、未だ二人のような成長を遂げていない。

 このままでは間違いなく自分は置いて行かれるという危機感から秘密の訓練まで始めた。


 しかし現実はロロベリアだけでなく、既にユースにも置いて行かれている。


 リースにとって卒業生の意地から始まった挑戦の数々は()()()()ではなく、()()という現実を強く実感させた。

 親友、弟と同じ場所の並び立てない疎外感から少しでも早く何とかしたいとアヤトとの訓練を待ち望んでいた。

 同時に秘密の訓練を続けてもなお距離が開き続けていることに不安を抱いた。

 自分はロロベリアを支えるどことか、ユースに並び立つことも出来ないのか。

 才能溢れる二人に自分が追いつくことが出来るのか。

 いつまでたっても成長しない自分をいつかアヤトは見限り、相手をしてくれなくなるかもしれない。

 強く実感したからこそ、抱いた不安から自信がなくなりアヤトの訓練も集中できていなかった。


「ある意味、俺とお前は同類なんだがな」


「…………?」


 のだが、どこか自嘲気味に笑うアヤトの言葉に俯いていたリースは顔を上げる。


「いや、俺はお前ほどバカじゃねぇか。つーかリスと同類扱いなんざ屈辱以外のなんでもねぇ」

「…………」

「とにかく、バカがごちゃごちゃ考えるだけ無駄だ」

「……こいつ泣かしたい」


 ……自分で言っておきながら勝手に屈辱を感じ、挙げ句バカ扱いされてはさすがのリースも不安より苛ついた。

 しかし相手はアヤト、睨まれようと無視してため息一つ。


「なんにせよ、バカなりに己の弱さを知ったなら、次は己の強さを知るんだな」

「わたしの強さ……?」


 思わぬ助言に苛立ちも忘れてリースは小首を傾げる。

 ロロベリアやユースとの差を強く実感し、不安を抱いている中でこの助言。

 口は悪く自己中でもアヤトの実力を計る能力は的確で、だからこそ自身の強さという言葉に光明を見出す。


「それは――」

「バカ意外にあるのか?」


「…………」


「要はバカなりに強みはあるってお話しだ」


 ……が、やはりただ口が悪いだけでしかなかったと改めるリースに対し、アヤトは唐突な宣言。


「良い機会だ。リス、しばらく遊んでやらんからそのつもりでいろ」

「……なにがいい機会?」

「もうすぐ長期休暇だ。宿題出すにはちょうどいい」


 全く関係ないと批判したいが、一度決めたアヤトはまず譲歩しない。

 加えてリースは無理を言って自主訓練に参加させてもらっている立場、なら受け入れるしかない。


「今のお前と遊んでやる暇はねぇからな。つぎ遊んでやるまでに自分なりにその強さを考えてみろ」

「……さっきは考えるだけ無駄って言った」

「かもな」

「…………」


 二人との実力差に焦りを感じている中、アヤトから単独で訓練を受けられる時間を失うのは痛い。

 しかし悔しいがアヤトはただ口が悪いだけではない。

 これまでも意味不明な発言や行動にも彼なりの意図や、見えるものがあった。

 ロロベリアに然り、ユースに然り……選抜戦の自分に然り。

 ならきっと、自分の強さについて考える時間は今のリースに必要なもので。


「リス」


 話は終わりだと言わんばかり背を向けるアヤトは朧月を抜きつつ。


「気にいらねぇ()()()()()()()()()()()忘れるんじゃねぇぞ」


 気怠げな声音でも、大切な助言に聞こえたなら自分はこう返すべきと。


「……ありがとうございます」


 アヤトの背中に深く頭を下げ、リースは訓練場から立ち去った。




十章オマケ最後はリースでした。

六章のオマケでは前向きな決意を抱きましたが、見違えるほどの成長を続けるロロ、裏ではアヤトからそれなりにでも認められているユースに比べて、今回の一件でより取り残されたと実感したリースが初めて不安を抱きました。

そんなリースに告げたアヤトの助言がどう関わるかは……はい、後のお楽しみということで、これにてオマケも終了です。


なので次回更新から新章開始となります。

レイドたちが卒業し、新たな序列を決める戦いにアヤトが参戦。

ロロを始めとする元序列保持者やユース、そしてリースは序列入りできるのか。

またアヤトの宿題にリースがどのような答えを出すのか。


それでは第十一章『波乱の序列選考戦編』をお楽しみに!



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読んでいただき、ありがとうございました!



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― 新着の感想 ―
[良い点]  アヤトの相手を蔑ろにしない姿勢、カッコいいと思う。
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