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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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報いを受ける

アクセスありがとうございます!



 マイレーヌ学院の卒業式当日。


 卒業生の三学生が厳かな式に参列している頃――


「ミューズさん、けっこうダイナミックな字を書きますね……綺麗だけど」

「ありがとうございます」

「姉貴、いくらなんでも大雑把すぎるだろ」

「……難しい」


 講師舎に一番近い学食――つまりアヤトが責任者として任されている学食はもの凄くわちゃわちゃしていた。

 卒業式なので学食は開けてないがレイドの提案でこの後、卒業祝いのパーティーが行われるからで朝も早くからロロベリア、ミューズ、ニコレスカ姉弟が中心で室内の飾り付けをしていた。

 他にも並べ替えたテーブルにクロスを敷いたり、花瓶に花を生けたり、『卒業おめでとうございます』の看板を用意したりと、年代以前に王族貴族も参加する祝いの席にしてはかなり幼くゆるい感じなのは仲間内の祝いだから。

 特に卒業生の面々が格式張った場を好まないというのも理由か。

 とにかく元平民のロロベリアと仲間内で気楽な時間を過ごすのが嬉しいミューズが特に張り切っていたりする。

 まあ準備班の中でメインの戦力にならないのもあるわけで。


「たく……準備くらい静かにできねぇのか」

「こうした準備を楽しむのも良い思い出ですよ」


 わちゃわちゃと楽しんでいるが故に厨房で調理をしつつ呆れるアヤトに、唯一調理側の戦力になっているカナリアが宥めていた。

 ちなみにレイドの提案から誕生日会に参加した卒業生に借りを一度に返せると考えていただけあり、アヤトは一人で準備をするつもりでいたのだが、ロロベリアたちが『お世話になった卒業生のお祝いなら自分たちも何か手伝いたい』と意見、カナリアも何もしないままなのは落ち着かないと提案。

 最終的にアヤトが折れて(面倒になったとも言う)ミューズが用意してくれた馬車で食材や飾り付けの材料を買い集め、清掃を済ませてから準備開始となった。ただ妙なところで律義なアヤトが譲らず食材は全費用を負担、飾り付けの材料はエレノアたち在校生にラタニやカナリアが負担する形で纏まったが。


「それにしても……以前にも増して手際が良くなってますね」


 それはさておき、久しぶりにアヤトと調理をするカナリアはその腕前に惚れ惚れしていた。最近レパートリーに増えた教国料理から軽食、スイーツを次々と完成させていくアヤトに手伝いが必要かと思うほどで。


「ケーリッヒが手伝ってはいるが、学食開ける時よりは量も必要ないからな」

「確かにそうかもしれませんね」

「なにより……どこぞの白いのや聖女さまみたいにあり得ん邪魔がない」

「…………」


 調理速度に納得しかけたが、アヤトにしては珍しく遠い目をするのでロロベリアやミューズが調理中にどんなあり得ない邪魔をしたのかカナリアはとても気になった。



 ◇



 適材適所の準備が功を奏したのか、卒業式が終了する頃には飾り付けや料理の準備も完了。後は参加メンバーが揃うのを待つばかり。

 ただ式が終わってすぐ開始ではない。学院生会は講師陣と片付け、卒業生も友人らとの挨拶がある。貴族ともなれば家同士の繋がりもあるので特にだ。

 故に卒業生が揃うのを待つ間、学院生会の面々が少しでも早く合流できるようロロベリアたちは片付けの手伝いに。使った物は即片付けが心情のアヤトは一人残って厨房の清掃をしていた。


「……ロロベリアさん、少し宜しいでしょうか」


 のだが、学食を出て間もなくミューズに呼び止められてロロベリアは首を傾げる。


「少々お話しがあるので……もちろん時間は取らせません」

「? わかりました」


 ならばとロロベリアはリースたちに先に行くよう告げ、以前エレノアと話をした講師舎裏手に移動。


「それでお話しとは?」

「報告と言いますか、ロロベリアさんには最初にお伝えするべきと思いまして……」


 神妙な顔つきで向き合うミューズに思わず身構えるロロベリアだったが。


「わたしもアヤトさまに告白しました」

「…………へ?」



 一方、器具の片付けを終えて清掃をしているアヤトに来客が。



「素敵な飾り付けだ」


 室内を見回し楽しげに微笑むレイドに向けて清掃をしながらアヤトは視線も向けず対応を。


「何しに来やがった」

「そういえば、継続戦の前もキミとここで話をしたね。あの時は初めて雑用をやらされたんだ。懐かしいなぁ」

「懐かしむのは良いからさっさと用件を話せ」

「少しは会話を楽しんでくれないかな……」


 ぞんざいに扱われたレイドは弱々しく微笑むも馴れたもの。


「ボクが無理を言ってお願いしたお祝いだからね。改めてお礼を言いたくて……ありがとう」


 清掃の手を止めないアヤトにカウンター越しから頭を下げた。

 学食の責任者をしているとは言え、休みに私的利用するのは問題がある。もちろん昨日の内に学院側に許可をもらっているので違反ではない。

 それでも学院生として最後の日に学院で気心知れた友人らと思い出を作りたいとレイドが希望したことでアヤトに無理をさせたのは確か。

 また王族のレイドが平民のアヤトに頭を下げる姿を見せるのも体裁的に問題がある。

 私的な時間で気心知れた友人ばかりとはいえ配慮は必要と、パーティーが始まる前にやって来たのか。


「……たく」


 誠意と配慮を考慮したレイドの行動に、しかしアヤトは受け入れるよりも面倒げにため息一つ。


「そういや、昨日は第一王子さまが来ていたな」

「……気付いていたんだね」


 突然の話題変換に顔を上げたレイドは気にせず肯定。


「ボクが誘ったんだ。良い機会だと思って」

「良い機会ねぇ」

「兄もキミの実力を知りたがっていたからね。王族の一人として、先生に並ぶ王国の貴重な存在がどれほど出来るのか、気になるのも分かるから」

「大層な評価をどうも」


 最もな理由にアヤトは清掃の手を止め、ようやくレイドと視線を交える。


「しかし()()()()()()()()()()()()なわりに、随分と気遣うじゃねぇか」

「…………」


 その嘲笑と皮肉に驚きよりもやはりとレイドも笑う。

 先ほどの理由はあくまで建て前、自分がここに来た目的は最初から見抜かれていた。

 卒業すればアヤトと交流の頻度は格段に減る。

 故にレイドは()()()()()()()()最交渉をしに来たのだが。


「言っておくが、俺は誰にも付く気はねぇぞ。結果それらしくなってはいるが、それも俺が好きにしている結果に過ぎん」


 見抜いた上でお前に協力したつもりも、今後も協定を結ばないとの拒絶。

 もちろん簡単に結べるとは思っていない。

 それでも目的を果たすにはアヤトを味方に付けるのが最も確実で。

 最初に持ちかけたあの夜から、改めてアヤトという人物を知ったからこそレイドは尚更諦めきれないと。


「ボクは兄の幸せを考えているつもりだよ」

「国民の幸せも踏まえてか」

「もちろん。だから――」


 必死に交渉を持ちかけようとするも、寸でのところでアヤトが手をかざす。


 その動作にレイドが問うより先に、学食のドアが勢いよく開かれて――


()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


「…………」


 もの凄い剣幕で飛び込んできたロロベリアに出かけた問いを飲み込んでしまう。


「うるせぇ……片付けの手伝いはどうした」

「それよりも私の質問に答える! さっきアヤトとデートの約束したってミューズさんから聞いたんだけどどういうこと!?」

「外で茶を飲むだけだ」

「それはもうデートよねっ? どうしてそんな約束になったのっ?」

「ミューズにカリ返すんだよ。分かったならさっさと手伝いに行け構ってちゃん」

「借り? ああ、教国でお世話になったから……でも、いつの間に……」


 からの、レイドに気付かずロロベリアは納得するなりもやもやと。

 

「……いつの間にキミたちはそういった仲になったのかな?」

「その……わたしがアヤトさまに無理を言ってお願いしただけで……誤解なきよう」


 代わりにロロベリアを追いかけてきたのか、遅れて入ってくるミューズに質問すれば走って来たとは別の理由で頬を染めていて。

 まあミューズがアヤトに好意を寄せているのは今さら、誤解して欲しそうに見えるのもレイドは敢えて流すことに。


「ところでレイドさまはなぜこちらに?」

「……アヤトくんにお礼を伝えにね」


 そのまま首を傾げるミューズに建て前の理由を告げつつ。


「つーか俺がミューズにカリ返すのに構ってちゃんの許可は必要ないだろ」

「ないけど……それとこれとは別というか……」


「……これはある意味報復されたかな」


 アヤトとの関わりを持つ為、継続戦で利用したロロベリアに最後の最後に邪魔をされたのは報いかと嘆くしかなかった。




もちろんロロにそんな意図はありません(笑)。

ただロロといいアヤトといい、レイドの面目が……もう残念としか言いようがありませんね。

またレイドの目的については後々として、次回でオマケもラスト。

十章オマケの最後を飾るのはあの子、どの子かは次回更新をお楽しみと言うことで。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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