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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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異変と一歩

アクセスありがとうございます!



 下克上戦終了後、卒業式前にも関わらず学院の医療施設は慌ただしかった。


 新解放の使用で念のため検査を受けたエレノアや精霊力の消費が激しいため安静を必要としたミューズはまだ良い方。

 二人の対戦相手だったシャルツは精霊力の消費に加えて左腕に重傷、ティエッタは精霊力を枯渇寸前まで消費させ意識を失っている。

 更にラタニが直で運んできたロロベリアはティエッタと同じく消費限界まで精霊力を使用した状況で、意識を失いながらも精霊力を解放させてより危険な状態。

 挙げ句、本来エレノアやミューズのように安静が必要なほど精霊力を消耗させたカイルとディーンは医療班が呼びに来る前に闘技場から姿を消したりと対応に追われて大忙し。


 もちろん二人はレイドとロロベリアの下克上戦終了後、直接医療施設に向かったが叱られたのは言うまでもなく。

 普段の実技講習や入れ替え戦のような公式戦でもお世話になる学院生は居れど、せいぜいカイルたちのような状態ばかり。

 にも関わらず五カ所の闘技場で同時開催としても、十名中七名が医療施設のお世話になる状況。特にロロベリアは入学から一年で三回も重体でお世話になっている。

 まあそれだけギリギリの激闘を繰り広げたことにもなるので、ここ数年学院生のレベルが低迷していることから大きな刺激になったのは確か。学院としては喜ばしいが、だからこそ今後の医療体勢を見直す結果となった。


 とにかく医療スタッフの奮闘も含めて下克上戦も終了。

 一晩様子見として施設で眠らせているロロベリアと付き添いのラタニを残し、それぞれが家路につく頃にはすっかり日も暮れていて。

 意識を失ったままのティエッタに付き添うフロイスは事情説明も兼ねて学院の馬車が送ることになり、ランとディーンはニコレスカ姉弟とカナリアと共に徒歩で。

 レイドとエレノア、カイルは家の馬車で。シャルツは平民区にある学院寮に近いこともあり、同じく家の馬車で帰宅するミューズの好意で送ってもらうことになった。


「夜分にすまんな」

「アヤトさま……?」


 のだが、シャルツを送り届けてそのまま屋敷に帰宅するなりアヤトが訪れたのでミューズは唖然。

 日も落ちた時間帯に約束無しで訪問しても使用人が取り合ったのは、教国の一件からレムアを始めとしたイディルツ家の使用人がアヤトを好意的に評価しているからこそ。またミューズの恋路を応援していることもあり、快く応接室まで通してくれたのだがそれはさておき。


「あの……どういったご用件で?」


 レムアを背後に立たせ、テーブルを挟んで向き合うアヤトに確認を。

 自ら訪問してくれたのは初めてで、嬉しい反面戸惑いを隠せない。

 なんせ先ほど医療施設に現れたアヤトはロロベリアの容態を聞くなり野暮用があるとすぐにどこかへ行ってしまったのだ。

 その野暮用とはもしかするとここに訪れることなのか、しかし理由が分からず。


「その……下克上戦を観に来てくださり、ありがとうございました」


 混乱からミューズは返答を聞くより先に慌ててお礼を述べる。

 自分を応援する為ではないとは理解しているが、わざわざ足を運んでくれたことに感謝の気持ちでいっぱいで。


「どういたしまして。負けはしたが良いお勉強になったようだな」

「ですが、次こそは勝ちたいと思います」

「ティエッタは卒業するぞ」

「それでもです。ティエッタさんに再戦をお願いして、次こそは……」

「やはり、良いお勉強になったか」

「はい。あ……す、すみません! わたしのことよりもアヤトさまのご用件でした」

「謝罪の必要はねぇよ」


 下克上戦から芽生えた意識、成長を報告できて満足したのか、ぺこぺこと頭を下げて話題を戻すミューズにアヤトは出されたお茶を一口。


「つーか、ご用件があるのはお前だろ」

「……え?」

「医療施設で俺に何か用がありそうに見えたのは気のせいか」

「…………っ」

「気のせいなら帰るぞ。夜分に邪魔するのも気が引けるしな」


 改めて目を合わせるアヤトに首を傾げるミューズだったが、続く指摘に息を呑む。

 確かに医療施設で顔を合わせた時、観戦に来てくれた感謝を伝えるとは別にアヤトに相談しようか迷っていたことがある。

 その迷いから人前では話せない要件と察したアヤトが訪問してくれたのかもしれない。


「……レムアさん。申し訳ありませんが席を外してください」

「畏まりました」


 元より悩んでいたこと、気を遣ってくれたなら話すべきと判断したミューズはレムアを下がらせる。


「……ロロベリアさんにもお伝えするか悩んでいましたが、アヤトさまの意見を伺いたいと思います」

「あん?」


 ロロベリアの名が出たことを訝しむアヤトに神妙な顔つきでミューズは口を開く。


「実は下克上戦の際、ロロベリアさんの精霊力に()()()()()()()()()()()

「…………」


 その切り出しにアヤトの目が細められるもミューズは構わず続けた。

 最後の攻防でレイドの一撃を受けたロロベリアが吹き飛び倒れた際、今にも消え入りそうなほど弱々しい輝きは活動限界どころか、それこそ生死に関わるほどに感じて実はラタニよりも先にミューズが闘技場に乱入しようとしたほどだ。

 しかし寸前で踏みとどまった。


 何故ならロロベリアの精霊力の輝きが消えるどころか突然持ち直したのだ。


 自然界に満ちる精霊力によって失われた精霊力は回復する。しかしミューズが今まで視てきた限り、数秒足らずで視認できるほどの変化はなかった。

 にも関わらず僅かだろうとロロベリアの精霊力は輝きを取り戻した。

 初めて視る現象にミューズは驚愕から行動に移せず終いで。


「現に意識を失われても尚、ロロベリアさんは精霊力を解放しました。最終的にアーメリさまが仲介に入り、再び倒れてしまいましたが……その時には何も感じられませんでした」


 ただ僅かながら回復したことで生死の危険は脱したように感じられてミューズもラタニに任せて見送ることが出来たのだが、不可解な現象にしばらく我を忘れていた。

 またロロベリア本人だけでなく、アヤトにも相談しようと悩んでいたかはその変化が起きた際に関わっている。


「ですが……その、白銀の変化をされた時のアヤトさまのように、突然ロロベリアさんの周辺のみ精霊力がざわついたように感じられて……」


 輝きを取り戻す瞬間、大聖堂で見たアヤトの変化と同じ感覚があったのだ。自然界に満ちる純然な精霊力が白銀の変化を起こしたアヤトの周辺のみざわついていたように、観客席からでも感じ取れるほどロロベリアの周辺にも同じような感覚があった。

 ミューズはアヤトの変化について詳しい事情を知らない。

 しかし同じような現象が起きたのなら、二人の変化には何らかの関連があるかもしれない。

 故にアヤトなら何か分かるかもしれない。

 故に相談するべきか悩んでいたと打ち明けるミューズに対し、最後まで静聴していたアヤトはソファの背もたれに身体を預けて一息。 


「なるほどな」


 やはり何かを察したのか、困惑よりも苦笑を浮かべるのみで。


「とりあえず今は白いのに話すのは控えてくれ。むろん、白いのにもいずれ伝えるがな」

「え?」

「それと頼みがある。お前の特異な目について、ラタニやツキにも話して良いか。その上であいつらにも意見を聞きたい」


 しかし思わぬ要求にミューズはキョトン。

 ミューズが精霊力を視認できると知るのは現状アヤト以外はロロベリアとエレノアのみ。なのにロロベリアの変化を本人に伝えず、ラタニやツクヨには伝えるらしい。

 情報の出所を説明する為、自分に秘密を打ち明ける許可を願うのは分かるが、なぜあの二人なのか。

 そもそもアヤトはロロベリアの変化を察していないのか。

 疑問はあるもラタニやツクヨならミューズも信頼できる。

 なによりアヤトがこのような要求をするなら理由があってのこと。


「構いません。全てアヤトさまにお任せします」


 なら答えは他にないとミューズは笑顔で要求を受け入れた。


「無理を言ってすまんな。つーか、ようやく返せたのにまたカリができたか」


 ただそうぼやくアヤトの表情に胸がちくりと痛む。

 自身の都合でミューズの秘密を二人に打ち明けるなら借りを作ったことになる。

 義理堅いアヤトらしい拘りだが、自分に借りを作ったのはロロベリアの為。

 本人に口止めしてでも解明しようとしているのも、何か気遣ってのことだろう。

 その行動理念がロロベリアにあるなら、つまりアヤトにとってそれだけの存在になると同意で。


「……アヤトさまは、ロロベリアさんを大切にされているのですね」


 以前から感じていた二人の関係性、アヤトがロロベリアに向ける特別な優しさがミューズは羨ましくて。


「どうだろうな。だがま、面倒でも構ってやるくらいには気に入っているか」


 今も簡単に本心を口にしないアヤトが捻くれた物言いだろうと教えてくれるのも、ミューズに対する借りからくる誠意だろう。

 捻くれていようと充分ロロベリアに対する特別な感情が伝わる。

 ただその特別がどういった感情なのかまでは分からない。

 過去の繋がりから向けている情か。

 それとも自分やロロベリアがアヤトに向けている感情か。

 精霊力を秘めていないアヤトの感情が読み取れないのがもどかしい。

 ロロベリアに向けてる輝きはどのようなものなのか。

 そして自分に向けてくれる輝きはなんなのか。

 今まで後ろめたく感じていた相手の感情を読み取れるこの目が、機能してくれないのがもどかしくて。


「では……わたしは?」


 知りたい気持ちが溢れるままミューズは問いかける。

 元より相手の感情など読み取れることなど不可能なら、言葉にして知るだけと。

 またもどかしさから足踏みするよりも、知ってもらいたい感情があるはずと。


 ロロベリアに負けたくなのなら。

 特別に想われていようと諦められないのなら。

 頑張るために必要な時間を手に入れたら伝えると誓ったなら。


「わたしはアヤトさまを愛しています」


 アヤトの気持ちを知る前に、まずは自分の気持ちを知ってもらうべきとミューズは伝えた。

 心臓が張り裂けそうなほど鼓動するのも構わず、ようやく一歩を踏み出したミューズの想いを聞いたアヤトと言えば。

 告白された側とは思えないほど表情を変えず、見据えるミューズの瞳から目を反らすことなく数秒後に苦笑を滲ませて。 


「俺は誰のものにもなるつもりはねぇよ」

「……そうですか」


 受け入れるつもりはないとの返事に、ミューズは目を伏せる。

 しかし浮かべるのは晴れやかな表情。

 ロロベリアの存在以前に、まだ何も成してない自分の恋が届くはずもない。

 つまり、元より成就すると自惚れていない。

 なら今は勇気を振り絞って一歩を踏み出せた自分を誇って。


「では、今後はアヤトさまを振り向かせるようわたしは頑張ります」


 顔を上げて再び自分の気持ちを伝えた。


「迷惑に思われようと必ず、アヤトさまの気持ちを変えてみせます」


 更に溢れる気持ちのまま両拳をキュッと握りしめ、満面の笑みで宣戦布告。

 さすがにこの返しは予想外だったのかアヤトの苦笑が固まり。


「趣味が悪いというか……物好きな奴だ」


 自虐的な言葉と共にカップに残っていたお茶を飲み干し。


「好きにしろ」

「はい! 好きにします!」


 元気よく返すミューズにアヤトは再び苦笑したのは言うまでもなく。


「ところでアヤトさま? その……大変厚かましいのですが……先ほどの借りについて……お話しが」

「なんだ」

「とてもお暇な時でも構いません。なので……わたしと……」

「ハッキリ言え」

「す、すみません! もし宜しければアヤトさまとお茶をご一緒したいと……」

「……今しているが」

「そうではなく……二人きりで外出してみたいのですが……如何でしょう」

「暇があったらな。それで貸し借り無しだ」

「ありがとうございます」

「たく……やはりお前はよく分からん」


 気恥ずかしげにしつつも早速頑張ろうとするミューズの行動力に、呆れからアヤトがため息を漏らしたのも言うまでもない。




『評価と影響』でミューズが視認したロロに起きた現象についてでした。

ロロの現象についてはこれ以上は伏せるとして……最後はミューズが持っていきましたね、天然って怖い。

ですがミューズの性格上、決めたのなら実行しますからね。なので十章の間に想いを伝える予定で、何気にアヤトくんと二人きりになることがまずないんですよ……そしてミューズは元より行動力がありますからね。

とにかくシリアスなお話からこのようなオチになりましたが、どうなることやらです。特にロロがミューズと出かけると知れば……もやもやするでしょうね。


それはさておきオマケも残り二話。次回もシリアスとそうではない内容を予定していますが、そちらもお楽しみに!


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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