たのしいじかん
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新年を迎えて五日。
王都の実家に滞在していたロロベリアとニコレスカ姉弟は予定通り、昼頃に寄り合い馬車でラナクスに帰ってきた。
「どこ行ってるのよ……本当に」
「あいつ泣かしたい」
のだが、馬車乗り場から工業区の我が家に向かうロロベリアは不満を漏らすが仕方のないこと。
なんせ教国から帰国して以降、アヤトと顔を合わせたのは年越し祭の一度きり。それも途中でどこかに行ってしまった。
約束を守ってくれたまでは良かったのに声もかけることなく居なくなり、連絡しても返答がない。まあ直接連絡が出来るのはマヤではあるが、どこで何をしているのか、予定通りラナクスに帰る、くらいは言伝てもいいはず。
また前回の長期休暇みたいに馬車乗り場に居るかと予想していたのにアヤトの姿は無く、当てが外れたロロベリアはもやもやしっぱなし、リースも親友をもやもやさせていることにご立腹とユースにとっては実に居心地が悪い。
「あいつのやることをいちいち気にしてたら身が持たないぞ」
「それは……そうですけど」
「どうせ帰る場所は同じなんだから、ほっとけばいいって」
「……ですね」
同じ場所に帰る、という言葉が効いたのかロロベリアのもやもやも少し晴れたようで、表情に笑みがこぼれる。
まあユースはどこに居るかは分からなくもアヤトが何をしているかは知っている。その経緯でロロベリアの為にアヤトが色々と考えていると改めて知れた。
今回も不確定要素を少しでも取り除く為に調査をしているなら、こうしたフォローも苦ではないわけで。
「なら姑が帰ってくる前にオレたちはお掃除してますか。ケーリッヒ殿や先輩方が様子見てくれてるとはいえ、長いこと空けてたから埃も凄そうだし」
「あいつにやらせればいい」
「家事の分担で掃除は私たちの担当だから。それにアヤトの手料理も久しぶりじゃない? 言われる前にやっておけば豪華な食事にしてくれるかもしれないわよ」
「むう……ならがんばる」
ロロベリアが持ち直せばリースも持ち直す……すっかり餌付けされているとも言えるが。とにかく和やかな雰囲気を取り戻せたとユースは安堵していた。
◇
「「「…………」」」
が、帰宅してリビングに入るなり三人はキョトン。
というのも一月近く空けていたにも関わらず室内はピカピカ。むしろ普段よりも綺麗に清掃されていた。
まさかケーリッヒたちが様子見だけでなく掃除もしてくれていたのかと――
「遅かったな」
「えっ? あ……え?」
思うよりも先に聞こえた声にロロベリアは肩を振るわせる。
室内の様子に気を取られていたので気付かなかったが、ソファの背もたれに見覚えのあるコートが掛けられていて。
近づけばソファに寝そべりあやとりを興じているアヤトの姿が。
「……帰ってたの?」
「まあな」
「ならお掃除したのはお前か」
「他に誰がやるんだよ」
先に帰宅しているとは思いもよらず、出遅れたロロベリアに変わって質問するニコレスカ姉弟に端的に返しつつアヤトはあやとりの紐を解いて立ち上がり。
「むろん二階やお前らの自室はしてねぇぞ。つーわけで手分けしてさっさと終わらせろ」
羽織ったコートのポケットに紐を押し込み、テーブルに立てかけていた朧月と月守を帯刀。
更にテーブルに置いてある黒い袋を手にするなり玄関へ。
「俺が帰ってくるまでにな」
そのまま出かけてしまった。
なのでとりあえず――
「ちょっとアヤト! どこ行くのよ!」
「……気持ちは分かるから、姫ちゃんの分までオレたちがお掃除するか」
「豪華な食事は?」
「それ期待するなら尚更だろ」
「……仕方ない」
即座に後を追いかけるロロベリアの放置した荷物を運びがてら、ニコレスカ姉弟は二階の清掃に向かった。
一方、アヤトに追いついたロロベリアといえば遅ればせながら質問攻めを。
「今までどこに行ってたのよ」
「さあな」
「年越し祭も勝手に居なくなるし、連絡してもぜんぜん返してくれないし」
「連絡に関してはマヤに言え構ってちゃん。つーか俺は掃除をしろと言っただろ」
「帰ったらやるわよ」
したところでまともな返答があるわけもなく、元より期待していなかったロロベリアはため息一つ。
「……で、今はどこに向かってるの」
「礼をしに行くんだよ」
「……は?」
しかし投げやりな質問に端的でもまともな返答が。
「俺たちの留守中、家の面倒を見てもらったなら礼するのは当然だろ。教国の土産もあるしな」
「……なら帰る前に寄ればよかったのに。いつ帰ったのか知らないけど」
「その前に掃除しときたかったんだよ。不衛生なのは落ち着かねぇしな」
「本当に綺麗好きね……」
なんともアヤトらしい理由にロロベリアは脱力するも、留守中に我が家の管理をしてもらったケーリッヒたちに感謝を伝えに行くのも律義なアヤトらしいと嬉しくなる。
まあ、一緒に暮らしている自分たちにももう少し配慮はして欲しいが、そう言った理由なら自分も同行するべきで。
「ま、他にも用はあるが……白いの」
「ん?」
「帰る前に寄れと言うなら、お前は既に礼を済ませているんだろうな」
「…………」
「むろん手ぶらで付いてくるなら土産も渡していると」
「…………」
一緒に行くと告げる前にアヤトから手痛い返しが。
もちろんロロベリアもお礼を伝えに行くつもりでいたし、お土産も買っている。予定外の教国行きになったニコレスカ姉弟はどう説明すればいいか分からないので教国土産は控えているが、後で一緒に行く予定だった。
ただ一度帰宅してからの予定で、手ぶらなのもアヤトを追いかけただけでしかない。
「さすがは白いの。落ち着かんとはいえ後回しにした俺とは違い律義なことだ」
「……お願いだから少し待ってて」
向けられる苦笑から明らかに察しているアヤトの嫌味に懇願したのは言うまでもない。
◇
どんな気まぐれかアヤトが待ってくたのでロロベリアは慌てて引き返した。
既に二階の清掃を始めていたニコレスカ姉弟を誘ったが、掃除を済ませておくから遠慮なくと気を利かせてくれて感謝を。
ちなみにリースからは豪華な食事を要望されたので伝えておくと約束したロロベリアは荷物からお土産を抜き取りアヤトの下へ。
まずは工業区から近いラン、ディーンの家に。
なぜかランの実家を手伝っていたディーンに無事帰国したこと、我が家の管理をしてくれた感謝とお土産を渡した。
ただ仕事中なので長居もできず、というより用を済ませるなりさっさと移動するアヤトに慌ててロロベリアが後を追ったのだが。
それでも二人はアヤトの奔放さに馴れているだけあり気にせずお土産を喜んでくれて、ランからはデートを楽しんでと冷やかされたが悪い気もせず。
続いてケーリッヒの住まいに向かったが。
「……フィーナさん?」
「ロロベリアさん!? あ、アヤトさんも……!」
なぜかフィーナも一緒でロロベリアは困惑するも、エプロン姿のフィーナは二人の訪問に顔を真っ赤にして更に困惑。
代わりにケーリッヒから学食で働くようになってから料理に興味を持ったフィーナに教えて欲しいと頼まれ、今日も手解きをしていたと聞いて色々納得。
故にロロベリアはもちろん、アヤトもお礼をお土産を渡して早々に退散することに。
恋路を応援するロロベリアにフィーナからも頑張ってとエールをもらいやはり悪い気はせず。
「ニタニタしてんじゃねぇよ」
「してないわよ」
結果否定しつつもロロベリアの表情は緩んでいた。
よくよく考えればアヤトと街中を一緒に歩くのは王都デート以来。
教国の帰路の船で思う存分構ってもらい、年越し祭では少しでも二人きりで過ごしたがそれはそれ。
更に帰宅せず商業区に立ち寄れば上機嫌にもなるわけで。
もちろんデートをしているわけでもなく買い出し。なんせ家を空けていたので食材がないのだ。
本来買い出しはアヤトではなく料理を出来ない三人が受け持つも、帰国すれば教国の料理を振る舞う約束をマヤとしていたので自分で食材を選びたいらしい。他に用があると言っていたのはつまり買い出しで。
いつマヤとそんな約束をしたのかは知らないが、教国に滞在中レムアを始めとした使用人に教国料理を教わっていたのはその為だったと納得。また色々と作るらしいならリースの要望通り豪華な食事になるだろう。
なにより二人で買い出しというのはやはりアレな感じですごく良い。
ただ前回の二人きりの買い出しは同じ家から出発して同じ家に帰るという些細な望みは、薄情にもアヤトが一人で帰宅したので叶わず終い……子ども相手にムキになった非は認めるがそれはそれ。
とにかく今回こそと食材を吟味するアヤトに付き合い、魚店でも宿敵がアヤトと妙にベタベタしようと自分を構ってちゃん扱いしようと(ギリギリ)絶えたロロベリアは買い物袋を二人で引っさげ一緒に帰宅というアレな感じを最後まで楽しみほくほくだった。
しかしそこはアヤト、最後までアレな感じを楽しませてくれるはずもなく。
「おかえり、ロロ」
「……おかえり」
「アヤトさま、お久しぶりです」
「お邪魔しております」
「…………」
「よう」
帰宅するなりニコレスカ姉弟だけでなくミューズとレムアにまでお出迎えされたロロベリアは呆然。
対するアヤトは平然と受け入れ歓迎(しているように見えた)する。
「ミューズさまにレムアさま、もういらしていたのですね」
更に今まで一緒に居ました感を出しつつ背後からマヤも現れ二人を歓迎。
「お邪魔しています、マヤさん。ユースさんからマヤさんは外出中とお聞きしていましたが、ご一緒なさっていたんですね」
「兄様が教国に行かれている間、ずっと離れていたのでロロベリアさまにお願いして同行させてもらったんです。兄離れが出来ず……お恥ずかしい限りです」
「仲良しさんなのは良いことですから、お恥ずかしがる必要はないかと。それよりもマヤさんをご招待できず、申し訳ありませんでした」
「そんな、ミューズさまが謝罪されるようなことはなにひとつございません」
「……どうして二人が居るのよ」
からの、マヤの白々しいやり取りが始まる中、ロロベリアはジト目でアヤトに詳しい事情を求めた。
「俺の料理が上手く再現できているかレムアに味見役を頼んだんだよ。地元民の意見が最も参考になるだろ」
「ならミューズさんも?」
「連れて行っても良いかとレムアに頼まれたなら断れんだろう。味見役の為にわざわざ足運んでもらったんだ。ま、そんなことはどうでもいい」
微妙に良くないが納得するしかないロロベリアの手から食材の入った袋を取り上げるなりアヤトはレムアの下へ。
「無理言ってすまんな」
「私もアヤトさまの作られる料理を楽しみにしておりましたのでお気になさらず。それよりもミューズさまの同行を許可してくださり感謝を」
「それこそ気にするな。とにかく料理が出来るまで適当にくつろいでくれ」
「では何かお手伝いを――」
「呼んだのは俺だ。つまり遠慮なく持てなされろ」
レムアの申し出を断り朧月と月守をテーブルに立てかけ、コートを脱いで代わりにエプロンを身に付けたのだが。
「……アヤトさま、わたしに何かお手伝いをさせてください」
マヤとお喋りしていたミューズがいそいそとアヤトに声をかける。
「俺は遠慮なく持てなされろと言ったが」
「ですがわたしはレムアさんと違い無理を言って同席させて頂いています。何もせずご相伴されるのは心苦しく……」
「心苦しく思う必要もねぇんだがな。だがそうもいかんのがお前か」
「では……」
「そこに予備のエプロンがあるから使え」
「はい!」
指示されたミューズは満面の笑みでエプロンを身につけ、そのまま二人で手を洗い始めてしまった。
(もやもや……)
上機嫌から一転、ロロベリアはもやもやと。
二人で一緒の買い出し以上に二人で一緒に料理というアレな感じが羨ましい。
しかし自分も手伝うと名乗り出ても却下されるのは目に見えている。もちろん邪魔だからではなく何故かアヤトは料理に関しては頑なに手伝わせてくれないのだ。
それはさておき、ミューズは大切な友人ではあるがライバルでもあるだけに一層のもやもやを抱いてしまうわけで。
「……遠慮なく聖女さまを手伝わせるのがアヤトだけど。もう少し空気読めよ……」
「あいつが空気読めるわけない。それよりもアヤトの作る教国料理楽しみ」
「姉貴も空気読めよ……」
もやもやするロロベリアと楽観的なリースに挟まれたユースはうな垂れるしかない。
まあ客人が居る手前、このような空気にするのも失礼とまずはレムアにフォローをすることに。
「……どうかしました?」
したのだが、そのレムアが妙に神妙な表情でキッチンを見詰めているので首を傾げてしまう。
主のミューズに手伝わせるアヤトが不敬と感じているはずはない。ミューズの従者だからこそアヤトとの距離を縮める機会をむしろ歓迎しているだろう。
故にレムアの様子が気になったのだが。
「その……ですね。ミューズさまは普段から炊きだしや孤児院のお手伝いなどで料理をされるんです」
「……? まあ、そうでしょうね」
「ですが……お手伝いも主に配膳をしたり、野菜などを洗ったりでして……練習はされているんですが……その……」
「ああ……」
もの凄く躊躇いがちな返答でもユースは全てを察し、後の展開に笑うしかなかった。
そして予想通りというべきか五分後――
「たく……白いのと同レベルなのが居たとはな」
「……申し訳ございません。私が責任を持って綺麗にさせて頂きます」
アヤトから戦力外通告を受けてスゴスゴと引き下がるミューズに代わりレムアがキッチンに立つ事態に。
「大丈夫ですミューズさん。私も同じ扱いを受けました」
「お恥ずかしいです……」
結果としてロロベリアはもやもやよりも意気消沈するミューズを励ますことになった。
ちなみにアヤトの作った教国料理はさすがの出来で。
「美味しい」
「たしかに美味いけど……姉貴、食い過ぎ」
「やはり兄様は料理がお上手ですね。顔に似合わず」
「顔は余計だ」
最後はリースとマヤが一番楽しい時間を過ごしていた。
オマケのお約束、アヤトとロロの時間だけでなくマヤとの約束を果たした内容でした。
同時にメインキャラに仲間入り(予定)のミューズも参戦……しましたが、なぜかこんなオチに。ミューズがロロと同類なのは元より考えていましたが。
とにかくマヤよりも、お気楽なリースが一番得したかもしれませんね。
そして次回のオマケはミューズと同じくメインキャラに仲間入り(予定)のあのキャラがメインの内容です。
こちらは今後の本編にも関係している内容なのでお楽しみに!
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