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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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秘める感情

アクセスありがとうございます!



「……らしいっすよ」


 観覧席ではアヤトに種明かしをするラタニの言葉をそのままユースが伝えていた。

 というのも戦闘不能と思われていたミラーが新解放でアヤトに攻撃を仕掛けられたことに学院生の面々やアレクは当然、カナリアも理解できなかった。

 距離以前にティエッタの精霊力やアヤトに集中していたので、あの場面でカイルが精霊術を使用していたと気づけなかったらしい。

 対しラタニは審判として全体に気を配り続けていたからこそ、レイドたちも途中で止められることなく最後まで戦えたことになる。豪語した通り学院生たちが安心して戦えるよう見守っていたお陰でこの結果に辿り着いた。

 とにかく理解が出来ない面々にユースが精霊力を聴覚に集約して聞き取り伝えていたわけで。

 精霊術の暴発をどう回避したかをアヤトがレイドに話していた内容も同じ方法で伝えた際は、相変わらずのデタラメ加減に苦笑がほとんどだったりする。

 しかし先輩たちの作戦にはただ驚くばかり。

 ユースもアヤトの弱点を精霊術や精霊力の攻撃、ではなく補助として利用するという発想には感心と共に参考にさせてもらったと感謝している。


(でもま、二度と通用しないだろうけどな……)


 が、アヤト相手にはあくまで参考にしかならないと内心苦笑していたがそれはさておき。


「アヤトさんの弱点を利用した見事な作戦でした。ですが、あの六人だからこそ可能とした作戦でもありますね」


 即席のチームだろうと六人の覚悟や想いが結んだ信頼関係があったらかこそ、あのアヤトに傷をつけた。

 例え掠り傷だろうと学院生が成せるとはカナリアも想像できなかったので称賛しかなく、同じ学院生の後輩たちは先輩が成し遂げたことに憧れが増していく。


 故にレイドの手に掲げられるミラーの手にはカイル、フロイス、ティエッタ、シャルツの手も合わさっているようで。


 アヤトの敗北宣言こそ聞こえなかったが、偉大な先輩方に最後に学ばせてもらったと拍手を送っていた。


「つーわけで勝者はレイちゃん、カイちゃん、ティーちゃん、フロちゃん、シャルちゃん、ミーちゃんねん」


「……もう少し威厳ある宣言をしてください」


 からの、改めて審判のラタニから宣言が下されてカナリアはため息一つ。

 とにかく終わったのなら次は自分が勤めを果たすと観覧席の縁に手をかける。

 結果は予想外でも状況は予想通り。


「ミューズさん、ロロベリアさんも協力をお願いします」

「「はい!」」

 

 つまり負傷者の治療があると、フィールドに飛び降るカナリアに声をかけられた二人も後に続いた。


「私たちも行くぞ!」

「もちでしょ!」

「先輩たちマジ格好良すぎだろ!」


「わたしたちも行こっか~」


 遅れてエレノア、ラン、ディーンも興奮気味にフィールドに飛び降りるのに対し、ルビラを始めとした新旧学院生会のメンバーは普通に階段から向かう。

 持たぬ者がいるので飛び降りれないのもあるが、アヤトと直接手合わせの経験がある者は先輩たちの雄志にやはり高ぶるのだろう。

 ただ全員ではないようで。


「実際に観たアヤトはどうでしたか?」


 その内の一人、ユースは同じく観覧席に留まり続けているアレクに感想を求めた。

 第一王子相手にフランク過ぎる態度でもアヤトの誕生日会から面識があり、本人がレイドやエレノアと同じような扱いを望んでいたので問題はない。


「父がラタニさんと同じくらい目にかけているのがよく理解できた。私も一度手合わせしてみたいが……」


 なのでアレクも気にせず肩を竦めて苦笑い。

 最後の攻防のみでも充分インパクトはあっただけにデタラメ加減は充分伝わっただろう。

 また学院に在籍していた頃は精霊士でありながらアレクは序列一位まで上り詰め、卒業後も鍛錬を怠っていないようで佇まいや所作からでもかなりの実力者だとユースも察しているが、両者の特性からして相手が悪すぎるので及び腰なのは仕方がない。


「ところで君は行かないのかい?」

「アレクさまを残して行くのもどうかと思いまして。それとまあ……色々と」


 変わってアレクから質問されたユースは苦笑交じりにさわりと交わした。

 なんせ複雑な心境が故に他の面々に比べて高揚しないのだ。

 アヤトに対する感情を自覚してなければいい気味だと笑っていられたが、正直なところ自分が思っている以上に特別視していたと実感したほど。

 教国で一度経験しているロロベリアは切り替えられたようでも、ユースは初めて目の当たことで上手く消化しきれていなかったと、つまり憧れの敗北に内心ショックを受けていた。


「それよりもアレクさまですよ。わざわざ来たのなら、頑張った弟君に労いの言葉をかけてあげればどうですか?」

「……いや、私はこのまま帰らせてもらう」


 しかしそんな感情を吐露するのは気恥ずかしいとユースは話題を変えれば、僅かな迷いを見せてアレクは首を振った。


「もう戻られるんですか」

「部外者がいつまでも学院内に居るのもね。それに……レイドとは屋敷でゆっくりと話せるから」

「……なら、お気を付けて」


 最後にフィールドを一瞥して背を向けるアレクを見据えつつ、観覧席から姿を消すなりユースはため息一つ。

 アレク、レイド、エレノアは王位継承権を争っているとは思えないほど仲睦まじいとは貴族平民関係なく広まっている。

 実際に三人が揃っている様子からも噂ではなく事実とユースも感じていた。

 だが去り際にフィールドを一瞥したアレクの表情から、少なくとも長男には複雑な事情があるようで。

 まあ所詮は憶測でしかないと切り替え、今は確実に複雑な感情を抱いている姉を心配するべきと。


「さてと……そろそろオレたちも姫ちゃんのお手伝いに行こうぜ」

「言われなくても分かってる」


 観覧席に留まっていたもう一人、リースに勤めて明るく声をかければ素っ気ない態度のまま先にフィールドに飛び降りてしまった。

 ロロベリアとレイドの下克上戦からリースは明らかに不安定なのはもちろん、理由もある程度は察している。

 問題は不安定の原因である自分やロロベリアが気遣っても逆効果になる可能性があると敢えて知らぬ振りを通し、せめてロロベリアに気付かれないようフォローしていた。

 それでもこのまま放置するわけにはいかないわけで。


「……どうすりゃいいかねぇ」


 悩ましい気持ちのままユースも後を追った。



 ◇



「……いや、どういう状況?」


 のだが、悩ましさが吹き飛ぶほど重苦しい空気に困惑していたりする。

 といっても先輩たちのダメージが深刻ではない。むしろ一番危険の可能性があったティエッタとシャルツもそう時間が掛からず目を覚ますとカナリアがお墨付きをしたらしい。


「……どうやら、ケンカ売ってるようだな」

「売ってない売ってない。あたしはただ真実を口にしてる良い子さね」

「俺が不甲斐ないのも情けねぇのも認めるが、テメェのどこが良い子だ」

「しょーじきなお口?」


 ただ喜ばしい状況からなぜアヤトとラタニがけんか腰で言い合いをしているのか。


「……最初は和やかだったんだよ」


 最後に合流したからこそ全く理解できないユースに、最初から様子を見ていたレイドから説明が。

 まあ経緯は実に単純なもので、終了直後こそ殊勝な態度で敗北を受け入れていたアヤトをこれでもかとラタニが貶し煽りまくった結果らしく。


「つーかレイちゃんたちに負かされてんのに、あたしにボッコボコにされたらそれこそ明日からこの子らに見せる面がないよん」

「ボッコボコに出来るかどうか試してみるか」

「いやいや、もうヘロッヘロでしょうに。無理したら腰いわすよ?」


「元代表はどう見るです?」

「規格外な二人だからこそ……予想もつかない。だからこそ……わくわくする」

「わかるな~。ラタニさんとアヤトくんだもんね~」

「王国最強の精霊術士の実力もですが、ある意味彼の本気を知られるのなら興味深いですからね」

「……しないでくださいよ」


 徐々に二人から危険な気配が溢れ戸惑う面々を他所に、好奇心が上回り目をキラッキラさせる精霊学クラス、仕官クラスの新旧代表にユースは弱々しい突っこみを。


「わくわく」

「お前もだ……」


 ちなみに無表情ながら同じく心躍っているイルビナに呆れつつグリードが窘めていた。


「つーか腰にきてんのはテメェだろか」

「まだまだ若いお姉ちゃんに対して失礼でしょうに」

「誰が姉だ」

「あたしだって分からせてやろうか?」


 それはさておき微笑を浮かべつつ月守と朧月を抜くアヤトに対し、ケラケラと笑いながらラタニは精霊力を解放。


「……カナリアさん、お願いします」

「本当にこの二人は……」


 カナリアのお説教でこの場を治めたのは言うまでもない。



 

今回は裏でユースがちょいちょい目立ってますねはさておいて、最後はカナリアさんが苦労するというオチになりましたがこれにてアヤトVS六人の対決も本当に終了です。

なので今章も残り僅か、最後までお楽しみに!


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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