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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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最後の見届け人

アクセスありがとうございます!



「デタラメだよな……今さらだけど」

「ほんと今さらね……わかるけど」


 新学院生会の三人が評価を改めている中、ディーンとランはうんざりしていた。

 一対六という数的不利な上に攻撃範囲の広い精霊術士が四人もいる中で月守と投げナイフのみで圧倒する姿はラタニとの模擬戦とは違う凄みがある。

 レイドたちも色んな連携で攻めるも、それを上回る発想や相手の心理を利用したフェイント、状況判断もまたデタラメで、まだ本気を出していないのはラタニとの模擬戦を比べれば分かる。

 その証拠にボロボロで消耗も激しいレイドたちに対し、アヤトは未だ無傷で疲労すら感じられない。

 改めて突きつけられる圧倒的な実力差に、既にアヤトの実力を知る面々も改めて言葉がない。

 しかしそれとは別に改めて感じるものもあるわけで。


「だからこそ私は先輩方の雄志に敬意を払う」

「……ですね」


 エレノアの呟きにミューズも感嘆の気持ちを込めて頷く。

 六人の闘志は萎えるどころか増しているのが離れた観覧席でもひしひしと伝わってくる。

 圧倒的が故にアヤトが本気を出せば瞬時に決着がつくと分かっていても、言い方は悪いが手を抜かれていても。

 実力差を認め、自分たちの弱さを受け入れた上で諦めず何度も立ち上がる姿は心撃たれる物がある。

 特にミューズは精霊力の輝きから六人の感情が読み取れるだけにより感動的で、アヤトに対する好意はあるもレイドたちの覚悟が少しでも報われて欲しく思う。

 もちろんエレノア、ラン、ディーンだけでなく開始から無言で観戦しているロロベリアも同じ志を、打倒アヤトを目的とする同志として何とか一矢報いて欲しい気持ちがある。


「あなたはどう見ています?」


 そんな一同の思いを感じ取ったカナリアが声をかけたのはユースで。

 

「なんでオレに聞くんすか」

「この中でこと戦術に長けているのはあなたですからね。僅かな情報でこの場を予想しましたし、隊長が天才と称賛するほどでもありますから意見を聞いてみたいと思いまして」


 カナリアの言い分に他の面々も興味を示し、注目を集めたユースからはため息が。


「天才って……まあ、褒めてくれるのは嬉しいっすけど、意見もなにもないっすよ」


 むしろユースも改めてアヤトのデタラメぶりに感心を通り越して呆れていたほど。

 普段の訓練に比べて数的不利なだけでなくレイドたちの気迫も実戦さながら、故にアヤトもそれなりに本気で対応している。精霊術を回避ではなく斬ることもだが、訓練時よりも好戦的で曲芸染みた対処が多いのもその現れだ。

 好戦的なのは数的不利な状況下なら素早く相手を無力化する必要があるので当然。

 曲芸染みた対処も一見余裕に思えるも相手の攪乱や隙を作るのに最適。つまりそれだけ相手の出方を警戒していることになる。

 ただそれを可能とする読みや基礎能力があってこそ。

 俯瞰で見るからこそアヤトの卓越した戦闘センスがよく分かる。ラタニが戦いの申し子と称賛する理由をユースも改めて理解した。

 またレイドたち六人がかりで挑んでも未だ攻撃を掠りもしないのに、ロロベリアやリースの三人がかりで一撃入れろという。それでようやく最低限の証明になるとは無茶な条件だと呆れてもいるがそれはさておき。 


 要はアヤトもそれなりに本気を出すまでには追い詰められているわけで、見た目よりも余裕がないことになる。まあそれを感じさせないメンタルも充分デタラメではあるが。

 とにかく同じデタラメな実力を誇るラタニとアヤトが互角だろうと、両者には攻撃手段や距離といった強みが正反対。

 一対一でこそ真価を発揮するアヤトがこの状況下でも余裕で遊んでいるとなれば、それこそ一生掛かっても打倒など出来るはずがない。

 なによりアヤトもまたロロベリアと同じように明確な弱点がある。


「アヤトが最も警戒してるのは精霊術でしょ。いくら月守や朧月があろうと、ぶっ放されたら終わりっすからね」

「詩による精霊術ですね。確かにアヤトさんでも広範囲の精霊術は対処不可能。ですが……」

「巧いんっすよね……。全体を瞬時に確認してからの位置取り、自ら動くことで相手を誘導、時には動きも限定することで精霊力を感知できないのを補ってるし。気配も探り続けてるから詩を紡ぐ暇も与えない」

「私たちも模擬戦を何度もしていますが一度も放つことができませんからね」

「カナリアさんたちが無理ならお手上げ……と言いたいけど、先輩方もそんなの百も承知で挑んでるなら期待はできそうか」

「ちなみにユースさんは予想できますか?」

「オレが予想できる程度のビックリならそれこそアヤトには通じないでしょ。だから期待してるんっすよ」


 そしてアヤトも期待しているからこそ簡単に終わらせず、何度も付き合っているのだろうとユースは笑う。

 アヤトの弱点をどう利用して、どんな策でレイドたちが一矢報いるかを参考にさせてもらおうと――


「……なんだろうな。ユースが頭良いってのは知ってるけど」

「違和感が凄いというか……ぶっちゃけむかつくわね」

「その怒りは理不尽じゃないですかねぇ!?」


 ……楽しみにしているのだが、自分の見解に称賛や感心よりもランやディーンに苛つかれてユースはたまらず突っこんだ。

 ただ見たままの戦況よりもこれまでの情報も含めた細かな分析によって導き出した見解はやはり称賛に値するわけで。

 素直に感心するロロベリアやミューズ、エレノアの視線がむず痒いのかユースも首筋をかきつつ話題を戻した。


「なんにせよ、先輩方の消耗も考慮すればそろそろ何か仕掛けるんで楽しみにしてましょうよ」


 つまり決着が近いとユースに釣られて自然と視線がフィールドに向けられた。


「なら、私はギリギリ間に合ったかな」


『…………っ』


 が、背後から聞こえる声に観覧席に居る者は一斉に振り返る。

 柔らかな笑みを携えゆっくりと階段を降りてくるのはアレク=フィン=ファンデルで。


「なぜアレクお兄さまがこちらに……?」

「レイドに呼ばれたんだ」


 卒業式に出席する予定もなく、秘密裏の対戦カードを知っているような口振りに戸惑いながらもエレノアが代表して質問すれば意外な返答が。


「私もアヤト=カルヴァシアがどれほどの実力か気になっていたからね。ただ公務が立て込んでいて遅れてしまったんだ」


 確かにアレクはこれまで接点がない故にアヤトの実力を知らない一人。知る機会があるなら足を運んでもおかしくない。

 ただレイドがこの場にアレクを呼び寄せた意図が分からない。


「レイドお兄さまがどうして……」

「卒業前に楽しい催しをするから見に来てほしい、としか聞いていないからね。つまり私も分からないけど、私も自分の目で確認したかったから感謝しているよ」


 アレク自身も聞かされていないらしいが、接点がないからこそ良い機会でもある。

 アヤトの強さは王国の罪でもあり、裏の抑止力として貴重な戦力でもあるなら王族として知るべき。


「だから私のことは気にしないで、キミたちも最後まで見届けようか。先輩たちの意地というものをね」


 ならばと今はアレクの言う通りとフィールドに注目した。



 ◇



 そのフィールドでは中央に立つアヤトから二〇メルの距離を空けて六人が集まっていた。

 訓練時と同じよう倒されてもアヤトは追い打ちをかけず、治療や体勢を立て直す時間を与えてくれるのは遊びと捉えているからこそ。

 もちろん不満はない。自分たちが真剣に挑んでいようとこれが現実。そもそも遊びと捉えてくれなければ一瞬で決着がついている。

 なによりこの時間を踏まえた上での挑戦と六人は遠慮なく利用していたのだが。


「……アレク殿下が到着したようだ」


 最低限の治療術を施したカイルは観覧席にいるアレクに気付くなり五人に報告を。

 来られるかどうか未定なので他のメンバーには伝えていなかっただけで、カイルだけでなく他の四人にも動揺しないよう事前にアレクを呼ぶ旨を伝えていた。

 理由もアヤトの実力を知らないアレクにこの機会を利用して知ってもらおうと聞いている。

 とにかくこれで観客も全員が揃ったわけで。


「アレク殿下も良いタイミングだったわね。良いところを見逃さずに済むんだし」

「良いところかどうかはわたしたち次第だよー。もちろんわたしは精一杯がんばるからねー」

「悔いの無いよう全てを出し切る。それこそ真の強者に挑戦する者に相応しい姿勢であり、誠意ですわ」

「さすがはお嬢さまです」


 シャルツ、ミラー、ティエッタ、フロイスはやる気を漲らせるがユースの予想通り心身共に限界が近い。

 もちろんレイドやカイルも同じ、しかし最後の挑戦に必要な情報は全て手に入れた。


「卒業式に出席できないかもしれないが、それ以上に得るものがあると割り切ればいい」

「カイルの口からそんな言葉が出るなんて意外だね。でも、その通りだ」


 後は実行するだけと六人は頷き覚悟を固めてフィールド中央で待つアヤトを見据える。

 当然アヤトも何かを感じ取っただろう。


「ま、それなりに楽しめたが」


 しかし変わらず月守の刀身で肩をトントンと叩きつつほくそ笑んだ。


「そろそろ終いにするか」



 

お久しぶりにアレクさま登場でいよいよレイドたちの最後の挑戦が始まります。

レイドたちの意地が届くのか、それともアヤトが退けるのか。

次回をお楽しみに!


ちなみにユースがアヤトくんみたいな予想をすると作者も未だ違和感あります(笑)。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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