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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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三者の評価

アクセスありがとうございます!



『氷柱貫け!』


『囲い貫きなさい!』


 カイルとシャルツの精霊術によりアヤトを囲うように氷と岩の棘が地面から飛び出した。


「そらよっ」


 が、伸びきるより先に月守を逆手に持ち替えたアヤトが右足を軸に一回転。氷岩両全ての棘が両断されてしまった。


「オオオオオ――ッ」


「アアアアア――ッ」


 しかし開けた視界には新解放状態のレイドとミラーが。

 強化された脚力で間合いを詰めるなり互いの武器で襲いかかるもアヤトは身をかがめたまま地面に付いていた右手を振るった。


「ヴッ!?」

「ッ!」


 同時に舞う砂が目に入り怯む二人を他所にアヤトは月守を地面に刺して身体を反転。突き上げた右足がミラーの顔面に、左足がレイドの胸を蹴り上げた。



 カウンターの蹴りに後方に倒れる二人に一瞥もなく反動で起き上がりつつ両手に取り出したナイフを両サイドに投擲。

 レイド、ミラーの連携が阻まれるなり遠隔操作で周囲の氷や岩を四散させようとしていたカイルとシャルツの足を狙う。


「オマケだっと」


「「――ぐうっ」」


 二人は咄嗟に足を上げて回避するも間髪入れず投擲された小石サイズの氷と岩が顔を直撃。

 バランスを崩して倒れる二人をやはり一瞥もせず、月守を抜くなりアヤトは駆けた。


『炎覇纏いなさい!』


 紅蓮の刀身に触れてティエッタが精霊術を発動。

 真っ赤な刀身から浮かび上がるように炎が纏った紅蓮を手にフロイスが応戦するべく地を蹴った。

 いなせば飛び散る火の粉が襲い、躱してもティエッタの遠隔操作で炎をまき散らす。

 フロイスもダメージを受けるが精霊術なら精霊結界によって精霊力を対価に軽減される。

 しかしアヤトは別、むろん対策してくると距離を詰めながら集中するフロイスに対し、アヤトは月守を鞘に納めつつ朧月に手をかける。


「だろうな」


 武器の持ち替えにフロイスが警戒するが、アヤトは持ち替えることなく身を翻すよう月守を抜刀。


「ごぁ――ッ!?」

 

 同時に飛来した鞘が喉元を直撃。

 突き刺す痛みにフロイスが崩れ落ちる中、アヤトは通り過ぎざまに抜刀の勢いで放っていた鞘を回収。

 月守を納める際、腰から外していた鞘による奇襲にフロイスと同じく状況が呑み込めないティエッタとの距離を詰め。


「…………ッ」


 鞘の先端が鳩尾にめり込み声すら出せずに苦悶するティエッタにため息一つ、アヤトは一度鞘に納めた月守を腰に帯刀。


「なにボケッとしてんだか」


 涼しげな表情でフィールド中央に向かった



「…………」


 その姿を仕官クラス代表レガート=フィン=エンフィードは従来の金髪赤眼をサファイアよりも澄んだ碧に染め凝視していた。

 伯爵家次男であり、元序列保持者のエレノアやディーン以外で学院生会唯一の精霊術士でもあるレガートは選抜戦のアヤトしか知らない一人。目の前で繰り広げられている戦いが信じられないのだろう。

 学院が誇る実力者六人をまさに遊び感覚で相手取っているのは持たぬ者。

 学食の調理師として就任してからロロベリアに勝利しただけでなく、選抜戦で見せた実力も充分常識を覆していた。ラタニの弟子という情報や自分なりに集めた情報も合わせて序列保持者上位に匹敵かそれ以上と評価していたが、まだまだ見誤っていた。

 だからこそと自分の反応を楽しむよう隣りで見上げているルビラに嘆息。


「ルビラさんがわざわざこんな場を用意した意味が分かりますね」

「でしょ~」


 普段通りの穏やかな声音で理解するレガートにルビラは満足。

 レガートにとって常識を覆す実力を秘めるアヤトは興味深い存在ではあったのものの、情報を集めれば集めるだけ知る気むずかしさや危うさ、なにより扱いづらさから敬遠していた。

 しかし評価を遙かに超える実力や精霊術を斬れる武器を作れる鍛冶師と通じている新たな情報に、ルビラを始めとする先輩方が重視しているとなれば別。リスク覚悟でも関わりを持っておくべき存在だ。

 またこれだけデタラメな実力となればルビラが口頭で説明したところで半信半疑、故に直接見せることで利用価値を改めさせたのだろう。

 学院生会の代表として候補者に入れただけあってレガートも学院の理念に賛同派。しかしそれは現国王は当然、レイドやエレノアと言った学院内でも最上位に位置する王族が賛同している理念だからこそ同意しているからで。

 権力者が進める改革に逆らい、古い仕来りや理念を重視するよりは賛同した方が後の自分に有益になる。

 つまり相手が自分にとって有益かどうかをレガートは重視する。

 もちろんルビラもレガートの本質を知るからこそ候補者に入れているし、更に言えば他の候補者を含めてエレノアに紹介する時もレガートを指名するようさり気なく誘導していたりする。

 エレノア本人が裏表のない性格が故に、選ぶ代表も同じ本質ばかりになると危惧して。

 裏表のない真っ直ぐな学院生会も良いだろう。しかし改革を進めるならばレガートのような癖のある人材は必ず必要。

 故にレガートもルビラの求めている立ち位置を理解した。

 アヤトという起爆剤をどう扱い改革を進めるか、エレノアには出来ない裏での活動を期待していると。

 卒業後の学院を想うからこそ、アヤトに対する評価を正すことがルビラにとって最後の引き継ぎだった。

 ただそれとは別に引き継ぐこともあるわけで。


「ただやり過ぎちゃダメだよ~。特に彼の大切を利用すれば、起爆剤どころか自爆しちゃうからね~」

「大切、ですか」


 搦め手が過ぎれば身の危険すら覚悟しろとの忠告を受けたレガートは一度ロロベリアに視線を向けてから肩を竦める。


「多少のリスクも覚悟の上……と言いたいですけど、ルビラさんがそう仰るなら自重するのが正解ですか」

「素直なのは良いことだよ~。とにかくわたしが出来なかった頭の固くてカビの生えた常識に囚われてる困ったちゃんなクソどもをぎゃふんと言わせるように頑張ってね~」

「ええ。家柄や精霊力の有無しか誇れない無能どもを良き方向に導けるよう頑張ります」


 笑顔で多少アレな発言が出来る辺り、二人は良くも悪くも似た者同士だった。



 レガートと同じくアヤトと交流のない精霊学クラス代表シエン=ローエンと言えば。


「なるほどです。元代表がカルヴァシアみたいな面倒くさい人に関わろうとしていたのがよく分かったです」


 むふーと感嘆の息を吐きつつ目をキラッキラさせていた。

 開始から変わらず銀髪緑眼のままで分かるようにシエンは持たぬ者。観覧席からでもアヤトがどのような戦いをしているかは全くと言っていいほど見えていないが、異常性は充分理解できる。

 シエンもアヤトに興味はあったものの、まともに取り合おうとしないタイプが故に貴重な時間を割いてまで関わろうとしなかった。

 しかしレガート同様、アヤトの交友関係や未知数の実力など好奇心をくすぐる情報ばかり。様々な面で興味深いとなれば面倒くさくとも交友関係を築いておくべきと考えを改めされた。

 そうすれば精霊器の開発を始めとした様々な技術の発展に役立つと、シエンも前任のズークと同じ研究バカだった。

 もちろん学院の理念には賛同派。というよりこちらもズークと同じく身分によるいざこざで研究が滞ったり効率が落ちたりと、足の引っ張り合いを嫌うからではあるが。


「あの武器は知らなかった……シャルツは知っていたなら水くさい……いや、事情が事情なら秘密にもするか。見境のない推進は軋轢も増やす……そんな無能が目立つから私たち研究者は誤解をされる……」


 そんなシエンを候補者に入れたズークはアヤトの手にある月守にご執心だったりする。

 結局カナリアは月守についてアヤトが旅先で知り合った友人から譲り受けた物であり、詳しくは本人にと普段のお返しのような丸投げをしたのだがそれはさておき。


「だがまあ……カルヴァシアがどれほど貴重な存在か理解したならいい……」

「ですね。自分と同じ持たぬ者ですし、サクラ殿下と懇意にもされているなら面倒くさくでも仲良くしておいた方が知見も広がるです」

「そういうことだ……あ、仲良くなってあの武器について教えてもらったら、私にも教えて欲しい……」

「もちろんです。カルヴァシアが教えてもいいと言うならば、ですが」

「それも当然だ……」


 戦いの内容よりも興味深い研究対象について盛り上がっていた。


 そしてもう一人、騎士クラス代表にイルビナ=フィン=シーファンスは開始直後の攻防以降、無言でフィールド内を見下ろしていた。

 月守についてカナリアが話している間も、肩口で切りそろえた髪と同じ空色の瞳を逸らさず。かといってレガートのように凝視しているわけでもなければ、シエンのように目をキラッキラさせているわけでもない。

 まるで人形のように感情や生気を感じさせない瞳を向けていた。


「どうだ」


 のだが、グリードが歩み寄り声をかければかくんと首を傾げ。


「……びっくり」

「そうか、びっくりか」


 言葉とは裏腹に抑揚のない口調で返されたグリードはイルビナとは対照的に感情のまま笑った。

 まったく驚いているように見えないがイルビナは感情を表に出すのが苦手なだけで、むしろ正直者だ。

 なので本人が驚いていると言うなら驚いているわけで。

 自分と同じ持たぬ者が精霊術士や精霊士を相手に数的不利すら物ともしない実力を見せつけられれば驚かない方がおかしい。 

 そう言った意味でもグリードはイルビナに騎士クラス代表を引き継いで欲しかった。さすがにルビラのようにエレノアの意思を誘導しなかったが、実のところ選んでもらえて安堵していた。

 イルビナも学院の理念に賛同派。なんせ彼女は子爵家の長女でありながら貴族を嫌っている。今後エレノアを中心に始まる学院改革にも協力するだろう。

 ただグリード個人としては別の期待もしているわけで。

 本来なら騎士クラス最強はグリードではなくイルビナだ。


 故にアヤトとの関わりがイルビナの成長に繋がって欲しいと願うばかりだった。




しれっと新学院生会のレガート、シエン、イルビナが初登場でした。

そして次回はお久しぶりな方も登場予定!

ですが、アヤトVS卒業生六人のバトルもいよいよ終盤戦なのでお楽しみに!



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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