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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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最後の―

アクセスありがとうございます!



 翌朝、改めてメディカルチェックを受けたロロベリアは安静を条件に帰宅の許可が下りた。精霊力も回復しているし多少節々が痛むも一人で歩けるので送りの馬車を断り、徒歩で帰宅しようと施設を出るなり来客と出会した。


「もう起きていたのか……」

「お加減は如何ですか?」


 明日の卒業式に備えて準備に来ていたエレノアは苦笑、その手伝いに来ていたミューズは心配そうに歩み寄る。

 下克上戦後の様子から目を覚ましていなくとも様子を観に来てくれたらしいが、エレノアは普通に起き上がっているロロベリアの回復力に呆れているようで。

 準備前にわざわざ立ち寄ってくれた感謝と、診断結果を伝えればミューズは安堵するもエレノアには別の意味で呆れられてしまった。


「安静にしろと言われているのに歩いて帰ろうとするな。馬車で送らせるからついて来い」

「……すみません」


 拒否権無しの提案に申し訳なく思いつつロロベリアは二人と校門に向かうことに。

 道中、昨日の下克上戦について話題が上がり、そこで初めてロロベリアも結果を知った。

 最終的に卒業生組の全勝、つまり在校生に序列保持者がゼロという学院始まって以来の事態になったらしい。


「失ったなら取り戻せば良いだけだ。それに先輩方に一矢報いることは出来ないが、ランやディーンは卒業後のリベンジの約束を取り付けたらしいぞ」


 ただエレノアの言う通り失ったなら取り戻せば良いだけ。

 卒業したら永遠の別れでもないならリベンジの機会はいくらでもある……が、エレノアだけは別らしい。

 まあシャルツは卒業後、本格的に研究職に就くなら仕方がない。もちろん鍛錬は続けるだろうが訓練の密度が違うならエレノアも違うと感じるわけで、勝ち逃げされたことを悔しがっていた。


「わたしもお願いするつもりです。今度こそティエッタさんに勝ちたいですから」


 そしてミューズも。医療施設に運ばれたティエッタは、そのままフロイスの付き添いで屋敷に戻っているので約束できなかったらしいが明日リベンジをお願いするそうで。

 今まで勝利に対する意欲が薄いミューズの変化にロロベリアは驚きこそすれ、良い傾向だと微笑む。

 レイドたちが同じ序列保持者の先輩として、学院に残る後輩になにかを学ばせてやりたいと提案した下克上戦がミューズにとって良い刺激になったのだろう。

 偉大な先輩方に改めて敬意を抱きつつ、ならばとロロベリアも明日レイドに再戦をお願いしようと――


「ロロベリアが起きていたらとお兄さまから言伝を預かっている。再戦は受け付けない、だそうだ」

「…………え?」


 決意する前にエレノア伝手に拒否の意思を告げられてしまった。


「ロロベリアの相手はもう二度としたくないと嘆いていたぞ」

「そんなぁ……」


 つまり自分も勝ち逃げされてしまいロロベリアはうな垂れるも、苦笑していたエレノアは表情を引き締め。


「代わりと言ってはなんだが、私はお前との再戦を楽しみにしている」

「…………」

「そして勝利し、新たな序列一位にならせてもらう」

「わたしもです。ロロベリアさんはもちろん、エレノアにも負けません」


 続いてミューズも笑みこそ浮かべているが瞳から強い意思が込められていて。


 レイドとの再戦が叶わないのは残念だが、二人からの挑戦にロロベリアは背筋を伸ばし同じく真剣な表情で答えた。


「レイドさまから序列一位を受け継ぐのは私です。なので全力で挑ませてもらいます」



 ◇



 校門前で二人と別れたロロベリアは馬車で送ってもらい一日ぶりの帰宅を。


「お帰りなさい。ロロベリアさん」

「……ただいま帰りました」


 したのだが、出迎えたのはニコレスカ姉弟ではなくカナリアで、挨拶はしたものの何故と訝しみの表情に。


「……? 隊長は居ないのですか?」

「たいちょう……? お姉ちゃん、ですか?」


 一瞬体調について問われたと思うも、カナリアまで訝しみの表情を浮かべるので更に困惑。

 自分を医療施設まで運んでくれたのもラタニと聞いていたし、特別講師なら卒業式に出席するので分かる。しかしなぜカナリアまでラナクスに居るのか、そもそもなぜラタニの行方を自分に尋ねるのかが分からない。


「気を失ったロロベリアさんの付き添いとして隊長が残っていました……よね?」

「……会ってませんけど。あ、でもアヤトは付き添って……くれたと言えるかな?」


 自分の反応から恐る恐る確認してくるカナリアにロロベリアは首を振り、目を覚ましてアヤトと話をしてから帰宅までの経緯を説明。


「つまり二人してロロベリアさんを放置していたと。恐らく隊長はアヤトさんが顔を出したので気を遣ったのでしょうけど、ロロベリアさんを放置したままとかあの二人はなにをしているんですか……っ」

「ところでアヤトは居ます……よね?」


 苛立つカナリアにビクビクしながらロロベリアも確認。

 話の流れから付き添いとしてラタニが残ると名のり出たのでニコレスカ姉弟も付き添わず帰宅したのか。居ないのは訓練中として、アヤトも帰宅しているだろう。

 なんせ卒業式後は在校生も試験のみ、終われば長期休暇に入るので学食の仕事は昨日で終わっているハズで。


「あなたが気を失っている間、顔を出しましたが野暮用があるとそのまま消えました。その野暮用は付き添いだと思いますが、まさか見送りもせず二人して消えるとは……っ」

「……お、落ち着いてください」


 ロロベリアも二人の行き先は気になるもカナリアを宥めるのに忙しかった。

 とりあえずアヤトの行き先だけでも確認しようとブローチでマヤを呼び出すも返答がなく。


「……お腹も空いているでしょうし、とりあえず着替えられてはどうですか」

「そうします……」


 便利な連絡手段も相手次第と共に嘆きつつロロベリアはお言葉に甘えることに、カナリアも少し早いが昼食の用意をしてくれるそうでお礼を告げ、シャワーだけ浴びてさっぱりと。


「お疲れ、姫ちゃん」

「ロロおかえり。身体は平気?」


 そのまま着替えを済ませてリビングに行けばニコレスカ姉弟がお出迎え。

 やはり訓練をしていたようで訓練着姿の二人にロロベリアは問題ないと笑顔で応援してくれたことを感謝したのだが。


「…………」

「どうしたの? リース」

「オレが応援に遅れたのをまだ怒ってるだよ」


 途端に不機嫌になるリースに声を掛ければ代わりにユースが事情を説明。


「あ、途中からでも最後まで見届けたんで……だからまあ、残念だったな」

「……ですね。それでも学べることも多かったので悔いはないかな?」

「やっぱ姫ちゃんだわ。そういやアヤトとは会ったか」

「会えた……というより、目を覚ましたら居てくれたんだけど」


 改めて二人にも昨夜の出来事を話せばラタニの行き先よりもまず、途中までとはいえアヤトが目を覚ますまで付き添い、発破を掛けたことに驚いたようで。


「私は勝手に良い方に捉えさせてもらいましたけど……最後は意味不明な愚痴まで言われるし、少しは素直に喜ばせて欲しいですよ」

「まあアヤトだしな……ところで意味不な愚痴って?」

「私のせいで面倒事に付き合わされることになったとか……あと、口先だけでかなわんとか」

「……へえ?」


 ただ愚痴について話すなりユースがどことなく楽しそうに口角を上げるのでロロベリアは妙に居心地が悪く。


「……なんですか」

「いや? 愚痴の為だろうとアヤトがわざわざ付き添ってくれたなら、姫ちゃんも何だかんだで喜んでるみたいだし、良かったなって思ってよ」

「否定はしませんが……」


 ユースの言う通りなので反論できないが、やはり腑に落ちないとロロベリアは複雑な心境に。


「とにかく、アヤトの気ままは今さらとして、任せとけってオレたちを帰らせたラタニさんはどこ居るんだろな」

「ロロ放置とか許せない」

「まあまあ……ところでカナリアさまはどうしてここに?」

「レイドさまとか縁ある卒業生もいるからってわざわざ来てくれたらしいぜ? で、アヤトがどこか行ったから代わりに食事の用意をしてくれると……ほんと良い人だよな」

「……ですね」


 それはさておきカナリアがいる疑問も払拭され、同時にロロベリアも心から同意した。

 その後、久しぶりの食事にありつけたロロベリアは改めてカナリアに感謝を告げたのは言うまでも無く、ニコレスカ姉弟も一緒に少し早めの昼食を楽しんだ。

 また食後にラタニを探しに行くと息を巻いて出かけたカナリアを同情と敬意で見送り、訓練代わりに日課の掃除をすることに。


『――ロロベリアさま、聞こえますか?』


 が、一通り終えたところで脳内にマヤの声が響きロロベリアはため息一つ。

 先ほどは呼びかけを無視されたが、お返しに無視するわけにはいかないとブローチに触れる。


『聞こえてるわよ。どうかした?』


『ラタニさまから言伝です』


『……お姉ちゃんから?』


 アヤトではなくラタニからという部分に引っかかりを覚えるもマヤから聞いた言伝にロロベリアはただ困惑。


『…………どういうこと?』


『確かにお伝えしましたよ。では――』


「て、マヤちゃん!? ちょっと! …………もう」


 したところで明確な返答はないままクスクスとの笑い声を最後にマヤは応じなくなり肩を落とす。


「マヤから連絡?」

「アヤトの行き先でも教えてくれたのか?」


 その様子からマヤとやり取りしていたと察していたニコレスカ姉弟から質問されるも、ロロベリアは困惑のままラタニの言伝を伝えた。


「…………お姉ちゃんが学院に来いって」



 ◇



 ラタニの言伝に二人も困惑したが、何かしら理由があるのだろうと結局従うことに。

 時間的に卒業式の準備も終わっている頃でも講師陣は残っているので念のため制服に着替えて出発。

 ちなみに道中何度かマヤに呼びかけてみたがやはり応答もなく、微妙な雰囲気のまま学院に到着した。

 予想通り準備も終わっているようで、閑散とした敷地内を歩けば噴水広場にラタニの姿が。


「お~いこっちさね!」


 ラタニも気付いたようでブンブン手を振りアピールを。


「呼び出してわるいねん。特にロロちゃんはお疲れでしょうに」

「お気になさらず。それよりもどういった要件で?」

「まあまあ、そう焦りなさんな。とりあえず付いてきてちょ」


 早速質問するもラタニは笑顔で交わして歩き出し、三人は仕方ないと後に続く。


「あ、今朝はお見送りできなくてごみんね」

「……本当に付き添ってくれてたんですね」

「もちねん。未来の可愛い妹が意識失ってるなら心配して付き添うのがお姉ちゃんだ。で、他の子らが帰るなりアヤトが変わるって言い出したから? 若い二人に気を遣って別室待機してたんよ」

「そうだったんですか。ありが――」

「ただそのまま寝ちゃってロロちゃんが起きたの気付かんかったのよねー。アヤトも起こしに来てくれなかったからお見送りもできなくて、あの子にも困ったもんだ」

「…………」


 確かに交代を告げなかったアヤトも悪いが、可愛い妹を心配して残ったのに熟睡していたラタニもどうかとロロベリアは感謝の言葉を続けられなかった。


「お陰でカナちゃんに叩き起こされるわ、こっぴどく叱られるわで、お姉ちゃんも大変だったから許してちょ」

「カナリアさまが起こしてくれたんですね……」

「あの人、ほんと良い人だよな」

「かわいそう」


 同情を誘うような物言いでも完全な自業自得なので流しつつ、むしろ三人ともカナリアに同情してしまう。

 などとラタニから事情を聞いて呆れたりしている内に辿り着いたのは昨日レイドと下克上戦を行った闘技場で。


「……どうしてここに?」

「来れば分かるよん」


 予想外の場所に怪訝そうに眉根を潜めるもラタニは気にせず場内に。

 階段を上って観覧席の北側に、当然フィールドには誰も居ないが――


「お前たちも来たのか」

「エレノアさま?」

「なぜ?」


 最前列の席に立つエレノアを見つけるなりロロベリアやリースはキョトン。

 しかもエレノアだけでなくランやディーンを踏まえた学院生会のメンバーやミューズ、更にはルビラ、グリード、ズークの前学院生会の三人にカナリアまでそこに居た。


「私たちは学院生会の準備が終わるなりルビラさんに呼ばれてな」

「んで、説明無しにここまで連れられてみればグリード先輩やズーク先輩だけでなくカナリアさまも居たってわけ」

「からの、あなたたちも来た……んだけどロロベリア、出歩いて大丈夫なの?」

「少し身体が重いくらいなので……ありがとうございます」


 どうやらここに居るメンバー、恐らく前学院生会の三人とカナリア以外もこの状況を呑み込めていないらしく。


「ほいじゃカナちゃん、よろしくねん」

「わかりました」


 困惑したままのロロベリアたちを他所にラタニは一声掛けるなり精霊力を解放。

 そのまま跳躍してフィールド中央に降り立った。


「……いや、マジでなにがあるんだ?」

「詳しくは私から」


 みなの気持ちを代弁するディーンの疑問についてカナリアが説明してくれるらしく、ロロベリアたちも最前列に移動する。


「ですが、ユースさんは既に察しているようですね」

「なんとなくっすけど」


 ただ唯一戸惑いを見せなかったユースに問いかければ肯定が返ってきた。

 ある意味ユースのみ他の在校生よりも多く情報を得ているので分からなくもないが、あれだけの情報で真意に辿り着けるなら充分頭がキレるとカナリアは感心してしまう。

 しかし今のやり取りで事情を知らないメンバーがより疑問を募らせてしまい、困惑の視線がユースに集中するも――


「……アヤトさま?」


 ミューズの呟きによってその視線が一斉にフィールドに向けられた。

 するとフィールドの東口からゆっくりと中央に向かうアヤトの姿が。


「もしかして……先生と戦うのか」

「……でも、どうして?」


 先に降り立ったラタニの元に向かう構図にエレノアやランが戸惑うのは当然のこと。

 ここにはアヤトの事情や実力を知らない新学院生会の三人が居るにも関わらず、なぜこの二人が戦うのか。

 理由も含めてロロベリアたちも戸惑いを隠せない中、ユースだけは笑っていて。


「やっぱな」

「愚弟……何を隠してる」


 先ほどのやり取りを含め、確信めいた苦笑にリースが睨み付けるもユースは首を振り。


「んな怖い顔しなくても見れば分かるって。まあ簡単に言えば――」


「どうして……?」

「え? ちょっと……え?」

「……まさかカルヴァシアと遣り合うのって」

「だが、なぜだ?」


 ユースの言葉はフィールドに注目していたロロベリアらの更なる戸惑いの声によって遮られてしまった。

 対し西口から姿を見せるレイド、カイル、ティエッタ、フロイス、シャルツ、ミラーの六人を見据えながらユースは予想していた卒業生たちの真意を告げた。


「これから()()()()()()()()()()()()()()()()



  

はい、今章もう一つのメインはアヤトVSレイドたち卒業生六人による最後の下克上戦でした。

ちなみにユースが徐々にアヤトくんのように察しが良くなってきましたね……まあこの子は元よりやれば出来る子なんですけど。


それはさておきなぜこのようなカードが決まったのか、アヤトやレイドたちの間でどのようなやり取りがあったかは次回で明かされるのでお楽しみに!



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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