開始前
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ロロベリアの序列を賭けたエレノアとの序列継続戦は昼休憩後に行われる。
というのもマイレーヌ学院では午前に座学や体力作り、午後に実戦訓練と割り振りされている。今回も序列保持者同士が実戦さながらの模擬戦をするなら精霊術クラスはもちろん、精霊騎士クラス、騎士クラス、精霊科クラス、仕官クラスも学ぶべき事は多くあるとの狙いもあった。
また学院側が催す学生別の交流戦や序列戦ではない。学院生会側の提案でこうした催しが可能なのはそれだけ学院序列という地位が重要なのだろう。
とにかく昼休憩を思い思いに過ごした学院生、学院講師陣が闘技場に訪れ観覧席が徐々に埋まっていく中――
「いやはや、目立つねここは。まるで偉くなった気分だ」
「地位でも序列でも、お前は実際偉いんだが」
本来来賓用の席にはレイドとカイルの姿が。
序列継続戦の主催者としてルール説明、開始宣言などをする為に来賓席を利用しているので周囲に学院生の姿がないので確かに目立つ。
ちなみに今回の問題に対して賛成、反対、中立の代表がロロベリアと話し合いをしたのでそのまま主催者になったのだが、賛成のエレノアは対戦者として控え室で待機中。
唯一の反対を指示していたミューズは救護班として待機しているので結果として広い来賓席に二人のみとなった。
「でもここなら気兼ねなく観戦できる」
「……確かに」
ある意味二人だからこそ出来るやり取りもある。
なにより注目を浴びるのは馴れたものとレイドもカイルも気にしていなかった。
◇
「よ、姉貴」
「ユース」
リースが観覧席に向かう途中、ユースが手を上げ歩み寄る。
「随分早い」
「これから合同授業って名のイベントだからな。みんな待ちきれなくてさっさとここに」
ただミューズのみ普段通り落ち着いて食べていたが、いつもより早く学院生が居なくなったのでユースも早めに解放されたらしい。
「んで、姫ちゃんの様子は?」
「問題ない」
リースの来た方向から控え室で待機しているロロベリアに会っていただろうと予想して問うも迷いのない返答が。
共に昼食をしている時も、準備の時も、ロロベリアは落ち着いていた。良い緊張感と集中力を維持していた。
だから問題ない。
相手が序列五位、二学生最強のエレノアが相手だろうと負けるはずがない。
「ロロは強い……ううん、強くなった」
なにより久しぶりに手合わせしたからこそ、一月前のロロベリアとは違うとリースは断言できた。
「だな。んじゃ、オレも終わったらこいつを渡せるな」
そしてユースも気づいているが故に学食の合い鍵を持つべき人物へ返せると安心している。
「それで……あいつは来るの?」
「一応誘ったけど面倒だって」
嘆息するユースにアヤトは来ないと分かり、リースの目つきが鋭くなった。
「むかつく……ロロの応援が面倒なの」
「まあ、アヤトくんが姫ちゃんをがんばれーって応援する方が違和感あるけど」
あの後ロロベリアの決意、序列継続戦で善戦ではなく勝利を条件にしたと知るだけにアヤトの態度に対するリースの怒りも分かるが、我関せずこそらしいとユースは苦笑。
「代わりにオレたちが応援すりゃいいしっと……さて、どこで応援するかな」
「もしよろしければわたくしとご一緒してくださいな」
既に多くの学院生で埋まる観覧席を見渡す二人の頭上から呼びかけが。
「ご機嫌よう。リースさま、ユースさま」
「……ご機嫌よう。相変わらず神出鬼没なご登場で」
「どうしてあなたがここに?」
視線をあげれば予想通りマヤが観覧口の上に腰掛けていて。
「むろんロロベリアさまを『がんばれー』と応援にはせ参じて。この序列継続戦に負けてしまえばロロベリアさまは兄様と遊べなくなる、こうなるとわたくしが楽しめませんから」
重力を無視してふわりと二人の前へ降り立ち、クスクスと微笑むマヤの言い分にリースは不機嫌に、ユースはもう笑うしかなく。
「ならご一緒しようか……と、言いたいけどマヤちゃんがここに居てもいいのか?」
「問題ありません。他の人間にはわたくしを認識できないようしていますから」
確かに席に座る学院生だけでなく横を通り過ぎる学院生もマヤが見えていないようで、立ち止まったままの自分たちに不可解な視線を向けている。
「この程度の認識阻害は造作もありません。これでも神ですから」
「便利っすね……神さま」
もしかするとロロベリアとアヤトとの模擬戦を観覧した際も同じようにしていたのかとユースが納得する中リースが前に。
「あいつは居ないの?」
「はい。少なくともこの闘技場に兄様の気配はありません。ですが仕方がないかと、兄様は人混みや騒がしい場所を嫌いますからね。根っからのボッチ気質ですし」
「そう……」
もしかしたらとの期待もマヤに否定され、微妙な気分になるリースを余所に昼休憩終了の鐘が鳴り。
「と、時間だ」
結局二人は席に座らず、マヤと共に観戦することになった。
◇
リースと分かれた後一人静かに集中力を高めている中、鐘の音が聞こえてロロベリアは控え室を後に。
そして薄暗い通路をゆっくりと歩き、出入り口から漏れる光に照らされながら闘技場内に足を踏み込んだ。
同時に盛り上がる観覧席を見回せば、観覧口側に立っているリースとユース、そしてマヤの姿が目に入り苦笑が漏れる。
どうして部外者のマヤが居るかは分からないが神さまのこと、恐らく予想外な方法で居るのだろう。
ただアヤトの姿はない。
しかし構わない。
これは自分にとって資格を得る挑戦、示してから会えばいいと視線を前に。
向かいの出入り口から現れたエレノアが真っ直ぐ自分を見据えたまま歩み寄り、ならばと視線をそらさず歩を進める。
そして二人の距離が十メルまで縮まると互いに歩を止めた。
「ではこれより序列五位、エレノア=フィン=ファンデルと序列十位、ロロベリア=リーズベルトの序列継続戦を始める」
同時に主賓席にいるレイドが立ち上がり、静まり返る闘技場内に開始宣言が響き渡った。
「事前通達したように、これはただの模擬戦ではない。ロロベリア=リーズベルトが序列保持者に相応しいか否か、それをみなに証明するための場でもある」
続いて主旨の説明が。
「なぜ必要かは敢えて伏せよう。だがロロベリア=リーズベルトがエレノア=フィン=ファンデルに勝利すれば相応しいとの証明になり、敗北すれば序列剥奪とする。また公平な審判として講師方からアーメリ殿にお願いした」
「……私に勝利すれば、か」
そしてレイドの紹介にラタニが歩み寄る中、これまで無言のまま見つめていたエレノアが口を開いた。
「この変更には驚いたぞ、リーズベルト」
「……自惚れに思えますか」
この確認に意外にもエレノアは微笑み。
「いや、むしろお前を更に評価した」
「評価……ですか」
「敢えて厳しい条件にして、周囲に甘えず己を高めようとする精神。やはりお前は私の後に序列一位となるに相応しい逸材だ」
「…………」
「だからこそ証明して見せろ。これまでのお前を見ていた私の目が節穴ではなかったと、これまでのお前の姿勢が本物であると口先だけでなく、己の実力でな」
思わぬ賛辞にロロベリアは目を見開き、続いて微笑み返す。
やはりエレノアは正義感が強く、王族としての自覚を持ち、自身にも厳しく出来る尊敬すべき王女。
この真っ直ぐな思いが、気高き精神が嬉しく思う。
だからこそ資格を得る戦いに相応しい相手。
尊敬すべき王女に勝利することで自分は求める強さに近づけると確信した。
「なーんか二人とも青春してるねぇ」
「「……アーメリさま」」
二人のやり取りが聞こえていたのか、中央で立ち止まるラタニの相変わらずな緩さに緊張感が削がれてしまう。
「でもま、それで良いさね。とにかく精霊結界は張ってるけども、それとは関係なく本気でやり合いな。お前らひよっこ共が殺す気でケンカしたところで万が一はない、なんせあたしが審判だ」
しかし続く煽りは心強い。
精霊結界により精霊術が直撃しても精霊士や精霊術士なら己の精霊力が反応し外傷は軽減される。
だがその分精霊力が激しく消耗する。結界があると慢心していれば効果も落ちて、最悪死亡という大事故に繋がる。
故に対決する同士の精霊力の量、ダメージなどの見極めが重要となり、審判を務める者はある種どちらの命も預かる立場となるが。
「だから安心して、お互いの意地をかけて気が済むまでケンカしな」
「「はい!」」
それが王国最強の精霊術士ラタニ=アーメリ。
ならばその気持ちも無駄にせず戦おうとエレノアはレイピアを、ロロベリアは瑠璃姫を抜いた。
「そんじゃ、序列継続戦開始っと」
ゆるっとしたラタニの開始宣言。
同時にエレノアの髪と瞳がルビーのような紅い輝きに。
ロロベリアの髪と瞳がサファイアのような蒼い輝きへと変わり。
「エレノアさま――行きます!」
「来い――リーズベルト!」
二学生最強と一学生最強の、互いの誇りをかけた意地のぶつかり合いが始まった。
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同時刻、広大な敷地面積を誇るマイレーヌ学院は大きな時計塔を中心に様々な建物や施設が作られているので全体を見回すのに最適な場。
なので一〇〇メル先にある闘技場内も、距離はあれど時計塔の屋根上からはよく見えるが故に――
「……さて、少しは暇つぶしになればいいが」
一人静かな場でアヤトは観戦していた。
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