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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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限界の先に 後編

遅い時間の更新になり申し訳ありません!

ですがアクセスありがとうございます!



 遠距離での攻撃が精霊術以外になく、保有量の少なさを考慮した結果、レイドが導き出したロロベリア対策はまともに戦わないことだった。

 素直すぎる戦い方もまたロロベリアの弱点と言えるが、それを覆す意外性がなによりも怖い。まともに戦えば勝率は良くて五分。

 なのでロロベリアの弱点を徹底的に突くしかない。

 結果、序列一位に相応しくない姿を見せようと構わない。

 例え子供染みた対抗心だろうと譲れない覚悟でレイドはこの一戦に挑んだ。

 実際に対峙すればロロベリアの気迫に圧されそうになるも、狙い通りに精霊力を消耗させていた。

 蒼月の刃を瞬時に延ばすという意外な一手には驚かされたが、なにかやってくるだろうと予想できたので上手く回避できた。

 素直すぎる故に覚悟が顔に出る。

 故に次もなにか仕掛けてくるとレイドは集中していたが――


「はは……キミはどこまで驚かせるんだい」


 ロロベリアが見せた次の一手にレイドは思わず笑ってしまった。

 精霊力の高まりから新解放をしてくる、とまでは予想できた。

 残された精霊力の量を考えれば単調な動きになろうと賭に出るのは悪くない一手だった。


 しかしその上で部分集約をしてくるとは予想すら出来るはずがない。


 あの高揚感を知るからこそ、解放を維持するのが精々なのは身を持って知っている。

 だがロロベリアは更に高等な制御をしている。

 加えてここまで見せなかったのなら、恐らくロロベリアはこの制御を思いつきで成功させたはず。出し惜しみするようなタイプではないだけに間違っていないだろう。

 常識を越えた才覚にレイドは笑うしかない。

 だが、それでも譲る気はないとロロベリアの初動に注視する。

 新解放による精霊力の消費量、残りの保有量を考慮すればもって三分。

 いくら新解放の部分集約は脅威でも、精霊術が使えない単調な動きなら凌ぐのも難しくない時間。

 つまり三分間凌げば勝利に――


「あれ……?」


「――っ」


 風が横を通り抜けた瞬間、背後から聞こえる気の抜けた声がレイドの背中に冷たいものを走らせた。

 振り返れば先ほどまで注視していたロロベリアが後方で戸惑っているような仕草をしていて、その様子は高揚感で理性を失っていないようにも見えない。

 そもそもエレノアが新解放を使用した時でも、ギリギリだろうと動きを捉えられていた。

 だがロロベリアの動きは全く見えなかった。

 新解放の部分集約は脅威どころではない。

 凌ぐのは難しいどころではない。


「くそ――ッ」


 理解するなり自分の浅はかさを悔いつつレイドは新解放を使用した。



 ◇



「……やはりレイドさまも新解放を使いましたね」


 ラタニやリース、マヤと合流して共に観覧席から見届けていたカナリアは強ばった表情のまま呟く。

 カナリアもまた新解放のリスクを知るだけに、ロロベリアが見せた現象に驚きから言葉を失うほどで。


「ただの新解放なら残りの精霊力をフルに使った精霊術で逃げ切れるだろうけど、見ての通りそんな余裕ぶっこいてたら瞬殺。にしても新解放からの部分集約とかロロちゃんはほんと面白いことするねぇ」

「……面白いで済まされるレベルではないかと思いますが」


 なのに平然と受け入れてしまうラタニに脱力。

 元よりロロベリアの制御力は秀逸と認めていたが、ここまでくれば常軌を逸するレベル。

 故に彼女なら本当にラタニの切り札までも習得しそうなのだが、それよりも今は気になることが。


「しかし……ロロベリアさんは理性を保っているようですが、それにしては動きに安定性がありませんね」


 フィールド内を縦横無尽に駆け巡る攻防を見据えつつカナリアが眉根を潜めるように、ロロベリアは制御が不安定と言うよりも自身に振り回されている。また最初の特攻もなにもせずレイドの横を通り過ぎたようにも見えた。

 その為、速度で勝っていてもレイドを捉えきれていない。


「本来脳にドバドバ影響与える精霊力が全部両足に集約されてるから理性がぶっ飛ばない。それは両足に視認できるほどの精霊力で分かるねん」

「はい……それが?」

「なら今のロロちゃんは両足以外は普通の解放状態。新解放で爆発させた精霊力が全て両足に集約してるわけ。二、三割程度の強化も全部両足に持っていけばそれだけ強化も上がる。しかも従来の部分集約よりも遙かに強化されるなら理性が保ててる分、両足のスペックに感覚が追いついてないってことさね」


 そんな疑問もラタニの持論で解消された。

 本来新解放で強化される能力をロロベリアは全て両足――速度に集約したことで上半身の能力が追いつかなくなっている。加えて自分の速さに視覚が追いつかないのだろう。

 従来の解放での部分集約ならそこまでの能力差はないが、新解放のように一点に集約させて爆発させた精霊力なら別。今のロロベリアの速度は従来の解放時による部分集約の非ではない。

 それこそエニシやダリアをも上回る速度、他の能力が従来の解放と変わらないならロロベリアが持て余すのも仕方ないだろう。

 しかし持て余そうともロロベリアはこの方法以外に勝利はない。

 なんせ新解放だけではレイドに通じない。新解放で対応するまでもなく、精霊術のみで逃げ切れるだけの力がある。


「こうなるとロロちゃんが感覚を修正するのが先か、時間切れになるまでレイちゃんが逃げ切れるかって勝負になる」


 ならラタニが言い切るように二人の勝敗はこれまで通り、捉えるか凌げるかの勝負になるわけで。

 ロロベリアから感じる精霊力から決着までそう時間は掛からない。

 まさに正念場、恐らく誰もがそれを感じているからだろう。


「……良い傾向だ」

「ですね」


 優しい表情で二人の決着を見守るラタニにカナリアも微笑を浮かべる。

 今までレイドの消極的な戦いに困惑し、沈黙していた学院生たちが徐々に声援を送り始めた。

 しかもその声援はレイドだけでなくロロベリアにも送られている。

 開始前までは彼女の強さを認めず、不平不満を口にしていた者たちがだ。

 同じ構図でも二人から伝わる覚悟が強く感じ取れるからこそ、学年や序列さえも関係ない。

 ただ勝利したい、強くなりたいとの純粋な気持ちに当てられて。

 必死に手を伸ばし続ける二人を応援したいと熱に浮かされたように声を上げている。

 まさに学院の頂上を決めるに相応しい姿に憧れ、今まで以上に刺激を受けることだろう。

 

 その中でも特に刺激を受けた者が居るようで。


「ロロ……がんばれ……っ」


 親友の勝利を信じ応援しつつも、悔しげな感情を露わにしているリースと。


 そしてもう一人――まあ、こちらは刺激を受けて欲しいとの願望だが。


「あの子はどこで見守ってんのかねぇ」

「素直じゃありませんからね。少なくとも闘技場内ではないでしょう」


 いつの間にか姿を消していたマヤの行き先を分かるが故に二人は苦笑を滲ませた。



 ◇



「――はぁっ」

「ぐう……っ」


 間合いに入るなりロロベリアは瑠璃姫を振るうもギリギリでレイドが方向転換。

 その動きに対応できずロロベリアはそのまま数メル先まで駆け抜けてしまう。

 間合いこそ詰められるようになったが、ラタニの予想通り自身の速度に反応しきれず決めきれない。

 まるで自分だけ暴れ馬の上で戦っているような感覚、しかし勝利する方法は他になく。


(……攻めないとっ)


 なにより時間が無いとロロベリアは地を蹴る。

 精霊力の消費から身体が徐々に言うことを効かなくなっている。

 もってあと一分程度、攻めきれなければ負けは確定。

 ならやるべき事は一つ。

 何度も繰り返すことで時間内に感覚のズレを修正すればいい。

 両足に熱を帯びた精霊力を集約させながらは困難だろうと。


(やれるかじゃない――やるんだっ)


 自身の目指す背中に追いつくなら、躓いている暇はないとロロベリアは挑戦を続けた。



 ◇



(残りはどれくらい……いや、気にしていたら確実に負けだっ)


 対するレイドも高揚感で上手く機能しない思考を無理矢理にでも回してロロベリアの挑戦を退け続けていた。

 新解放で強化された視力でもロロベリアの姿を速度を追い切れず、もはや感覚と運のみで対応するしかなく。

 加えて徐々にだがロロベリアの動きがかみ合い始めている。

 このまま続けば捉えられる。故に早く時間切れになれと願っていたが、その意識も捨てなければ凌ぎきれないと弱気を振り払うよう首を振った。


 なによりかみ合い始めているからこそ打つ手はある。


 今までは本人さえ振り回されていたことで予測不可能な動きになっていたが、かみ合えばそれだけ予測も立てやすい。

 仕草、感情、なにより向ける瞳から分かりやすいほど伝わる意思という情報があれば、いくら速くとも対応は可能。

 これまで逃げに転じていたからこそ、逆にロロベリアは予測できないだろう。

 後は実行するだけの覚悟が必要で。


(そんな覚悟……今さらだっ)


 例え子供染みた対抗心だろうと譲れない覚悟は元より秘めていた。

 ならばここでその覚悟を見せなければ意味がないと。


(落ち着け……集中しろ……次で終わらせるんだ)


 ロロベリアの瞳を真っ直ぐ見据え、伝わる意思や呼吸を読む。


「はっ……はぁっ――」


(ここだ――っ)


 その姿を見失う寸前、レイドは虚空に向けてショートソードを一閃。

 端から見れば意味のない一振り、しかし――


「――っ」


 まるで自ら飛び込むようにロロベリアがショートソードの軌道上に姿を見せた。

 いくら速くともタイミングさえ掴めばカウンターを狙える。

 つまりこの戦いで初めてレイドは自ら攻めに転じた。

 失敗すれば敗北は確実、それでも敗北の恐怖に打ち勝ったなら。


(ボクの勝――)


「まだまだぁぁぁぁ――っ!」


「な……っ」


 勝利を確信したはずが、ロロベリアが左腕を振り抜いた瞬間――ガキンとショートソードを弾き返す感触が伝わった。

 瑠璃姫は未だ振り上げの状態のはずなのに、この感触はなんなのかと驚愕するレイドの目にロロベリアの左手首に光るものが。


 そう、ショートソードを防いだのはロロベリアが常に左手首に身に付けているブレスレットで。

 サクラから友好の証として渡された、アヤトとお揃いの大切なブレスレットを盾代わりに使った。

 勝利の為には大切なブレスレットが傷つこうと躊躇わなかったロロベリアの覚悟が上回り。


「……っ」


 レイドは敗北を覚悟するも、届きかけた瑠璃姫の軌道がビクンと揺れた。


「っ――うごけぇぇぇ!」


 その僅かな揺れに戸惑うよりも先に、諦めかけた勝利を掴むようレイドが突きだした左の拳がロロベリアの腹部にめり込み。


「かはぁっ!」


 カウンターとして決まった全力の拳にロロベリアの身体がくの字に折れ、勢いそのまま後方に吹き飛んだ。


「はぁ! はぁ!」


 対し極限の攻防を制したレイドは荒い息を吐きながら膝を突く。

 地面を削るよう転がり倒れ伏すロロベリアの髪色は、土で汚れていようと美しさを感じさせる乳白色に戻っていて。

 なら瑠璃姫の揺れは精霊力を消耗しきったことによる活動限界が来たからか。

 現に倒れたままピクリとも動かないロロベリアから感じ取れる精霊力は微弱で。


 つまり最後の最後で勝利を掴み取った。


「ほんとうに……強かった……」


 だが喜びよりもまずレイドは両手も地面に付き精霊力を解除。

 新解放による負担から維持するのも辛く、改めてロロベリアに称賛を送りたい。


「…………?」


 が、違和感からレイドは困惑する。

 なぜ勝利宣言が聞こえないのか。

 なぜロロベリアの勇士に誰も拍手を送らないのか。

 決着が付いているにも関わらず、場内が静かすぎると視線を上げれば。


「…………勘弁してくれない、かな」


 違和感の理由に思わず弱音を吐いてしまう。

 何故なら倒れていたはずのロロベリアが()()()()()()()()()()()()()()

 更に乳白色の髪がサファイアよりも美しい蒼に変化してる。

 感じられる精霊力は微弱なのに。

 あの一撃で意識を失わず立ち上がるどころか、まだ戦うつもりなのか。


「……でも、ボクにだって意地があるんだ」


 ゲンナリしつつもレイドは立ち上がり精霊力を解放。

 鉛のように重い身体を鼓舞しながら。


「譲らないよ……絶対に」


 向かってくる最強の挑戦者に、学院最強は譲らないとショートソードを構えた。

 さすがのロロベリアも消耗しきっているのか部分集約も出来ないようで、速度も格段に落ちている。

 それでもなお最後まで諦めず立ち向かう姿に敬意を払いながら。


「…………っ」


「はぁぁぁ――っ」


 最後は真っ向勝負と瑠璃姫を振り上げるロロベリアに打ち勝つ為にショートソードを一閃。


「……()()()()()()


「!?」


 が、その一閃がロロベリアに届くより先に現れた乱入者が防いでしまいレイドは目を見開く。


「ガキ共が安心してケンカできるように見守るのが大人お役目でしょうに」


 そんなレイドの心情も無視してショートソードを防いだ黒い短剣――黒妃を鞘に戻したラタニは、同じく突然の乱入に言葉を失っていた審判役の講師を批判する。


「お陰であたしが出しゃばるハメになったじゃまいか。どうしてくれるのさね」

「え……あ……」


「先生!」


 冷ややかな視線にたじろぐ講師に変わり、我に返ったレイドが怒りを露わに声を張り上げた。


「なぜ邪魔をするんですか! ボクとロロベリアくんの決着はまだついていません!」

「ついてるんよ、とっくに」

「……っ。なにを言っているんですか! 現にロロベリアくんは――」

「かなり危険な状態だから、早く治療しなきゃならないんだけど」

「――立ち向かって……え?」


 しかし冷静な指摘に勢い削がれたレイドはラタニの背後にロロベリアの姿がないことにようやく気付き。


「殴り飛ばされた時点でロロちゃんは()()()()()()()()

「…………」

「なのに立ち上がるだけでなく精霊力を解放したから、さすがのラタニさんも驚きビックリすぎて出しゃばるのに遅れちゃったよ」

「…………」

「つまり、あのまま続けてたら大惨事ってことさね」


 ラタニの足元に事切れたように倒れているロロベリアが視界に入りレイドは茫然自失。

 ロロベリアは意識を失い、それでも立ち上がり勝利を諦めなかった。

 その執念に身震いするレイドを他所にラタニはロロベリアを抱きかかえ。


「とにかくおめでとさん。ロロちゃんの想いにギリッギリでも喰われず学院最強の序列一位さまの座を守りきって……て、あんたも理解したならさっさと宣言しなよ」


 皮肉交じりの称賛を送ったラタニは講師の肩を叩き、そのまま駆け足で去って行く。

 またラタニが乱入した真意を理解したのか、観覧席からは抱えられたまま退場していくロロベリアに盛大な拍手が送られる中――


「……エレノアといい、ロロベリアくんといい」


『しょ、勝者レイド=フィン=ファンネル! よって序列一位の座は継続され、ロロベリア=リーズベルトの序列十位は空席とする!』


「少しは勝利の余韻に浸らせてくれないかな……」


 闘技場内に響く勝利宣言をレイドは敗者の気持ちで聞いていた。




ロロVSレイドはレイドの勝利……ですが、エレノア戦と同様レイドにとっては悔しい勝利になりました。

ただその悔しさもレイドが学院最強に相応しい実力だからこそ、エレノアやロロは他の挑戦者より誰も強い覚悟で挑んだ結果でもあります。


それにしても……アヤトくんはどこでなにしているんでしょうね……。


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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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