表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
406/783

限界の先に 中編

アクセスありがとうございます!



 一度目の攻防から違和感を抱いたロロベリアも二度目の攻防でレイドの狙いを察していた。

 保有量の優位性を活かして精霊力を削り戦闘不能に追い込む。

 レイドがこのような戦法を取ったことには驚いたが、ロロベリアに不満はない。相手の弱点を突くのは定石、むしろ自分のような後輩相手でも全力で勝利を求めるレイドの姿勢に敬意すら感じる。

 なにより少ない保有量は避けては通れない課題の一つ。

 これまでも克服する為に様々な技術を身に付けたが、改めて足りないと実感させてもらった。

 

「もう他の下克上戦も終わっているだろうね。もしかするとアヤトくんも観に来ているかもしれないよ」

「……だと良いんですけど」


 ショートソードの切っ先を下ろした自然体で微笑みを向けるレイドに対し、瑠璃姫を構えたままロロベリアは適当な相づちを。

 三度目の特攻も失敗に終わり二〇メルほどの距離が空いたまま。

 ユースとの入れ替え戦では近接戦を望まれていたので、距離が空いてもユースから攻めてきたがレイドは全く攻めてくる気配がない。

 また精霊術を放つ素振りも見せない。

 ロロベリアの精霊力を削るのがレイドの狙い、自分から攻める必要も牽制の精霊術も必要ないので精霊術を使わせて消費させることもできない。

 その結果、膠着状態が続いてしまうがレイドにはなにも問題は無い。下克上戦を含めた学院の公式戦に制限時間など存在しない……というより必要ないのでルールに書かれていないだけ。

 レイドの狙いを察してか、消極的な姿勢からか観覧している学院生が困惑しようと構わない。それこそ膠着状態のままロロベリアが精霊力を維持できなくなるまで待っても構わないとの徹底ぶり。精霊力を解放していれば少しずつでも消費していく、つまり時間は掛かるがレイドの勝利になるからだ。

 なので遠距離になると精霊術以外の攻撃方法のないロロベリアは攻めるしかなく、完全に逃げに徹するレイドと距離を詰めるのが難しい。

 その上攻めれば消費量を最小限にした精霊術で自分に精霊力を使わせる。ユースの読みとは違う、誘導するような巧みさが実に厄介で。


 それでも攻める以外に勝利する方法がないのなら――


(行くしかない――っ)


 両足に精霊力を集約させ、ロロベリアは挑戦を続けた。



 ◇



「……どういう状況なの? これ」


 闘技場に到着したランは戸惑っていた。

 下克上戦が開始してから既に二〇分近く、未だにレイドとロロベリアの戦いが続いているのにも驚いたが、それ以上に観覧席の異様な静けさが気になる。

 フィールドでは二〇メルの距離を空けたまま対峙している二人。遠目でもわかるほど消耗しているロロベリアに対し、傷一つなく悠々とした佇まいのレイドから優勢なのはレイドのはず。

 また観覧席にいる学院生のほとんどはレイドの応援に駆けつけているはずなのに、歓声を上げるどころか困惑しているようで。

 時間も含め、どのような戦いをすればこのような雰囲気になるのか。ランだけでなくディーンやミラー、グリードも落ち尽きなく周囲をキョロキョロと見回していた。


「応援には間に合ったけど……レイドさま、マジでこの方法を選んだのか」

「選ぶと分かっていたから望みを掛けたんじゃないか」

「半々ってとこですかね。どうやら、先輩方の意地を舐めてたみたいっすわ」


 対しユースとカイルは観覧席の状況含め、予想していたような嘆息を。


「とりあえず、見てれば分かりますよ。そろそろ姫ちゃんが動くみたいだし」


 三人の視線に気付いたユースが説明するより先にフィールドを指させば、まさにロロベリアが飛び出した。


『氷剣よ!』


 同時に顕現した二本の氷剣を放つもレイドは風を両足に纏わせ後方に回避。


『弾け貫け!』


「ほっと」


 ロロベリアもすぐさま氷剣を遠隔操作で四散させて追撃、レイドは纏わせた風で大きく跳躍。足元を四散した氷の礫が通過した。

 だがその間に一〇メルまで距離を詰めていたロロベリアは左手に蒼月を顕現。


「はぁぁぁ――っ!」


 一〇メル以上まで伸ばした細い刃で空中のレイド目がけて振り抜いた。

 氷剣も、遠隔操作も距離を詰めるまでの時間稼ぎや目くらましでしかなく、精霊術よりも早く顕現できる蒼月が本命。


『旋風よ!』


 が、蒼月の刃が届く寸前、レイドは両手に起こした風の勢いを利用してギリギリの回避。


『弾けろ』


「くぅっ!」


 更にロロベリアの目前の空気を圧縮、弾ける前にロロベリアも何とか回避するがその間に着地したレイドが後方に下がり、再び両者の距離は二〇メルほど空いて。


「もう少しだったのに……っ」

「……今のはさすがに肝を冷やしたよ」


「……蒼月の刃も自在に操る辺りがリーズベルトだな」

「その不意打ちをギリギリでも回避できる辺りもレイドさまっすよ」


 悔しげに目を細めるロロベリアと額からにじみ出た汗を拭うレイドの様子にカイルとユースは呆れながらも素直に称賛。

 ただでさえ扱いの難しい精霊力の剣、蒼月の刃を自身の望む形状にできるロロベリアの制御力もだが、上手く躱したレイドの判断力も見事なもの。


「……ちょっと待て。もしかしてレイドさま……リーズベルトの精霊力を枯渇させようとしてんのか」


 そして一連の攻防でレイドの狙いを理解したディーンは、だからこそ信じられないと目を丸くする。

 両者の保有量から有効な戦法ではあるも、レイドがロロベリアに対して消耗戦を選んだのなら観覧席の様子にも納得だ。

 もちろん消耗戦も立派な戦法、しかし序列一位はそのまま学院最強を意味する。

 観覧している学院生、別の下克上を観覧していた学院生もレイドがロロベリアの挑戦を実力でねじ伏せる勇士を期待していただろう。にも関わらず真っ向勝負を避けてしまえば困惑や失望を与えてしまう。他の下克上戦が真っ向勝負で決着を付けたのなら尚更だ。

 故にディーンだけでなくランもレイドの選んだ戦法が予想外すぎて素直に受け入れきれない。

 対して序列一位のプライドよりも勝利を優先したレイドの覚悟を知るカイルやミラー、グリードからすれば予想通りの選択。

 ただ気になるのはユースの反応。

 下克上戦に向けてロロベリアやミューズに協力していたはず。にも関わらずこの展開も予想できたなら、なぜ対抗策を与えなかったのか。

 ユースならこの状況を打破する対抗策くらい与えられる。それだけの戦闘センスがあると評価しているだけに意外で。


「ユースもこの展開を予想していたなら、リーズベルトに助言も出来ただろう」

「……お察しの通り。姫ちゃんには何にも伝えてないんっすわ」

「分かってたならなんで教えてあげなかったのよ!」


 真意を問えばユースは敢えて静観したことを認めてしまい、薄情な態度にたまらずランが声を荒げる。


「その方が姫ちゃんの為になるからっすよ。公式戦って言っても所詮は模擬戦、負けたところで失うのは序列だけ。ならこれも良い経験でしょ」

「……そうかもだけど」


 だがその真意を知ったランはしぶしぶながらも批判が出来なくなった。

 敗北すれば序列を失い、ロロベリアの挑戦を無謀だったと嘲る者が出てくる。それでも先を見据えれば自ら模索する方がよほど良い経験になる。

 ロロベリアが嘲られるのはユースも快く思わないだろう。しかしロロベリアを思うからこそ我慢した結果なら批判など出来るはずがない。


「リーズベルトにも様々な状況を想定する機会になる、か」

「中々に厳しいな」

「でも……それも優しさだよー」

「負けて得るものあるってのは俺も今さっき教わったばかりだし……まあ、良いんじゃないの」


 なのでカイル、グリード、ミラー、ディーンもユースの真意を心から称賛する。


「みなさんスゲー優しい顔してくれているところ悪いんっすけど……一番の理由はたんにオレが楽しみにしてるからでして」


「「「「「は?」」」」」


 が、居心地悪そうに苦笑いするユースに五人はキョトン。

 ロロベリアの今後の為、ではなく自分が楽しむためと言われれば冷ややかな視線を向けられるのも無理はない。

 だがユースとすれば仕方のない感情。

 レイドが消耗戦を挑むのも、ロロベリアが苦戦するとも予想していた。

 また打開策の助言をできたのも否定しない。

 しかしユースからすれば小器用に戦うよりも、泥臭くても真っ直ぐ戦うのがロロベリアだ。なら自分の助言は邪魔になるだけ。

 なにより追い込まれたロロベリアの強さを知るからこそ、レイドの戦法を予想しても勝敗が読めない。

 つまりユースが楽しみにしているのはこの状況で――


「あああああ――ッ!」


『――っ』


 突如、闘技場内の静寂を切り裂くような咆哮が響き渡りユースに注目していた四人はビクリと肩を振るわせた。

 慌ててフィールド内に視線を戻せば精霊力の解放でサファイアよりも美しい蒼に変化していたロロベリアの髪と瞳が、更なる蒼き煌めきが帯びていて。


「新解放……?」

「いや……これは……」


 感じ取れる静かであり凶暴な精霊力や変貌からロロベリアが新解放を使ったと理解はできる。ただ理解できない新たな現象が起こり始めるのでカイルは判断に悩む。

 何故なら新解放特有の髪や瞳に帯びる煌めきが失われ、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 まるで精霊力の部分集約を煌めきで視認しているような現象。


 しかし新解放は強化した精霊力が脳に影響を与えて解放を維持するのがやっとのはず。

 その状態で更に制御の難しい部分集約など不可能が故に、ロロベリアの現象を目の当たりにしても理解しきれない。

 にも関わらずユースは動じることなく。


「やっぱ追い込まれた姫ちゃんは恐ろしいわ」


 むしろ期待通りの事態が起きたと笑っていた。




ロロVSレイドなのに周囲のやり取りばかりですね……。

ですが次回はロロとレイドを中心に、二人の激闘も決着となります。

新解放の部分集約という相変わらずな異常性を披露したロロと、序列一位のプライドを捨ててまでも勝利に拘ったレイドの結末をお楽しみに!



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ