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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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限界の先に 前編

アクセスありがとうございます!



『序列一位レイド=フィン=ファンデル、序列十位ロロベリア=リーズベルトの下克上戦――開始!』


 宣言と同時にロロベリアは精霊力の解放と同時に部分集約で強化した足で地を蹴った。

 精霊術の技量は高くとも保有量が少ないもロロベリアは近中距離を得意……というより精霊術の撃ち合いになれば敗北は確実。

 対するレイドは剣術、精霊術、保有量と高レベルな上に頭もキレる、新解放も習得と学院最強の座に相応しい実力者。

 だが精霊力の制御力や近接戦の手札はロロベリアが上、なら自身の最も得意とする距離にこそ勝機がある。

 また出し惜しみが出来る相手でもない。


『水弾よ!』


 故に最速で距離を詰めながらゆったりとした動作で近づいてくるレイドに牽制の精霊術を放つ。

 精霊力の保有量に大きな差があり、頭脳戦でも分が悪い相手なら長引けばそれだけ不利になるなら敢えて保有量を気にせず最初から全力で行く。

 つまり短期決戦がロロベリアの狙い、水弾は悠々と躱されるもその間にレイドとの距離を一気に詰め――


『疾風よ』


 瑠璃姫を振り抜くより先にレイドはバックステップと同時に起こした風で大きく後退。


「ふ――っ」


 しかしロロベリアも踏み込んだ片足を蹴り前へ。


『風刃刻め』


「はっ!」


『疾風よ』


 着地と同時に放たれた風刃を精霊力を纏わせた瑠璃姫で両断、返す刃で纏わせた精霊力をレイドに向けて放つも、起こした風を利用した跳躍で回避されてしまった。


『氷鏃よ!』


 だが身動きが取れない空中に逃れたのをチャンスとロロベリアは精霊術で追撃。


『弾けろ』


 対するレイドは圧縮させた空気を弾けさせて氷鏃の軌道を反らし。


『駆けろ』


 更に身体を反転、背後まで迫っていたフィールドを覆う壁を風を纏わせた両足で蹴った勢いのままロロベリアの頭上を通過。

 即座に振り返るロロベリアを他所にフィールド中央で着地したレイドは息を吐き。


「とてもスリリングだったよ」

「…………どういたしまして」


 向けられた穏やかな微笑みや一連の攻防から感じる違和感にロロベリアは早々に攻めあぐねていた。



 ◇



「……おかしい」


 ロロベリアと同じく観覧席のリースも違和感から首を傾げてしまう。


「なにがおかしいのですか? リースさま」

「レイドさまから戦う意思が感じられない」


 マヤの質問にはっきりと答えるように、先ほどの攻防でレイドは回避ばかりでロロベリアに攻撃していない。

 リースから見ても攻撃するチャンスは何度かあったはず。しかしその全てをレイドが意図的に見逃しているような振る舞いが違和感として写った。

 現にこの下克上戦を後の自分に活かすべく観覧している学院生らも同じ違和感から表情を歪め、純粋なファン意識で応援に来ていた学院生らもレイドの消極的な姿勢に困惑しているのか場内はざわついている。

 しかしラタニは再び攻め始めたロロベリアではなく、気迫薄なレイドの姿に感心したよう口角をつり上げた。


「ふーん、レイちゃんマジでロロちゃんに勝つ気満々マンなんだねー」

「戦う意思がないのに?」


 勝つ気どころかやる気すら感じないだけにリースは矛盾から反論する。


「勝ち方にも色々あるでしょ。で、今のレイちゃんが確実にロロちゃんに勝つならこれが一番の攻略法なんよ」

「その攻略法とはどのようなものでしょう?」

「んなの決まってるでしょうに。一番の攻略法っていったら相手の弱点を容赦なく突きまくることさね」

「……まさか」


 が、マヤの質問に対する返答にリースもレイドの狙いを察した。

 アヤトとの訓練で最も実力が飛躍したロロベリアが未だ克服できていない弱点といえば精霊力の保有量。

 学院の平均ではあるも精霊術士の序列保持者に比べればやはり少なく、レイドとは三倍近い差がある。

 代わりに補うべく制御力を活かした手札を増やしているが、保有量の増加は本人の努力では克服のしようがないので仕方ない。


「そのまさかに加えて頭もかにゃー? ロロちゃんは意外性こそあれど搦め手に対処できる器用さがない。それもまたロロちゃんらしくてあたしは好きだけど、レイちゃんは陰険だからねん。本気でロロちゃんの精霊力を削りきるつもりだよん」

「なるほどです。だからレイドさまは逃げ回っているのですね」

「それ言ったら身も蓋もないよん。でもま、ロロちゃん相手に逃げ回るのも難易度高いんよ。あの子は生半可な攻撃じゃ止まらないし、部分集約ですばしっこいからにゃー」


 マヤの直球なもの言いにラタニはケラケラと笑いながら持論を続ける。


「それにロロちゃんに精霊術や精霊力を利用した技を使わせるよう誘導した精霊術や回避の仕方、オマケに自身の消費する精霊力を最小限にってのはそれこそめちゃ難しい。レイちゃん以外に可能な学院生ってユーちゃんくらいだよん」

「? ではユースさまはなぜ入れ替え戦でその弱点を突かれなかったのですか?」

「勝ち方にも色々あるって言ったばかりじゃまいか? ユーちゃんはその勝ち方に拘った。本気だからこそ真っ向勝負って青春的な拘りしたってことさね」

「わたくしとしては、人間の感情が難しいですわ」

「だからこそ興味深いんしょ? 神さまは」

「主に兄様が、ですけど」


 ラタニの説明を受けクスクスとマヤも笑うがリースは笑えない。

 レイドとの下克上戦にどれだけの覚悟を秘めてロロベリアが挑んでいるかを知るだけに悔しさから拳を震わせていた。


「当然……ユースはこんな卑怯な勝ち方を選ばない」


 相手の弱点を突いた戦い方は定石なのは頭で理解できても感情が否定する。

 今回の下克上戦に込められた思い。学院を卒業する先輩として、学院に残る後輩になにかを学ばせたいのなら。

 学院最強の序列一位として挑戦者ロロベリアと正々堂々戦って欲しかった。

 そしてこの願望を抱いているのはリースだけではないはず。

 エレノアとの序列戦のような熱い戦いを期待していたからこそ、レイドの応援に来ていた多くの学院生もロロベリアに対して真っ向勝負を避け続ける姿に困惑していた。


「卑怯、ねぇ……ぶっちゃけあたしからすりゃ、んな生ぬるいことほざくなよって笑い飛ばしたいけど。うら若きガキ共のケンカだからねん、ここは我慢するとしよう」

「我慢せず批判したばかりのくせに」

「ただね、レイちゃんの頑張りを卑怯の一言で否定するのは違うよ」


 故に正論も感情が受け入れられず、苛立ちのまま睨み付けるもラタニは無視。むしろリースがレイドに抱く感情を否定する。


「あの子も自分の能力をフルに使って必死にロロちゃんに勝とうとしてるんだ。学院のてっぺんってプライドもかなぐり捨ててね。その勝利に対する執念は認めてやらんとダメさね」

「……それは」


 レイドの戦い方はリースのように批判的に捉える者はいるだろう。

 それでも周囲の反感を承知の上で、ロロベリアに勝利する最善の方法を選んだのなら、ラタニの見解も正しいとリースは反論の言葉がでない。


「そんでもって、レイちゃんにそこまでさせてるロロちゃんの頑張りもね。入学したてのロロちゃんとレイちゃんじゃ比べるのもバカらしい差があった。でもその差をロロちゃんはたった一年で埋めたんよ」


 またレイドがこのような戦い方を選んだのはロロベリアの成長を認めたからこそ。

 一年前……いや、半年前のロロベリアでもレイドは正々堂々と戦ったはず。その上でロロベリアの成長に必要ななにかを学ばせてくれただろう。


「その要因にアヤトの存在が大きい。でもね、それはあの子との訓練以上に、ロロちゃんが誰よりもアヤトに追いつこうと必死になってるから。それこそ死ぬ気ぶっこいてねん」


 しかしアヤトとの再会から誰よりも厳しい訓練を重ね、修羅場をくぐり抜けたロロベリアになにかを学ばせる余裕がレイドになくなった。


「先輩として最後まで超えさせないってレイちゃんの意地、そんなレイちゃんの遙か先にある背中に死ぬ気で追いつこうとしてるロロちゃんの意地。要はこのケンカもそういった互いの意地をぶつけ合う青春なんだからさ」


 だからこそ恥も外聞も捨てて、ただ勝利に拘った。

 飛躍的な成長を続けるロロベリアに学院最強として敗北を学ばせる為に。

 ならこれも先輩として後輩に教え導く尊い在り方でしかなく、外野は口を挟むことすら許されない。

 そしてレイドの秘めた覚悟を理解したリースは苛立ちよりも怒りが込み上げる。

 表面上にしか捉えなかった愚かさ、開いていくばかりの親友との差が不甲斐ないと。

 自分自身に対する怒りで涙をにじませるリースを尻目にラタニは言葉を掛けることなく、フィールド内で奮闘を続ける二人に優しい眼差しを向けた。


「さてさて、レイちゃんが最後まで意地貫くか。ロロちゃんがまたまた意外性で驚かせてくれるのか。それを楽しみに観戦してようかねぇ」



 

まずはラタニさんの解説から長期戦になった理由でした。

こうした理由からアヤトくんがユースに告げた嫌味に繋がるわけですが、レイドに序列一位としてのプライドを捨てさせるほどまで成長したロロよりも、なり振り構わず勝利を望むレイドの意地が光っていると作者は思います。


さて、次回は二人の戦いも本格化。

ラタニさんが楽しんでいるように、みなさまもお楽しみに!



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!





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