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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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幕間 激戦を終えて

アクセスありがとうございます!



 小規模闘技場で行われたフロイスとランの下克上戦終了後――


「二人とも見事な戦いだったぞ!」


 観覧していたグリードが改めて二人に称賛の言葉を贈っていた。

 ランは敗北という結果になったがフロイスを相手に一歩も引かず、互角の近接戦を繰り広げた勇士は観覧していた学院生に実力を示した。

 序列の座は失ったが懸念していた精霊騎士クラス代表を務めるランに対する中傷、またランを指名したエレノアの生会長としての資質も疑問視されずに済むだろう。

 嘆かわしいがどんな結果や勇士を見せてもこの手の陰口を囁く者は少なからずいる。だがそれ以上に支持する者を増やせたなら充分な結果だ。


「ありがとうございます。でも……やっぱり勝ちたかったー!」


 まあ一番結果に納得していないのはランのようで、敗北の悔しさを吐き出すように叫びを上げる。

 ただ相手が上級生だろうと敗北を悔しがる姿勢は好感が持てる。きっとランもこの敗北を糧に更なる飛躍を遂げるだろう。


「だからフロイスさん、絶対にリベンジするから卒業してもラナクスに来て下さいよ! 月一くらいで!」

「さすがに月一は無理だが、リベンジは了解した」


 またフロイスも勝利こそしたが、追いかける後輩に負けじと高みを目指す。こうした相乗効果もまた楽しみで。

 もちろんグリードも同じ。序列とは縁の無い学院生活だったが有能な後輩が多くいる、騎士クラス代表を務めた者として顔向けできるよう今後も精進を忘れない。


 のだが――


「しかし……あれだけの戦いをした後なのに、二人とも元気だな」


 それとは関係なく呆れていたりする。

 と言うのもフロイスとランは下克上戦後そのまま学院敷地内を走っていた。

 激戦と呼べる内容でも二人に大きな傷はなく、勝負を決めた肘打ちによるランの打撲が一番の負傷。

 しかし二人ともフィールド退場後、控え室に戻らずそのまま運搬用の出入り口で落ち合いこっそり抜け出している。シャワーどころか着替えもせずなので汚れたまま、二人の出待ちをする学院生(ファン)に囲まれないよう関係者専用出入り口を避けた徹底ぶり。

 対しグリードは二人ならそうするだろうと予想していたのですれ違うことなく出迎え、一緒に走っているのだがそれはさておき。


 怪我の治療や着替えもせず二人が急いで向かっているのはカイルとディーンの下克上戦が行われている中規模闘技場。

 エレノアとシャルツの下克上戦も気になるが、やはりランはディーンの結果が気になるようで。

 同時刻開始なので応援は間に合わなくとも、結果を知るなら自ら向かったの方が早く、それにフロイスが付き合っているようだ。

 ちなみに主バカのフロイスがティエッタとミューズの結果を気にしないのは『お嬢さまが負けることなど万に一つも無い』と、要は主バカだからこその確信があるようだが――


「でも本当にあたしに付き合ってて良いんですか? ティエッタさんは……まあ強いけど、ミューズだってアヤトの訓練を受けるようになったし。もしかして、ってのがあるかもですよ?」

「…………問題ない。主を信頼してこその従者だ」

 

 ランの煽りに間があるのは純粋に早くティエッタに会って労いたい気持ちの表れか。

 それでも後輩を優先して付き合っているフロイスも良い先輩をしていると思うわけで。


「なら良いですけど。とにかく、元気なのは当たり前です。なんせアヤトに散々地獄を見せられてるんで」

「同意だな」


「……とても納得できた」


 言葉通り元気いっぱいなランと頷くフロイスに、アヤトの訓練がどれほど過酷か知るだけにグリードは笑うしかなかった。

 また元騎士クラス代表として恥じぬよう鍛えているグリードも二人のペースに合わせながらも談笑を交えて走り続けていると十字路が見えてきた。

 ここを左に行けばカイルとディーンの下克上戦が行われている闘技場、右に行けばティエッタとミューズの下克上戦が行われている闘技場で。

 直進すれば学院で最も大きい闘技場、つまりレイドとロロベリアの下克上戦が行われている闘技場に行けるのだが――


「ディーン!?」


 その十字路からまさにディーンが姿を現しランは急停止。

 しかもカイルも一緒で二人してランやフロイス以上にボロボロ、疲労困憊なのかなんとか歩いているようで。


「ラン……なんでお前がいるんだよ」

「それは……じゃなくて! あんたこそどうしてこんな所にいるのよ!」


 ディーンの結果が気になって走ってました――などとヘタレなランが言えるはずもなく、話題を変えて詰め寄り。


「どうしてって、闘技場に向かってるんだけど」

「……もしかして、あたしの結果が気になって?」

「いや? レイドさまとリーズベルト――いってぇ!」


 正直に答えるも乙女心を察しないディーンをランの拳が見舞われた。

 賑やかな後輩二人を他所にフロイスがカイルの下へ。


「なんとか面目は保てた」

「自分もだ」


 端的に結果を報告するなり二人はパチンと右手を合わせ健闘を称え合う。


「……つまり、あんたは負けたと」

「お前もだろ……でもまあ、ランもだろ?」

「もちろん」


 対するランとディーンも端的なやり取りでリベンジを誓いあったところで情報交換を。


「それで、なんであっちの闘技場に向かってたのよ」

「なんで怒ってんだよ……まあ、カイルさまに誘われたってのもあるけど、やっぱ一番興味あるだろ。ランもそうじゃないか?

「否定はしないけど……」


 ディーンの意見にランもしぶしぶ同意。

 レイドとロロベリア、両者は序列位こそ最も開いているが実力は最も拮抗している。

 故にロロベリアが一学生にして初の序列一位という快挙を遂げるか、それともレイドが最後まで譲らず卒業するか。私情を抜きにすればランも一番結果が気になるわけで。

 それは二人の実力を正確に測れるメンバーなら誰しも同じ気持ち。

 なのでカイルもディーンを誘い同じよう、こっそりと抜けだし向かっていたらしい。


「レイモンドはロマネクトのところか?」

「……主を信頼してこその従者だ。自分も付き合おう」

「無理にしているように見えるが……なら、一緒に行くか」


 情報交換から結果を確認するべく五人で向かうことに。


「――あれ? みんなお揃いでなにしてるんっすか?」


「あんたこそなにしてるのよ!」


 ……したのだが、ティエッタとミューズの下克上戦が行われている闘技場側からやって来たユースに声を掛けられランはまず突っこんだ。

 ロロベリアの応援に行っているはずとの疑問よりも、駆け寄ってくるユースがボロボロのミラーを背負っていればそちらの方が気になるわけで。

 ディーンも呆気に取られる意味不明な状況に対し、歩調を緩めつつミラーを背負い直したユースはしれっと返答。


「ミラー殿と訓練してたんすけど、ちょい張り切りすぎてダウンしたからオレが負ぶってる感じですかね」

「ごめんね……ユースくん」


 確かに弱々しい謝罪を口にするミラーから感じ取れる精霊力がかなり消費しているようで動くのも辛いだろう。

 また治療施設で治療術や応急処置を施したのか、痛々しい姿のミラーに比べてユースが目立った外傷がないのも理解できる。いくらミラーでもユースを相手取るのは厳しく相性も悪いので両者の違いも納得できた。

 だが動けなくなったミラーを背負ってまで急いでいたならユースもロロベリアを気にしてのこと。二人の関係なら結果よりも純粋な心配もしているはず。

 にも関わらずどうして応援に行かずミラーと訓練をしていたのか。


「それにしたって……あなたロロベリアの応援もせずにどうして」

「まあ姫ちゃんの応援も大事っすけど、先輩相手に白熱した訓練ってのは勉強になるんで」


 そんな疑問もユースはしれっと返答。

 何でも初の五カード同時開催の下克上戦を前に滾ったミラーが少しだけ訓練相手をして欲しいと誘ったらしく、開始時間までならとユースも了承。

 ただ少しのつもりが両者とも白熱してしまい、最終的に精霊力を消費しすぎたミラーを治療施設まで連れて行ったとのこと。

 もちろんユースだけでなくミラーもレイドとロロベリアの下克上戦を気にしているので申し訳なくも連れて行ってもらっていたらしい。


 ――というのはカナリアが考えた言い訳に過ぎず、ミラーに治療術や応急処置を施したのもカナリアで。

 またユースにも治療術を施した後、カナリアは別ルートでラタニと合流予定。

 二人と一緒に行動しなかったのは万が一の配慮として。


「ほんと、勉強になりましたよ。おかげさまでね」


 そして詳しい事情を聞かされていなくとも、ある程度事情を察しているユースは話を合わせつつカイルたち三学生に皮肉交じりの笑みを向ける。


「わたしも……頑張ったよー」

「そうか……」


 更にユースの背中越しに見せるミラーの破顔から結果を察したカイルが笑顔で敬意を送った。

 ユースがどこまで知るかは分からないが、ランやディーンが居る場でこれ以上のやり取りは自粛を。

 そんなカイルたち三学生の心情を察したユースも話題変更を。


「そういや途中で闘技場前を通った時にティエッタ先輩が勝ったって話を耳にしましたけど……フロイス先輩はいいんですか?」

「やはりお嬢さまだ……しかし、なにがいいんだ?」

「勝つに勝ったけど精霊力が枯渇寸前になってぶっ倒れたみたいで、医療施設に――」


「お嬢さまぁぁぁ――っ!」


「――運ばれたらしいけど……」


 が、話を最後まで聞くことなく、精霊力を解放するなりフロイスが叫び声と共に走り去ってしまった。


「有事以外の解放は禁止では? 元学院生会のお三方に現学院生会のお二人方」

「所詮は元だ、俺は知らん」

「綺麗な野花に見とれて聞いていなかった。なんの話だ?」

「わたしは仕方ないって……思うな」

「あたしも有事に一票で」

「フロイス先輩にとってはな。だから俺も知らね」

「ならオレがとやかく言えませんね。てなわけで行きますか……お疲れかも知れませんが、出来るだけ急ぎましょう」


 結果フロイスが離脱したことで改めて六人で向かうことになった。


「……仕方ない、走るか」

「マジっすか……俺も消費量ヤバ気なんっすけど」

「ならあたしが負ぶってあげようか?」

「冗談だろ……ていうかユース、結果が気になるのは分かるけど走らなくてもいいだろ?」


 小走り程度で向かいつつ一番消耗しているディーンがぼやくもユースはペースを緩めることなく申し訳なさそうに口を開く。


「間に合えば姉貴の怒りも少しは静まるかもなんで、オレの命を救うと思って頑張ってくださいよ」

「命って……いや、さすがにもう終わってるだろ」


 リースの怒りに恐怖するのは良いとして、それはないとディーンはため息一つ。

 なんせ精霊術士同士の戦いは精霊力の消費量が多く最短で一分、最長でも五分程度。

 最近では序列戦でレイドとエレノアが十分近い激闘を繰り広げたが、新解放を使用したとはいえ後半はほとんど肉弾戦。

 加えてレイドはともかくロロベリアは精霊力の保有量が平均的、それを補うだけの制御力や精霊術に頼らない奥の手があるにしても、下克上戦が開始して既に十分以上経過しているなら希望的観測に過ぎない。

 だがユースはどこか自信ありげにほくそ笑んだ。


「それは行ってみなけりゃ分からないってことで」



 一方、六人が目指している闘技場の観覧席は静寂に包まれていた。

 ただレイドとロロベリアの決着は未だ付いていない。


「はぁ……はぁ……」


「……想像以上にしぶといね」


 しかし予想外な展開に学院生らは言葉を失っていた。




下克上戦の最後を締めくくるロロとレイドの激闘を前に、試合を終えたメンバーのお話でした。

エレノアとシャルツの話題が入れられませんでしたが、エレノアはともかくシャルツはさすがに抜け出せませんからね……医療施設でフロイスやミューズと合流しているかと。

そしてユースくんは吹っ切れてからアヤトくんみたいな察しの良さを見せています。まあ元々頭の回転は良い子ですし、だからアヤトくんも秘密を一部でも打ち明け、(それなりに)良好な関係を築きつつあるわけですが。


さて、次回から今度こそロロVSレイド戦となります。

平均を大幅に更新した長期戦がどのような形で行われているのか、それは次回からをお楽しみに!



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!


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