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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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期待した結末は 前編

アクセスありがとうございます!



 下克上戦開始前――


 男性比率の高い中規模闘技場の観覧席にアヤトは来ていた。

 騒がしい場所は嫌いでも今回の下克上戦は五カ所の闘技場で同時開催、観覧する学院生も分散されるなら観覧席も余裕があり。

 更にほとんどの学院生が前列席で齧りつくよう陣取れば後列は静かなもの。まあ男性が多いのでむさい声が響き渡っているが、その程度なら気にならないとアヤトは最後尾の一席に腰掛け開始を待つことに。


「一緒して良いかな~?」


 したのだが、遅れて観覧席にやって来たルビラがアヤトを見つけるなりトコトコと歩み寄り笑顔を向ける。


「お仲間の応援は良いのか」

「ん~……ズークくんはシャルツくんと仲良いから元精霊学クラス代表と関係なくそっちだし、グリードくんもフロイスくんとランちゃんの所に行ってるからね~」


 視線も向けず面倒げに問うアヤトに答えつつルビラは了承を待たずに隣りにぽすんと腰掛けた。


「それにわたしたちにとっては学院生みんながお仲間だからね~。なら元学院生のメンバーとか関係なく、興味のある試合を観るのが一番だよ」

「ならお前はこのお遊びが一番興味あるというわけか」

「と言うよりもアヤトくんに、だけどね~」


 どこか期待するようキラキラさせた視線を向けるように、友人の応援に向かったズークや持たぬ者と言えど元騎士クラス代表として学院最強の精霊騎士の座に興味のあるグリードと同じく、ルビラはどの対戦ではなくアヤトが観覧する対戦を選んだ。

 好意的な感情ではなく、序列戦のように見解を広める為と知識欲旺盛なルビラらしい理由で。


「精霊術士同士のお遊びで期待されてもな」


 もちろんアヤトも勘違いすることなく肩を竦めるも、精霊力を感知できないだけで実力や内面も読み切る能力はずば抜けて高いならルビラがわざわざ足を運ぶには充分な理由。


 なにより今回の下克上戦の対戦カードで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 元よりエレノアを指名する他ないシャルツを除いて唯一の指定、その理由も含めて興味がある。

 故に律義なアヤトは自分が指定した対戦カードの観覧に来るだろうとルビラもこの闘技場に来たわけで。


「ま、期待外れになっても構わんのなら好きにしろ」

「その期待はどういった意味かな~?」

「さあな」


 お約束の呟きは入場と共に上がる歓声によってかき消された。



 ◇



 自分の対戦相手をアヤトが指定したとは知らず、ミューズは距離を空けつつティエッタの態度よりも視えた精霊力の輝きに不安を抱いていた。

 対戦カードを決めた際も、握手を拒否された今もティエッタが向けているのは不快の感情。

 知らないうちになにか粗相をしてしまったのか。

 それとも対戦相手が自分なのが不満なのか。

 真の強者となるべく精進を重ね、また強者との対戦を望むティエッタなら後者が理由か。

 卒業生側がどのような理由で逆指名相手を決めたのか分からないが、少なくともティエッタはロロベリアを逆指名したかったはず。

 ユースとの入れ替え戦で見せたロロベリアの勇士にティエッタの感情が高ぶっていたのも視ているだけにありえる。

 加えてそのロロベリアを除けば自分は序列九位、在校生側で最も未熟ならやはり不満はあるだろう。

 ただ、ならばこそ少しでも自分が相手で良かったと思われるよう。

 また卒業生側の気遣いを無駄にしないよう、自分だけでなく観覧している学院生にもこの戦いを通じてなにかを学んでもらえるように。


『序列三位ティエッタ=フィン=ロマネクト、序列九位ミューズ=リム=イディルツの下克上戦――開始!』


 開始の合図と共にミューズは精霊力を解放、同じく解放したティエッタ目がけて飛び出した。

 基本待ちの姿勢を取るミューズには珍しい好戦的な姿勢に観覧席からどよめきが起こるも、この判断はロロベリアたちとの訓練が活きている証拠。

 ティエッタの精霊術は学院でも最高位、しかし近接戦は不得手としているなら強引でも近接戦に持ち込むべきと作戦会議でユースから助言を受けた。

 もちろんティエッタもこの展開は読んでくる。不得手だからこそ同じ攻略法で挑まれ馴れてもいた。

 ただ入れ替え戦で挑んでくる学院生や、普段から手合わせをしているフロイスはもちろん、アヤトにも無い利点がミューズにはある。


『火矢貫きなさい』


 ミューズの突進に怯むことなくティエッタは精霊術を発動。

 顕現した十数の火矢で近づけさせないようミューズを狙い撃つ。


『青き守壁よ!』


 対するミューズはティエッタの精霊術のタイミングを読んでいたよう水壁で防ぐ。


『燃え狂いなさい』


『青き流星よ!』


 続く炎玉も同じ数の水弾を放ち対抗しながら距離を詰めていく。

 ティエッタほどの発動速度はなくともミューズの発動速度も充分、また後の先を読む防御技術が合わされば対処は難しくない。

 また攻撃力で劣る水の精霊術だろうと精霊力の保有量はティエッタを圧倒しているからこそ対抗できる。

 更にユースは知らないが精霊力を視認できることからティエッタが精霊術を発動する兆候が読めるからこそ発動速度で劣っていても対処ができる。

 まさにミューズクラスの保有量と精霊術の使い手、精霊力の視認が可能とする戦法で。


「はあ!」


 ついに間合いに入ったミューズはサーベルを一閃。

 ティエッタの精霊力の流れを視認しつつ振るうも直撃寸前、身を捻られ掠める程度の一撃にしかならず。


『っ……噴きなさい』


 肩口に走る痛みを無視してティエッタは精霊術で足元を爆破、小規模とはいえ爆発による推進力を利用して大きく後退。

 帝国でベルーザがレイドとの模擬戦で見せた危険な回避方法を習得している辺りは真の強者を目指すティエッタと言える。

 また地面の衝撃で僅かに体勢を崩したミューズは深追いせず呼吸を整える。



 開始早々精霊術を駆使したハイレベルな攻防に観覧席は熱狂していたが――



「ティエッタちゃんはフロイスくんやアヤトくんと何度も模擬戦してるからね~。ミューズちゃんの剣筋なら躱せるか~」


 一連の攻防をつつルビラは冷静に分析していたりする。

 ティエッタが近接戦を不得手にしているのは知るところ、それでも近接戦の猛者との模擬戦を重ねていればミューズレベルの剣筋なら充分追えるだろう。

 ただやはりと言うべきか、アヤトの見解は違うようで。


「今のはそれ以前の問題だがな」

「……どういうことかな~?」

「確かにティエッタに生半可な剣は通用しねが、半端な剣はそれ以前だと言ってるんだよ」

「ミューズちゃんが優しいから……かな?」


 ミューズが攻撃に躊躇うタイプと知るだけにルビラも理解するが、アヤトは頷くことなくフィールドを見据えて。


「期待に応えてくれれば少しは楽しめるんだが」


 呟いた直後、観覧席の声援をかき消すほどの轟音が闘技場内に響き渡った。



 ◇



(まだ……だめ、ですか)


 呼吸を整えながらミューズは沈痛な面持ちでティエッタを見据えていた。

 ユースの助言通り上手く間合いに入り込めたが仕留めきれず、それどころか再び距離を空けられてしまった。

 更にティエッタから視える精霊力の輝きがより不快感を増したよう淀んでいる。 

 自分が相手で満足してもらえるよう挑んでおきながら、更に落胆させてしまって申し訳なく。

 それでも今の自分に出来ることは他にないと、ミューズは挑み続けようとサーベルを強く握り――


『……爆ぜなさい』


 駆け出す瞬間、自分とティエッタの中央付近が赤く染まり、爆音と共に火柱が立った。

 爆破の余波で観覧席に張っている精霊結界がビリビリと呼応し、打ち付ける小石にミューズは腕を盾にして目だけは守り。

 土煙が晴れた先では、フィールド中央が精霊術によって大きく抉れていて。

 自分を狙った精霊術にしろ、牽制にしろ誤爆すぎると困惑するミューズに対し、放ったティエッタといえば。


「あなた……いつまで()()()()()気が済みますの」


 精霊力の輝きを視るまでもなく、向けられた瞳から明確な怒りが伝わった。




ティエッタとミューズの下克上戦よりもまず、今回の下克上戦そのものにアヤトは関与していました。

といっても今回の対戦カードのみですがそれは後として、次回で二人の下克上戦も決着が付くのでそちらをお楽しみに!


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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