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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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勝者に相応しいのは

アクセスありがとうございます!



 学院内五カ所の闘技場で始まった序列保持者の下克上戦。


 同時刻、序列専用訓練場で人知れず始まったミラーとユースの戦い。


「おおおおおお――っ」


 開始と同時に雄叫びを上げてミラーは突撃。

 普段の彼女からは想像できない敵意剥き出しの姿はまさに学院最凶に相応しい恐怖を与えるも動きが単調で、精霊術で狙いやすいという問題点があった。

 故に一年前の総当たり戦では精霊術士に一勝もできず序列入りを果たせず終いだったが――


『弾け阻め』


「ふう!」


 突撃を阻止するべくユースの放った石礫をミラーは飛び退くように回避。


「……やっぱな」


 その回避にユースは驚きよりも呆れたようにため息一つ。

 動きが単調で回避無視の攻撃一辺倒だったミラーの問題点は予想通りアヤトとの訓練で矯正されていた。

 ただ似た問題を抱えていたフロイスのようにアヤトから助言を受け、何度も手合わせをして学んだ技術ではない。

 アヤトから受ける攻撃を本能に叩き込まれたことによる危機回避能力とでもいうべきか。

 ひたすら手合わせを繰り返し、攻撃だけでなく殺気も向けられる内にミラーは回避をするようになった。

 その様子は猛獣に『待て』や『お手』を覚えさせる調教師のようでユースはどん引きしたものだ。

 しかし本能に叩き込まれた結果、ミラーは精霊力の感知能力や相手の動きを読むというより敵意を察して回避できるようになったことでより凶悪になったと言えるが。

 また今年からアヤトとの訓練でも自分や他のメンバーとも模擬戦をしなくなったのは、もしかするとこの対戦を考慮して出来る限り情報を与えないようにしたのか。


 とにかく久しぶりの対戦ということでユースは敢えて精霊術で牽制してみたが、やはり見学するのと対峙するのでは大違い。

 自分の知る以上の反応速度をミラーは見せた。


 また攻撃面も子獣に狩りの仕方を教える親獣のように叩き込んでいる。


「おおおおお――!」

「ぐ……っ」


 間合いに入るなり振り下ろされた大剣をユースは右の夕雲でいなすも完全にいなしきれず右手に痺れが走る。

 だが気を抜く暇も与えずミラーは猛攻を仕掛けてきた。

 以前よりも鋭さが増したのもあるが、緩急を上手く使えていることから躱せず両の夕雲でいなし続けるのが精一杯で精霊術を使う暇を与えてくれない。


 まさに親獣アヤトから狩りの仕方を本能に叩き込まれただけあるというべきか、二月前に比べてミラーは強くなっている。

 それと同志の協力か……先ほど見せた精霊術に対する反応といい、良い訓練相手に恵まれている。

 元より向上心と才能に溢れるミラーが更に濃密な努力を重ねたのなら当然の強さか。


「でもま……オレも負けられないんっすよ!」


「が――っ」


 ただ努力を重ねたのはユースも同じと防戦一方から一転、ミラーの猛攻を紙一重で躱すなり身体を反転、無防備な背中に左の夕雲を叩き込む。

 更に深追いせず地を蹴り距離を空けて呼吸を整える。

 一撃程度で怯まないミラーの耐久力は今さら、なら防戦で痺れたままの両手や呼吸を整える必要がある。

 この二月でミラーは強くなっているが、まだまだ荒削りは否めない。

 加えて危険を覚悟で対応したことで修正も出来た。


「あああああ――!」


「てなわけで……反撃開始だ!」



 ◇



「うううううう――っ」


『刃よ貫け!』


 ボロボロになりながらも突撃を繰り返すミラーに向けてユースは岩剣を三本顕現。

 行く手を阻むようタイミングをずらして放つもミラーは俊敏な動きで躱しつつ大剣を一閃、しかしユースは右の夕雲でいなす。


『弾けろ』


「ががあ――っ」


 更に躱され地面に突き刺さっていた岩剣を遠隔操作で四散。背後から石礫を受けたミラーが悲鳴を上げる。


「――っと!」


「があ!」


 そのスキに左の夕雲を脇腹に叩き込んだユースは大きく距離を取った。


「どちらも将来が楽しみですね……」


 何度も繰り返される攻防を唯一観戦しているカナリアは苦笑い。

 開始直後の攻防でミラーの太刀筋や癖を読み取り修正してからユースの一方的な展開が続いている。

 予測しているとはいえあの猛攻をかいくぐりながら地面に突き刺した岩剣を維持し、タイミングを見計らって遠隔操作を扱うセンスや可能とする精神力。

 状況を冷静に把握した攻めと引きの巧さ、まさにユースの強みが最大限に発揮されているのでこの差は仕方がない。

 もちろん相性もあるので実力=勝敗に結びつくとは限らないが、純粋な実力でいえばユースはロロベリアに次いで学院最強レイドの座に近いのだ。

 その上回避や緩急を覚えてもやはりミラーは単調な動きしか出来ないのでユースにとって相性の良い相手。

 カナリアの見立てではミラーに勝ち目はない……が、所詮は見立て。

 どちらもと称賛しているようボロボロになりながらもミラーはユースを追い込みつつある。

 その証拠がユースの流している大量の汗。

 常に相手の動きを予測し立ち回り続ければ心身の疲労は大きい。

 更にどれだけ攻撃しようとミラーは怯まずる猛攻を続けてくるのだ。

 一撃でも受ければ致命的になる恐怖も合わされば肉体的に精神的にもユースの消耗が激しい。

 それを可能にするミラーの持久力と耐久力、なにより何度打ちのめされても折れない精神は充分称賛に値する。

 故に勝敗はまだ分からないが、ただ確実なのは二人とも序列一位だった当時の自分を超えていることくらいで。

 しかも同等の学院生が他に十名も居れば笑うしかなかった。



 ◇



(ほんと……まだまだ情けないわ)


 カナリアの見立て通り飄々としながらもユースは追い込まれていた。

 ロロベリアとの入れ替え戦で志しを新たに訓練を積んできたが所詮は付け焼き刃、いくら読みやすくとも疲労がかなりきている。

 お陰で反応速度が衰え躱すよりもいなす方が増え、両手の感覚が徐々になくなっていた。

 どれだけ動きを先読みしても、自分の身体が付いてこなければ意味はない。


 ただ、負けるつもりはない。


 疲労が蓄積しているのはお互い様。

 加えてミラーは牽制とはいえ精霊術を受け続けたことで精霊力の消耗も激しい。

 つまりここから先はユースがミスをするか、ミラーの精霊力が尽きるかの我慢比べ。

 なら有利な自分が先に音を上げてなるものかと気持ちを奮い立たせるユースに対し――


「……ああああああ――っ」


 咆哮を上げたミラーの紫に輝く瞳が更なる煌めきを帯びた。

 このままでは先に精霊力が尽きると本能で理解したのか、ここでミラーは新解放を遂げた。

 残りの精霊力を考慮すればいい判断、ならばこそ凌ぎきって勝つとユースは視覚に精霊力を集約。

 ミラーの一挙手一投足を見逃さず集中し――


「おおおおお――!」


『打ち付けろ!』


 突撃のタイミングに合わせて石鏃を放ち、本能で回避したところを精霊術で追撃することで動きを誘導してカウンターを狙う。


「あああ――!」


「――っ」


 が、ミラーは構わず突撃を選びユースは怯んでしまう。

 いくら精霊結界の恩恵があろうと石鏃はミラーの肩や足を抉り、更に精霊力も消耗させていく。

 しかし代償は大きくとも間合いに入ったミラーは突進の勢いのまま大剣を振り上げた。

 対するユースも強化した動体視力で動きを追いきり、夕雲をクロスさせて防御。

 この一撃を絶えればミラーは傷と精霊力の消耗で動けなくなる。

 つまり最後まで我慢比べ――


「ヴヴヴヴ――ッ」


「な……っ」


 のはずが、寸でのところでミラーは両足を踏ん張り、振り下ろしていた大剣も強引に止めてしまった。

 動きに予備動作や緩慢な兆候も見られなかっただけにさすがのユースも読み切れず。

 しかしユースに僅かな隙が生まれたのは強引なフェイントだけではない。

 打ち負けようと構わず何度も何度も突撃を繰り返したことでユースの思考や反応速度を鈍らせたのが大きい。

 まさにミラーが身体を張り続けて作った好機。


「ッッッ――ァア――!」


 その好機を逃さないと強引な急停止によって両手足の筋繊維が悲鳴を上げ、激痛から大剣がこぼれ落ちるもミラーは構わず地面を蹴り。


「ヴァァァァ――ッ!」


 新解放で更に強化された身体能力と勢いを乗せた右拳をユースの腹部に叩き込んだ。


「ぐはぁ……っ」


 腹部を貫かん拳が直撃したユースは身体ごと吹き飛び訓練場の壁に激突。


「――ふぎゃぁ!」


 ……同時にミラーも勢いに逆らえず顔面から激突。

 ただ急停止で酷使した筋繊維を更に酷使させれば、踏ん張るどころか立ち上がることも不可能。


「まじ……ごほっ!」


 また選抜戦で暴解放したリースの拳に勝るとも劣らない一撃を受けたユースも吐血するほどのダメージから立ち上がることができず。

 故に両者とも精霊力を維持できず元の髪や瞳の色に戻り戦闘不能に。


 つまり審判のカナリアが下すのは引き分けになるのだが――


「まだ……だよ」


 宣言するより先に壁を利用して立ち上がろうと()()()()()()()()()()

 両足だけでなく両腕も動かすだけで激痛が走るはずなのに、それでも必死に。


「…………」


 カナリアやユースが見詰める中、何度失敗しても諦めず、痛みに耐え続けて。


「……ユース、くん……っ」


 何とか膝立ちにまで身体を起こしたミラーはようやくユースに顔を向けた。

 痛みで涙を零し、鼻血で血まみれになっていたが。


()()()……!」


 それでも満面の笑みで勝ち誇った。


「……はいはい」


 激痛に襲われようと向けらた眩しいほどの笑顔を前に呆然としていたユースと言えば、呆れたようにため息を吐きつつ目を閉じる。

 最後のもがく姿は才能だけでなく、強くなりたいと昔から血の滲むような努力を続けていたミラーと。

 才能だけの、まだまだ薄っぺらい努力しか積んでいない自分との違いを見せつけられたのなら。


 本来なら引き分けの結果だろうと関係なく。


「……先輩の勝ちっすよ」


 ミラーに相応しい言葉を贈った。



 ユースの言葉に改めて審判のカナリアからミラーの勝利が宣言された頃――



「アヤトくんはどっちが勝つと思うかな~?」

「さて、どっちだろうな」


 中規模闘技場で行われているティエッタとミューズの下克上戦も決着を迎えようとしていた。




実力的にいえばもちろんユースが上、ミラーも成長したとはいえまだまだ差は歴然です。

なので勝負の結果は引き分けですが、ミラーの積み重ねてきた思いの強さを前したユースは敗北を認めるしかありませんね。

また雄叫びばかりのミラーですが、最後まで見せ続けた意地は他の先輩方にはないミラーらしい強さだったと思います。


さて、下克上戦プラス一戦も残すところあと二戦。

次回はティエッタとミューズの激闘、なので久しぶりにアヤトくんが登場しますがさておいて。

対戦が決まった時や開始前のティエッタのミューズに対する態度は何故か、そちらも踏まえてお楽しみに!



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