受け継ぐ思い
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学院内五カ所の闘技場と人知れず序列専用訓練場で始まった六組の激突。
開始早々から激しくぶつかり合ったのはやはりフロイスとラン。
六組の中で唯一の精霊士同士、故に精霊力を解放するなり両者とも飛び出し紅蓮を振り下ろすフロイスに合わせてランは影縫を一閃。
「ふんっ」
「……ぐっ」
影縫の重量を利用するも膂力ではフロイスに分があるだけにランの表情が歪む。
しかし瞬発力では分のあるランは弾かれた勢いのまま回し蹴りを放つも、フロイスはバックステップで回避。
「ああもう! 手がジンジンするんですけどっ」
「そのわりに鋭い蹴りだったが」
距離が空くなり影縫を鞘に納めたランは怒り任せに手を振り、紅蓮の切っ先を下げたフロイスは冷静な突っこみを。
開始早々の激突が嘘のような緊張感のない二人の姿に白熱しかけた観覧席は唖然。
もちろん二人に緊張感がないわけでも、ましてや手を抜いたわけでもない。
先ほどの攻撃も初手で決めるつもりで二人は全力で振るった。
しかし二人とも初手で決まるとは思っいない。
要は少々手荒な挨拶として互いの覚悟を確認しただけ。
「手が痺れる程度で気が抜けるようなら瞬殺でしょ――」
つまりここからが本当の開始とランは影縫を抜くなり距離を詰め蒼穹を振るう。
「同感だな」
が、不意打ちにもフロイスは冷静に紅蓮で対処、即座に切り上げられた影縫の刃は紅蓮をずらし柄で防ぐ。
アヤトを彷彿とさせる高等技術にランは怯むどころか蒼穹を手放しフロイスの重心を僅かにずらした。
その隙に腰後ろの灯火を引き抜いた勢いのまま袈裟斬りを放つがフロイスも影縫を柄で弾き両膝を曲げて回避、更にお返しと言わんばかりにランの足目がけて紅蓮を振るう。
「は――っ」
「逃がさんっ」
寸でのところでランが後方に飛び回避するも身体を起こしたフロイスは追撃。
フロイスの攻撃をランは影縫でいなし、スキあらば灯火で反撃を繰り返しつつ円を描くように後退していき――
「ふっ」
「と――」
鋭い突きを上半身を反らして紙一重で交わしつつ灯火を鞘に戻し、そのまま後方宙返りの要領で蹴り上げた。
咄嗟に身体を反転させてフロイスも蹴りを交わすが、勢いのまま二転三転と後方に下がったランの左手には手放したはずの蒼穹が握られていて。
「なるほど……狙っていたのか」
「この子もあたしの大事な大事な相棒なので」
手放した蒼穹を回収する為に後退しながら誘導していたと感心するフロイスにランは左足を下げて体勢を低くする。
「一緒にお休みするくらい大事な相棒たちなんですよっ」
「自分も紅蓮と毎日就寝を共にしているっ」
「フロイスさんなら分かってくれると思ってました――よっ」
三度刃をぶつけ合う両者の攻防に観覧席は完全に呑まれて熱狂していた。
蒼穹、影縫、灯火と三本の武器だけでなく体術を織り交ぜたランのトリッキーな動きに対し剣術のみで愚直に対抗するフロイス。
両者とも全くタイプの異なる戦闘スタイル、しかしそれを可能とする高次元な技術はまさに精霊騎士クラスの二強に相応しい勇士。
息つく暇も無い激しい攻防を制し、真の学院最強の精霊騎士はどちらになるのか。
そんな期待感から更に観覧席はヒートアップしていく。
(やっぱフロイスさんの方が一枚上手か……っ)
しかし激闘とは裏腹にランは冷静で。
剣筋の鋭さならアヤトが圧倒しているも膂力はフロイスの方が上……まあ、自分との訓練でアヤトが手を抜いているのもあるかもしれないが膂力で劣る分、いなし続けていたが完全に衝撃は流しきれず影縫を握る手の握力が徐々に失われている。
そもそも以前のフロイスなら突進して斬るの繰り返しなので鋭さはあれど読みやすかったがアヤトとの訓練で緩急を織り交ぜるようになり、必要ならば引くことにも躊躇わなくなったことでタイミングが読み切れない。
故にこれまでの攻防を分析するに地力ではフロイスが上回っていると認めざる得ない。
だがランとてアヤトの訓練でボコボコにされてきたわけではない。
一年前の序列者選抜の総当たり戦で初めてフロイスと対峙した際、自分なりに考え磨き続けた戦法が全く通用せず、呆気なく敗北したのを今でも鮮明に覚えている。
あまりにも差がありすぎて愕然としながらもその強さに憧れた。
そして今、アヤトよりも先に憧れたフロイスの背中が見えるまで成長できた。
だからこそ、こうして学院最強の精霊騎士の座を賭けて堂々とフロイスに挑戦できる。
自分の理想を超えた戦闘スタイルを身に付けたアヤトに挑み続け、模索し続けたからこそやっと背中が見えたのだ。
劣っているのは認める、しかし成長の実感からモチベーションは増すばかり。
なら一年前に憧れを抱いた、最強の背中を最後まで見続けるのではなく。
(意地でも超えなきゃ挑む意味ないでしょ――っ)
ランは諦めることなくフロイスの猛攻を凌ぐだけでなく果敢に攻め続ける。
「むう……っ」
その気迫に圧されたのか、初めてフロイスが引いて自ら距離を取った。
「まだ……足りないか」
対するランは追撃せず呼吸を整える。
やはり鋭さと圧の増したフロイスの猛攻を凌ぐのは精神的に辛い。
それでも闘志を滾らせ、距離を詰めようと地を踏み――
「……レヒドが羨ましい」
「…………」
寸でのところで聞こえた呟きにランは踏みとどまった。
「レヒドと同じように自分もカルヴァシアから多くを学ばせてもらった」
集中力を維持しつつ、苦笑を向けるフロイスは言葉通り羨ましげで。
「最初はお嬢さまを愚弄する無礼者……だが、実際に剣を交えたことで為人を知り、内に秘める志を知り……お嬢さまが真の強者と認めるだけあると自分も認めるようになった」
「…………」
「だから、レヒドが羨ましい」
「…………フロイスさん」
思わぬ心情を吐露されてランも苦笑い。
自分が憧れたように、フロイスも憧れたのだ。
戦闘スタイルは違うも、アヤトの剣筋はフロイスと同じ愚直なまでに磨き続けた基礎があってこその美しさ。
そして磨き続けたことで極めたと言っても良いほどの領域に居る。
ならば憧れるだろう、もっと憧れの強者から多くを学びたいと思うだろう。
しかし卒業すればフロイスは精霊騎士団に所属し、今までのように学ぶのは難しくなる。
対しランは少なくともあと一年は変わらず学ぶことが出来る。
だから羨ましい、同じ憧れを抱くランはその気持ちを大いに共感できた。
「すっかり毒されましたね、あたしたち」
「口も態度も悪いだけにな」
「ほんとですよ」
共感して笑い合い、ランは体勢を低く、フロイスは中段よりやや左下へ切っ先を向ける王国剣術基本の構えに。
「無駄にしません。残り一年も、今こうしている時間も」
「良い心がけだ」
互いの持ち味を活かす構えから一呼吸後、同時に地を蹴った。
リーチの差から先に間合いに入ったフロイスが紅蓮を右上へと切り上げる。
愚直なまでに繰り返した一閃に対しランは――
(この一太刀を影縫でいなす――と見せかけて投げつけるっ)
怯んだ隙に左の蒼穹で勝負を決めるとやはり持ち味を活かした戦法を決断。
「な――っ」
瞬間、フロイスが紅蓮を手放しランは目を丸くする。
基本に忠実で、まず武器を手放すような戦法を取らないフロイスのらしくない行動はランの虚を衝くには充分で。
クルクルと上空を舞う紅蓮に目もくれず、フロイスは重心を低くしてランの懐に潜り込むなり肘打ちを。
勢いと体重の乗った痛烈な一撃にランの身体が吹き飛び――
「最後まで武器を手放さなかったのは見事だ」
「ごほっ…………言ったじゃない、ですか……。大事な大事な、相棒だって」
「自分もだ」
起き上がるより先に落下する紅蓮をフロイスは掴み。
「カルヴァシアに憧れる気持ちは分かるが、レヒドに憧れている者も多く居る……自分のように」
切っ先と共に向けられた眼差しから先ほどのらしくない戦法は、ランから学んだ強さだと伝えてくれているようで。
一年前に憧れを抱いたのは自分だけでなく、フロイスも抱いてくれたと知り。
「自分から受け継いだ学院最強の精霊騎士の座を最後まで守り抜き、同じように次世代に受け継いでやれ」
「……どうせなら、勝ち取りたかったんだけどなぁ」
にじみ出る涙を零さないよう霞む視界を空へと移し、ランは嬉しさと悔しさが入り交じった複雑な感情のまま。
「約束、します……」
敗北という形であろうと笑顔でフロイスから憧れの座を受け継いだ。
『――勝者フロイス=レイモンド! よって序列四位の座は継続され、ラン=レヒドの序列六位は空席とする!』
審判の宣言によってランは序列を失うも、観覧席には卑下する者は誰も居ない。
素晴らしい戦いを繰り広げた両者への敬意を込めた拍手が闘技場内に響き渡った。
その一方でカイルとディーンが激突している中規模闘技場では――
「分かってたけどマジどうすりゃいいんだ――!」
序列戦の再来と言わんばかりに闘技場内を逃げ回るディーンに観覧席から嘲笑や批判が飛び交っていた。
まずはフロイスとランの決着でした。
フロイスが一年間守り続けた学院最強の精霊騎士の座をランは受け継ぎました。
敗北という形ではありますが、それでもランがフロイスの強さに憧れたように、ランの勇士に同じような憧れを抱いた学院生は多く居たことでしょう。
で……一方で幼なじみのディーンくんです。
相変わらずお笑い要員のような状況となっていますが、こちらの激闘は次回で。
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