幕間 それなりの関係
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下克上戦まで残り二日。
「――ありがとうございました」
精霊祭後から続けている深夜訓練を終えたリースはお礼と共に一礼を。
下克上戦が終わるまでアヤトは訓練を中止したが個人訓練は毎晩続けているのでリースも変わらず参加させてもらっている。
まあ訓練中止を言い渡した最初の夜、改めて抗議に行った際にアヤトから『参加しないならさっさと寝ろ』と言われて個人訓練の参加は別と知った結果。
ロロベリアがアヤトの訓練を受けられないのに自分だけが、という後ろめたさが頭に過ぎるも親友や弟よりも弱い自分はなり振り構っていられない。
故に学院後の時間はロロベリアやミューズと一緒に、帰宅後もギリギリまで訓練に付き合ってからいつも通りの時間に参加している。
またこの訓練参加は自ら望んだ時間とアヤトの態度も割り切って、学ばせてもらっている立場として口答えもせず、普段よりも敬意をもって受けていた。
「ああ」
「…………」
が、アヤトの相づちにむすっとした表情で背を向けそのまま訓練場を後にする。
いつもならおやすみなさいの挨拶もしているのだが、やはり下克上戦までロロベリアの訓練をしないことは不服で。
他にも同じ屋根の下で暮らしているにも関わらずレイド戦の助言は当然、ロロベリアの状態を聞こうともしない無関心ぶりからリースも個人訓練の参加は感謝すれど割り切れないと、下克上戦が終わるまでは無言の抗議は続けると決めていた。
もちろんアヤトに通じることなく訓練を再開。
「よう」
しばらくして再び訓練場の扉が開き今度はユースが姿を見せるがアヤトは素振りを続ける。
無視をされてもユースは気にせず精霊力を解放して腰後ろに帯剣していた夕雲を抜いて同じく素振りを開始。
リースの相手をするのにアヤトは自身の訓練を中断しているのでキリが良いところまではこうして素振りをしながら待っていることもあるがユースがこの時間、この場所で訓練をするのは初めてでもない。ロロベリアとの入れ替え戦でリースの秘密訓練を知ってからユースも実は加わっていたりする。
ただリースの邪魔にならないよう時間をずらしているのもあるが、ユースなりに考えた訓練をしているからで。
ユースの強みは相手の性格や身体的情報から動きの予測。
しかし入れ替え戦で初めて本気を出した際に精神的負荷から徐々に思考速度が衰えていくのを痛感した。今までろくな努力もせず、言ってしまえば才能だけで熟してきたツケが回ったのだ。
故に今の自分に必要なのは基礎体力の向上と判断。
持久力が上がればそれだけ思考も維持できるとロロベリアたちとの訓練が終わった後、密かに外出しては走り込みを続けている。
今も訓練場に来たころには汗まみれと疲労した状態でリースがしてもらっているような模擬戦をアヤトにお願いしたのも実戦を想定したもの。
またユースの参加は不定期でもあった。
いくら基礎体力の向上が必要とはいえ、根を詰めすぎればオーバーワークでしかない。その日その日の体調も考慮に入れて精霊力の基礎訓練のみに留めたり、必要ならば休むとアヤトがやっているように自分なりに模索し、ユースも自身の強みを活かしつつ目標に向かって歩み続けていた。
ただ、それとは別として最近のユースはこの時間を有効に使ってもいる。
「さて、そろそろ遊んでやるか」
「よろしく頼みます」
アヤトが朧月を鞘に納め、代わりに抜いた月守を肩に乗せたところでユースの訓練も開始、リースと同じく敬意を込めた一礼を。
しかし呼吸を整える間を使ってユースはわざとらしい所作と共に息を吐く。
「そういやもうすぐ下克上戦だけど、姫ちゃんは勝てるかねぇ」
「どうだろうな。ま、ひよっこ同士の突き合いならどっちが勝ってもおかしくねぇだろ」
「つまり姫ちゃんにも勝機があると」
「どっちが勝ってもおかしくねぇと言ったばかりだが」
いつもならお約束で交わす質問もアヤトは適当ながらも返してくる。
教国の一件から、二人でいる時はそれなりに会話が成立するのは陰ながらアヤトの代わりを務めている報酬か。
そう、この時間でロロベリアやリースに知られたくない情報交換をしていた。
ユースは神気のアクセサリーを持っていないので王都にいるラタニやカナリアからの情報を得られない。
帰国後、教会を裏で操っていた謎の存在が他にも存在し、何かを企てていないかを休暇中にアヤトは調べていた。
その結果、とりあえず不可解な事件は見つからなかったらしいが時間が短い上にアヤト一人では限界がある。
なので今はラタニや小隊員が他国含めて秘密裏に調べ、マヤ伝手にアヤトにも情報が入ってくる。そして必要ならばユースにも話してくれるのだが、なにも言ってこないのならとりあえず問題はないらしい。
とにかく二人でいる時のみ、それなりに会話が成立するのだが所詮はそれなり。
踏み込んだ質問は相変わらずお約束で交わされるも、いま持ち出した話題はアヤト的に問題は無いらしい。
どんな基準で自身の考えを話しているかは謎だが、少なくともロロベリアやリースに話せば嫌な予感しかしないので胸の内にしまっている。
「白いのとレイドなら純粋な能力は互角か、僅かに白いのが上回っている」
「オレも同感」
「だが頭に関せばレイドが遙かに上回っているからな」
それはさておき、今回も雑談に付き合ってくれるのかアヤトは指でこめかみをつつきユースに向けて挑発的な視線を向けた。
「なり振りかまわけりゃお前も勝っていただろう?」
「負け惜しみかよ」
入れ替え戦はアヤトの予想を覆してロロベリアは勝利した。
もちろんユースが本気を出した結果、なのでからかうように笑うもアヤトの視線は揺らがず無言のままで。
「……オレにもプライドってもんがあんだよ」
視線に根負けしたユースは表情を歪めながら肯定する。
あの入れ替え戦は本気を出し切った。
勝利するつもりで挑んだ。
その気持ちに偽りはないが、なり振り構わなければ結果は別だったのも否定できない。
確実に勝利できるとも断言できないが、とにかくあの入れ替え戦はロロベリアとの真っ向勝負を優先してこそ意味があった。
しかしレイドはなり振り構わずロロベリアを攻略してくるだろう。
故にユースは勝敗を読み切れない。
レイドが最後までロロベリアを攻略しきるか。
それともロロベリアが持ち味を発揮してレイドをも超えるか。
果たしてアヤトはどう見ているかを探ってみたが相変わらず心情がまったく読み切れず。
「とにかく、俺としてはいい加減白いのに負けて欲しいんだが……今回ばかりは悩むところだ」
「ん? それまたどうして」
「さあな」
「…………そーですか」
更に意味深な情報はお約束で交わすとやはりそれなりの信頼関係らしい。
まあそれは仕方ないこと。
自分たちの関係は所詮利害の一致から。
「お喋りが済んだならさっさとかかってこい」
「お前が半端に終わらせたんだろ」
ここから先は言葉よりも成長することで信頼を勝ち取るとユースは夕雲を構えた。
アヤトくん久しぶりの登場ですが……相変わらず意味不なことばかり……。
とにかくユースとはそれなりの関係が続いてますが、所詮はそれなりと分かって頂けたところで次回から下克上戦の開始です。
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