相応しいのは
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最後の入れ替え戦の翌日。
下克上戦が行われるなら基本この日に発表されるので多くの学院生らは登校するなり闘技場前の掲示板に足を運び、期待以上の結果にざわめいていた。
なんせ去年行われた下克上戦は二戦、しかし今年は五戦。
つまり下位五名の序列保持者が上位五名の序列保持者に下克上戦を挑んだ。
このサプライズだけなら誰もが純粋に盛り上がれただろう。
ただ五戦とも同日時刻、わざわざ学院にある大小全ての闘技場を利用しての下克上戦となれば観覧できるのは一戦のみ。
故になぜ同時に開始されるのか、どの闘技場に行けば良いのかと悩むわけで。
まあこの日程は控え室で行われた密談でエレノアが皮肉った懸念を考慮した結果でしかなく、またそれぞれがギリギリまで対策しておきたいとの理由から。
そして密談だからこそこの下克上戦や指名挑戦の相手が卒業生側からの提案と知られてないわけで。
「ロロは悪くないのに……うざったい」
「気にしないの。これ食べる?」
「もらう」
昼休憩時、学食で苛々からやけ食いするリースをロロベリアが宥める事態になっていた。
下克上戦の対戦カードは今朝の内に瞬く間に広まり学院の話題を独占していたのだが、同時開始よりも対戦カードに不満を持つ者が多く。
三学生の序列保持者の勇士を見られる最後の機会だけに、序列一位のレイドに序列二位のカイルや序列三位のティエッタが、またティエッタに序列四位のフロイスとの主従対決と序列戦で叶わなかった好カードを期待していたのだろう。
その序列戦を大いに湧かせたレイドとエレノアの再戦を期待していた者も少なからずいたのかもしれない。
にも関わらず蓋を開けてみれば序列保持者の卒業生に在校生が挑む構図。
もちろんその中でも精霊騎士クラス二強のフロイスとランの好カードに満足しているようだが、期待していただけに妙な落胆もあったようで。
その落胆を晴らすようにロロベリアに批判が集まっていたりする。
なんせ五戦中もっとも差のある一位と十位、しかもロロベリアは序列内で唯一の一学生。
更に序列継続戦でエレノアに、序列戦でミューズに勝利したことから『自惚れも良いところ』『一学生が調子に乗っている』との陰口まで囁かれる始末。
密談とはいえ元々下克上戦に興味のなかったロロベリアがレイドに挑んだとなれば疑問を抱かれるのでニコレスカ姉弟やアヤトには内密を条件に明している。
なのでこのカードが卒業生側の提案で、レイドがロロベリアを逆指名したと知るリースが周囲の批判に苛立つのは当然で。
「ま、予想はしてたけどな。にしても、それ分かっててどうして姫ちゃんを指名するかねぇ」
周囲に気を配りつつ、事情を知るユースも今回の提案に不満を漏らす。
半年前の継続戦でそれなりに落ち着いてもロロベリアを快く思わない者はまだまだ居る、ならこの批判は予想済み。
卒業生側の真意は尊敬できる、しかしロロベリアが悪く言われればユースも面白くないので少しは配慮をして欲しかったと批判的。
ただそれ以上に周囲の反応が気に入らない。
一学生だろうと十位だろうと序列保持者には下克上戦を挑む権利はあり、それを周囲が批判する権利こそない。
そもそも序列戦から順位は強さに関係ないと目の当たりにしたはず。
確かにレイドは学院最強の序列一位に相応しい実力の持ち主。
しかし現在アヤトの師事を受けている中でロロベリアは誰よりも長く受け、また誰よりも修羅場を潜ってきた。
まさに命懸けの日々を過ごした結果、保有量こそ不利ではあるも手札の数や戦闘技能は序列内でも充分上位に食い込める。
それこそカイルやティエッタでさえ分が悪く、レイドに匹敵する唯一の学院生。
問題はロロベリアにとって序列内で最も相性の悪い相手が故に勝敗までは読み切れないが、だからこそ今回の下克上戦で一番の好カードとユースも贔屓なく断言できる。
にも関わらずこの状況……一学生でありながらレイドに匹敵する実力者だからこそ僻み妬みからきているとも理解しているが、最後まで学院の為に奮起するレイドら卒業生が浮かばれないと同情してしまう。
まあいつまでも足の引っ張り合いにご執心な者はそれまででしかない。
ユースが軽く情報収集したところ批判の数は圧倒的、しかし少なからずロロベリアに一学生にして初の序列一位を期待している者もいた。
継続戦に然り、選抜戦に然り、序列戦に然り、期待されるほど勇士をロロベリアが見せたこと、それを理解している者が居るのは嬉しいもので。
「私も驚いたけど……でも、やるからにはこれまで通りかな。挑戦して、超えるだけです」
周囲の雑音を諸ともせず真っ直ぐ先を見据えるロロベリアがまた格好良く、結果で黙らせてくれるだろうとユースも期待していた。
ただ問題が一つ。
「わたしも応援していますね」
「あの……ミューズさんは応援よりもすることがあるのでは?」
と、両手を合わせるミューズの穏やかな発言にロロベリアは気合いを削がれて脱力。
元々同じ学食に(言うまでもなくアヤトの学食)通っていたこともあり、長期休暇中に仲が深まったことでミューズとは食事を共にするようになったので今日も同じ席に居たりする。
そのミューズも下克上戦でティエッタと対戦、にも関わらず他人事のような対応をされればロロベリアの反応も仕方がない。
「もちろんわたしも精一杯頑張ります。ただ……」
ミューズなりにやる気はあるようだが、だからこそ不安げな視線を厨房に。
「当日まで出来る限り鍛えて欲しかったのですが……残念です」
「それは……まあ」
同じく厨房に視線を向けるロロベリアも残念と困惑の表情。
というのも昨日の密約を打ち明けた際――
『たまにはお前らだけで足掻くのも良いお勉強だろ。故に他の連中にも遊んでやらんと伝えておけ』
珍しく自分の考えを口にしてくれたが、つまり当日までアヤトの訓練を受けられなくなった。
ギリギリまで訓練をお願いするつもりだったロロベリアは残念で。
もちろんミューズや他のメンバーも同じ気持ちでいただけに、今朝方伝えた際は困惑と呆れが半々と言った反応を見せていた。
ただアヤトの言い分も理解できる。特にロロベリアは同じ住居だけに最も訓練が受けられる利点があり、自分なりに対策を考えるのも確かに良いお勉強と受け入れている。
「残念ですが仕方ありません。なのでミューズさんさえ良ければ一緒に訓練しませんか?」
「……いいのですか?」
「私に手の内がバレるかもしれませんが、それでもよければ」
なので早速出来ることをとミューズを誘うことに。
下克上戦後の総当たり戦で対戦する可能性を考慮した同時開始だが、元よりロロベリアは気にしていない。
それよりも目の前の一戦に全力を注ぐなら、少しでも強者との対戦経験を積んでおきたい。
故に同じタイプのミューズなら乗ってくれるだろうと提案したわけで。
「ロロベリアさんこそ、わたしに手の内が知られてしまいますよ?」
「気にしていたら誘ったりしません」
「ですね。では、よろしくお願いします」
多少の茶目っ気を見せ合うのもミューズとの仲が深まった証拠と二人は微笑み合った。
「わたしも手伝う」
「ありがとう、リース」
「ありがとうございます」
リースがすぐさま申し出てくれて、もちろん二人は感謝を。
「オレも協力するぜ……ま、オレに知られても良いならだけど」
更にユースも軽口交じりに申し出てくれて――
「……ならユースさんはお断りかな?」
「あれ?」
「ですね……ユースさんの分析力は怖いですし」
「ミューズ先輩まで?」
「はぶられるのは仕方ない。なんせ愚弟だから」
「なぜオレなら仕方ないんだよ姉貴!」
ロロベリアやリースだけでなく、ミューズにまで弄られていたが、これもまた仲が深まった証拠でもあり。
「ユースさんの協力は頼もしいので助かります」
「わたしもです」
「わたしは別に居なくてもいい」
「……姉貴はオレが嫌いなのかな?」
二人の気持ちに応えるべく出来る限りの悪足掻きをして、必ず手にするとロロベリアが気合いを入れる一方では――
「……カルヴァシアの気遣いか」
「気まぐれかもね」
序列一位専用訓練場のリビングでカイルとレイドは軽い昼食をしていた。
食事中の話題は今朝ロロベリアから受けたアヤトの言伝について。
と言ってもロロベリアはレイドに挑む立場なのでカイルが受けたのを伝えたのだが、下克上戦が終わるまでアヤトは訓練をしてくれないらしい。
元より三学生の序列保持者はアヤトの訓練を受けるつもりはなかっただけに気遣ってくれたのか、それとも気まぐれか。
普段の態度から真意が全く掴めないだけに判断に悩む。
ただどんな真意にせよやるべきことは変わらない。
「こちらは予想通りの事態が起きているがどうする」
「ロロベリアくんの現状かい? 彼女がこれまで見せてきた成長をみんなは見てなかったのかな」
「見たからこその嫉妬だろう。ま、嫉妬よりも悔しさから這い上がる努力をすれば良いとは思うが」
「同感だ。とにかく分からなければ無視をすればいい。彼女のことだ、ボクらがお節介をしなくとも結果で分からせてくれるよ」
「お前に勝利して、とでも言うつもりか」
「言わないよ。例えボクに勝利しなくても分からせるからこそキミや、ティエッタくんに遠慮なく指名させてもらったんだ」
嘆息するカイルに頷き、口元をナプキンで拭ったレイドは微笑する。
しかし常に冷静な彼にしては珍しくその瞳は情熱を帯びていて。
「序列保持者の中でロロベリア=リーズベルトが最も序列一位に相応しい挑戦者だったってね」
ロロは当然ながらレイドもやる気満々です。
……本当にアヤトくんは出てきませんね。
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