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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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【二周年SS 初めて感じた―】

何気に投稿を始めて今日で二周年です。

一周年はスルーしましたが、今年は読んでくださっているみなさまに感謝の気持ちからSSを投稿してみました。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


ではアクセスありがとうございます!



 アヤトと出会った当初こそ不満でいっぱいだったがシロ、クロと二人だけの特別な呼び方を始めてからロロベリアはより毎日が楽しくなった。


 今までは教会の子どもたちの中では最年少で、初めて出来た同い年の家族というのもある。

 同い年でも少しだけ年上なのでお姉さんになれたという嬉しさもある……まあ実際は度々やらかすロロベリアのお守り役の立ち位置をアヤトが確立したので、お姉さんと思い込んでいるのは本人のみと悲しい現実だったりするが。


 とにかくロロベリアにとって家族とは幸せの象徴。

 生活は貧しくとも、悲しい出生だろうと家族と一緒に居られる時間がロロベリアは楽しくて。

 だから新しく増えた家族が今までとは違う特別な存在で、他の家族とは違う幸せを感じされてくれる特別な笑顔を向けてくれるから今まで以上に楽しいと感じられると思っていた。


 のだが――


「……さすがに今回のやらかしは無いでしょ」


 自室に連れて来たロロベリアがようやく落ち着いたところで、マリアは力なくお説教を。

 事の発端は住民らを集めたミサの後、神父が住民の子どもたちに算術や物書きなども教えていた時のこと。

 その間はまだ勉強を始めるには早い幼児の面倒をシスターを中心に年長のマリアや二つ下のゴルディ、タールが手伝いとして見ているのだが先日アヤトが加わった。

 教会に来た時点でアヤトは既にマリアよりも算術や物書きが出来ていたので教わる必要はなかったが、両親を失ったショックから完全に心を閉ざしていたので幼児の面倒を見させることが出来ず、一先ずロロベリアと一緒に勉強会に加えていた。

 しかし多少強引ではあったがロロベリアが閉ざしていた心を開き、少しずつ立ち直り本来の自分を取り戻したことで手伝いに回ってもらうことになった。

 まあ二人がシロ、クロと呼び合うようになってからというもの、ただでさえ勉強に集中していなかったロロベリアがアヤトと仲が良くなりすぎて更に集中力を欠くようになったので勉強中は離すべきと判断。

 つまりロロベリアの今後を考えてとの理由が大きいのだが、当の本人は全力で拒否したのは言うまでもない。


 最終的にシスターからお叱りを受けてロロベリアは嫌々ながらも受け入れ、大人しく勉強していたのだが……さすがの行動力と言うべきか神父の目を盗んで部屋から抜け出し、アヤトに会いに幼児組みを預かっている部屋に来てしまった。

 それだけのやらかしならまだ良い……よくないが、勉強をサボった罰として物置部屋で反省させるだけで済む。

 だがこっそりやって来たはずのロロベリアは、あろう事かアヤトと一緒に遊んでいた女の子を怒鳴りつけたのだ。

 突然攻められた女の子は大泣き、つられるように周囲の子ども大泣き、そんなロロベリアをシスターが叱る前にアヤトが叱りつけ最後はロロベリアも大泣きと最悪な事態に。

 町の住民に信頼されて預かっている子どもを理不尽にも泣かせてしまえば亀裂を生む。

 特に教会のような施設は住民らとの信頼関係が大切、さすがに物置部屋で反省させる程度のやらかしではない。


「すん……ごめんなさい」


 幼いながらロロベリアも自分のやらかしがどれだけ迷惑を生むか、また泣かせてしまった子どもたちに申し訳ない気持ちもちゃんとあるので素直に謝罪を口にする。

 ただロロベリア自身、なぜ怒鳴ったのかよく分かっていなかった。

 最初はアヤトと離れているのが寂しくて、こっそり様子を見に行こうとしただけ。

 なのに覗き見たアヤトが女の子と楽しそうに笑っている姿にもやもやして。

 絵本を読んであげている姿にもやもやして。

 あやとりを披露してすごいと褒められている姿にもやもやして。


 アヤトが笑っていると幸せなはずなのに。

 すごいと褒められると嬉しいはずなのに。

 仲良くしているのは良いことなのに……胸がもやもやがどんどん大きくなって。


『クロの特別なのはわたしなんだからね!』


 気付けば部屋に飛び込んでしまい、泣き出す女の子をアヤトが慰めるとまたもやもやして、そのもやもやを吐き出すように喚き散らしていた。

 今まで感じたことのないキュッとなる胸の痛みやもやもやが気持ち悪くて叫ばずにはいられなかった。

 でも叫んでスッキリするどころか、アヤトに叱られて今度はもやもやよりも悲しくなって。

 シスターに叱られると怖いやごめんなさいの気持ちになるのに、アヤトに叱られると悲しい気持ちがいっぱいで。

 訳が分からないまま大泣きしてしまったが……今でもなぜあんな気持ちになったのかが分からない。

 まあ分かってないのは本人のみ。


(……いや、アヤトも気付いてるか怪しいわね。あの子も変なところで鈍感だから)


 この世の終わりみたいに落ち込むロロベリアの姿にマリアはため息一つ。

 落ち着きがなくて考え無しな単純で、真っ直ぐすぎる故に度々やらかすロロベリアだが、意外にもやらかすのは家族に対してのみ。

 恐らく家族という存在に安心感があることでたがが外れるだけで、町の住民に対してはブレーキが踏めるので迷惑をかけたことはない。

 なので預かる子どもとトラブルもなければ理不尽に泣かせることもなかった。

 にも関わらず今回そのブレーキを踏めなかったのは、初めての感情に振り回されただけのこと。

 家族なら安心できるから仲良くするのは嬉しい、褒められれば自分のことのように嬉しいと素直に受け入れられる。

 しかし家族以外の、自分以外の女の子がアヤトと仲良くするのが嫌で、自分が特別だと主張していたのなら取られてしまうのではないかと不安になった。


 要は好きな人を取られたくないという嫉妬もやもやを押さえきれなかったのだ。


 まあマリアを始めとした家族はロロベリアが初めての恋心をアヤトに向けているのは既に気付いている。

 ただ当の本人が全く自覚なし。

 故にあの場をシスター達に任せ、アヤトに叱られて大泣きするロロベリアをマリアは自室まで連れて行くことに決めて、シスターも任せてくれたのだろう。

 自覚していない恋心に振り回されている状態で怒鳴ってしまったことを『ごめんなさい』させるよりも、まずは感情を落ち着かせてから反省を促すべきと。

 またアヤトも落ち着かせる必要があった。

 基本ロロベリアに甘い傾向はあるも、理不尽な怒りを子どもにぶつければ話は別。

 なにより嫉妬から来るものと理解してなければ余計にロロベリアのやらかしを許せなかったのだろう。

 子どもとは思えないほど聡い子ではあるが、今までの様子から気付いていない。

 というよりもロロベリアが向ける感情が『家族として大切』と捉えているようにマリアたちは思えるわけで。


 とにかくあのままではロロベリアが謝るまで叱りつけるだろうと危惧し、子どもたちをあやす目的を与えれば、その間にアヤトは感情のコントロールもできるとの信頼から二人を離した。

 結果としてロロベリアは落ち着き、端的なお説教で自主的に反省している。

 後は子どもたちにごめんなさいをさせるのみ……唯一の懸念は今回の一件でロロベリアとアヤトがすれ違いをしないか。

 また今後も恋心に振り回されて同じような問題をロロベリアが起こさないか。

 二人の成長と関係を温かく見守るつもりでいたが、こうなればハッキリと自覚させる方が良いかとマリアが判断に悩んでいると――


 コンコン


『あの……ぼくです』


「――っ」


 ノックの音とドアの向こうから聞こえる声にロロベリアがビクリと震えた。

 まあ声の主はアヤトで、先ほど叱られた怖さや気まずさ、嫌われたかもしれないという不安もあるのだろう。

 ただ声を聞く限りアヤトは落ち着いている。


「入っていいわよ」


 なら二人を向き合わせて、必要ならばフォローすれば良いとマリアは招き入れることに。

 同時にさっと自分の後ろに隠れるロロベリアを他所に、入室したアヤトはまずマリアに報告を。


「みんな泣き止んでくれて、今はお昼寝してます」

「そう、大変だったでしょう」

「それはもう……シロのせいで大変でした」


 苦笑交じりの批判に背後のロロベリアが更にビクリと震えるのをマリアは感じつつ。


「シロも、悪いことをしたって分かってるよね」


 しかしアヤトの雰囲気から大丈夫と判断し、そのまま静観することに。


「ほら、マリアさんの後ろに隠れてないで」

「…………わかってます」


 促されるままビクビクと姿を見せるロロベリアと向き合うようにアヤトは腰を下ろし。


「じゃあなにが悪かったのか教えて」

「泣かせちゃったこと……」

「それだけ?」

「……ちゃんとごめんなさいせず、泣いちゃったこと」

「他にもあるよね?」

「え……? えっと……えっと……」

「神父さまに内緒で勉強会から抜け出したことは悪いことじゃないの?」

「あ……悪いこと、です」


 なにが悪かったのかを一つ一つ自覚させたアヤトは、俯き再び泣き出しそうなロロベリアの頭を優しく撫でた。


「だよね、ならちゃんとごめんなさいしようか」

「……クロ、怒ってないの?」


 頭を撫でられたことでようやく顔を上げるロロベリアに向けてアヤトは困ったように苦笑を浮かべる。


「怒ってるよ? だからさっきも怒った」

「だよね……ごめんなさい」

「謝る相手ははぼくじゃないって、シロはもう分かってるだろ?」

「……え?」

「だから、シロが悪いことをしたからぼくは怒って叱った。反省したシロは謝る相手が分かったなら、いま何をするかもわかったはずだよ」

「でもでも……クロ、怒ってるって……」

「怒ってるから早くシロと仲直りがしたいんだ」

「…………」

「悪いことをしたならちゃんと反省して、もう泣かせないからね、勉強会を抜け出さないからねって、許してもらえるまでごめんなさいしないと叱ったぼくはシロを許せないから」

「…………」

「でもぼくは早くシロと仲直りしたい。いつまでも悲しい顔でいて欲しくない。だってシロがいないとぼくは寂しいから」

「…………」

「それともシロはぼくと仲直りしたくない?」

「したいよ……クロと仲直りしたい……クロがいないと寂しい……」

「なら一緒だね」

「うん……クロと一緒……クロ~!」


 嫌われていなかったこと、一緒の気持ちと知ったロロベリアは安堵からアヤトに抱きつき結局泣き出してしまう。


「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」

「だから謝る相手が違う……ああでも、ぼくと仲直りしたいだけで反省してないよね?」

「うん……うん! クロと仲直りしたいけど……泣かせちゃったこともちゃんと反省してるから……嫌いにならないでね……」

「ならないよ。ぼくがシロを嫌いになるなんて……ぜったいに。安心したなら立って、ちゃんとごめんなさいしに行こうか」

「……クロも一緒にいってくれるの?」

「まだ怒ってるからね。シロがちゃんとごめんなさいするか見張っておかないと」

「…………もうクロに怒られたくないから行く!」

「あのね……ぼくに怒られたくないから反省するのも違うからね」


 先ほど叱られたのが相当怖かったようで、泣き止むなり颯爽と部屋を飛び出すロロベリアに呆れつつアヤトも後を追う。

 まあマリアも初めて見せたアヤトの怒りに身震いしたが……普段温厚な子ほど怒ると怖いと実感したほどで。


 それはさておき、すれ違いを懸念していたのがバカバカしいとマリアは笑うしかない。

 自分がフォローするまでもなくアヤトとロロベリアの仲は元通り。

 加えてアヤトがいるなら……少なくとも叱られる恐怖からロロベリアも同じ問題を起こさないだろう。

 なら今後も変わらず二人の成長と関係を見守る方が良いのかも知れない。

 もちろん楽観視せず、姉として注意を払うつもりでいるが――


「私も恋したいな~」


 仲睦まじい二人に当てられたマリアは手でパタパタと顔を仰ぎつつゆっくりと立ち上がった。




はい、初めて感じたロロのもやもやでした。

一周年の更新も何気にロロのもやもやシリーズ……いえ、狙ってはいませんよ?

しかしチビベリア……ではなく、シロとクロの物語を書く度に現在の二人と全然違うな~と感じます。


それはさておき次回更新からもちろん本編再開。

久しぶりの連続更新、つまり明日から再開を予定しているのでお楽しみに!


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