動きだす
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新体制の学院生会は入学試験という最初の山場を終えたが気を緩める暇もなく、ひと月後には卒業式を迎える。
だが学院生会とは関係なく序列保持者のエレノア、ラン、ディーンは今期最後の入れ替え戦を控えているので気を緩める暇などない。
学院生のトップである証、序列という称号を最後の最後に失えばこの一年あぐらをかいていた、挑戦者の方が精進を重ねていたと同意。
加えて最後の入れ替え戦後は一年の間で最も下克上戦が行われる。
挑まれる者は挑戦を拒めない下克上戦は挑む者が勝利すれば上位に、敗北すれば序列剥奪というリスクはある。
しかしそのリスクは三学生にとって序列保持者のまま学院生を終えるかとの面子のみ。
在校生は後に行われる来期の序列を決める総当たり戦が優位になるかどうか。
また序列同士の公式戦は滅多にない為、この一年で自分がどれほど成長したかを証明する場にするもここ数年は学院生のレベルが低迷しているように、そのような向上心を持つ者は少なく保身に走る者がほとんど。
昔は頻繁に行われていた下克上戦も昨年度は二戦のみ。
ちなみにその二戦は精霊術クラス三学生の序列一位にティエッタが、精霊騎士クラス三学生の序列二位にフロイスが挑んでいたりする。
真の強者を志すティエッタとその従者のフロイスらしい挑戦の結果はフロイスは敗北したもののティエッタが大金星を挙げて序列一位となった。
まあその下克上戦でティエッタの試合運びや実力をレイドとカイルが分析し総当たり戦で勝利したりと二人は保身よりも先を見据える強かな狙いもあったが。
とにかく今年の序列保持者はラタニの思惑とアヤトというイレギュラーの登場から例年に比べてレベルが高く、向上心は言わずもがな。
特に親善試合の結果から新たな試みとして行われた精霊祭での序列戦が大いに白熱したことで入れ替え戦後から卒業式までの間に序列保持者がどう動くか、誰が誰に下克上戦を挑むのかと学院内で期待感が募っていた。
のだが――
「お前たちはどうするつもりだ」
最後の入れ替え戦を控えた放課後、序列専用の室内訓練場でエレノアは共に訓練をしていたランとディーンに意思確認。
以前のエレノアは親友のミューズやレイド、カイルといった近しい関係と、ランとディーンは幼なじみ同士ということから訓練を一緒にしていたが序列同士の交流が深まって以降は他の序列保持者とも一緒にするようになっている。
これも打倒アヤトという共通の目標が生まれたことによる効果。
しかし共通の目標があれどライバル同士なので頻繁ではない。ただ三人は学院生会という立場からアヤトとの訓練が出来ない分、仕事後に集まって訓練する機会が増えていた。
もちろん総当たり戦ではライバル同士、手の内を知られないよう卒業式が近づけば控えるつもりで。
それでも総当たり戦があるからこそ、同じ二学生同士なら下克上戦も関係ないとエレノアも興味本位から二人の意思を確認できた。
「あたしは考えてないかな」
「俺もっす。下手に挑んで負ければ総当たり戦で不利になるし」
が、二人とも意思はないようで。
「もちろん先輩方に挑みたい気持ちはある……けど、それよりも総当たり戦でライバルになるエレノアに手の内を見せたくないから。なんてね」
「とまあ秘策は公式戦まで隠すべきって感じっす」
「……そうか」
先を見据えた理由を口にするも、二人が配慮してくれているのは察していた。
一部の不満を抑えて平民の二人を学院生会に入れられたのは序列という立場が大きい。
しかし下克上戦で敗北すれば一時的に序列を失う。相手が上位の序列保持者、三学生だろうと関係なくその事実から不服を漏らす者は必ずいる。
こうなれば二人を指名した生会長の資質を疑われる。つまりエレノアへの配慮だ。
エレノアとしては気にせず挑んでもらって構わないのだが、配慮されている側が勧めるのも二人のプレッシャーになるかもしれないと及び腰になるわけで。
そして元より序列の数字どころか序列そのものに固執のないミューズやロロベリアも下克上戦に挑むつもりはないらしい。
シャルツは不明だが少なくとも在校生の中で挑むのは自分だけになりそうだとエレノアは苦笑を浮かべる。
兄のレイドに序列戦のリベンジもしたいが、序列保持者として学院生らの見本となる戦いをすれば更に向上心を与えられる理由から。
まあ昨年同様ティエッタとフロイスが挑めば辞退するつもりだが。
ティエッタは序列戦で序列二位のカイルに勝利した。なら学院生活最後に花添えるべく次は序列一位のレイドに挑み、主が上を目指すならフロイスも同じくだ。
そうなれば序列一位と三位、二位と四位の好カード。自分のリベンジよりも卒業生同士の白熱した戦いの方が影響力を与えるだろう。
なら先輩方の置き土産を受け取るべきなのだが。
「先を見据えるのは結構だが、見据えすぎて目前の入れ替え戦で躓くなよ」
「下克上戦の話題を出したエレノアがそれを言う?」
「だよな」
「……言われてみればそうだな」
序列保持者は有利になるだけで選抜には関係ない総当たり戦はともかく下克上戦は序列を維持してこそ挑む資格がある。
なので入れ替え戦で敗北すれば良い笑いものと二人の指摘にエレノアは首を振った。
もちろん入れ替え戦を軽視していない。
学院最強の十名という序列保持者のプライドなどアヤトによって既に砕かれている。
故に一戦一戦に対する集中力は常に持ち合わせているのでエレノアに慢心などなく、ランやディーンも同じ気持ちで挑むだろう。
「では無意識な慢心をへし折ってもらおうか」
「あたしにアヤトみたいなへし折り方を期待しないでよ」
「口の悪さも含めてか?」
分かっていても敢えて気を引き締めるべく、エレノアとランの模擬戦が始まった。
◇
そして迎えた入れ替え戦当日。
前回の入れ替え戦ではユースやミラーが挑戦者として参加したが、事前に宣言していたようにユースは見送っている。
ただ意外にもミラーまで不参加。三学生だからこそ最後も挑んでくると思っていただけにランが内心安堵していた。
しかし最後だからこそ三学生の挑戦者の執念は凄まじく、十戦とも白熱こそしたが序列側の全勝と最後まで貫禄を見せつける結果となった。
「とりあえず面目は保てたかな」
「なんとかな」
挑戦者を退けた十人は拍手で見送られつつ控え室に戻る中、レイドとカイルは肩の荷を下ろしたような表情で和やかなやり取りを。
これで三学生は序列保持者として卒業できるのなら気持ちも分かる。
しかしまだ確定ではない。
例年通りなら控え室で下克上戦を考えている者は相手を指名する。
下克上戦を挑む資格は序列一位を除く序列保持者のみなのでタイミング的にここになるのだが、エレノアの予想通りミューズやロロベリアからその意思は感じられず、ランとディーンも返答通り挑むつもりはない。
ならティエッタとフロイスの次第でエレノアはレイドに挑むと動向を見守っていたが――
「疲れているところ悪いけど、みんな少し付き合ってもらえないかな」
控え室に入るなりレイドが口を開く。
不意の提案にそれぞれ訝しむも三学生のみは平然と聞き入れたことから、みんなというのはエレノア、ラン、ディーン、ミューズ、ロロベリアを指しているのか。
その証拠に室内にレイドを挟むように右にシャルツとカイル、左にティエッタとフロイスが並び立ち、結果的に卒業生と在校生が向き合う形になっていた。
「お兄さま……なにを考えているのですか」
この状況から卒業生側がなにか計画していると判断したエレノアは警戒しつつ質問すれば、両サイドを一瞥したレイドはとても穏やかな笑みを浮かべて。
「そう警戒しなくてもいいよ。ただボクらはキミたちに下克上戦を挑んでもらいたいだけだからね」
とても穏やかではない提案をしてきた。
エレノアとラン、ディーンの組み合わせも珍しいですね。
それはさておきラストの提案から十章も本格的に動きます。
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