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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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優先されるのは

アクセスありがとうございます!



 サクラだけでなくロロベリアも知らないが、王国で謎の襲撃犯――ネルディナの存在を知ったアヤトがソフィアの死が他殺の可能性があると睨み、エニシに調査協力を要請した際に条件として入学試験で王国に訪れるサクラにツクヨとの面会の場と自分との手合わせを要求。

 まあ本来このような条件など求める立場でもないが、借りを作るなら必ず返さなければ落ち着かないアヤトの信条を考慮しての要求。

 そして律義なアヤトは教国から帰国する船内でツクヨに事情を説明(と言っても実に簡潔なものだった)。ツクヨも桜花の持ち主に興味があり、アヤトのダチなら悪友として挨拶しておくかと呆気なく了承。

 なによりユースの武器を打つ約束もあり、元よりラナクスに用があったツクヨは入学試験に合わせて訪問したらしく。


『……ツクヨさんが到着したのをアヤトに伝えたと』


『正確には自宅に到着されたツクヨさまが兄様とロロベリアさまが不在と知るなりわたくしに居場所を尋ねられたのでお伝えしました』


 ただアヤトも正確な日時は任せていたのでツクヨが到着したと聞くなり迎えに行ったと、ブローチ越しでマヤから詳しい経緯を聞いたロロベリアも納得。

 そしてあの状況でツクヨの到着をどのような方法で知ったのか説明できないアヤトは端的な返答のみで、見送りに来たエニシには説明できたので迎えに行くと伝えていた……が、結果あのご対面。

 もし説明できたとしてもアヤトのことだ、同じような返答をしただろう。そもそもツクヨとは日時を決めていたとしていれば問題は無いのだ……現にエニシはそうサクラやエレノアに説明していた。

 まあ些細でも嘘になるのでアヤトらしいと言えばらしいがそれはさておき。


『じゃあユースさんの武器も完成したのね』


『ユースさまと実際に手合わせし、兄様の意見も伺ってから打つそうです』


『ならツクヨさんはしばらくラナクスに滞在するんだ』


『そうなりますね。それよりもロロベリアさま、せっかくの機会ですし集中されてはどうですか?』


 マヤのクスクスとの笑い声にロロベリアも確かにとブローチから手を離す。

 というのもツクヨの訪問目的はサクラとの面会とエニシとの手合わせ。

 なので夕食もそこそこに二人は訓練場に。

 エニシの要望よりもツクヨの方が待ち遠しかったようで、夕食時から色々と聞きたくウズウズしていたサクラは『爺やは人気者じゃのう……』と後回しにさせて嘆いていたりする。


 ただサクラには申し訳ないがロロベリアとしてもこの対戦は興味深く、特にツクヨの実力を知らないエレノアは興奮気味で。


「――アヤトが認めるだけあるぜ!」

「お褒め頂光栄でございます!」


「…………」


 が、二人の手合わせが始まってからは圧倒されて茫然自失。

 なんせ愉快気な声は聞こえど二人の姿を追い切れない高速戦闘が続いているので無理もない。

 エニシの実力は当然、自分より一つ違いのツクヨがこれほどの実力者とは想像していなかったのだろう。

 それでもロロベリアの予想通り、精霊力の視認から後の先を取れてもエニシを相手では分が悪いのか、ツクヨは徐々に押され始め――


「くそ……がっ!」


 鍔迫り合いから僅かに距離が空くなりツクヨは瞬時に精霊力を刀に纏わせ豪快な振り下ろしと共に放つ。

 精霊力の扱いでは劣るエニシは精霊力を桜花に纏わせる暇も無く。


 しかしやはりエニシと言うべきか、僅かに身体を反らして冷静に対処。


「――っ」


「勝負あり、ですかな?」


 からの部分集約で強化した動体視力でも追えない速度で距離を詰め、桜花の切っ先をツクヨの首筋に添えていて。


「……あり、しかねーな。たく、今までは本気じゃなかったってわけかよ」

「いえいえ、私もいっぱいいっぱいでございました」


 互いに切っ先を下ろしつつ精霊力を解除と、余力を残していたエニシの勝利で終わった。


「そりゃどーも。で、そいつの具合はどうだ」

「むろん素晴らしいの一言でございます」


 互いに握手を交わすなり製作者としてツクヨが確認すればエニシは満足げに桜花の刀身を撫でる。


「切れ味、強度はさることながらこの美しき刃紋……いったいどのようにして打たれたのか興味が尽きません」

「そいつは……まあ、な」

「そうでございましたか。ところでそちらの見事な業物もツクヨさまが打たれたのでしょうか?」


 言い淀むツクヨに気を配ったのかエニシは話題を変えて、彼女の手にしている刀に注目。


「まあな。こいつはアタシに合わせて打った一振りで命は『白月はくづき』ってんだ」


 元々主力としていた月守をアヤトに渡しているので別の刀を持参したらしいが、名にふさわしい銀の刀身に白い刃紋の一振り。やや直刀よりではあるも朧月を連想させる見目はジンの死後、敢えて意識してツクヨが打ったのか。


「でもま、褒めてくれるのは嬉しーけど……アヤトが持ってる月守や朧月よりは遠くおよばねーよ」

「そういえばアヤトさまも新月から新たな刀に持ち替えておられましたが……」

「色々あったんだよ」

「で、その色々でアタシが使ってた月守を貸してるってわけだ」


「……アヤトもアヤトじゃが、ツクヨもツクヨか……いけずな悪友どもじゃ」


 端的を通り越した雑な説明を聞いていたサクラは残念がるも、ツクヨがジンから受け継いだ製法技術は簡単に明かせず、また新月を失った経緯は複雑が故に話せないだけで。


「どうでもええが、そろそろ妾にも構ってくれんか?」

「おっと、白いのちゃんと同じで皇女さまも構ってちゃんみてーだな」


 なぜ新月を失ったアヤトに月守を貸しているかはロロベリアも知らないが、手合わせが終わったならと我慢していたサクラが声を掛けるもツクヨはカラカラと笑い。


「…………カルヴァシアが二人居るようだ」

「ま、まあまあ……ツクヨさんはアヤトほど態度悪くありませんから」

「お前ら、俺をなんだと思ってんだ」


 あまりな態度にうな垂れるエレノアにロロベリアがフォローを入れるも、サクラは気にした様子もなくツクヨの元へ。


「知らなんだのか? なら妾を無視して爺やと楽しんでおったのにも納得じゃ」

「んじゃ、そろそろ皇女さまのお相手しますかね」

「ようやくか。ではお茶でも飲みながらゆっくりお喋りしようぞ」

「皇女さまとお茶する日が来るとはな……世の中わからねーもんだ」


 と、念願叶いウキウキ顔のサクラに対し、苦笑しつつ白月を鞘に納めるなりツクヨは両手を合わせる。


「ただよ、お茶するならサシでお願いできねーか?」

「……つまり妾とお主でか」

「やっぱ皇女さまと二人きりってのは不味いか。アタシとしてはサシの方が仲深められると思ったんだけどよ」


 突然の頼みごとに僅かに眉をひそめるサクラにツクヨは頭をボリボリかく。

 いくら私的の場でも出会ったばかりの平民が皇女と二人きりでお茶をするなど容認されるはずもなく、そもそも提案するだけでも神経を疑われるだろう。


「アヤトの友人なら妾の友人じゃ。お主と仲を深めるのも望むところ、爺やも構わんな」

「では、私はエレノアさまとのお約束を守りましょう」


 しかしそこはサクラ、アヤトの友人という信頼や元よりこの手のタイプを気に入る性分なので快く受け入れ、その性分を知るエニシも当然のように受け入れた。

 ただツクヨに興味を向けているのはエレノアも同じで。


「……私もツクヨ殿と話してみたかったのだが」

「もちろん王女さまが望むなら喜んで……だけど、さすがに皇女さまと王女さまと一緒にお茶とかアタシも緊張するんで」

「まったくそうは見えないが……まあいい」


 今までの明け透けな態度から緊張という言葉を理解しているのかとエレノアは突っこみたいが先に約束していたのはサクラ。エニシに稽古を付けてもらうのも魅力と今回は引くことに。


「では滞在中に改めて私との時間を作ってもらえないだろうか」

「王女さまの望まれるままに。てなわけで、今は皇女さまの望まれるようにお茶しますか。あ、お茶が終わるまで帰るんじゃねーぞ」

「へいへい」


 約束を取り付けたところでアヤトにクギを刺したツクヨはサクラと共に訓練場を去って行く。


「どうでも良いんじゃが、妾のことはサクラで構わんぞ」

「さすがのアタシでも皇女さまを呼び捨てとか無理ですって。アヤトじゃあるまいし」


「……そもそも呼び捨てと捉える方がおかしいんだがな」

「……ツクヨさんがアヤトより弁えようとしていると捉えて頂ければと」

「なるほど……そう捉えればカルヴァシアよりはマシに思えた」

「だから、お前らは俺をなんだと思ってんだ」


 去り際のやり取りに呆れ果てるエレノアやロロベリアの見解はアヤトの自業自得なので誰もフォローしなかった。




ロロは大変そうでしたが、エレノアの成長ぶりが窺えましたね……まあ、アヤトで馴れたのもあるんでしょうけど。

ちなみにツクヨはアヤトと友人になる物好きならサクラさまもこの程度気にしないだろう、との判断から普段通りに接しているだけで本来はそれなりに弁えが出来る子です……それなりですけど。


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