待望の
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水精霊の周季二月に入り、新学院生会が本格始動。
メンバーは生会長にエレノア、精霊術クラス代表にディーン、精霊騎士クラス代表にランと序列保持者が選出された。
また騎士クラス代表にイルビナ=フィン=シーファンス、精霊学クラス代表にシエン=ローエン、仕官クラス代表にレガート=フィン=エンフィードを選出。
各代表を二学生から選出するも平民を三名加えたことにエレノアが旧学院生会の学院改革を受け継いでいる表明にもなっていた。
なんせ資質重視とはいえ学院生会に選ばれる平民は多くて二名。
いくらディーンやランが序列保持者で、たった一名増員といえどまさに家柄関係なく平等との理念を示した形。
また精霊術クラス代表にミューズではなくディーンが選出されたのも話題となった。
留学生とはいえミューズの家柄や実力だけでなく人格も相応しいと多くの学院生は予想していた中で意外な選出。
ただこの選出にはエレノアなりに考えてのこと。
当初は精霊術クラス代表候補にミューズの名があれば迷わず選出するつもりでいたが、自分に最も近しいからこそミューズには学院生会を外から見た意見が欲しいと。
ディーンを選出したのも平民という理由だけでなく同じ序列保持者として知る強みに期待して。
こうした柔軟な考察もまたエレノアの成長と言うべきか。ディーンだけでなくランも驚いていたが、自分たちにも学院を良き方向に導ける手助けが出来るならと了承。
そして新学院生会が始動して最初の業務は入学試験で――
「なるほどのう……エレノア殿も着々と理想を体現しようと邁進しておるわけか」
入学試験二日前、ラナクス入りしたサクラは近況を聞いて感心していた。
ちなみにサクラの宿泊先は昨年の見学時に利用した屋敷、合格すればそのままこの屋敷を利用する予定でもある。
また学院終了後にエレノアが出向いたのは生会長や王族という立場よりも純粋な友人として。皇族といえどサクラも入学試験を受ける一人に過ぎないなら、王国側も最低限の便宜は図れど特別扱いをしていない。
まあ影ながらアヤトに護衛を依頼しているが、見学時に学院代表として交流を深めた仲として夕食を共にする予定で、サクラの希望でロロベリアやアヤトも同席していた。
「貴族、平民の数を含めて平等に。これならどちらを優先、ではないまさに平等とも言えるのう」
「生会長を含めてと意識はしましたが、私なりに各代表が選出された候補者から選んだ結果です」
「つまりたまたまと。男女比率も踏まえてか?」
「ええ。あくまで私が必要とする人材を選んだまで」
なのでエレノアとサクラが互いの近況報告を兼ねた談笑をロロベリアは静観、アヤトは我関せずとお茶を飲んでいたがそれはさておき。
「まあ理念も意識しすぎると偏る故、長の私感もしっかりと交える方が良き結果となるか。とにかく生会長就任おめでとうと言っておこう」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。それで、サクラさんの準備は万全ですか?」
サクラ、エニシからの祝福に感謝を述べたエレノアは話題変更。
仕官クラスと畑は違うも問題ないだろうと一応程度の確認に、お茶を一口飲んだサクラはなぜか渋い表情を。
「……色々と立て込んでおったので、万全とは言い切れんのう」
「留学前となれば研究で忙しかったと」
「研究……まあ研究じゃな」
「そうですか」
淀みある口調からエレノアは多くを聞かず引き下がる。
王国、帝国で精霊器に関する共同研究をしているとはいえサクラほどの立場となれば機密も多いので当然の配慮。
「…………」
が、その機密を知るだけにロロベリアはエレノアの配慮に内心安堵。
なんせサクラが立て込んでいたのは秘密裏に回収した兵器の解体や分析の責任者を一任されていたからで。
ソフィアが開発した対精霊術士兵器『レヴォル=ウェッジ』はアヤト達の狙い通り貴族家の摘発は広まれど兵器の存在を知るのは帝国でもごく一部、王国ではそれこそ国王すら知らない機密事項。
しかも裏でアヤトや教国が関わっていることは皇帝は疎かサクラすら知らないのだ。
故にロロベリアも知らない体を貫く必要があるわけで。
「むろんそちらの試験を舐めてはおらんが、合間に対策もしておるから問題は無かろう」
「問題あれば帝国の恥ですからな。お嬢さまも必死にお勉強をされておりましたのでご安心を」
「爺や……言うでない」
「これは失礼しました。ところでエレノアさま、入学試験後には入れ替え戦が控えているそうですが、自信のほどはいかがですか?」
「忙しい中でも時間を見つけて訓練は積んでいる。問題は無い……が、よければ滞在中エニシさんに稽古を付けてもらいたい」
「それはそれは……お嬢さま、よろしいですかな?」
「爺やはほんに人気者じゃ……好きにせい」
エニシも知る者として気を配ったのか、そのままロロベリアも加わり入れ替え戦や訓練の話題で盛り上がっていたが。
「サクラ」
「なんじゃアヤト。お主も爺やと遊び――」
「少し抜けるぞ」
「…………は?」
これまで適当な相づちのみで会話に参加していたアヤトが不意に立ち上がり、サクラだけでなくロロベリアやエレノアもキョトン。
「アヤトさま、もうすぐ夕食の準備が出来ますが……どちらに?」
「野暮用だ。間に合わなければ食っていて構わんぞ」
エニシの問いに端的な言葉を返しそのまま応接室を後に。
「……カルヴァシア」
「爺や、一応見送りしてやれ」
「畏まりました」
相変わらずなアヤトに頭を抱えるエレノアに対し、サクラは嘆息しつつエニシに指示を。
「して、一応程度に聞いておくがロロベリアよ、なにか聞いておるか」
「……なにも」
「じゃろうな」
もちろんロロベリアも首を振り、もとより期待していなかったサクラも肩を竦めてしまう。
「あいつは本当に……珍しく素直に同席したと思えばこれだ」
「まあ野良猫を縛り付けるのは難儀なものじゃ。仕方なかろう」
「……すみません」
嘆く二人になぜか申し訳なくなりロロベリアが謝罪を口にする。
「お主が謝ることはなかろうて。それよりもロロベリア、アヤトとの仲はどうなっておる」
「どうもなにも……見た通りと言いますか……」
「つまり相変わらずか……情けないのう。もっと積極的にいけばよいものを」
からの、ここぞとばかりにアヤトとの関係を探るサクラにロロベリアは戸惑いつつ、ミューズを応援しているエレノアは微妙な表情。
合間にエニシも戻ってくるも、夕食の準備が出来てもアヤトは戻ってこず。
「ほんに、あやつはどこで何をしておるのやら」
「少し抜けると言っていたなら戻っては来るだろうが……」
「…………」
応接室から移動している間もロロベリアは居たたまれない気持ちで後に続いていたが。
「サクラさま、アヤトさまがお戻りになりました」
「やっとか」
食堂に入るより先に、玄関口からやってきた使用人の報告を受けたサクラはため息一つ。
ただアヤトの姿はどこにもなく。
「……あやつはどこにおるんじゃ?」
「それが……お連れの方と戻られたので、サクラさまに確認したく……」
「連れじゃと?」
「「…………」」
予想外な理由に首を傾げるサクラや嫌な予感を覚えるロロベリアとエレノアだが、エニシのみ楽しげな笑みを浮かべて。
「問題ない。丁重にお連れしなさい」
「畏まりました」
「……爺や。また妾を仲間はずれにしておったのか」
何かを察したサクラは批判する目を向けるもエニシは動じることなく首を振る。
「仲間はずれなんてとんでもない。ですがお嬢さまを驚かせる為にアヤトさまの行き先を内密にしていたこと、お詫び申し上げます」
「つまり見送りの時にちゃっかり聞いておったと……」
「プレゼントはサプライズにしておく方が喜ばれるかと」
「……プレゼント、のう」
「あの……エニシさん、アヤトは誰を連れて来たんですか?」
「どうでもいいが……サクラさんとエニシさんは主従に思えないな」
などと二人の明け透けな関係に妙な感心を受けるエレノアを他所に、ロロベリアの質問に対してもエニシは和やかな笑みを絶やすことなく。
「もうすぐお分かりになるのでお楽しみに……と、言ったそばからですな」
と、気配を感じたのか姿勢を正すエニシに自然と視線が玄関方面に向けられて。
「なあ……お前の交流関係マジどうなってんだよ」
「どうだっていいだろ」
「………………はい?」
使用人と共に歩み寄るアヤトと一緒に居る人物を確認するなりロロベリアから間抜けな声が漏れた。
「その髪色はもしや……」
「…………まさか」
対する面識はないが特徴から察したのか目を見開くサクラやエレノアの前で二人は立ち止まった。
「つーかここにおわせられるのはエレノア殿下とサクラ殿下だ。失礼のないようさっさと挨拶しろ」
「失礼とかお前に言われたかねーよ……でもま、たしかにな」
アヤトの失礼としか思えない紹介に呆れつつ。
「お初にお目に掛かるぜ、エレノア殿下にサクラ殿下。アタシはアヤトの悪友のツクヨ=ヤナギだ」
自己紹介をするツクヨもたいがいに失礼な態度だった。
久しぶり登場のサクラさまとエニシでした。
そしてサクラさま待望のツクヨとご対面……ですが、今回はアヤトと言うよりエニシの悪のりが原因ですかね。
またディーンやラン以外の新学院生会メンバーについては後ほど。
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