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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十章 先達の求めた意地編
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アクセスありがとうございます!



 長期休暇も終わり学院も再開。


 この時期になると三学生は忙しい。

国内でも名門中の名門マイレーヌ学院の学院生となれば卒業後の進路に困ることはなく、既に軍を始め各分野の機関から声を掛けられている。

 また貴族家の子息子女は後継ぎ候補として家業に携わったり、平民であればお抱えの仕官や騎士と進路も様々。

 ただ進路が決まっていても気は抜けない。

 平民は配属先で少しでも良い条件を得られるように、貴族は面子として修了試験で優秀な成績を収める必要があるので最後まで己を高め続ける。

 対し序列保持者や学院生会に所属している三学生は修了試験が免除されていたりする。

 これも序列保持者や学院トップ組織としての待遇なのだが、だからといって気を緩めるような意思があれば元より選ばれることもない。

 故にこの待遇は卒業前に行われる最後の入れ替え戦や、来期の学院生会の選出や引き継ぎに集中するもの。


 まあ一学生のロロベリアたちにはまだ先の話。

 なので今まで通りロロベリアは大英雄への道を歩む為、ニコレスカ姉弟は彼女に追いつく為に学院終了後もアヤトの訓練に集中していた。


 しかし今回の長期休暇後も日々の生活にちょっとした変化が起きていた。


「――は! や!」


 住居に隣接する工場施設を改装した訓練場内に響く気合いのこもった声と、時折響く金属音。

 声の主――ミューズは懸命に直刀のサーベルを振るうも、対峙するアヤトは悠々と躱し、気まぐれのように月守で弾き返すのみで。


『青き流星よ――っ』


 アヤトが後方へ躱すタイミングに合わせてミューズは精霊術で追撃。

 水塊は三つと少ないが速度重視でアヤトを狙い撃つ。


「……やれやれ」


 が、アヤトは月守で斬ることなく最小限の動きで躱しながら逆に距離を詰め、勢いのままミューズの左脇に蹴りを放つ。


「ぐ……っ」


 咄嗟にミューズは左腕で防ぐも強烈な一撃に苦悶の表情。


「っ……はっ!」


 それでも集中は途切れることなく、動きの止まったアヤトにサーベルを一閃。

 しかし相手はアヤト、反撃に動揺せずミューズの左肩に手を置き軸足のみで跳躍。


「よっと」


「つ……あぁ――ッ」


 飛び越えざまに無防備な背中を蹴りつけ、勢いのままミューズの身体が激しく地面に打ち付けられた。


「たく、反撃するなら少しは踏ん張りきかせろ」


 そして相手はアヤト、気遣うどころかノロノロと起き上がるミューズに冷ややかな視線と酷評を。


「つーか今までサボっていたから剣技も精霊術も温いんだよ」

「……も、もうしわけありません」

「謝る前に心構えの改善を少しは示せ」

「……はい」


「…………うわぁ」


 二人のやり取りに見学していたユースはどん引き。

 アヤトが厳しいのは今さら、相手が誰だろうと容赦はしない。

 ただこう言っては何だがロロベリアを始めとした序列保持者の女性陣やリース、ミラーのような武闘派とは違いミューズは争い事とは無縁の、むしろ庇護欲をかき立てるタイプ。

 もちろん序列九位としての実力を持ち、志願してアヤトの訓練に挑んでいるなら遠慮する必要も無い……が、それはそれとミューズが訓練の度にボッコボコにされる姿は中々にクルものがあるのでユースは馴れなかった。


「続けるぞ」

「お願いします……っ」


 それはさておきミューズが立ち上がるなり訓練再開。

 左腕の様子から蹴られた衝撃で骨にヒビが入ったのか動きがぎこちない。

 しかしその程度の怪我なら続行はいつものこと。大事になる前にアヤトが交代を告げるか治療をさせるので問題はないのだが。


「ミューズさまの攻め意識は相変わらず」

「だからアヤトも私たちを相手するより手数が少ないんでしょうね」


 同じく見学しているリースとロロベリアは平然と意見交換。

 同性以前にボッコボコにされているのがミューズだろうと訓練だからと割り切れているのだろう。

 また以前のユースならミューズがどうなろうと関心を向けなかっただろうが、教国滞在を機会に交流が深まったお陰で彼女の為人を素直に受け入れたからこそクルものがあるわけで。

 なにより二人との違いは訓練に対する覚悟の差、アヤトはもちろん二人との差もまだまだ遠いとユースは苦笑。


 このようにちょっとした変化とはアヤトの訓練を受けるメンバーにミューズも加わったこと。

 これまで教国の留学生ということから自重していたが、祖父ギーラスの許可……というより教国の一件からミューズの判断で行動するようになった。

 加えて専属従者に気遣う必要がなくなったのも大きい。

 アヤトの実力や為人を知ったことによる信頼か。または主を思うが故に座して見守っているのか。

 なんにせよミューズの加入は訓練仲間からも歓迎されていたりする。

 今まで留学生が故に蚊帳の外だったことから訓練は受けられなかったが、同じ高みを目指す者としては拒むどころかライバルが強くなるのは望むところ。

 更に問題視されていたロロベリアの負担に一躍買っているのも歓迎の理由か。

 怪我ありきの訓練なので治療術を扱える従者のいないラン、ディーン、シャルツ、ミラーの平民組は基本ロロベリアに頼り切り。

 しかしミューズの保有量はリース並み、必ず同伴するレムアも水の精霊術士なので平民組だけでなくニコレスカ姉弟も二人から治療術を受けられる。

 その結果ミューズが訓練に来る日はロロベリアは自身の訓練に精霊力を全て費やせるようになり、夕食後の訓練はマンツーマンで受けるようになった。

 またアヤトの訓練を受ける誠意として、レムアが夕食の準備をしてくれるので時間を有効に使えるようにもなった。

 学院が始まって早七日。

 その間にミラーとシャルツ、ティエッタとフロイス、ランとディーン、レイドとカイル、エレノアはある意味単独で一度ずつ。対しミューズは休養日以外皆勤賞。

 今まで受けられなかった分、他のメンバーよりも遅れているとやる気なのもあるが、レムアの恩恵が大きくむしろ願ったり叶ったり。


 ちなみに年越し祭の途中で姿を消したアヤト(とマヤ)に参加していた面々は仕方ないと納得してくれたがロロベリアとリースは別、特のロロベリアは声もかけずどこかに行ったことにもやもやが大変で。

 まあ事情を知るユースがやんわりフォローを入れて落ち着かせたが、学院再開前日にラナクスで合流するまで連絡無しだったことにまたもやもやと、カナリアの苦労を実感したものだ。


 とにかく時間を有効に使える分、訓練内容はより厳しくなったがむしろ望むところ。

 ミューズという強者の立ち回り、特に防御技術は勉強になるとこの時間の訓練に参加しないロロベリアも見学していた。


「や! や!」

「なにも変わってねぇぞ。それとも舐めてんのか」

「そんな……っ! ことは――」

「なら少しは示せと何度言えば分かる」

「……はい!」


「……相手がアヤトだから?」

「ある意味そうとも言えるんだろうけど……それにしては攻防どっちも妙にぎこちない」


 リースの違和感に茶化し交じりにユースは首を振る。

 というのも心根の優しさから攻めの意識が弱いものの相手の動作を読んでいるかのように的確な一撃を狙うだけの力量があり、その強みからミューズの防御技術はユースの見立てでも学院一だ。

 更に相手の心情や動作を読み取る能力に長けているユース、言うまでも無くアヤトに対するミューズの想いは察している。

 しかしその想いを差し引いてもアヤトが相手になるとミューズはどちらも精度が落ちているように映る。

 この違和感はアヤトとの力量差が原因ではなく、強みである読みがかみ合っていないのか。

 まあ同じ強みを持つユースもクセや初動のないアヤトの動きは読めないので仕方ないと肩を竦めるも、ロロベリアの原因を知っていた。

 お互いにアヤトの想いを打ち明けた際、打ち明けてくれた相手の精霊力を視認できるミューズの特異性。

 しかもツクヨのように色ではなく輝きで感情を読み取る違いから唯一知るアヤト以外には話していない。

 感情を読み取れると知られれば利用する者、敬遠する者が出てくる。それでも打ち明けてくれたなら秘密にするべきで、むしろミューズが寄せてくれた信頼が嬉しくてロロベリアは友人になった。

 なによりお互いに大切な想いを語り合った仲、今さら感情を読み取られようと気にしないわけで。


 ただ精霊力の視認という優位性が通用しないからこそ、精霊力を秘めていないアヤトのから後の先が取れず違和感として映る。

 だからこそ、これまで精霊力の視認に頼っていたミューズにとってアヤトとの訓練は飛躍の切っ掛けになるだろう。

 同じ優位性を持ちながら自分たちよりも高みにいるツクヨのように、今のミューズに必要なのは心構え。

 相手を気遣う優しさはミューズの美点、しかし時には傷つけてでも守る覚悟がなければ自分だけでなく周囲をも危険にさらす欠点にもなる。

 故にアヤトも厳しく指摘しているわけで。


「もういい」


「か……っ」


 半端な攻撃を続けるミューズの脇腹にアヤトの容赦ない蹴りが直撃。


「げほっ……ごほ……っ」


 痛みと苦しさから精霊力を維持できず銀髪赤眼に戻ったミューズは蹲り大きく咳き込むも。月守を肩に乗せたアヤトはため息一つ。


「休憩がてら攻撃しか脳のないリスから学べ。つーわけでリス、交代だ」


 言い方はアレでも、この面々で最も好戦的なリースから心構え学ばせようと交代を指示。


「わかった」

「わかり……ました。ありがとう、ございます……」


 なのでリースは炎覇を手に意気揚々と向かい、腹部を治療しながらミューズは一礼を。


「学ばせて……いただきますね」

「がんばる」


 すれ違いざま何とか微笑みを向けるミューズにリースは気合いを入れる――


「ま、見事なやられっぷりまでは学ぶ必要はないがな」


「……いつか必ず泣かすっ」


 が、アヤトの嘲笑がなによりもリースのやる気に火を付けたのは言うまでもない。



  

アヤト先生の訓練にミューズもようやく参戦。

他の序列より出遅れた彼女の成長も見守って頂ければと。



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読んでいただき、ありがとうございました!



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