守護者は明かす
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アヤト、マヤが無事合流(アヤトはロロベリアと二人で迎えたが)、予定していたメンバーで改めて新年のご挨拶と年越し祭を楽しむことに。
遅れていた二人が到着したことで待ち合わせ場所に留まる必要もなくなったので、全員で新年を迎えて更に賑わう王都を巡りを。
マヤは他のメンバーとも和気藹々と楽しみ、人混みにうんざりしているアヤトもそれなりに交流していたのは良い傾向で。
合間にマヤの行動でロロベリアやリースが訝しむ出来事もあったが、それぞれが思い思いに年越し祭を満喫していた。
「――もう行くのか」
が、新年を迎えて一時間ほど、気付かれないよう路地裏に向かうアヤトにユースが声を掛ける。
「よく気付いたな」
「姫ちゃんに少しくらい付き合うって言ったんだろ。で、お前の事情を考えりゃそろそろかってくらいの予想は立てられる」
故に動向を気にしていたので、悟られないよう集団から離れていくアヤトにも気づけたとユースは笑った。
「少しは頭の使い方を覚えたようでなによりだ」
「そりゃどうも。にしても、なんで黙って行くかねぇ。行き先さえ言わなけりゃ問題ないだろうに」
「声かけたら構ってちゃんがうるさいだろ。理解したなら適当にフォローしておけ」
「難儀な奴……マヤちゃんも既に離れてんの」
「その辺に気配はあるな」
「ならおねむなマヤちゃんに気付いた優しいお兄ちゃんがおぶって帰ったとでも言っとくわ。少なくとも他の連中は楽しい時間に水刺すのも悪いって良い方向に納得してくれるだろ?」
「別に良い方向に納得させる必要はないんだがな」
「ほんと難儀な奴……そういや、聖女さまに渡したアレはお前の判断か」
そのまま二人で路地裏に向かいながら先ほどマヤがミューズに渡したブローチについてユースは真意を問う。
あのブローチはロロベリアやラタニ、カナリアが所持している神気のブローチ。
普段から兄がお世話になっている方にプレゼントしている御守りのような物、と前置きしてマヤは教国で兄がお世話になったのでとミューズに渡したのだが、あれが神気のブローチと知るからこそロロベリアやリースは困惑。
対しミューズは恐縮しながらもマヤからの贈り物を素直に受け取ったものの、マヤの正体やブローチの機能を知らなければ意味はない。
せいぜい今後ミューズの状況や居場所を距離関係なくマヤは知ることできるくらい。
ただ現状を取り巻く事情を知る者からすれば、それこそ御守りとしてミューズも所持しておくべきとユースも納得しているのでアヤトが指示したかとの疑問。
「マヤが簡単に俺の指示に従うかよ」
「つまりマヤちゃんの独断か」
「お気に入りには渡しているからな。故にエニシの爺さん、ツキ、カナリアには条件ありきだ」
「姫ちゃんやラタニさんと同格って……いや、マヤちゃんだからその辺の基準は知らんけど……だからこそか」
しかし経緯を知ったことでユースは落胆。
アヤトが指示したならまだ用心程度と捉えられるのに、マヤが興味を示したとなれば嫌な予感しかしない。
なんせユースは教国で起きた不可解な事件の裏で起きた更に不可解な出来事をアヤトから聞いている。
教皇の容態が急変した際、大聖堂の棟でマヤと対峙していた謎の存在を。
その話を聞いたのは帰路の船内。いつの間にかポケットに忍ばされていた手紙に従い、同室のリースが寝静まってしばらくしてからアヤトの居る客室に向かったのだが――
◇
「――つーわけで、俺は神殺しを達成した人間らしいぞ」
「らしいって……」
呼び出しについて尋ねるより先に教国で起きた出来事を説明されたユースは呆れてしまう。
ミューズが神を降臨させる器として利用されていたことや、教皇やギーラスが聞いた神の声や関係者の記憶が曖昧だったとは聞いているが、事件の裏で本当に神が関わっていたとは初耳で。
本来は驚愕の情報なのにあやとりしながら他人事のように説明するアヤトの緊張感の無さが呆れさせているのだがそれはさておき。
「ま、少なくともそいつから神気を感じなかったがな。マヤも教会が崇めていた神さまで、今回の面倒事における真の黒幕みたいなものと言っていただけだ」
「……それはまた不確定な情報ばかりで」
マヤのいやらしい言い回しにユースは落胆。
教会が崇めていた神さま、真の黒幕みたいなものでは、その存在が本物の神と判断できない。
神気とやらをアヤトが感じ取れなかったから、その存在が神ではないとも言い切れない。
マヤが神という情報も自己申告。未知の力を秘めているのなら人間ではないが、だからといって神とは限らない。
それこそ神と対なる存在――想像上で恐れられている悪魔という可能性もある。
ただこの真偽を確かめる術はないので保留にするとして、条件だからと言われるままその存在を消滅させたアヤトの神経が理解不能で。
なにより理解不能なのがこの状況。
ユースはとりあえず一番の疑問を解消することに。
「んで、秘密主義のお前がなんでオレにこんな話してんの。最初に足手まといだって仲間はずれにしたのもお前だろうに」
そう、重大な情報を明かしたアヤトの真意だ。
ロロベリアやリースに知られないよう秘密裏に呼び出したのなら、少なくとも二人には明かすつもりはないだろう。
なら何故自分には明かしたのか。
「そう拗ねるな。つーか白いのの精霊力が妙なのはお前も知ってんだろ」
「……異質な精霊力の影響を受けなかったってやつか」
アヤトは話題を変えるがユースも不可解には思っていた。
非合法な実験で偶発的に得た他者の精霊力に干渉する異質な精霊力に、なぜかロロベリアだけは全く影響を受けなかったらしい。
本人は当然、カナリアやツクヨも疑問視していたがやはり真偽を確かめる術がないので保留のまま。
「不可解な点でいやミューズも同類だ。故に神の器として選ばれたようだが」
「聖女さまも……? それってどういう意味だ」
「他者の秘密をベラベラ喋るように見えるなら、帰国したら頭と一緒に目も診てもらえ」
「頭は余計だろ……つまりそこまで話すつもりはないわけね。でもま……なるほどね」
ミューズの不可解な部分は聞けなくとも、アヤトが何を危惧しているかはユースも理解できた。
教会を裏で操っていた謎の存在が神の器として不可解な何かを秘めているミューズを選んだのなら。
今回はミューズだったが、ロロベリアもその存在に狙われる可能性がある。
消滅したとはいえ、ソレが一つとの確証はない。
つまりアヤトが自分に求めているのは――
「やはり頭の使い方を覚えればそれなりに使えるな。俺は帰国後、念のため探るつもりだ」
「教会みたいな暗躍、または怪しい事件が起きてるかどうかだろ。マヤちゃんみたいなよく分からん存在が他にも居るなら、どこかで面倒ごとをしでかしてるかもだし」
「あくまで念のためだがな。もし白いのに何かあればラタニを頼れ。あいつやカナリアにも既に話は付けてある」
「オレに臨時のお守り任せなくても、お前が居ないなら姫ちゃんはラタニさんを頼るだろうに」
「今回は珍しく冷静な判断をしたが、あいつは褒めるとすぐにつけ上がるだろ」
「へいへい、言ってろよ」
四六時中ロロベリアと行動を共に出来ないラタニやカナリアと違ってユースは王都やラナクスでも一緒に行動している。
故にロロベリアの近くに居る自分に情報を明かした。
不足の事態が起きても臨機応変に立ち回させる人材がいれば対処しやすい。実力不足だろうと、その人材としてユースが選ばれた。
嫌味で誤魔化そうと、留守中にロロベリアを守る手段を増やす為で。
「そんなに心配なら姫ちゃんにも話せば良いのに」
「心配なのは白いのが暴走して俺に迷惑をかけないかだ。つーか白いのやリスが知ればどうなる」
「……めっちゃ不自然になるだろうね。気を張りすぎて周囲に知られる可能背もあるし」
「お前は隠し事が得意だからな。要は適材適所だ」
「隠し事についてお前に言われたくねーよ」
軽口も嫌味で返されるが確かに適材適所といえる。
なんせロロベリアやリースは感情が表に出やすい。特にリースは短絡的で猪突猛進、ロロベリアが謎の存在に狙われる可能性があると知れば何をしでかすか分からない。
何事にも真っ直ぐなのは二人の美点ではあるが、事の重大さを考えると秘密にしておく方が無難。
なら隠し事の得意な自分が今は苦労を受け持つべきで。
また嫌味で隠そうとアヤトが普段からロロベリアの安全を真剣に考えていると知れたことで察することもできた。
「お前がオレや姉貴を鍛えてるのって、姫ちゃんを守る為か」
「なにを今さら。お前らは損得勘定無しで白いのを優先するだろう」
損得勘定無しでロロベリアを優先してくれるのは両親にも言えること。
しかし常に一緒で近しい関係なら自分やリースになる。
今まで頼まれてもいないのに自分たち姉弟を鍛えているアヤトの真意に疑問を抱いていたが、単純にロロベリアを守る戦力として見込んだにすぎない。
こうなるとロロベリアを鍛えているのも自衛手段を付けさせるためか。
本人が大英雄と呼ばれる強さを得られれば脅威はぐっと減る……が、ロロベリアに関してはそう単純な理由ではない。
何故ならアヤトはロロベリアを守ると約束する前から鍛え始めた。
シロとクロの記憶を失った状態で、出会ってさほど接点がない頃から自ら関わろうとした理由はなんなのか。
「白いのから聞いてないのか。あいつを鍛え始めたのは利用できるかもしれん程度の期待からだ」
「だから、その利用ってのについて聞いてんだよ」
この疑問に対しの返答にユースは追求を辞めない。
アヤトがロロベリアを大切に思っているのは間違いない。
ただ大切が好意とも限らない。なんせ自分もロロベリアやリースを大切に思っているが恋愛感情は全くないからだ。
故にロロベリアを鍛え始めた際に告げた、利用という言葉からアヤトの真意が掴みきれず。
その理由を知ればアヤトのロロベリアに対する大切の意味を少しは理解できるかもしれない――
「さあな」
「……こいつ」
が、肝心な部分は秘密主義。分かっていたがユースは怒りが込み上げる。
「ま、興味があるならお前も口先だけではないと証明しろ。最低限、白いのやリスと三人がかりで俺に一撃食らわせる程度に成長すりゃ考えてやるぞ」
「それが最低限の条件で、考えるくらいの証明かよ」
「ようやく本気になったならその程度くらい出来るんだろ? 天才さま」
「こいつマジ泣かしたい……」
更に嫌味で交わされ拳を握りしめるもため息と共に怒りを吐き出した。
相変わらずだろうと少しは自分の覚悟を認めてくれたからこそ、今のもアヤトなりの叱咤激励。
要は仲間はずれにされて悔しかったなら、実力でその悔しさを証明しろと。
それが出来て初めて対等な仲間として認めてやるということだ。
ならこれ以上はなにを言ったところで相手にもされないとユースは自分の立場を受け入れて。
「姫ちゃんと約束したんだから年越し祭には戻って来いよ」
「へいよ」
今はロロベリアを大切に思う者同士として使われてやると誓った。
◇
こうした事情を知るからこそマヤがミューズにも興味を示し、神気のブローチを渡したのならアヤトの危惧は限りなく正解とも捉えられるわけで。
なんせマヤにとって楽しい観察対象に入ったということなら、今後もミューズを取り巻く何かに謎の存在が関わる可能性がある。
そしてロロベリアも……もう嫌な予感しかしない。
ただ全ては状況を踏まえたアヤトの予想、不確定要素ばかりで確実性はない。
「マヤちゃんがサービスしてくれると、アヤトも面倒ごとを受け持たずに年越し祭を楽しめるんだけどなー」
その不確定要素を少しでも補うカギはやはりマヤ。
間違いなく謎の存在について知っているだろうと、どこかにいるマヤに軽いノリでお願いしてみるもアヤトから冷ややかな視線が。
「バカかお前は。それはマヤを煽っているだけと分からんのか」
『面倒ごとを受け持つ兄様を観察する楽しさは否定しませんが、そもそも兄様に年越し祭を楽しむような可愛げはないかと』
「……正論っすね」
脳内にクスクスと響くマヤの笑い声にユースは反論できなかった。
まあ所詮は軽いノリ、簡単に情報を与えてくれると思ってもいないので気を取り直し。
「成果はどうだ」
「なにもねぇよ」
「なにもないのが一番だけど……まだ二日だしな」
「そういうことだ。満足したならお前はさっさと戻れ」
「お前もな。いつまでも留守してると姫ちゃんが寂しがるぜ」
最後の忠告に返答はなく姿を消したアヤトにユースは肩を竦めてしまう。
「なにより姫ちゃんを守るなら……お前が一緒に居るのが一番だろ」
聞こえないと分かっていても、言わずにはいられなかった。
不測の事態を想定したアヤトがロロの身の安全を確保する手段の一つとしてユースを選びました。
理由は本編を読んで頂いた通り、ロロの周囲で無条件に協力してくれて立ち回りや判断力に優れているのはユースですからね。
それにプラスして実力が備われば問題なし……ですが、最低限の条件でも高いハードル。
しかしユースならやってくれると信じて、これにて九章のオマケも終了。同時に今作の第二部も終了となります。
新たに判明した謎の存在、ロロの精霊力についてと色んな問題は残りましたが、次章からはしばらく学院がメインです。
レイドたち三学生の卒業、新たな序列メンバー決め、そしてロロたちが進級することで新たな出会いもありますからね。
もちろん今回残した問題についてもちょいちょい触れていきますが、ロロたちにも青春を謳歌して欲しいので……アヤトくんにもね。
なのでまずは第十章『先達の求めた意地編』をお楽しみに!
……ですが、新章開始を前に本編とは別の更新を挟む予定。
そちらもお楽しみ頂ければ幸いです。