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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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ブローチの対価

アクセスありがとうございます!



 日付が変わる頃、日課の自主訓練を終えたアヤトは室内訓練場からそのままバスルームで汗を洗い流していた。

 使用を終えれば換気をしつつ室内の清掃を。

 風精霊の三月、しかも夜更けとなれば肌を刺すような冷たい風が入り込み、温めた身体が一気に冷えるも蒸気を逃しておかなければカビの原因になる。

 不衛生を嫌うアヤトにとって優先順位は冷えよりもカビ、故に清掃にも冷水を使って念入りに。

 と言っても手際の良さからそう時間も掛からず終了。服とサクラやエニシから贈られた友好の証であるブレスレットを身に付ける。

 後は朧月や新月の手入れ、日によっては読書をしてから就寝するのがいつもの流れだが――


「アヤトさん、訓練お疲れさまでした。まずは温まってください」

「すまんな」


 バスルームを出ると合わせたかのようにキッチンで温かなお茶を煎れたカナリアがお出迎え。

 リビングには他にもソファでちびちびとお酒を楽しむラタニも居て、そのまま向かいに着席するアヤトはカナリアの煎れてくれたお茶を飲んで一息。

 その間にカナリアはラタニの隣りに腰掛けるもお酒ではなく一緒に煎れたお茶で喉を潤す。

 二人がリビングに居るのを当然のようにアヤトが受け入れているのは元より自主訓練後に話し合いをする予定だったからで。


 昼過ぎ、ミューズに許可をもらい長期休暇中の教国訪問にカナリアの同行が決まった。

 昔から懇意にしているアヤトの保護者として同行するがそれは表の理由。

 真の目的は教国滞在中アヤトが動きやすいようフォローをする為、そしてロロベリアの安全を確保する人員として。

 この話を聞いたリースが自分も一緒に行きたいと駄々をこね、カナリアが同行するならアヤトがなにをやらかしても安心とユースが軽口を叩いていたがそれはさておき。

 もし教国が謎の襲撃犯と繋がっている場合、このタイミングでカナリアを同行させれば警戒される可能性もある。

 しかしアヤト以外に事情を知る協力者が居れば不測の事態が起きてもロロベリアを守りやすい。

 まあロロベリアの同行を言い出したアヤトはマヤの協力を得るためのご機嫌取りと言い張っているが、立場上同行できないラタニとしてはカナリアが居る方が色々と安心できるからこその采配。

 故に同行許可を得たことで改めて三者での話し合いをする為、カナリアはアヤトの訓練終了に合わせてリビングに移動し、ラタニの相手をしながらお茶を用意していた。

 カナリアが同行する真の目的はロロベリアたちに秘密だが、食後の訓練でアヤトだけでなくラタニにまでボッコボコにされて今ごろ熟睡しているだろう。

 普段はアヤトに個人訓練をお願いしているリースも今日は起きられなかったようで、万が一誰かが起きたところで二階だろうとアヤトが気づける。


「マヤ」

「お呼びですか、兄様」


 なので遠慮なくアヤトが呼び出せばソファの背もたれに腰掛ける形でマヤが顕現。

 お呼びもなにも四六時中アヤトを観察しているならこの場の意味も知っているだろうと呆れるラタニに対し、隣りのカナリアは言葉がない。

 マヤの正体が神であると事前に聞かされていてもロロベリアたちと一緒に居る時はそれなりに自制できたが、実際に不可思議な現象を目の当たりにすればやはり驚愕は隠せない。


「カナリアさま、そう緊張されずとも先ほどのような振る舞いで結構ですよ」

「……あ、そう……ですね」


 そんなカナリアを案じてというより面白がりつつマヤから言葉を投げかけられ、落ち着く為にお茶を一口。


「失礼しました。ですがマヤさん、いくら神とはいえそのような場所に座るのは如何なものかと。アヤトさんも注意しないのですか?」


 敢えて自分らしい言動でペースを取り戻そうとするもアヤトは肩を竦めるのみで。


「マヤのやることいちいち気にしてたら身が持たんって」

「そういうことです」

「ま、テメェで肯定してりゃ世話ないがな」

「……そうですか」


 カラカラと笑うラタニと苦笑するアヤトのノリについて行けないカナリアはどこか居心地が悪く。

 元々不思議な子ではあったが聞き分けは良かっただけに、正体を知られるなり開き直るマヤにカナリアは複雑で。

 なによりこれまで感じられなかった妙な不気味さが加わり、無意識に視線を反らしてしまうも当のマヤはどこ吹く風で。


「早速ですがカナリアさまへプレゼントです」


 背もたれで足をプラプラさせていたマヤが指を鳴らすとカナリアの膝にポトリとなにか落ちたした感触が。

 僅かに体を震わせ確認すれば膝の上に金の縁に白銀の宝石がはめ込まれた四角いブローチが乗っていて、デザインからして神気で象ったブローチで間違いないだろう。


「これは……」

「カナリアさまにも必要かと思いまして」


 確かにこのブローチはカナリアにとって必要不可欠。

 マヤを介入しなければならないが、距離関係なくアヤトと連絡が取れるので連携もしやすくなる。

 加えて相手にも気付かれず連絡できる手段はかなり有効な手札、なのでカナリアもこの場でマヤにお願いするつもりでいたのだが。


「ほう? 随分と大盤振る舞いじゃねぇか」

「実はカナちゃんお気に入りだったん?」


 意外そうな反応を見せるアヤトとラタニにカナリアはキョトン。

 てっきり任務に必要と事前に二人が頼んでくれたと思っていたがどうやら違うようで。


「こいつに頼み事するには基本対価が必要なんだよ」

「その対価もマヤの気分次第だしねぇ。ま、この子が気に入った相手なら別だけど」


 なのでロロベリアやラタニは無償の提供、エニシやサクラは入れ替わりがバレた責任としてアヤトが無理矢理用意させたらしい。

 つまりカナリアもロロベリアやラタニと同じように気に入られていた――


「カナリアさまも興味深い人間ですが……ロロベリアさまやラタニさまに比べると物足りませんね」

「……そうですか」


 ――わけではないようで、何故かカナリアは寂しくなった。


「なので対価を要求させて頂きます。もちろん不必要であればお断り頂けても結構です」

「……対価とは?」


 それはさておき、どのような対価を要求されるか分からないだけに若干怖いが、このブローチは是が非でも欲しい。

 多少無茶な要求でも呑む覚悟で向き合うカナリアにマヤはクスクスと笑い。


「そう難しいものではありません。もしカナリアさまに聞ける機会があるのなら、是非ともお聞きしたいと思っていた疑問ですから」

「……疑問?」

「はい。ラタニさまにボッコボコにされた兄様を休ませている際、なぜカナリアさまは興奮気味で兄様の寝顔を凝視されていたでしょう?」


「……あん?」

「……へぇ?」


 意味不明な質問に訝しむアヤトに対し、なにかを察したラタニはニマニマ。

 対し問いかけられたカナリアの表情は青ざめていて。


「俺の寝顔とはどういうことだ?」

「ですから、まだ兄様がラタニさまとセイーグで暮らしていた頃です。ボッコボコにされて気を失われていたので兄様はご存じないでしょうが、カナリアさまはいつも治療後しばらくは兄様の寝顔を凝視していたんですよ」


 そんな変化も知ったことかと疑問を投げかけるアヤトと、状況説明を始めるマヤはまだ察していないのか。

 ラタニの訓練を受けたアヤトの看病を治療術が扱えることから基本カナリアが受け持っていた。

 あの時はまだマヤを引き取っていない頃で、引き取った後でも見られないよう警戒していたはずなのに……いや、疑問視するのはそこではない。

 マヤの正体があまりに衝撃的で失念していたが、四六時中アヤトの観察を楽しんでいるのなら、幼いアヤトが眠っているのを良いことに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 マヤの正体を知らない内は、なぜ知っているかを疑問に思われると自重していたのだろう。

 しかし知られたなら遠慮なく当時の真意を聞きたいのは分かる。

 なんせそれほどアレな発言や行動をしていた自覚がカナリアにはあった。


「しかも興奮しているのか鼻息が荒く、目も血走っていましたね。それと可愛い? 食べたい? と呟いていた――」

「マヤさん少し向こうで話し合いましょうか!」

「――ので発言の真意や、なぜああも興奮して兄様の寝顔を凝視していたのか理由が気になっていたんです」

「聞いてください!」


 立ち上がるカナリアの訴えも無視でマヤの暴露は止まらない。


「なあなあマヤやん。他にもカナちゃんなにか言ってなかった?」

「隊長も余計なことを聞かないでください!」

「そうですね……発言は主に可愛いでしたが、希に兄様のほっぺをぷにぷにしはとても良い笑顔を浮かべていましたね」

「マヤさんもこれ以上はお願いですから止めてください!」

「……なるほどな」

「アヤトさんはなぜ私から距離を置くんですか!」


 結果、逃げるようにソファの隅に移動するアヤトにカナリアは一番のショックを受けた。

 まあ寝ている幼少期の自分にアレな発言や行動をしていたと知れば気持ち距離を置きたくなるのは分かる。

 それでも普段から可愛げがないほど動じないアヤトにどん引きされると実にクるものがあった。


「なるほろなるほろー。カナちゃんみたいなべっぴんさんに相手いないのは疑問だったけど、()()()()()()()作らんかったんね」

「違います隊長! 私は別に――」

「……ほう」

「ですからアヤトさんは離れない! 確かにアヤトさんの可愛い寝顔を堪能しましたし、ほっぺもぷにぷにしたのは認めます! ですがそれ以上はなにもしてませんから!」


 とにかくこれ以上は更なる誤解を招くとカナリアは必死に弁解するも既に遅し。


「なるほどです。つまりカナリアさまは大の子ども好きなのですね」

「良く言えばねー」

「また食べるという発言は可愛いという言葉の比喩でもあると」

「それも良く言えばねー」

「納得できました。では約束通りプレゼントさせて頂きます」


「……ありがとうございます」


 今まで誰にも知られないようひた隠していた嗜好をラタニやアヤトに知られる対価を払い、カナリアは神気のブローチを手に入れた。


 ちなみに――


「…………」

「アヤトさん……どうされましたか?」

「いや、なんでもねぇよ」

「そうですか……」


 その後の話し合い中、アヤトの態度が妙によそよそしく感じたのは気のせいだとカナリアは心底願っていた。




『アヤトの言伝』のあとがきで触れたカナリアがブローチを受け取るまでの経緯についてでした。

今までちょいちょいカナリアの嗜好は表現していましたが、この二人にバレるのはカナリアにとって羞恥以外の何でもないでしょうね……。


ちなみに珍しくどん引きしていたアヤトくんですが、翌日には過去のことと割り切っていますし、趣味嗜好はそれぞれと特に気にしていません。

ですがカナリアはしばらく引きずっていたりします。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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[良い点]  つまり、ショタk……
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