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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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もう一つの終章 今は背を向けたまま

遅い時間になって申し訳ありませんでした!

アクセスありがとうございます!



『ですから……負けませんよ』


 帰国前にミューズはアヤトに対する想いをロロベリアに伝えた。

 ただ牽制のような意図はなく、最大の恋敵に立ち向かう決意として自らを奮い立たせるためで。

 自身の決意に付き合わせているロロベリアに申し訳ない気持ちはあるも、ミューズは謝罪を口にしない。

 正直な望みを口にすることを悪いとは思えないし、なにより相手がロロベリアだからこそ伝えられる。


 突然の告白にロロベリアは唖然となり、理解するなり何故このような告白を伝えられたのかと困惑顔し、徐々にもやもやから表情が曇っていく。

 精霊力の輝きで確認するまでもなく、変化する表情がロロベリアの心情を表していて。


『……それなら私も正直な気持ちを言いますね』


 今の告白に対する感情が自分なりに纏まったのか、言葉を選びながらロロベリアも応えてくれる。


『どうしてミューズさまが私にそのような告白をするか分からないし、やっぱりミューズさまもそうなんだって納得したというか……でも、良かったって』

『良かった……ですか?』


 本人にそんな意図はないとはいえ、お返しと言わんばかりの告白に今度はミューズがキョトンとなるもロロベリアは止まらない。


『もちろんミューズさまがアヤトを好きなのは……もやもやします。その……私もアヤトに大切にされてる……かも? みたいな自惚れは少しだけあるんですけど、今回の滞在でアヤトはミューズさまに対して優しいというか、他の人よりも大切にされているように感じるというか……』


 ミューズからすれば自惚れではなく、アヤトがもっとも大切にしているのはロロベリアで、他とは違う優しさを向けているのに自信がなさそうで。


『だからもやもやして……ミューズさまみたいな素敵な女性が同じ人を好きになるとか……いや、ですけど……でもアヤトの良さを理解してくれて、好きになってくれる人がいるのは……嬉しいなって』


 しかし嫌だと良いながらも表情は本当に嬉しそうで。


『だってアヤトは捻くれてて自己中で口も悪いから勘違いされて……それは自業自得なんですけど……。でも、やっぱり好きな人の良いところもちゃんと見てくれる人がいて、好きになってくれるのは嬉しいなって』


 好きな人だからこそ、嫌われるよりも好きになってもらえる方が嬉しいと。


『もやもやするけど、アヤトが認められて良かったって思います』


 その言葉に、表情に強がりでも偽りでもないと眩しいほどに真っ白な精霊力の輝きが教えてくれる。

 自分が好きな人を好きと伝える相手にこのような気持ちを抱けるロロベリアはやっぱり最大の恋敵で。


『もちろん、だからと言って私も負けるつもりはありませんよ』

『はい! わたしも負けません』


 笑顔でこのような思いを伝え合えるからこそミューズも正直な気持ちを伝えることが出来たのだ。

 またどうしてアヤトがロロベリアに対してだけ特別扱いしているのか、少しだけミューズは理解できて。


『……と言っても、私の気持ちをアヤトはぜんぜん信じてくれないんですけど』

『? それは……?』

『私がまだなにも成せてないのが悪いんですけどね――』


 以降はお互いの事情や秘密までも話し合う仲になり、恋敵でありながら友人になっていた。


 そして友人だからこそ遠慮は無用と、馬車の割り当てでミューズはわがままを言ってアヤトと二人きりの時間を過ごした。

 聖女の旅を始めとした本の話が主で、アヤトは言葉少なくともミューズにとっては楽しくて。

 また王国に戻ったら稽古を付けてもらいたいとお願いもした。

 あの時感じた守られるだけの悔しさから心身共にもっと強くなりたいとの願いにアヤトはエレノアたち他の序列メンバーと同じ条件なら遊んでやると言ってくれた。


 ただロロベリアに伝えたように自身の恋心はまだアヤトには伝えない。

 ロロベリアの想いでさえ信用されないのなら、なにも成していない自分の想いも信用してもらえない。

 故にまずはこの恋を頑張るために必要な時間を手に入れる必要があると。


『アヤトさま、また王国でお会いしましょう』

『だといいがな』


 不透明な状況でも馬車を降りる際、ミューズは笑顔で再会を誓った。



 ◇



「みなさまはなにをされているでしょうか」


 その日の夜、帰宅する馬車内でミューズは思いを馳せる。

 ミサへの参加や炊き出しのボランティア、挨拶回りとイディルツ家の娘として忙しない時間の中でも脳裏にはつねに帰国中の友人たちのことが頭を離れなかった。

 特にアヤトは何をしているのか……自分と同じように遠慮せずロロベリアも二人きりの時間を過ごしているのかもしれない。

 そう思うと嫉妬から心がもやもやして。


「……わたしも頑張らないといけません」


 だからこそ早く不透明な状況から抜け出すべくミューズは拳をキュッと握り気合いを入れる。

 もちろん簡単にはいかないと理解している。

 それでも自分は一人じゃない。


「はい。私もミューズさまの望みを叶えるために協力は惜しみません」

「私もですよ。来年も必ずマイレーヌ学院に通えるよう旦那さま方を説得しましょう」

「ありがとうございます。レムアさん、クルトさん」


 アヤトだけでなく自分の決断した責任を一緒に背負ってくれる頼もしい存在にミューズは心強くて。

 ただ降臨祭が終わるまではギーラスやリヴァイは忙しく、会える機会がそもそもない。

 それでもミューズは悲観することなく、今はイディルツ家の娘として責務を果たすことに尽力するつもりだ。



『――入りなさい』


「お父さま……?」


 ……だったのに、屋敷の到着するなり父も帰宅したと報告を受けたミューズは困惑しながら執務室の扉をノックすればリヴァイの声が返ってきた。

 毎年降臨祭の期間中は帰宅できないほど忙しい身。

 加えて今年の降臨祭は様々な出来事からまず会うのは無理だと思っていた矢先の顔合わせなので驚きを隠せない。

 しかしこのチャンスを活かしたいと、挨拶も忘れてミューズは入室。

 逸る気持ちのまま執務机に座るリヴァイに詰め寄り――


「あの――」

「明日の王国行きの船を手配した。すぐに準備を始めなさい」

「……え?」


 が、口を開くより先にリヴァイから端的な指示を受けてしまいミューズだけでなく、続いて入室したレムアやクルトも呆気に取られてしまう。

 聞き間違えでなければ父は明日、王国行きの船に乗るための準備をするよう告げた。

 なぜいきなりと意図が読めず戸惑うミューズに対し、リヴァイは執務机から立ち上がった。


「このまま降臨祭に参加するよりも、他国の降臨祭……いや、年越し祭か。とにかく他国の文化や違いを知るのも勉強の一つ。留学をしているのならそういった経験も大切にしなさい」

「…………」

「ああ、父がマイレーヌ学院に送っていた退学届なら、私から学院関係者へ謝罪と共に手違いとの手紙を送っているから問題ないだろう。まったく……自分で決めた留学を途中で取りやめるなどなにを考えているのだか」

「…………」

「とにかくイディルツ家の娘なら、一度決意したことは最後までやり遂げなさい」

「…………」

「返事はどうした」


 外出の準備をしながら、いつものように素っ気ない態度でリヴァイは捲し立てる。

 ただいつも視認できた迷いを生じているような精霊力の不安定な輝きに変化が起きている。

 この不安定な輝きから、父はいつも自分と顔を合わす時にどんな感情を抱いているのかが読み切れなくてミューズはずっと不安だった。

 しかし今は不安定ながらも芯に柔らかな輝きが灯っていて。

 いつもの素っ気ない態度でも、きっと自分を想ってくれての判断と理解できたミューズは今までの不安が嘘のように晴れて。


「あ、ありがとうございます!」

「私は礼ではなく返事と言ったんだがな……まあいい」


 ぺこぺこと頭を下げるミューズにリヴァイは変わらず素っ気ないまま足早に指示を出す。


「レムア、急な話だが君も含めて何人かを同行させるよう通達と準備を。クルトは学院の再開に合わせて向かわせる者の選別とスケジュールの調整も頼む」

「……畏まりました。旦那さま、本当にありがとうございます」

「ありがとうございます……旦那さま」


 それでも精霊力の輝きを視認できないレムアやクルトでも、リヴァイが不器用ながらもミューズに歩み寄ろうとしている意思が感じられて深々と頭を下げた。



 ◇



 実のところ昨日、白銀として国王と接触したアヤトから交渉時に約束した報酬としてミューズが今後も学院に通える手配を提示されたので、リヴァイは約束を守っただけでしかなく。

 自身のやり遂げた功績に対して実にささやかで、本人には全く利のない報酬を提示されたのにはリヴァイも困惑した。

 だがその本人曰く、ミューズにカリを返せるのなら充分利があると譲らず、相変わらずアヤトの基準は理解できないが約束したからには従うしかなく。

 なにより不可解な結末を迎えたが、神の器として狙われていたミューズはほとぼりが冷めるまで教国から離しておく方が良いとリヴァイも考えていた。


 早急な王国行きの手配を決めたのもその為だが……まるで報酬だから仕方なくミューズの望みを叶えたようにリヴァイは感じているわけで。

 薄情な父親の仮面を外すのは報酬としてではなく、自分の意思で外せと暗に忠告していたのではないかとも勘繰っていた。

 アヤトの真意は定かではない。

 しかしせめて、これだけは自分の意思で叶えてやりたいと。


「私は仕事に戻る。まだ忙しいから見送りは出来ない……だが」


 顔を上げるミューズの視線から逃れるように横を通り過ぎたリヴァイは背を向けたまま立ち止まり。


「次の長期休暇には出来る限り時間を作る。その時には……お茶でも飲みながらゆっくりと話をしよう」

「……お父さま」

「それと父のことなら私に任せておけばいい」


 どれだけ冷たくあしらってもミューズが自分の愛情を求めていたのをリヴァイも痛感していた。

 ただ長年被っていた仮面を外し、接し方を変えられるほどリヴァイは器用じゃない。

 故に今はまだ面と向かって外せないが、次は仮面を外した父として娘と向き合うと。


「だから安心して……頑張ってきなさい」


 長年寂しい思いをさせた分まで、娘が望んでくれていた愛情を伝えようと密かな決意を言葉に乗せた。


「はい! お父さまもお体に気をつけて下さい……頑張ってきます!」


 背を向けているのでその決意が伝わったかは分からないが、今まで感じられないほどの幸福を乗せたミューズの声に。

 きっと亡くなった妻、ミレイラのように美しい笑顔を向けているのだろうと思いつつ振り返りたいのを我慢して。


「……お前も体調管理に気をつけなさい」


 次の機会で向けられる娘の笑顔を待ち遠しく感じながらリヴァイは執務室を後にした。




ロロやミューズよりもリヴァイがメインの終章でしたね。

ですがどんな形でも今まで見守ってくれていた祖父に裏切られたミューズにとって、不器用ながらも愛情を向けようとしてくれる父の姿勢はなによりも嬉しい変化だったと思います。


さて、これにて長らく続いた教国編も本当に終了となります。

またこれにて今作の第二部も終了……ですが、次回からはオマケを更新予定。

教国編が長かった分、オマケも久しぶりですね……度々更新が滞って本当に申し訳ありませんでした!


とにかく久しぶりのオマケを楽しんで下さいね!


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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