終章 久しぶりの時間
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翌日、ここ数日は天気も安定しているお陰で予定通り王国へ帰国。
「オレたちにまで色々してくれてありがとうございました」
「ありがとうでした」
降臨祭で賑わう教都を抜けつつ馬車内で同席しているレムアに心からの感謝を述べるユースに倣いリースもペコリ。
自分たちやツクヨは招待されてもなく急に押しかけた立場。
にも関わらずレムアを始めとするイディルツ家の使用人はロロベリアたちと同じように客人として持て成してくれた上に帰路の手配もしてくれた。
同じ立場でもツクヨは今回の騒動に戦力として加わり、持て成されるだけの貢献をしている。
対し自分たちはツクヨに振り回される形で教国に来ただけで、事態が収束するまで宿屋に居てなにも貢献していない。
「ミューズさまのご友人となれば持て成すのは当然のことですから。リースさま、ユースさま、今後ともミューズさまをよろしくお願いいたします」
それだけに後ろめたいのだがレムアはむしろ嬉しそうに微笑む。
友人といえるほどの交流はなくてもミューズと親しくしてくれる学友は貴重なのか。
まあリースやユースもあまり相手の立場で態度を大きく返るタイプでもなく、滞在中はミューズとフランクに接していたのもレムアからすれば貴重と捉えたのだろう。
ただフランクを通り越した接し方をしている人物が誰よりも高評価を得たのだが。
「こちらとしては喜んで……ですけど、アヤトと一緒にさせて良かったんですか?」
眉根を潜めてユースが確認するのは馬車の割り当てで。
なんせ三台に別れて移動中の馬車はロロベリアとニコレスカ姉弟にレムア、カナリアとツクヨにクルト、そして屋敷を出発する前に見送りに来てくれたダリヤとフロッツが同席していて。
つまりミューズはアヤトと二人きりで移動している。
出発前にアヤトと二人で話がしたいとミューズが言い出し、ユースは珍しいわがままに驚いたものだが、レムアやクルトは窘めるどころか進んでアヤトに願ったのにはもっと驚いた。
ちなみにアヤトは好きにしろとお約束で了承したのだがそれはさておき。
「アヤトさまとはしばらくお会いできないので、ミューズさまのお気持ちを優先するのもまた当然ですよ」
馬車内とはいえ使用人も同席させず男女二人きりにするのはあまり宜しくないが、アヤトの為人を知ったからこそレムアやクルトはミューズの思いを優先させたまで。
実は後にミューズが話してくれた事情に、広められたくないとの本人の意思を尊重してアヤトが関与していたのは伏せている。
名前を伏せたところで何らかの形で関わっていると悟られているが、それ以前に実際にアヤトと一緒に居るミューズの表情や実際に接したことで使用人らにとってアヤトの印象が大きく変わった。
特にミューズの良さを損なわず成長させてくれたアヤトには感謝してもしきれないほど。将来二人が結ばれて欲しい望むほどレムアは評価を改めているので今後も、こういった協力を惜しまないつもりなのだが。
「……ロロベリアさまには申し訳ない気持ちはありますが、今回はご理解頂ければと」
同時にロロベリアのアヤトに対する想いも理解しているだけにフォローを入れるも、隣りに座り景色を眺めていたロロベリアは気にした様子もなく首を振る。
客人とはいえお世話になっている立場なら馬車の割り当てに文句を言うつもりはない……それはそれでもやもやはしているが。
それでも正々堂々と宣戦布告をしてくれたミューズに対して、嫉妬よりも別の感情を抱いたのなら元より邪魔をするつもりはない。
もちろんだからと言って譲るつもりはないが、騒動後はゆっくり話す時間がなく(主にアヤトが教国料理を学んでいたから)、しばらく会えないのなら今くらいは我慢するべきと。
「レムアさんが申し訳なく思う必要はありませんから」
◇
まあそれはそれ、これはこれで。
「みなさま、また王国で」
「落ち着いたら私もそちらに行かせてもらう。その時は時間を作ってくれると嬉しい」
「んじゃ、俺もダリーと新婚旅行気分で――へぶし!」
ミューズや聖教士団のダリヤは降臨祭に参加する為、フロッツもリヴァイの右腕として忙しい為、早々に別れの挨拶を済ませて移動を。
帰路では使用人の乗船も無し。まあミューズは何人か付けようとしてくれたが、この時期に使用人を回してもらうのは忍びないとカナリアがやんわりと断った。
なので王国まではそれぞれ気ままに過ごすことに。
ちなみに客室はアヤトとツクヨが一人一部屋、ロロベリアとカナリア、リースとユースは相部屋で手配してくれていて。
「カナリアさんはどうされますか?」
「昼食まではゆっくりしようと思います。ロロベリアさんは……聞くまでもないですね」
荷物の整理もせず早々に退室するロロベリアを苦笑でカナリアは見送った。
騒動後にアヤトとゆっくり話せなかったのはロロベリアも同じ。馬車では譲った分、もやもやも限界なのだろう。
カナリアの予想通りロロベリアが向かったのはアヤトの客室で。
そもそも騒動後以前に、教国滞在中はほとんど話せていない。
故にその分、到着までは大いに構ってもらおうと浮き足立っていた。
「……アヤト?」
が、客室が見えたところでアヤトが出てきたことにロロベリアの足が止まる。
往路と違い帰路はそれなりに気を遣う必要もないので、いつも通り客室に籠もっていると予想していただけに意外で。
「白いのか」
「……どこに行くの?」
「お前のところにな」
「え…………は?」
質問してみれば思わぬ返しを受けたロロベリアはキョトン。
対するアヤトは気にせず背を向けた。
「呼びに行く手間が省けたな。甲板にでも行くか」
「…………」
「他に用があるなら来なくても構わんぞ」
用もなにも構ってもらいに来たので問題はない。
ただまさかの展開に嬉しいよりも嫌な予感がするロロベリアだが拒否の二文字はなく。
「……私になにか用があったの?」
「定期的に構ってやらんと噛みつくんだろう」
とりあえず一緒に甲板へ向かいながら再び質問してみれば微妙な理由が。
相変わらずの飼い犬扱いだがアヤトから出向く意思があるだけ少しは距離が縮まったのか……まあ自分の願望だろう。
なんせアヤトは変わらず秘密主義、昨日から新月の代わりに月守を帯刀している理由を聞いてもさあなとお約束の返答。
ツクヨに聞いてもやはりさあなと返されロロベリアは疎外感が半端なかった。
まあ二人の事情に自分はまだ立ち入るほど信頼を得ていないと割り切れるも、これだけは伝えておくべきと甲板に出るなりロロベリアは口を開く。
「……ミューズさんから色々と聞いたから」
「そうか」
その報告にアヤトは苦笑を漏らし、遠ざかる教国に背を向ける形で手摺りにもたれ掛かる。
あまり興味はなさそうでも、正面に立ったロロベリアは人差し指を立ててクギを刺す。
「言っておくけど、だからってミューズさんを責めるのは無しよ。だいたい普段から好き勝手やってるアヤトに人のことをとやかく言える筋合いもないでしょ」
「言いやがる。ま、元より知られて困るほどでもねぇからな。ミューズの好きにすれば良いくらいにしか思ってねぇよ」
「ならよし」
ロロベリアとしても告げ口をしたいわけじゃなく、自分が知ったことを隠したくないと伝えたかっただけなのでアヤトの返答に満足しつつ隣りに並ぶよう手摺りに手を掛けた。
「ミューズさん、これからも学院に通えるといいね」
馬車で二人がなにを話したかは聞くつもりはない……もやもやは仕方ないとして。
ただアヤトへの想いとは関係なく、昨日の一件から友人となったミューズともっと仲良くなりたいわけで。
不透明な状況でも、望む道を歩もうと頑張っているミューズを応援する気持ちで教都を眺めていた。
「いいかどうかは知らんが、特に心配する必要ことはないだろ」
「でも……お父さまがどう言うか……」
「それこそ心配無用だ。つーか、そこで親父さんの存在を心配する辺りが白いのか」
「……どういうこと?」
のだが、視線を向けるロロベリアに意味深な笑みと共にアヤトは肩を竦め。
「あの親父さんが相当な子煩悩ってことだよ」
「……どこが?」
「確かに表面上は素っ気なかったが、俺たちが教国に到着して最初に面合わせたのは誰だ」
「…………あ」
「そもそも俺たちが教国に行く日取りは爺さんと相談して決めたこと。にも関わらず爺さんが時間を作ったのは翌日。だが親父さんは忙しいにも関わらずその日に帰宅し、爺さんよりも先に謝辞を伝えただろ」
「そう……ね」
アヤトの指摘にロロベリアも考えを改める。
確かに直接お礼を伝えたいとギーラスが招待し、日程を決めたにも関わらず実際は翌日の顔合わせになった。
対しリヴァイは忙しい中でも時間を作って帰宅し、直接お礼を伝えてくれた。
態度こそアレでも本当に感謝をしていたからこそリヴァイは行動で示したとも捉えられるわけで。
「聞けば普段はほとんど帰らんほど忙しくしているくせに、ミューズが帰省したら例え僅かな時間だろうと必ず帰宅しているらしいしな」
「…………」
「留学反対したのも様子のおかしい爺さんの勧めが故に、ミューズが面倒なことに関わる可能性があるかもしれんと反対したんだろうよ。要は愛情表現が素直じゃねぇだけで、本性は子煩悩だったと少し考えれば分かるだろ」
相変わらずの鋭さはさておいて、相手の心情を読み取る目と表面上の言葉や言動で偏見を持たないアヤトならではの捉え方で。
「とにかく面倒な厄介ごとがなくなったなら、ミューズが最後まで大冒険を続けたいと望めばあの親父さんは許可するだろうよ」
「……そっか」
なら心配する必要はないとロロベリアに笑みが浮かぶ。
ミューズは強敵だが、それとは別にこれからも一緒に学院に通えるのは嬉しくて。
なにより誰が相手だろうと関係なく、ロロベリアはこれからもやるべき事は変わらない。
その為に今やるべき事は他になく。
「アヤト、年越し祭を一緒に楽しまない?」
「あん?」
急な話題転換に訝しむアヤトに対し、手摺りから手を放したロロベリアは再び正面へ。
「だって一度も参加したことないんでしょ? 人混みが嫌いでも実際に過ごしてみればそれなりに楽しめるかもじゃない」
自分なりのやり方で、歩み方で、少しずつでもアヤトからの信頼を得て近づく先にロロベリアの望みがある。
大切なもの全てを守れる大英雄になること。
そしてアヤトとの時間を少しでも多く手に入れること。
その為にシロとクロではなく、ロロベリアとアヤトとしての約束を増やしていく。
「……みんなでね」
最後の最後で押しの弱いヘタレな一面が出てしまったが、色々とあり過ぎて切り出せなかった年越し祭のお誘いができたと満足しつつ返答を待つロロベリアにアヤトはため息一つ。
「それなりに褒められる判断できたからな。少しくらいなら付き合ってやるよ」
「やった……っ」
了承を得たことに小さなガッツポーズでロロベリアは喜びを表現。
「あ、もちろん今は少しじゃ済まないわよ。ずっと構ってもらえなかった分、徹底的に構ってもらうんだから」
「へいへい」
「まずは昼食まであやとりしましょう」
「なら部屋に戻るか」
勢いそのまま久しぶりにアヤトとの時間をロロベリアが大いに楽しんだのは言うまでもない。
ロロとアヤトのやり取りは本当に久しぶりでした。
またアヤトがしれっと月守を所持している理由はオマケで詳しく。
そしてこれにて教国編も完結……にならず、次回のもう一つの終章となります。
教国編でガッツリ出番のあったあの子がメインの内容をお楽しみに!
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