二人は前を向く
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降臨祭も二日目。
今日もミサの参加と挨拶回りに出かけたミューズたちにカナリアとツクヨも同行。
降臨祭に興味はないと言っていたが明日は帰国、せっかくなので教都観光も兼ねて軽く見て回るらしい。
ロロベリアやニコレスカ姉弟も体力作りの後、お土産を買いに一度出かけたが昼食後はやはり訓練に励んでいた。
またこの二日間、教国料理を学ぶため厨房に入り浸りだったアヤトも昼頃に外出。帰国前に国王、教皇と面会の約束をしていたのだが相変わらず王城や宮殿に平然と侵入できるのがアヤトだった。
とにかく最初の慌ただしい七日間とは違い、残りの二日間は平穏に過ごしたロロベリアはカナリアと共に帰国の準備を。
ちなみに一昨日からお世話になっているニコレスカ姉弟は同じ客室を、ツクヨはアヤトと同じく一人で一部屋を利用しているのだが――
「お忙しいところ申し訳ございません」
明日に備えて早めに就寝しようとしていたところでミューズが一人で訪ねて来た。
「問題ございませんよ。なにかありましたか?」
もちろんカナリアは快く出迎えるも、内心最後の最後でアヤトがなにかやらかしたのではないかと戦々恐々だったりする。
それはさておきカナリアの懸念を他所にミューズは若干緊張の面持ちで要件を告げた。
「ロロベリアさんにお話がありまして……」
「……私に?」
「はい、もし宜しければ少々お時間を頂けないでしょうか」
その要件にキョトンとなるロロベリアにミューズは微笑む。
対しカナリアはミューズの固い雰囲気が気になるも、少なくとも悪い話(特にアヤトのやらかし)ではないと察して自ら席を外すことに。
「私はツクヨさんのところへ行きますね」
「お気遣い、ありがとうございます」
「どういたしまして」
やはり二人きりを望んでいたようで素直に感謝するミューズに笑顔で対応しつつ。
(……分かっていますね)
(もちろんです……)
退室間際、睨み付けられたロロベリアは小さく頷く。
これまでの前科から詳しい事情まで知らないミューズにこれ以上余計な話題を口にするなとのクギを刺したくなる気持ちも分かるわけで。
ただわざわざ客室に一人で訪ねてまでミューズがなんの話をしたいかまでは察することは出来ず。
「えと……とりあえず座りますか」
「……ですね」
それでも立ったままというのも落ち着かず、向かい合うようソファに着席。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………あの、ミューズさま? お話とは……」
……したのだが、無言のままジッと見つめてくるミューズに絶えきれずロロベリアから切り出すことに。
「も、申し訳ありません……その、いざとなると緊張してしまい……どうお話しすれば良いか分からず……」
「…………お気になさらず?」
慌てて謝罪するミューズに思わず疑問系で宥めてしまうが、自分とお話しするのに今さら緊張する理由が分からないので無理もなく。
訝しむロロベリアに気づくことなく、緊張を解すべくミューズは深呼吸を繰り返し。
「……明日、帰国される前にどうしてもロロベリアさんと二人きりでお話がしたくて。その……このような時間にお邪魔して申し訳ありません」
「それは気にしていませんから……それよりも、お話とは?」
「そう……ですね。まずこれからお話しするのはわたしの判断で決めたこと。もしアヤトさまが不快に思われてもわたしの責任として背負います。またロロベリアさんがどこまで存じているかも分かりませんが……少なくともわたしがお話しすることで、ロロベリアさんの事情を聞き出すつもりはないとだけ」
妙な前置きから神妙な顔つきでミューズは改めて要件を切り出した。
「実は、今年限りでわたしはマイレーヌ学院を退学することになっています」
「……え? では、ミューズさまはこのまま教国に残られるんですか……?」
「どう……でしょうか。この決定をされたお爺さまには卒業するまで通わせて欲しいとお願いしていますが、まだ良い返事をいただいていないと言いますか……事情が事情なので」
弱々しく微笑み、ミューズはロロベリアの知らない経緯を話し始める。
ギーラスと対面後にマイレーヌ学院を辞めて神子としての修行を本格的に始めるよう言い渡されたことから、レムアの心遣いのお陰でアヤトに相談できたことまで。
ただアヤトの助言から自分が本当に望む道を決め、ギーラスを説得する決意をしたのだが二日前の出来事があり。
カリを返すという理由から、ついでとはいえアヤトは最後までギーラスの説得に協力してくれたことを。
ロロベリアの知らないミューズの体験したあの時間を辿々しくも出来るだけ詳細に。
白銀の変化についてまで話してくれたのは、むしろロロベリアの方が詳しい事情を知っているだろうと践んでのことだろう。
あの事件後、なんの疑問も抱かずすんなり受け入れているのだからミューズの判断は当然で、アヤトが不快に思われてもと前置きしたのかと納得。
なんせロロベリアは大聖堂での出来事を詳しくは知らない。
知らないからこそ……教皇の異変をアヤトが不可思議な方法で救ったと聞くなり胸が締め付けられた。
何をしたかは見ていなくとも、あまりに不可思議な出来事にフロッツが詰め寄るもアヤトは聖女の騎士に神が不思議な力を与えたことによる奇跡だと言い張ったらしい。
適当な言い訳は元よりアヤトが擬神化を見られても気にしないだけなのか。現に帝国では少なくともサクラやエニシ、亡くなったがソフィアの前でも平然と見せていた。
まあ擬神化を見られたところで神との契約によって手に入れた神気の影響、と結びつけられる者は居ないだろうし、帝国の時と同じく今回ばかりは仕方のないこと。
ただマヤと契約したことで得た時間操作の能力を知るだけに、ロロベリアからすればアヤトがなにをしたかは容易に悟れる。
状況から教皇を救うには他に手段がないとは言え、アヤトが運命を削ったことは仕方ないと割り切れない。
しかし、それでも締め付ける胸の痛みに負けまいと俯かず、ロロベリアは真っ直ぐ前を向く。
過ぎたことを悲しむよりも今は立ち止まらず、臆さず、足掻いてでも突き進むしかないのだ。
故にこの痛みも糧にして、大英雄への道を突き進むのみで。
「……なるほど。そういった理由なら、仕方ありませんね」
なぜミューズがこのような話をしてくれるのかの疑問は拭えないが、少なくとも返事が貰えていない理由に納得できた。
今回の首謀者の中である意味教皇以上にギーラスは自分の罪を覚えているも、その後の慌ただしさからミューズの進退について話す暇はない。
マイレーヌ学院の退学も神の器という使命を果たすために決めたはず、それでも既に手続きをしているならミューズはもう学院生ではなくなっているわけで。
なにより留学等はミューズの一存で決められず、まずギーラスかリヴァイの許可が必要
になる。
恐らく正気に戻ったギーラスなら許可をしてくれるだろうが、直接本人と話す機会がなかっただけに確実ではなく。
対しリヴァイは元より留学を反対していた。
こうなると留学を続けるには難しいわけで。
「はい……ですが、わたしは必ずマイレーヌ学院を卒業します」
言葉に悩むロロベリアだったが、ミューズから力強い宣言が。
「それで……ですね。ここからが本題と言いましょうか……ロロベリアさんにはどうしても伝えておきたく……」
「…………?」
かと思えば途端に言葉を詰まらせ、徐々に顔が赤くなっていく様子にロロベリアは首を傾げてしまう。
自分にどうしても伝えたいこととは何なのかと続きを待っていると――
「……わたしはアヤトさまを愛していますから」
「…………へ?」
思わぬ告白に面食らうロロベリアに構わず、顔を赤らめつつもミューズは柔らかな微笑みで最大の恋敵に向けて自身の決意を口にした。
「ですから……負けませんよ」
アヤトが寿命を削っていたと知り、それでも俯かず前を向くロロと、最大のライバルに向けてミューズは敢えて自身の気持ちを伝えました。
その理由については後ほどとして、次回で教国編も終章となります。
ミューズの気持ちを知ったロロと、ロロに宣戦布告をしたミューズのその後も踏まえて最後までお楽しみに!
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