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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
372/779

今は受け入る

アクセスありがとうございます!



 風精霊三月の二五日。


 昨日まで続いた雪が嘘のような快晴の下、正午丁度にレイ=ブルク大聖堂の鳴らす鐘を合図に降臨祭が開催。

 大聖堂内奥の聖域で行われるミサに参加している教徒はもちろん、湖畔周辺を囲むように集う教徒らもみな鐘の音が鳴り止んでも粛々と祈りを捧げていた。


「やっぱお国柄なのかね。王国じゃまず見られない光景だったわ」

「同感」


 大聖堂から早々に退散しつつ端的な感想を口にするユースにリースも頷く。

 王国にも教会はあり、降臨祭に参加するレーバテン教徒も居るには居るが、やはり神よりも精霊への信仰心から少数で規模も違うので無理はない。

 また降臨祭が始まったばかりでも二人とロロベリアは元より参加するつもりはなく、せっかく教国に来たなら本格的な降臨祭を見ていこう程度の好奇心から。まあ出発前にクローネから色々と知るのも勉強と勧められていたのが大きいが。

 対しカナリアやツクヨは興味無しとお留守番。

 昨日の内に無罪方面でイディルツ邸に戻っているアヤトは急に教国料理を教わりたいと言いだし、使用人に頼んで手解きを受けている。

 またミューズはレムア、クルトと共にミサに参加。あのような事件に巻き込まれても、イディルツ家の子女としての責務を果たす辺りはミューズだった。 

 なのでロロベリアたちは湖畔周辺を囲む教徒らの最後尾で眺めていただけ、祈りすらしていなかったりする。

 また二日前の出来事を知るだけに別の感情もあるわけで。


「あそこにいるほとんどの奴が何にも知らないってのが、滑稽というか」

「それも同感、祈ったところで意味なんてない」

「ユースさん。リースもそんなこと言わないの」


 知らないとはいえ神を信じ祈りを捧げる気持ちはそれぞれの自由とロロベリアはやんわりと窘める。

 もちろん気持ちは分からなくもない。

 二日前にあの大聖堂で、まさにミサが行われている聖域でアヤトがギーラスら聖教士団と大立ち回りをしていたとは誰も信じられないだろう。

 それでもこうして予定通り降臨祭が行われているのは事前にアヤトが国王派と交渉していたお陰で。


 アヤトやフロッツが大聖堂に向かってすぐ、リヴァイは約束通り国王や宰相のもとに向かった。

 アヤトから聞いた情報を元に教会の陰謀を含め、フロッツとその情報を提供してくれた白銀と名乗る仮面の男が首謀者を捕らえ、教皇の救出に向かったと説得。

 もちろん国王も宰相も困惑した。

 本当に教会がそのような陰謀を企てていたのか。

 そもそも情報を提供した白銀という男が何者なのか。

 なによりその白銀は信用に足る者かと当然の疑問を投げかけ、特に宰相は独断で教会と事を構えるのを容認したリヴァイを叱責したらしい。

 しかしリヴァイのこれまでの働きや、失敗した際は命をもって償うとの覚悟を示したことで国王は信じて静観を決定。

 信頼できる同志に収集を掛け、いつでも動けるよう待機していたところでフロッツが朗報を持ち帰るなり即座に大聖堂へ派遣。

 まあ国王へ報告する前にリヴァイとフロッツの間で辻褄合わせをしているが、深夜帯の内に大聖堂に居る者全てが一度捕らえられ、目を覚ました教皇と自ら出向いた国王の間で話し合いが行われた。


 その話し合いで両派閥が遺恨なくスムーズに話し合いが行われたのはひとえにアヤト――白銀の存在が大きい。


 元より教皇は争いが満ちる世界を望まず、国王も教国を失墜させてまで国内の権威を握るつもりはない。

 そして白銀がもたらした情報が本物だったからこそ、教会が他国で犯した罪を知られるわけにもいかず、下手に動けば教会のみならず教国その物の危機を招くと理解するが故に悟られないよう教皇と国王が主導で降臨祭は無事開催。

 つまり半ば脅しの形でも両者の足並みが揃う結果となった。


 そのアヤトは国王派が大聖堂に押しかける頃にはダリヤに全てを押しつけ大聖堂から姿を消していたが、後に仮面を付けて擬神化した白銀の装いで国王と接触したらしい。

 リヴァイのもたらした情報に信憑性を与えるために、また自ら話し合う形でクギを刺すために。

 お陰で白銀が教国に対して敵対する意思がないこと、目的はあくまで三国の平和と国王も知ることになり理想的な形で両派閥の関係を築けただけでなく、白銀という存在が今後の教国の抑止力としても機能するわけで。

 詰め所から輸送された後に宮殿で保護されていた体のアヤトをマヤが演じていたお陰で、少なくともリヴァイやフロッツ以外の国王派は白銀とアヤトを結びけることは出来ないだろう。

 そして正気を取り戻したギーラスの口添えでアヤトの容疑も晴れ、昨日の内にイディルツ邸に戻れたのだが、白銀に扮するアヤトとイディルツ邸に戻ったアヤトが居ることにリヴァイらが困惑したのは言うまでもない。

 

 そして最も懸念していたギーラスら首謀者に今回の事件にアヤトが関わっていること、白銀の変化を知られていることについてだが、それは意外な形で解決していた。

 というのも今回の陰謀に関わっていたほとんどの教会関係者や聖教士団はここ二年ほどの記憶が曖昧で、中には自分が何をしていたのか全く覚えていない者もいたらしい。

 故になぜ自分が大聖堂で倒れていたのかと困惑する者ばかりで、大聖堂に押しかけた国王派と一悶着すら起きたほど。

 ただ大きな衝突に発展しなかったのは目を覚ました教皇自ら、今回の一件は全て自分に責任があると宥めた結果。

 本人もまだ記憶が混濁していたらしいが、発端は二年前に起きた不可思議な出来事で――


「神の声……か」

「……まあ、少なくとも神さまが存在してるのは痛いほど知ってるけど」


 ロロベリアの呟きに事情を知るユースも訝しむように、三年前の降臨祭終了後しばらくして神の啓示が降りたと教皇が主張したのだ。

 その啓示に従うまま異端者を粛清する審問官を設立して少しずつ教会組織に手を加えていたことを。

 本来の信仰とかけ離れた過激な行いだろうと疑問にすら思わず、神の臨むままに従っていたが途中から自分が自分でなくなるような、夢の世界の更に夢の世界に堕ちていくような感覚の中でも神の声を聞き広めていたと。

 しかし次に目を覚ました時、ようやく従っていた行為に対して違和感を抱けるようになり、教皇でありながら悪魔に誑かされたと涙ながらに謝罪した。

 この不可思議な主張を最初は国王派も信じられなかったが、教皇と同じ罪をギーラスが認め謝罪したことや、両名が教皇、枢機卿から退き罪を償うとまで志願したことで国王派も無下に出来ず。

 結果、降臨祭目前に両名が退けば教徒が混乱するだけでなく、先の理由から教国その物の危機を招くと降臨祭を終えるまでは現状維持とし、終了後改めて進退の話し合いが行われることになった。

 この決定に記憶が曖昧な関係者以上に、教皇とギーラスが異を唱えるも罪の自覚があるならこそこれ以上の混乱を招かず今は責務を全うするべきと説得されたことで、今ごろ二人は降臨祭を成功させるべく気丈に振る舞い続けている。

 二年ぶりに教皇自ら取り仕切るとの御触れに教徒らは歓喜していたが、事実を知らないのはある意味幸せなのかもしれない。


 とにかく唯一記憶がハッキリしていたギーラスにリヴァイが接触したことでアヤトの関与も明るみに出ることはないが、真実だけでなくマヤの存在を知るだけにロロベリアやユースは釈然としないわけで。

 なにかを知るであろうマヤに質問したところで明確な答えが返ってくるはずもなく、薄ら寒いものが拭えない。


「わたしたちが考えても仕方ない」


 が、そんな二人にリースが淡々と意見を述べる。


「そもそもマヤの存在自体が異質、もしマヤみたいななにかが変なこと企んでいても今のわたしたちじゃなにも出来ない」


 ただ淡々とした口調ながらも瞳からは悔しさが見て取れ、両拳も硬く握られていた。


「だから、なにも出来ないわたしたちはアヤトたちが守った平和を喜べばいい。でも……なにも出来ず、ただ守られるのはもういや。すぐには無理なのは分かってても……いつか絶対に……っ」


「……だよな。もう仲間はずれはごめんだわ」


 姉らしい単純な結論、しかしその気持ちを理解できるユースも悔しげに呟く。

 アヤトやマヤの事情を知り、どんな理由だろうとロロベリアを関わらせているのに自分たちは足手まといとして弾かれた。

 だからこそ、今はなにも出来なくてもいつか戦力として関わってやると。


 二人の並々ならぬ決意にロロベリアも同じ気持ちで。

 マヤ越しに今回の立ち回りをアヤトは褒めてくれたが、もちろん満足していない。

 アヤトの隣りに立ち、共に困難に立ち向かう。

 そしてアヤトの未来を、世界を守る大英雄になるにはまだまだ足りないものが多くあるなら。


「なら早く戻って訓練しましょうか」

「この三人ってのも久しぶりだしな。アヤトは……料理に夢中だろうから無理か」

「でもカナリアさんやツクヨさんは暇してる。徹底的にがんばる」


 立ち止まっている暇はない。



 

帝国編でロロが抱いた悔しさを今回はリースとユースが強く抱いたことでしょう。

その悔しさが今後の二人の成長にどう繋がるかは後のお楽しみに。

また足早になりましたが教国編もこれで一段落、残りの教国滞在も最後までお楽しみに!


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読んでいただき、ありがとうございました!



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