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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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変わらぬ光景

アクセスありがとうございます!



 情報交換を終えてからしばらく――


「……少し待ってください」


 警戒をしつつ応接室で他愛のない話をしていると不意にカナリアが手を掲げる。

 その仕草で理解したロロベリアとツクヨは邪魔にならないよう口を閉じ、カナリアに注目していると安堵の表情を浮かべた。


「教会首謀者の制圧、及びミューズさまと教皇さまの救出は完了、だそうです」

「……そうですか」

「だろうな」


 やはりマヤからの連絡だったようでその朗報にロロベリアは胸をなで下ろし、ツクヨはカラカラと笑う。

 アヤトなら問題なくやってのけると信じていてもそれはそれ、無事と聞かされてようやくロロベリアも緊張から解放される。


「それと今後の予定になりますが、まずツクヨさんはリースさん、ユースさんが宿泊されている宿に一度戻ってください」

「あの二人も心配してるだろーからな。そりゃそうか」

「マヤさんからも連絡をするそうですが、ツクヨさんが知る限りの情報であれば伝えて構わないそうです。あとミューズさまに許可をいただいているので明朝には宿を引き払い、お二人とここに来るようにとも」

「りょーかい。んじゃ白いのちゃん、また明日……と言ってる間にマヤから来たわ」


 カナリア越しに言伝を受け取り立ち上がるなりマヤから連絡があったようで、ツクヨは無言のまま窓から宿へと向かった。


「ロロベリアさん、これからミューズさまはダリヤさんとここへ戻ってくるそうです」


 二人になるなりカナリアは続いてロロベリアにも言伝が。

 ダリヤは味方に付いていたのなら警護も兼ねて一緒に戻ってくるのは当然。また使用人らが起きる前にミューズが帰ってくるならこちらとしても助かるのだが。


「……アヤトは?」


 肝心のアヤトは何をしているのかがロロベリアは気になるわけで、問いかけてみればカナリアから大きなため息が一つ。


「私も簡潔にしか聞いていないのですが大聖堂や宮殿にいる教会関係者全てが意識を失っているようで、フロッツさんがリヴァイさまに話を付けに行く間、教皇さまの警護も兼ねて大聖堂に待機するそうです」

「全員? それはアヤトが……?」

「いえ……首謀者はアヤトさんが全て対処したそうですが、他は不明だそうです。なので教皇さまが目を覚まし次第、詳しい事情を聞いてからの判断になるでしょう」

「…………?」


 いまいちよく分からない状況にロロベリアは首を傾げてしまうも、少なくともアヤトはまだ戻って来られないようで。


「それよりもここからが肝心なのですが、アヤトさんは擬神化を見られています。首謀者は当然、ミューズさまやダリヤさん、フロッツさんにもです」

「まあ……それは仕方ないかと」

「私も仕方ないと諦めています。ただ擬神化についてはもちろん、マヤさんの正体などは知られていません。聞くところによると銀色の変化はミューズさまの騎士となったことで神が与えた不思議な力として押し通したらしいのです」

「は? ……は?」


 しかし更に意味不明な状況に困惑。

 相手の戦力を考えれば擬神化は仕方ない。

 なのでミューズたちに見られても攻められないのだが、ミューズの騎士になったとはどういうことか。


「またミューズさまやダリヤさんには教会の暗躍について伝えているそうなのですが……私たちが教会からの刺客に襲われたこと、またツクヨさんについてもある程度伝えているんです」


 どことなくいい響きにもやもやするロロベリアを他所にカナリアは頭を抱えてしまい。


「ミューズさまについてはアヤトさんの秘密なのでとクギを刺せば口外しないし深く追求もしないでしょう。ですが……他にはマヤさんの存在を抜きにしてどう説明すればいいんですか? わかりますよ。今回は事情が事情なので出し惜しみは出来ないことも……それでもこちらのフォローは全て私に任せるとか私を何だと思っているんですか……っ」

「あの……それよりもアヤトがミューズさまの騎士というのについて……」


 気が気でないと更なる情報を求めようと口を滑らせたのが運の尽き、頭を抱えていたカナリアがギロリと睨み。


「それよりも……? ロロベリアさん……あなた、分かっているんですか?」

「……えっと」

「もうすぐミューズさまとダリヤさんが戻ってくるんですよ? 擬神化や私たちがある程度把握していると知った上で! ですが神が与えた不思議な力とかふざけた理由で押し切ってるんですよ!? つまりお二人になにか聞かれても余計なことは絶対に口にしないで下さい!」

「ごめんなさい!」


 前科があるだけにロロベリアはカナリアの剣幕も含めて即座に謝罪した。



 ――のだが、カナリアの不安は良い意味で裏切られた。



「ロロベリアさん、カナリアさん、ただいま戻りました」

「二人とも無事で本当に良かった」


 エントランスで待機しているとミューズとダリヤが帰宅。

 馬車ではなく精霊力を解放して走ってきたので、雪も弱まっているとはいえ二人ともびしょ濡れ状態。


「そちらこそ無事でなによりです。勝手に拝借しましたがこちらをどうぞ」

「ありがとうございます」


 なのでカナリアが用意していたタオルを差し出せばミューズは受け取るもダリヤは首を振る。


「私はすぐに戻るので気持ちだけ受け取っておく」

「……大聖堂にですか」

「アヤト殿を一人にしているからな。ここに来たのもミューズの見送りだ」


 それにダリヤはアヤトが描いた筋書き通り、救出した教皇と共に教会の正常化に尽力する一人としてリヴァイら国王派との話し合いに立ち合う必要があるらしい。


「不可解な点は多いが、私たちはアヤト殿には助けられた。なので深く追求するつもりもなければ、国王派との話し合いでも私やフロッツはあなたたちの不利益になるような発言はしないと約束しよう」

「……助かります」


 去り際にダリヤがとても心強い誓いを立ててくれて、必死に言い訳を考えていたカナリアは感謝しかなかく。


「早速ですがレムアさんは目を覚まされましたか」


 またミューズも同じ配慮をしてくれるのか、なにも聞かずに状況を納めるべく協力してくれるようで。


「まだのようですけど……それよりもまずシャワーを浴びて着替えた方が」

「お気遣いありがとうございます。ですが今はレムアさんを休ませているお部屋に案内してもらえませんか」


 タオルで拭いたとはいえ体調を心配してロロベリアが提案するもミューズはやんわりと拒否。

 その対応に若干の違和感を覚えるが本人の希望通りロロベリアはレムアを休ませている二階の客間に案内することに。


「……ミューズ、さま……?」


 したのだが、それより先に階段からレムアの声が。

 他の使用人よりも精霊力の保有量が多いが故にネルディナの精霊力の影響が少なくて済んだのか、予想よりも早く目を覚ましたようで。

 ただ足どりこそ普段通りでも顔色の悪さやミューズを見据える目が泳いでいるのは意識を失う前の出来事による困惑か、それともここにいるミューズが本物かどうか迷っているのか。


「レムアさん。ただいま帰りました」

「ミューズさま……っ」


 それでもミューズの向ける笑顔に感じるものがあったのか、途端に階段を駆け下りた。


「ご無事でよかった……ほんとうに、よかった……です」

「レムアさんこそご無事でよかったです……心配をおかけして申し訳ございません」

「いいのです……ミューズさまがご無事であれば……謝らないでください」


 抱擁を交わし歓喜の涙を零すレムアを慈しむよう両腕を回していたミューズだが、ゆっくりと身体を離して視線を合わせる。


「レムアさん……色々と思うところはあるかも知れませが、今は詳しい事情をお話しすることは出来ません」

「…………それは」

「ですが少なくとも、みなさんを傷つけた行いにお爺さまが加担しています。なので枢機卿の立場を失うとだけ」

「ギーラスさまが……そんな……」


 思わぬ内容にレムアは呆然となるも、ミューズは神妙な面持ちで続ける。


「それでも今後もイディルツ家に、わたしに、力を貸してくれないでしょうか」


 ギーラスの反応や教皇の異変から状況が不透明なので今は多くを語ることが出来ない。

 また国王派にリヴァイが居ようと、今回の問題にギーラスは大きく加担している。

 なら枢機卿の立場は失うことだけは確かで。


「詳しい事情を伝えず、不誠実と思われるかもしれません。それでもレムアさんやクルトさん……みなさんの力がこれからのイディルツ家には必要なんです」


 自分たちを傷つけた主や裏切りや、不名誉な除名を受ける貴族家に仕えたいと思える使用人はいないと分かっていても。

 

「時が来れば全てお話しします。なのでどうか……今後も力を貸して下さい」


 最後はお願いしますとミューズは頭を下げる。

 今後の苦難もみんなが居れば乗り越えられると、その一心で。


 ミューズの願いにロロベリアやカナリアが固唾を呑んで見守る中、レムアはその願いに不快よりも驚きを感じていた。

 なんせ自分の知る主は謙虚であり頑固者が故に周囲に頼ろうとせず、自身の悩みを中々吐露してくれなかった。


 しかし今は自分の意思で、こうして頼ってくれている。


 不誠実と理解していても、自分たち使用人の力が必要だからと。

 元よりこの成長を願っていたレムアとしては、例えよく解らない状況だろうと受け入れるのみ。

 なによりレムアにとって主の笑顔こそ守るべき尊きもので、幸福が何よりの喜びなのだ。


「私はイディルツ家に、ミューズさまに生涯の忠誠を誓っております」


 ならばと愛する主の肩に手を置き、レムアは微笑みかける。


「私だけではありません。みなもミューズさまが大好きなのです……お願いされなくても、今後ともお仕えするに決まっているではないですか」

「……レムアさん」

「故に私たちの力が必要との言葉は極上の誉れでございます。なので今後ともどうかお仕えさせて下さい」


 そして使用人を代表して膝を突き、ミューズの願いに対する返答を口にした。


「ありがとうございます……レムアさん」

「どういたしまして、です。それよりもミューズさま、ご安心頂けたなら今すぐ身体を温めて下さい。そのままでは風邪を引いてしまいますよ」

「ですが他のみなさまにも……」

「私の力を貸してくれと仰ったばかりではないですか。なので他の者は私にお任せ下さい」

「では……お願いします」


 早速レムアに促されるままミューズは入浴するべく自室へ向かい。


「……良かった」

「ですね」


 二人の変わらない家族のような温かな光景に、ロロベリアとカナリアも安堵の笑顔で見送った。



 

懸念だったイディルツ家使用人の問題も一段落です。

手に入れた勇気でミューズが素直に頼ったこともですが、これまでレムアを始めとする使用人と過ごした時間、ミューズの人柄がこの結果に繋がったと思います。


少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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