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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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裏幕 気まぐれの結末

アクセスありがとうございます!



 夕刻から荒れ始めた天候も日が完全に沈んで以降はなだらかではあるも落ち着きつつ、今はただ静かに降り続けていた。


 闇夜を主張する白い結晶に紛れるようにレイ=ブルク大聖堂の中心に位置する棟に金色の輝きが浮かんでいる。

 拳大ほどのその輝きは儚く、ゆらゆらと漂う四方を視認できなほどのか細い白銀の線が張り巡らされていた。

 見方によっては白銀の線の拘束から逃れようともがき続けているようで。

 そんな金色の輝きを嘲笑するようなクスクスとの笑い声と共に、白銀の輝きが棟に灯り。


「――お待たせしました」


 白銀の輝きが徐々に人を象り、最後は闇夜よりも暗い髪や瞳をした少女――マヤへと変貌を遂げた。


「兄様がどのような結末を用意していたのか興味があり、つい……放置してしまい申し訳ございません」


 ふわりと棟に降り立ったマヤは金色の輝きに謝罪を述べるも表情には一切の悪気がなく。


「寒かったでしょう? なんて……神さまなら風邪を引くこともないでしょうし、問題ありませんね」


 からかうような口振りに金色の輝きが僅かに強さを増すも、白銀の糸から逃れられず。


「それにしても随分と無茶をしましたね。強引な契約では契約者(教皇さま)のお体に負担が掛かりますし、あなたの力も大きく制限されるというのに。現に兄様が擬神化するまでわたくしの存在に気づけなかったようですし」


「――――」


「お陰で変わりの手足として利用した枢機卿……特にギーラスさまは神に対する信仰心と孫娘に対する親愛がせめぎ合い、半端に掛かっていましたよ。それにあなたの力が埋め込まれた枢機卿方の言葉でも他は上手く利用できていましたが、ダリヤさまには効果がなかったようですし。この程度の弱体化は低俗なあなたでも理解しているのでしょう?」


「――――」


「それとも敢えて回りくどい方法を選んだのは遊戯を楽しむためでしょうか? だとすれば人間を見下すだけのあなた方らしいですね。わたくしの存在に気づくなり、逃げるべく強引な契約破棄を行ったことで教皇さまは死の淵に立たされていますし……勝手だこと」


「――――」


「ですがその結果、信仰心を集めきれず、破滅を招くこともできず、あまつさえミューズさまの身体を乗っ取れず終いというのがなんとも……可笑しくて仕方ありませんわ」


「――――」


 一方的に責め立てるマヤに反論するかのように金色の輝きが点滅するもそれだけで。


「……ですね。このままだと今を楽しめませんし、少しだけ」


 マヤも輝きの強弱だけではつまらないと嘆息しつつ指を鳴らす。

 すると白銀の糸にたゆみが生じ、金色の輝きが徐々に人を象り始め、やがて白いローブを纏う長身の人物に変貌を遂げる。

 闇夜でもキラキラと輝く金色の長い髪と作り物のような中性的な顔立ちから性別は判断できないが――


「…………っ」


 顔立ちがハッキリしたことでマヤに対する憤怒の感情がありありと分かるように。


「どこかでお会いしたことがありますかね? まあどうでも良いですけど」


 しかしマヤはどこ吹く風、顔を一瞥するのみで一蹴。


「お前は――」


「わたくし、発言まで許したでしょうか?」


「――っ」


 その態度に長い髪の人物は無機質なのに怒りを感じる声を張り上げようとするも、マヤが小首を傾げるなり声を失ったかのように口をぱくぱくとさせるのみで。


「よろしい。では時間もないので早急に済ませましょうか」


 マヤも満足げに頷き睨み付ける相手と向き合った。


「教国は信仰心を集めるには最適、最初に教皇さまを選ばれたのも理解できます。また隔世的とはいえミューズさまのように精霊力を視認できるほどの血統も希有な人間、器として選ぶのも当然の選択でしょう」


 ですが――と、マヤは僅かな間を置き。


「もっと優れた器もあったというのに、あなたは気付かなかったのですか?」

「…………」

「気付かないでしょうね。なのでわたくしが特別に感じ取らせてあげましょう」


 パチン、と指を鳴らした瞬間――相手の表情が憤怒から徐々に困惑へ。

 そして驚愕のまま細めていた目を大きく開き。


「これは……()()()()――っ」


「気付いていれば低俗なあなたでも無駄な遊戯を楽しまなかったでしょうね」


 声を発してもマヤは咎めることなくニタリと笑って。


「では、()()()()()


 この反応が見たかったと、満足して一礼を。


「なに――ァァァァ……ッ」


 同時に銀よりも白い一閃が両断、声にならない声を発して金色の輝きだったものは跡形もなく消滅した。



 ◇



 奇妙な断末魔を聞き流したマヤはゆっくりと顔を上げた。


「お見事です、兄様」


「たく……なにがお見事だ」


 闇夜の中からゆっくりと歩み寄るアヤトを褒め称えるも、お気に召さないのか不服げに返されてしまう。


「せっかく褒めて差し上げたのに、素直に受け取らない辺りが兄様ですね」

「とにかくお願い事とやらも達成で良いんだろ」


 マヤの軽口をため息でさらりと交わし、アヤトは左手の白夜を消失させる。


 そう、フロッツやミューズと共に宮殿に向かっていたアヤトの脳内にマヤの声が響き。


『二度目のカードを切ります。今すぐわたくしの前にある存在を白夜で斬ってください』


 故にマヤの気配を辿りながらアヤトは白夜を顕現、契約に従い不可思議な存在を斬りつけたのだが。


「ならもう行くぞ」

「…………なにも、お聞きにならないのですか?」


 追求どころか気にもとめず戻ろうとするアヤト意外そうにマヤはキョトン。

 この願いを持ち出した時も、今も、アヤトは質問すらせず聞き入れた。

 相手に深く踏み込まず、また律義が故に約束したなら必ず守るのはアヤトらしいがあまりに淡泊すぎるとマヤは興味深く。


「お聞きしたところでまともな返答も期待できん。時間の浪費は嫌いでな」

「そうですか」


 何ともらしい理由が返されてしまい、仕方なく背を向けるアヤトに最初から決めていた言葉を投げかけた。


「アレは教会が崇めていた神さま。今回の面倒事における真の黒幕みたいなものですね」

「…………」

「そしてその神さまを滅ぼした兄様は神殺しを達成した人間となりました。おめでとうございます」

「そりゃどうも。つーか、えらく羽振りが良いじゃねぇか」


 パチパチと祝福の拍手を送れば立ち去ろうとしたアヤトが振り返る。

 対価もなく提供された情報に対し愉快げな笑みを向ける様子に、興味を持たれたマヤも愉快気で。


「神殺しを果たした兄様にご褒美をと思いまして。なのでもう一つ、可愛い妹から素敵な情報を一つ」

「それはそれは、神さまからの褒美とは光栄だな。聞いてやろう」


 横柄な態度ではあるもアヤトは身体ごと向き合いマヤの言葉を待つ。


「教皇さまのお体は強引な契約解除によって一時的に衰退しています。放置すればそのままお亡くなりになるかと」

「……つまり、神さまの不思議な力があればお亡くなりにならないと」

「対価を必要としますが擬神さまの不思議な力でも、ですね」

「羽振りが良すぎて胡散臭さがこの上ねぇな」

「素直に受け取ればいいのに」

「どうでも良いがテメェで可愛い妹なんざよく言う」

「それこそどうでも良いですね」


 嘲笑するアヤトにマヤもクスクスと笑い、お返しついでに話題転換。


「せっかくなので最後のカードをここで切らせてもらいます」

「なにがせっかくかは知らんが、さっさとしろ」


 情報通りなら早く教皇の元へ向かわなければならない状況でもアヤトに焦りはなく、ただ面倒げで。

 一呼吸分の間を置いてマヤが貴重なカードを切った内容は――


「王国に戻り次第、教国の料理を振る舞ってください」

「あん?」

「兄様やロロベリアさまばかり楽しまれてずるいですわ。どのようなお味か、わたくしも食してみたいのですよ。教国に滞在中のお願いなら問題ないでしょう?」

「へいへい」


 この場で願う必要もない約束もアヤトは気にせず了承し。


「人間の真似事が好きな妹を持つと苦労する」


 やれやれと肩を竦め、やはり皮肉を最後に姿を消した。

 残されたマヤは雪で濡れた髪を払うように軽く首を振る。


「やはり、兄様は最高ですわ」


 多少は厄介ではあるが貴重なカードを切ってまでアヤトをここに呼び、アレを消滅させる必要はなかった。

 また先ほどの情報も伝えるまでもなく、ある程度は察していただろう。


 しかし敢えて情報を与えることでアヤトが今後どのような未来を見せてくれるのか。

 

更に興味深くなるだろうと実行しただけの、ちょっとした気まぐれで。


「た~のしい」


 ワクワクから表情をほころばせてマヤも姿を消した。



 

これにてVS教会も終了、そして教国編も残り僅かとなります。

内容については敢えて触れません。

代わりにですが、やっぱりアヤトくんとマヤさん仲良いですね(笑)。



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読んでいただき、ありがとうございました!




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