最後の報告
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「――い。おい」
「……ん」
ロロベリアが次に目を開けると、背中ではなくアヤトの顔が見えた。
「あ……アヤト。起きたの」
「とっくにな。お前こそようやく起きたか」
「……起きた? あ……私、寝てたんだ」
アヤトの嘆息に目をこすり、自分も眠っていたと理解する。
よくよく考えれば昨夜はあまり眠れず、霊獣地帯で続いた緊張感。肉体的にも精神的にも疲労している中であの心地よい時間を過ごしていれば無理もなく。
「寝ていたな。見事なアホ面で」
「アホ面って……というか私の寝顔見たのっ?」
「見たがどうした。つーかヨダレ垂らしてグースカ寝てりゃ充分アホ面だろ」
「~~~~っ!」
その指摘にロロベリアは顔を真っ赤にしつつ慌ててハンカチで口元を拭く。
寝顔を見られたことも踏まえてもの凄く恥ずかしい。というより自分は見られてアヤトは見せてくれないのは不公平だ――などと自分でもよく分からない批判が浮かぶ。
「とにかく起きたなら行くぞ」
ロロベリアを無視してアヤトは荷台から降りてしまい、馬車が揺れていないのならラナクスへ戻ったのだろうが。
「行くって……私も?」
ラタニの依頼で霊獣地帯に赴き、見回りと討伐も終わり後は報告のみ。
むろん最後まで付き合うつもりだが自分も同行して良いのか気になるところ。
「あん? お前が案内せず誰がする。その為に付き合わせてんだろ」
しかし返ってきた言葉に首を傾げ、更に質問しようと後に続くも幌で隠れていた周囲が見えるなりロロベリアは目を見開く。
「……ここって」
「昔話で得た情報からこの町を特定するのは簡単だが、さすがに詳しい場所まで調べるのは面倒だからな。道案内が可能なお前がいるなら楽でいい」
呆然とするロロベリアに苦笑し、アヤトは目的の場を問いかけた。
「ここにあるんだろう」
「ある……けど、どうして?」
「依頼ついでに立ち寄れたからな」
それは嘘だ。
ラナクスから霊獣地帯までの道中にこの町はなく、かなり迂回しなければならない。
ならば立ち寄るよりも、最初からここも目的地になっていたはずで。
「むろん面倒ならいいぞ。あの施設で偶然知った奴がたいそう世話になったらしいなら、ついで程度に直接弔うのも悪くないと思ったくらいだ」
だが続く理由にロロベリアも理解した。
「……案内するわ」
ならこれ以上の疑問は無粋と望む場所に案内した。
シュヴニツはラナクスから東にある小さな町。
依頼された霊獣地帯からは南東、つまり帰路で立ち寄るにはかなり迂回したルートにある。
ではなぜアヤトが嘘をついてまで立ち寄ったのか。
なぜロロベリアを同行させたのか。
それはシロとクロの大切な家族が眠っているからで。
「……ここよ」
「随分と見渡しの良い場所にあるな」
無言のまま歩き続け、町外れの平原にある墓標に到着してもアヤトは特に感慨深さもなく言い切る。
「ええ……教会が燃えたから」
対しロロベリアは感慨深く、シュヴニツで購入した花束を墓標に添えた。
「みんなの死体も燃え尽きて……遺品もなくて……だからこの場所にって」
申し訳程度に設置された柵の内側にある五つの墓標は、血の繋がりのないシロとクロの家族の物で。
五年前、夜盗に襲われ火を放たれ燃え尽きた、幸せな時間を過ごしていた教会があった跡地。
この五年、ロロベリアも何度か足を運んだ。
最後に来たのはマイレーヌ学院に入る前、ニコレスカ姉弟と共に訪れたこの場所に今はアヤトと二人で居る。
分かっている。
自分はロロベリアでありシロ。
でもアヤトはアヤトでしかなく、クロではないと。
本人も否定し、ここへ訪れるのにわざわざ理由をつけている。
ロロベリアもクロは死んだと、アヤトは別人だと受け入れている。
それでも感慨深く、自然と熱い物がこみ上げてくるのは止められず。
「あ……ち、違うの。これはあなたがクロとか、そうじゃなくて……」
溢れる涙が止まらず、慌てて否定するもアヤトはため息を吐き。
「違わねぇよ」
「……え?」
「ここに眠るのはお前にとって大切な家族。ならその涙は当然だ」
「…………」
「くだらない言い訳で否定するな」
「……うん」
厳しく、しかし優しい叱咤にロロベリアは頷く。
アヤトの言う通りだ。
大切だからこそ、この涙を否定してはいけない。
どうしてアヤトが言い訳染みた理由を付けてまで訪れたのか。
弔いに来てくれたのか。
クロではないと否定し、記憶も失っているならアヤトにとってわざわざ理由を付けてまで直接弔う必要はない。
でもアヤトは義理堅いのだ。
それこそくだらない理由でお世話になった相手を否定せず、知ったなら関係なく弔う為に足を運ぶほどに。
だからロロベリアも今は難しく考えず、素直に涙を流して報告する。
これが最後だと言い聞かせて。
みんな……クロが、生きてたよ。
私たち、また会えたんだよ。
だから天国で、私たちのこと……見守っててね。
この報告がロロベリアにとって、本当の意味で決別の瞬間となった。
◇
霊獣地帯からシュヴニツを経由した為、ラナクスに到着した頃には既に周囲は暗く。
「では兄様、わたくしはこれで」
「ああ」
今朝方合流した郊外で馬車を止め、アヤトとロロベリアが降りるとマヤのみ先に街中へと入っていく。
「さて、俺たちも行くか」
「ええ……でも、どうしてわざわざここで?」
もはやお約束となった説明なしの状況を問いかけるのも無理はない。
そもそも今朝も敢えて少し離れた場所でマヤと合流したのか。
「どうしてどうしてと、相変わらずの構ってちゃんが」
「アヤトが事前説明しないからでしょ」
「それとは別に少しは考えろと言ってるんだ。ラタニへの報告はまだしも、あれだけの精霊石を俺が持ち運んだら目立つだろ」
「……あ」
ただでさえ貴重な精霊石。
しかも上位種の物まで入っている討伐成果を持たぬ者で学院の調理師でしかないアヤトが持っていれば確かに目立つ。
なので今までも秘密裏に依頼を受けた際、討伐などはアヤトが担当し、マヤは精霊石を研究施設などに届ける担当をしているらしく。
「あいつの見た目は神気でどうとでもなるからな。ラタニの小間使いと認識されている姿で施設に届けてるんだよ」
「便利ね……神さまって。でもマヤちゃんに何かを頼むのって、対価がいるんじゃ……」
「だから弁当を用意しただろ」
「…………」
「それにあいつは人間の真似事が楽しいらしくてな。御者を務めているのもその為だ。つまり必要な対価の価値もあいつの気分次第……便利ではあるが面倒なことこの上ねぇ」
なんとも神さまらしいというか、気まぐれな対価にロロベリアは言葉がない。
「とにかく今日はご苦労だったな」
「どういたしまして」
それはさておき遅れて街中に入れば後は帰るのみ。
少し寂しいがアヤトをまた知れて、大切な報告も出来たのでロロベリアにとって満足な一日になったと笑顔で別れ――
「さて、何か食いたい物はあるか」
「…………はい?」
――ると思っていれば、まさかの問いかけにキョトン。
「汚れ防止、洗浄、荷物持ち、道案内と今日の白いのは珍しく大活躍だったからな。褒美として奢ってやる」
褒められたのに内容が微妙、いやそれよりも。
「えっと……つまり、一緒に何か食べて帰る……ということ?」
「他にどう取れる」
「……取れない……か」
「ならさっさと言え」
この予想外なお誘いが、ロロベリアにとって更に満足な一日になったのは言うまでもない。
だがこのお誘いが再びロロベリアが呼び出しを受ける事態を生むことになった。
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