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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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騎士は事も無げに起こす

アクセスありがとうございます!



 アヤトすらも困惑を隠せないギーラスの錯乱。


 元々詳しい事情を知らないまま神の器としての使命を果たされそうになっていたミューズは状況も含めて不安を隠せない中、聖域にフロッツが飛び込んできて。


「て……この状況なにっ!?」


 アヤトの身を案じていたようだが目の前に広がる光景にたまらず驚嘆。

 なんせ聖域内のところどころに聖教士団や使者が倒れ伏し、立っているのはアヤトとミューズのみ。

 精霊術を放った痕跡から戦闘が起きていたのだろう。ただこの人数を相手に傷だらけとはいえアヤトは一人で勝利したことになる。

 しかも微かに息をしているのなら誰一人殺していない。

 冗談交じりにアヤトなら大丈夫だろうとダリヤに告げてはいたが、まさか大丈夫どころから完全制圧を果たすとは思いもよらず。

 故にこの光景を前にしたフロッツが状況も忘れて呆然となるのも仕方ないのだが。


「なにしに来やがった」


 そんなフロッツの反応も無視してアヤトが睨む。

 ダリヤと共に教皇の救出に向かったフロッツがここに来たのなら急ぎの理由があるハズで。

 ギーラスの様子から少しでも情報が必要と凄まれたことでフロッツは我に返った。


「そ、そうだ! よく分からんけどミューズちゃんが無事なら一緒に来てくれ!」

「あん?」

「……わたし、ですか」


 その申し出にアヤトは眉根を潜め、ミューズは戸惑うもフロッツは焦りを滲ませ。


「教皇さまの様子がおかしいんだよ!」



 ◇



 アヤトと別れ、教皇を救出するべくダリヤとフロッツは宮殿に向かった。

 二年前から体調不良で公の場に姿を見せず宮殿で療養中と公表されているが、枢機卿が暴走し囚われている可能性もある。

 しかしダリヤ曰く教皇は公表通り宮殿で療養しているそうで、聖教士団にも警備の要請が来ていたらしい。

 また聖剣を渡されてから一度だけ宮殿の寝室で療養中の教皇と謁見を許されたこともあるらしく。

 その際は言葉を交わすのも困難なほど衰弱していたそうで、容態含めて信者を心配させぬよう秘匿を言い渡されていたのだが今は有事と教えてくれたが。


「ただ天蓋越しの謁見だ。猊下のご尊顔を拝見していないのでご本人かは分からない」


 容態が芳しくないからこそギーラスが仲介に入っての謁見と、ダリヤでさえ一年以上教皇の姿を見ていない。

 つまり教皇が宮殿に居るとは限らない。


「でも、行くしかないんだよな」


 それでも他に当てがないなら可能性に賭けるしかなく二人は宮殿へ。

 大聖堂や宮殿周辺の警備は事前にアヤトが排除しているお陰で難なく潜入できたが、だからこそ違和感が。


「……俺は初めて入るけどよ。普段からこんなに人がいないもんか?」

「猊下が住まわれているのだぞ。そんなわけないだろう……が、確かに妙だ」


 静まり返っている内部にダリヤも不審に思う。

 さすがに無人というわけでもなさそうだが、本来なら厳重な警備体制が取られているはず。

 にも関わらず、聖教士団や教会幹部が儀式に参加しているにしても周辺警備に然り少数すぎる。

 こうなると本当に教皇が居るのかすら疑ってしまうが、それでも向かうしかなく。

 精霊力を感知する精霊器周辺以外では精霊力を解放すれど極力抑え、使用人や警備を見かければ手早く昏倒させつつ慎重に移動を。

 ダリヤが謁見したという寝室前の警備二人も迅速に対処したのだが。


「精霊力は……感じられないな」

「……気配も感じない」


 念のためドア越しにフロッツが室内の精霊力を、ダリヤが人の気配を探るがなにも感じず二人の違和感がより増していく。

 ここに来るまでに遭遇した回数も踏まえれば、最低限の人員しか配置されていなかった。

 更にその誰もが心ここにあらずというか、操り人形のように虚無的な動きに思える。

 だからこそ危なげなく到着できたが、あまりに無防備すぎて罠を勘繰ってしまう。


「……どうする?」

「どうするもなにも……行くしかないだろ」


 故に警戒心を怠らないようフロッツがそろりとドアを開け、ダリヤは剣の柄に手を添えたまま入室。

 室内は明かりが灯っていないが精霊力を解放しているお陰でうっすらとでも見渡せる。

 微かな視界を頼りに遅れて入室したフロッツと共に中央の天蓋付きのベッドへ。

 天蓋越しでもやはり人の気配はなく。


「……猊下」


 とりあえずダリヤが声かけを試みるも物音すら聞こえず、それでもと天蓋に手を掛けた。


「失礼します」


 意を決して天蓋を開ければベッドに横たわる人影が。

 目をこらすまでもなくその人影が探し人である教皇と確認、最後に拝見した時より少し痩せてはいるが僅かながら呼吸をしている。


「…………生きてる、よな?」

「ああ……」


 だが教皇からは生気を感じられず、ここに来るまで遭遇した人物と同じような感覚が。

 言うなれば精巧に作られた人形が息をしているような奇妙さで。


「……とにかく無事みたいだしお連れするか?」

「だが、安易に動かしても良いのだろうか……」


 体調面から二人は今後の判断に悩んでいたが。


「……ぁ……」


 人形のような奇妙さから一転、教皇からかすれた声が発せられた。


「猊下……? 私です、ダリヤ=ニルブムです!」


 ダリヤが駆け寄り顔をのぞき込むと、瞼がゆっくりと開かれ安堵の息が漏れる。



「な……ぜ…………」


 しかし瞳孔は虚ろ、呟かれる譫言は無機質なのに恐怖に染まっているようで。


「なぜ…………アレが…………」


「あれ……? 猊下、どうなさったのですか?」

「おいダリー。なんかおかしいぞ」


 雰囲気からして異質な状態にフロッツも焦りを露わに近づいた瞬間――


 ガクン――ッ


「「――ッ」」


 不意に教皇が大きく跳ね二人は息を詰まらせた。

 更に教皇の身体が金色に包まれ、暗闇に馴れていたことからその眩さに視界を奪われてしまう。

 しかしそれは一瞬のこと、すぐさま周囲は暗闇を取り戻し二人は無意識に首を振り。


「なんだったんだ……今の?」

「分からない……それよりも猊下は!?」


 突如起きた異変に訝しむフロッツを他所にダリヤは慌てて教皇の安否を確認。

 先ほどの輝きは錯覚かのように教皇の身体に異変はない。

 またひゅーひゅーとの呼吸音も聞こえることから命に別状もないようだがダリヤは安堵よりも目を疑った。


「フロッツ! 猊下が……猊下が!」

「どうした……て、おいおい……どういうことだよ!?」


 錯乱するダリヤに促されるまま確認したフロッツも驚きから声を張り上げた。

 何故なら教皇の四肢がゆっくりと萎み始め、痩せこけていた頬が更に細くこけていく。

 先ほどの異変といい明らかな異常事態。

 ただ確実なのはこのままでは教皇の命はない。


 そう判断したダリヤの決断は早かった。


「フロッツ……今すぐ聖域に向かえ」

「はあ? 行ってどうするんだよっ?」

「アヤト殿の加勢以外の何がある! ミューズなら何とか出来るかもしれないだろう!」


 ダリヤは精霊士、フロッツは風の精霊術士なので治療術は使えない。

 対しミューズは水の精霊術士で、特に治療術に長けている。

 つまりダリヤは治療術に望みを掛けた。

 そしてもう一つ、アヤトならこの窮地を打破できるのではないかと頭を過ぎっていた。

 実に根拠のない望み。

 しかしこれまでの経緯からアヤトには妙な期待感を抱いてしまう。

 なによりこのまま何もしなければそれこそ何も変わらない。

 ただ教皇の命が消えるのを待つよりは行動に移すべきと。


「私は宮殿内に水の精霊術士がいないか探してくる! 分かったなら急げ!」

「……ああもう! 分かったよ!」


 治療術でどうにかなるとは思えなくとも、ダリヤの意思を汲み取ったフロッツは時間も惜しいとそのまま窓から外へと飛び出した。



 ◇



「そんな……教皇猊下が……っ」


 フロッツに手を引かれ宮殿に向かいながら事情を聞いたミューズは教皇に起きた異変に言葉を詰まらせる。


「嘘みたいな話だけどマジなんだって! だから急げ!」


 ギーラスたちを放置することに躊躇いを見せていたが今は事情が事情とフロッツは急き立てつつ宮殿内を駆ける。

 道中倒れている使用人や警備にも目もくれず、ミューズの手を引いたまま寝室へ飛び込んだ。


「ダリー! 教皇さまは!?」

「辛うじてだがまだ息はある! 身体の変化も納まったようだが、このままでは……っ」


 ベッドの傍らで片膝を突き祈り続けていたダリヤはフロッツの呼びかけに答えるも、その声音は震えていて。


「ミューズ、猊下に治療術を施してくれ! 頼む!」


「……はいっ!」


 故にミューズの無事を喜ぶよりも僅かな希望を込めて懇願。ミューズもまた二人の焦りやベッドに横たわる教皇を確認するなり考えるよりも先に駆け寄った。

 聞いた通り教皇の身体は痩せこけ、触れれば簡単に折れてしまいそうなほど。

 また視認できる精霊力の輝きも弱く、それも徐々に消える寸前で。

 そもそも治療術で体力が回復しないように、病気や衰弱のような症状には効果がない。

 

 つまりミューズの見る限り治療術を施しても存命は絶望的。


 水の精霊術士だからこそ教皇の命を救うことは出来ないと痛感するも、ミューズは構わず治療術を施し始めた。

 ミューズの治療術が優れているのは精霊力を視認できるからこそ。

 精霊力の輝きを目安に自身の精霊力をゆっくりと流し、四肢の変化にも注視しながら必要な部分に必要な量を。

 しかし輝きが戻るどころか徐々に小さくなっていく。

 教皇の命が自分に掛かっている重圧、恐怖から視界が滲んでくるが、それでもミューズは抗うのを止めない。

 自分の出来ることを最後まで貫く。

 アヤトに守られて抱いた悔しさから学んだから。


 逃げるようなことは絶対にしないと、絶望に抗うミューズの勇気が呼び寄せたのか。


「――()()()


「「…………へ?」」


 窓から飛び込んでくる人影に、緊迫した空気に不釣り合いな声がフロッツとダリヤから漏れ出てしまう。


「やれやれ……どうやら間に合ったようだ」


 言うまでもなくその人影はアヤト……なのだが、聖域を出る際は確かに一緒だったはずなのになぜ窓から飛び込んできたのか。

 今までアヤトの姿がなかったことにダリヤもようやく気付いたが、どこに行っていたのかとの疑問以上に不可解な現象に言葉がない。

 なんせ窓から飛び込んできたアヤトの右前髪一房を残した黒髪と黒い左の瞳が煌めきを帯びた白銀色に変化していて。


「おま……っ。なんだよそれ……!?」

「不思議な力だ。詳しくは後でミューズにでも聞け」


 ダリヤの代わりにフロッツが指さし何とか問うもアヤトは意味不明な返答で一蹴。


「テメェらは後ろを向いて目を瞑れ」


 更にミューズの元に向かいながら意味不明で端的な指示が。


「は? いや、それよりも――」


「さっさとしろ。教皇を見殺しにするつもりか」


 フロッツは反論するも冷ややかな視線に言葉が続かず。

 意味不明でもアヤトがこの状況を打破する為に必要と指示したのなら。


「……フロッツ」

「ああ……」


 ダリヤとフロッツも信じて従うのみと指示通り背を向け目を閉じた。

 二人を確認するなりそのままアヤトはミューズの隣りに。


「治療術を施したままでいい。お前も目を閉じろ」

「……アヤトさま」


 一度見た変化が故か、心こそ乱していないが安堵で涙を零すミューズの頭にアヤトは無雑作に手を乗せて。


「それともお前の騎士を信じられんか?」

「…………」

「ま、騎士と言っても今回限りだがな」


 確かにアヤトがミューズの騎士を担っているのは貸し借りが理由。

 ここに来てわざわざ持ち出す話題でもなければ、本当に信頼を得ようとしているのかと訝しむ軽薄さ。

 しかし滑稽なほど自身を貫き通すアヤトにミューズは恋をした。


「……かまいません」


 何より自分の望みは『聖女の旅』の更に先の未来。


 セレスティアとルカールが結ばれ、聖女と騎士から生涯の伴侶となった関係だ。


 その関係を掴むのは自分の頑張り次第とミューズは少しだけ寄り添い瞳を閉じた。

 頭からアヤトの手が離れるも、温かな気持ちで。


「――もういいぞ」


 僅か数秒の幸せを感じているとアヤトから三度端的な指示が。

 同時に温もりが離れてしまい名残惜しく思いながらもミューズは瞼を開け――


「…………これは」


 目に映るミューズはただ呆然。

 何故ならベッドに横たわる教皇が従来の姿に戻り、痩せこけた顔も、四肢も、視認できる精霊力もはっきりと確認できるほど。

 まだ意識は戻っていないようだが、呼吸も安定しているのなら眠っているだけか。


「猊下……よかった……っ」

「え? あ……え?」


 この奇跡にダリヤは数秒の間に起きた変化に疑問視することなく歓喜に震え、フロッツは狐につままれたような顔で意味もなく右往左往。

 そんな中、呆然としたままミューズはこの奇跡を起こしたであろうアヤトを見上げる。

 いつの間にか黒髪黒目に戻ってはいたが。


「これで、一先ず終いだな」


 いつものように平然と締めくくった。




アヤトくんがどうやって奇跡を起こしたかは想像通りかと。

そして次回更新である意味VS教会も完全決着。

詳しくは次回で!



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!




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