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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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不可解な返答

遅い時間の更新になってすみません!

アクセスありがとうございます!



 ミューズは言葉がなかった。


 悪魔を粛清せよと奮起する聖教士団を前に恐れるどころか気負いもなく対峙していあたアヤトが姿を消した瞬間。

 突撃する精霊士を援護するべく、背後に控えていた精霊術士が言霊を紡ぐより先に朧月の一閃で意識を刈り取っていた。

 初動の兆候すらない身の熟しで、まるで消えたように錯覚させるアヤトの神技はミューズも知るところ。

 しかし今は姿を見失った瞬間、精霊術士に向けて朧月を振るっていた。

 迫り来る精霊士たちの間隙をくぐり抜けて、瞬きの間さえない与えない速さで。

 アヤトが取ったその先手は、先ほど祭壇から扉までの距離を自分を抱えて瞬時に移動したのが事実と証明すると同時に相手の戦意を完全に挫いてしまった。


 以降はアヤトの一人舞台。


 意識的スキを見逃さず再び姿を消すなり、次々と精霊術士を打ち倒されていく。

 精霊術士を中心に狙いを定めているのは精霊術を封じる為と、人間離れしたアヤトの動きに恐れを成し、恐怖からところ構わず精霊術を乱発する前に対処する為か。

 故に聖教士団のみならず非戦闘員だろうと精霊術士に狙いを定めて瞬く間に、恐怖から逃げ惑う精霊士や持たぬ者も合間を縫って確実に。

 我に返った聖教士団が奮戦するも、完全に統制を乱された状況では何も出来ず。


「キサマは……いったい何なんだ!」

「あん? テメェらが悪魔だつったんだろ」


 錯乱なまま剣を振るう士団長も危なげなく一撃で打ち倒し。

 いとも簡単に聖教士団の精鋭三〇人と信者二〇人の意識を刈り取ってしまった。


「ま、俺は聖女さまの騎士のつもりだがな」


 にも関わらずアヤトは自身の成し遂げた奇跡を誇るでもなく、相変わらず飄々とした態度を崩さない。

 この奇跡をもたらしたは間違いなく銀色の変化によるもの。

 アヤトは聖女に認められた騎士に守護させるべく、神が不思議な力を与えたと口にしていたがそんなはずはない。

 聖女としての自覚以前に、あの姿こそアヤトの真価。

 精霊力の代わりに神が与えた力を秘めていたのだとミューズは理解した。

 つまり自分の想像通り、アヤトは神に選ばれし存在で。

 やはり恋慕を抱くのは烏滸がましい。


 以前のミューズならそう結論づけ、身を引いていただろう。


 だが本物の勇気を手に入れた今はもう遅い。

 崇めるよりも抑えきれない感情を優先してしまう。

 自身の夢を叶えるべく共に責任を背負う姿に。

 例え義理からの救いや導きでも、困難を振り払う姿に。


 あの人はどんな思いを秘めて戦ってくれているのか。

 

 ロロベリアはアヤトのこの姿を知っているのか。


 精霊力を秘めていないが故にアヤトの感情を読み取れないのがもどかしくて。

 恋敵だからこそロロベリアに醜い嫉妬を抱いてしまう。


 同時にあれほど憧れていた聖女セレスティアと騎士ルカールの関係が色あせていく。

 ルカールを心から信頼し、持ち前の勇気で困難に立ち向かうセレスティア。

 どこか危なっかしいセレスティアを傍らで見守るルカール。

 信頼と大切で繋がる二人の関係はもちろん素敵だと思う。

 それでも守られることでミューズが感じたのは悔しさ。


 ただ守られるよりも彼と共に立ち向かいたい。

 隣りに並び、本当の意味で苦楽を共にしたい。

 いつか自分も彼に頼られ、守る存在になりたい。


(ああ……そうだったのですね)


 芽生えた感情からミューズはようやく納得できた。

 アヤトと出会ってから飛躍したロロベリアの強さの秘密が。

 危ういほど真っ直ぐな気持ちで突き進み、命懸けで高みを望む理由が。


 きっとロロベリアはただ守られるだけではなく。

 ただ信頼するのではなく。

 守られる嬉しさを悔しさに変えて。

 向ける信頼と同じ信頼を向けられるよう、必死にあの背中を追い続けているからだと。


 自分が物語から憧れた以上の関係を求め続けるロロベリアの強さをミューズは改めて知ることが出来た。

 それでも負けたくなのなら、諦めきれないのなら。


「愛しています……アヤトさま」


 この気持ちをちゃんと伝えようとミューズは決意する。

 その為にも今は自分の出来ることを最後まで貫くと、初めて抱いた悔しさを心に刻み込んだ。



 ◇



「……そんな」

「まさか……ありえません……」


 聖域内の所々で意識を失い倒れ伏す同胞を前にタリスとコリスティンは愕然と膝を折る。

 残されたのはギーラスを含めた自分たち枢機卿のみで。

 この所行を果たしたのはたった一人の持たぬ者。

 いや、精霊術士すら不可能な所行を果たしたのなら、やはりあの持たぬ者は悪魔に魅入られた異端者か。


「……さて」


「「ひ……っ」」


 白銀と漆黒の双眸を向けられた恐怖に顔を引きつらせるも、次の瞬間には世界が暗転。


「これで、終いだな」


 ドサリと崩れ落ちるタリスとコリスティンの背後で朧月を振り抜いたアヤトがほくそ笑む。

 まだギーラスは残っているが、ここからの責任を果たすのは自分ではない。

 そのギーラスと言えば擬神化を見せてから一言も発することなく、同胞が打ち倒されても身動ぎすらせず立ちつくしたままで。


「どうやら、不思議な時間もここまでのようだ」


 それが逆に不気味が故に警戒を怠らず、しかしギーラスの横を通り過ぎるなりアヤトは擬人化を解いた。

 擬人化は聖女ミューズが認めた騎士に、神が守護するために与えた力という設定。

 妙なところに拘るあたりがアヤトではあるも、邪魔を全て排除したなら問題ない。

 教会にカリを返したなら、もう一つの目的を果たさなければならないと約束通り見届けていたミューズに苦笑を向けた。


「少なくともお前が笑える未来を掴むための道は作ったぞ。我が聖女さま」


「……はい」


 意図を察したミューズは小さく頷き、ゆっくりと祭壇に歩み始める。

 共に責任を背負うのなら、せめて最後は共に果たすために。


「お爺さま……」


 その道を作ってくれたアヤトの隣りで立ち止まり、ミューズは祭壇前に立つギーラスを見上げて。


「わたしは神の器に、使命を果たすつもりはありません」


 ハッキリと自分の意思を伝えた。


「わたしは最後まで大冒険を続けたいのです。例え後悔することになろうと……それでも、自分の正直な気持ちのまま歩みたい」


 そして自分の望みを掴むべく頭を下げた。


「卒業するまでマイレーヌ学院に通わせてください……お願いします」


 これまで犯した教会の罪を考えれば必要のないわがまま。

 その規模から陰謀に関わっているギーラスも立場を剥奪され、罪を償う日々が待っている。

 それでもこの機会を作るのに協力してくれたアヤトに対するケジメとして、決断を貫く示しは必要で。

 ギーラスから返答はないが、構わずミューズは頭を下げ続ける。

 やがて根負けしたのか、ようやくギーラスが口を開いた。


「…………ミューズ」


 弱々しく名を呼ばれたミューズは僅かに肩を振るわせ顔を上げた。


「……わたしは……わ、わたしは…………」


 見据える先には涙を滂沱させ、唇を振るわせるギーラスの姿が。

 内に秘める精霊力も消え去りそうなほど小さく、不安定な輝きで。

 自分のわがままで悲しませたのか、絶望させたのか。

 祖父の悲しみに満ちた表情が胸に突き刺さるも、だからこそ逃げることなくミューズは心を強く言葉を待つ。


 しかしギーラスの悲しみはミューズの向けたものではなかった。


「わたしは……なんて恐ろしいことを……っ」


 一見これまでの陰謀に対する罪を認めたかのような反応に感じるも、それにしてはギーラスは錯乱していて。


「……わたしは……なぜ…………()()()()()()()()()()()()()()()……っ」


 まるで悪い夢から覚めたような、犯した所行を今まさに自覚したように虚ろな目で自身を責め続ける。


「わたしは……わたしは……ああぁぁぁ――っ!」


「お爺さま!」


 ついには胸を掻きむしり発狂するギーラスを止めるべくミューズが駆け出すも、先にアヤトが動いた。


「ぁ………………ッ」


「……なんだ?」


 首筋に手刀を当て無理矢理にでも意識を失わせたお陰でギーラスの自壊は防げたが、アヤトにとっても予想外の出来事なのか不可解げに眉をひそめる。


 その反応がミューズの不安を煽る中――


「――無事かアヤトくん!」


 扉が開くけたたましい音と共にフロッツが血相を変えて飛び込んできた。



 

ミューズの抱いた想いには、やっぱりロロの存在が立ち塞がりますね。

それでも手に入れた勇気に迷うことなく立ち向かう決意をしました。


が……それよりもギーラスの錯乱ですよね。

それはフロッツが飛び込んできた理由も含めて次回で。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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