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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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幕間 見つめ直すべきは

アクセスありがとうございます!



 少しだけ時間は遡り――


「――な~る……教会の連中は随分とぶっ飛んだ企みしてたんだな」


 応接室で暖を取りつつツクヨが皮肉りながらタオルで頭をガシガシと拭く。


「私も報告を受けた時は呆れました。本当に、妄信の過ぎる聖職者とは質が悪いですね」

「……はい」


 対し濡れた髪を丁寧に拭うカナリアが毒舌にロロベリアも頷いた。

 ようやくカナリアの知る限りの情報を聞くことが出来たが、知れば知るほど本当に質の悪い所業の数々。

 偽ミューズ――ネルディナからも教会の狙いは王国、帝国の混乱と開戦、またソフィアの死にも関わっているとは聞いていた。

 だがサクラ誘拐時に対峙した鋼鉄のサソリ『レヴォル=ウェッジ』による王都、帝都の同時襲撃。もし決行されてたらと思うとゾッとする。

 他にも両国で暗躍していた全ては神を妄信するあまりの暴走か。

 ミューズを神の器と呼んでいたなら教会が信仰しているレーヴァ神と関係しているのだろうが、詳しい目的までは分からない。

 ただ過去形で分かるように同時襲撃は失敗に終わっている。

 ラナクスで起きた教会の襲撃未遂から既にアヤトがラタニだけでなくエニシとも結託して対処に動いていたらしい。それを知ったロロベリアは敬意と呆れの半々な気持ちで。


 ちなみに帝国側にはエニシの協力者としてモーエンが、王国側にはラタニの補佐としてスレイとジュシカも参加。

 マヤの正体や神気の装飾品を知らないのに参加させてもいいのかと疑問視するも――


『普段はやる気ゼロのおちゃらけずぼらなデタラメ隊長ですが、人の生き死にに関わる冗談を言いませんから。なにより隊長のやることを深く考えると病みますからね』


 ……言い方はアレだが信頼しているからこそ詳しく打ち明けない内は深く追求せず、要請があれば全力で協力する関係性で。

 そもそもアヤトの擬神化や白夜についてもカナリアはマヤの正体を知らない頃から深く追求していないと口にしていた。こうした配慮もしてくれるからこそラタニだけでなくアヤトの信頼を勝ち取ったのだろう。


 そしてカナリアが教国に同行したのもアヤトの監視とは別の任務もあった。

 事前に教国、教会の不審な動きを察知していたことからアヤトが遠慮なく動けるようにサポート役として、自分の護衛役として、より任務を遂行しやすいようマヤの正体を明かしてまで。

 更にツクヨ側の事情。

 襲撃未遂事件で一度ネルディナと接触したアヤトがその特性を暴き、精霊力の視認が出来るツクヨが最も頼れると内密に呼び寄せた。

 呼び寄せた文面もだが、素っ気なくともアヤトはツクヨを信頼していると感じて。

 その証が月守に巻かれている髪紐。マヤの正体を知らなくとも、必要だからとマヤを通じたやり取りが可能な神気の装飾品を渡したのだ。

 他にもカナリアのブローチ然り、エニシのカフスボタン然り、三人が手にしている神気の装飾品はアヤトやラタニの信頼を得られた証と言えるだろう。


 対し自分の持つ神気のブローチはマヤの気まぐれによるもの。二人の信頼を得て手に入れていない。

 加えて真意は未だ謎だが、教国に同行したところで何も知らされず蚊帳の外。

 カナリアに護衛を頼まなければならないほど力不足。

 もちろん自分がまだまだアヤトの信頼を得るほどの何かを成し遂げてはいないと重々承知、守られる側なのも自覚している。

 ただ自身の力で信頼を勝ち取った二人との差をロロベリアは見せつけられた。


 つい先ほどもネルディナの一件が解決したと気を緩めていた自分に対し、二人は警戒を怠らなかった。


 教会がミューズに入れ替わり、ネルディナをこちらに向かわせていたのはロロベリアとカナリアを連れ去るためと知っていたのに。

 カナリアが事情を全て話すと移動を決めた直後――


『でもま、事情を聞くならやることやっておいた方が良くない?』

『同感ですね』


 疎外感を抱くロロベリアを他所にツクヨとカナリアは意味深なやり取りを。


『では私がやっておきましょう。ツクヨさんはロロベリアさんをお願いします』

『まだ本調子じゃなさそうだけど……て、聞くのは失礼か』

『既に失態を犯しているのでお気になさらず。四人で間違いないですか?』

『やっぱ心配するのは失礼だったか。なら白いのちゃんはアタシに任せてそっちは頼みますわ』


 更に意味深なやり取り後、カナリアは精霊力を解放するなり外に飛び出してしまい。

 呆気に取られるロロベリアに苦笑交じりにツクヨが教えてくれた。


『屋敷周辺に四人、ネルディナと一緒に教会が仕向けたんだろうよ』


 自分やカナリアを連れ去るならネルディナだけなはずがないと少し考えれば分かるはず。現に二人は気を抜かず警戒していたからこそ共犯者の存在を察知した。

 ネルディナの特異性を考慮すれば他の共犯者は同士討ちになるため輸送班として控えていたのか、こうした警戒や感知力でも二人はロロベリアよりずっと先に居て。

 また共犯者の四人を迎え撃つべく飛び出したカナリアは五分と経たずに戻ってきた。

 輸送班といえど相手は教会の送り込んだ精鋭四人。それをカナリアは不調な状態で排除してしまった。

 精霊力の視認という優位性があろうとネルディナに無傷で勝利しているツクヨと実力的にもずっと先に居る。


 実戦経験の差といえばそれまで。

 しかし自分が目指す大英雄という道を進むなら、仕方ないで済ませるわけにはいかない。

 故に今は自身の弱さを、この悔しさを受け入れ、更なる努力が必要と己を見つめ直すロロベリアだったが。


「……どうした白いのちゃん?」


 険しい面持ちになっていたのか、ツクヨが心配そうに顔をのぞき込む。


「アヤトさんなら大丈夫ですよ」


 カナリアも落ち着かせるよう肩に手を。

 どうやら現状というよりもアヤトを心配していると捉えられたらしい。

 なんせアヤトは今まさに大聖堂に乗り込んでいる。

 ミューズを溺愛していたギーラスが黒幕の一人だったこと、国王派のリヴァイとフロッツが繋がっていたことも含めて真相を聞いて驚いたものだ。

 状況を確認するべくマヤと連絡を取った際、ダリヤと交戦して味方に付けたらしいが他の聖教士団は教会派だ。

 ダリヤとフロッツが教皇の救出に向かったなら、アヤトはミューズの救出を一人で担う。

 たった一人で、今回の首謀者を一網打尽にするために。

 常識的に考えれば無謀な行為。

 なのでカナリアの気遣いは当然、しかしロロベリアはアヤトの無事を疑っていない。


「そう……ですね」


 が、ロロベリアは敢えて話を合わせる。

 二人との差を目の当たりにして不甲斐なく、悔しいとの気持ちを伝える必要はない。

 この気持ちは自分の中で留め、今後の成長で示すのみ。


「擬神化すれば相手が聖教士団だろうと、それこそ神さまだろうとアヤトの敵ではありませんから」


 なのでロロベリアも勤めて明るく返したのだが。

 

「ぎしんか……? なんだそりゃ?」


「…………あ」


 怪訝な顔で首を傾げるツクヨに自身の失言に気づく。

 そう、カナリアは必要性からマヤの正体や神気の装飾品など詳しい事情を聞かされているが、ツクヨは未だ知らない。

 故に今回もツクヨの拘りを尊重した情報交換をしているわけで。

 それなのに自身の感情抑制や、これまで交換した情報から話題に挙げても問題ないと気が緩んでしまった。


「いや……あの妙な変化のことか。でもぎしんか……? 疑心……なわけないか。なら……マヤの不気味さも考慮すりゃ…………ああもう!」


 失言に気づくがもう遅く、推測し始めたツクヨが突然苛ただしげに頭をかく。


「アタシは意地でもアヤトから聞き出すって言ったよな! つーか白いのちゃん、あん時のキリッとした拒否はなんだったんだよ!? ちょっと分かっちゃったじゃねーか!」

「すみません!」


 からの猛抗議にロロベリアは全力で謝罪を。

 一度搦め手で真意を探ろうとしたツクヨに対して拒絶したのは他でもないロロベリア。

 その姿勢からツクヨは反省し、本人(アヤト)が話してくれることが対等な証拠と拘るようになったのに反省させたロロベリアがやらかせばこの怒りは最もだ。


「……ロロベリアさん」


 そして教国滞在中でもこのような失言をしているが故にカナリアも冷たい視線を。

 何度繰り返せば治るのか……こうした努力も必要だとロロベリアは猛省しかない。


「あのな白いのちゃん、そういうとこだぞ! だから白いのちゃんって呼ばれるんだよこのうっかり白いのが!」

「言い方! それに白いの呼びしてるのはアヤトとツクヨさんだけですから!」


「とにかく、ロロベリアさんの言う通りです」


 まあ状況が状況だけにこのまま放置すれば不毛な時間を費やすと懸念したのか、カナリアは柏手を叩き中断を促す。


「確かにアヤトさんの強みは一対一でこそ発揮されますが、あの変化さえしてしまえば関係ありません」

「まあ……上位種二体を同時に首ちょんぱできるくらいだからな」

「私も一度だけ確認しましたが……あの変化をしたアヤトさんを相手にするなら、それこそ一〇〇程度は足りませんね。隊長が本気を出さなければ相手取れないほどですし」

「本気を出せば相手できるラタニさんもデタラメ過ぎるだろ……」

「バケモノを相手にできるのはバケモノ以外に居ない、ということです」


 そのまま開き直った話題転換で見事にこの場を納めたが、だからこそ頭が痛いわけで。

 大聖堂にいる首謀者の戦力は不明だが、少なくともダリヤを除く聖教士団がいる。

 いくらアヤトでも数的不利、全員殺さずに捕らえるなら擬神化は必要不可欠。

 もちろん有事が故に仕方ないのは理解しているが、問題はマヤとの契約を伏せた上で擬神化をどう誤魔化すか。


「……教会連中は妄信からの狂言としてどうとでも出来るはず。問題はミューズさまですね……アヤトさんの秘密と言えばそれだけで公言しないでしょうけど、本人の疑問をどう解消するか……」


 これもアヤトのフォロー役としての任務と、生真面目なカナリアは言い訳の模索に忙しかった。




アヤトサイドが大詰めな中、今回は敢えてロロサイドの内容でした……この子も一応主人公なので。

そして次回からはもちろんアヤトサイド。

擬神化したことでアヤトがどんな決着に持っていくのか、最後までお楽しみに!


ちなみに、ロロはちょいちょいシロ時代の名残が出ますね……ツクヨさんが怒るのは当然です。


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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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