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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
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批判の矛先

アクセスありがとうございます!



 ギーラスの命に真っ先に動いたのはタリスとコリスティンだった。


『弾けろっ』


「ミューズさま!」


 コリスティンが飛び出すと同時にアヤトに向けてタリスが精霊術を発動。


「アヤトさま!」

「よっと」


 速度重視の低威力の空圧弾を放つもミューズの心配を他所にアヤトは悠々と回避。

 しかし精霊術は牽制、目的はミューズの保護で。


「アヤトさま! 放してください!」

「なりませんミューズさま!」

「お辛いかも知れませんがこれも使命のためです!」


 ミューズも精霊力を解放して抵抗するも、コリスティンに遅れて腕を掴むタリスとの二人がかりでは身動きが取れず。


 その間に司祭や持たぬ者といった非戦闘員はミューズを囲うように陣取り、聖教士団長を中心に精霊士がアヤトを追撃、精霊術士が後方支援と霊獣と対する戦術で粛清にかかる。

 聖教士団の精霊術士や精霊騎士の精鋭三〇人をたった一人でアヤトは相手取らなければならない。


「ミューズさまを盾にしないとは悪魔にも良心があるようだな!」


「人を盾にするような卑怯なマネが嫌いなんだよ。テメェらとは違ってな」


「我らなにが卑怯と罵る!」


「俺のようなか弱い持たぬ者に精霊力持ちさまが寄ってたかって襲いかかってくるのが卑怯と思わんのか」


「相手が悪魔なら当然の配慮だ!」


「随分と都合のいい解釈だな。つーかここはテメェらの大事な大事な聖域だろう。よくもまあ争いなんざできるものだ」


「聖戦の為ならば神もお許しになる!」


「それもまた随分と都合のいい解釈だ――とっ」


 しかしアヤトは聖域内を縦横無尽に駆け回り追撃する精霊士の剣を交わし、放たれる精霊術は朧月で両断していく。

 いくら聖域内で高威力の精霊術を放てなくても、相手は持たぬ者。

 そもそも精霊術を斬るという現象が異常で。


「やはり悪魔か……っ」


 故に士団長を始めとした団員も畏怖の念が拭えず、統制が乱れていくとまさにアヤトの思うつぼ。

 いくらアヤトでも聖教士団の精鋭三〇人を相手にするのは無謀。それでも全神経を防戦に集中させれば凌ぐだけなら難しくない。

 だが逆を言えば打開策もないわけで。

 今のところ聖域内という相手の心理的自重から有利に立てているが、数的不利な状況も相まって聖教士団がなり振り構わず粛清にかかればすぐに覆されてしまう。


「お爺さま! もう止めてください!」


 まさに四面楚歌なアヤトを救うべくタリス、コリスティンに両腕を掴まれてもなおミューズは抵抗を続けてギーラスに叫ぶ。

 アヤトを粛清――殺すことのなにが責任か。

 自分が悲しむと分かっていて、なぜこのような仕打ちが出来るのか。


 確かにアヤトの言う通り、ミューズの信仰心は物語の聖女が始まり。

 それでも神の教えに従えばみなが幸せな笑顔になると信じていた。

 なのに自分の意思を無視して使命を強要し、アヤトを一方的に異端者と決めつけて断罪しようとする。

 無慈悲な現実を目の当たりにしたことでミューズの価値観がボロボロと崩れていく。


 この現実が神のお導きなら――それこそ神を、教会を信じられない。


「…………分かってくれ、ミューズ」


 ミューズの悲痛な訴えを正面から受けたギーラスは首を振る。


「アヤト殿一人の犠牲でこの世の生きとし生けるものが神に導かれ、真の安寧が得られるのだ」

「犠牲の先に得る安寧など間違っています! 本当に神が導かれるのなら全ての人々を平等に導いてくれるはずです!」

「異端者は来世で。これは教典にも書かれている真理、なにも間違っていないだろう」


 まるで駄々をこねる孫を想い祖父のように優しく諭す。

 その姿はミューズの知るギーラス、しかしその全てが神を中心に考えられていて。

 自分のことも、アヤトのことも除外した独善的な諭しではミューズの心には響かない。

 ただ自分の知る祖父ではなくなった悲しみと、これ以上なにを訴えても聞き入れてくれないと諦めからミューズは決断した。


「…………わたしは使命を果たします。なのでアヤトさまを救ってください」


 それはアヤトだけでも巻き込みたくないとの決断で。

 これが自分と祖父との問題ならば、せめてと。

 使命を果たすことで自分がどうなるかは分からなくても。

 このままではアヤトが確実に死んでしまうのなら。

 せめて初めて恋をした人だけでも自分の意思で助けたい。


「わたしが本当に神の器なら、今のわたしがアヤトさまを安寧に導きます」

「……ミューズ」

「もし聞き届けて頂けないのなら、『今ここで――』」


「「ミューズさま!」」


 自身の覚悟を示すようにミューズの精霊力が膨れあがり、もし聞き入れなければ精霊術を暴発させて自決すら躊躇わないとの意思表示に腕を掴むタリスとコリスティンから緊張が走る。


「そこまでアヤト殿のことを……」


 普段のミューズを知るからこそ、脅迫染みた交渉を持ちかけられてはギーラスも驚嘆せざるえない。

 強い決意を秘めた眼差しを向けるミューズに根負けしたのか、ギーラスは目を伏せ。


「いいだろう。お前が使命を果たすのであれば、神に誓い――」


「――なにが俺一人の犠牲だ」


「アヤトさま……っ」


 最後の願いを聞き届けるより先にアヤトの声が拒絶、これにはギーラスたちよりも交渉を持ちかけたミューズが驚きを隠せない。

 なぜならアヤトは未だ聖教士団と交戦中で、変わらず聖域内を駆け巡り続けているが靡く黒いコートはボロボロ、頬にも切り傷が付けられている。

 やはりアヤトといえど聖教士団相手には分が悪く、このままでは粛清されるのは時間の問題で。


「元々テメェらはミューズを犠牲に神を降臨させようとしていただろう」


 防戦に集中するが故に余裕もない中、それでもミューズとギーラスの交渉に異議を唱えてくる。


「なにより俺かミューズのどちらかを犠牲? 笑わせるな。テメェらが王国や帝国で企んでいた狙いを知らんとでも思ってんのか」


「アヤトさま……それは」


 緩急を付けた動きと朧月の一閃で追撃をギリギリの回避をしながらの批判にハラハラしつつもミューズは反射的な問いかけを口にしていた。


「両国を混乱に陥れ、開戦をさせることで多くの信者を得る」


 そんなミューズに見向きもせず、迫り来る斬撃や精霊術に集中しながらアヤトは続ける。


「両国の覇権争いから逃れた者によって唯一の宗教国である教国の勢力は肥大した。例え現金な信仰心だろうと、神の救いを求めてな」


 王国や帝国で暗躍していた教会の真意。

 六〇年前まで続いていた戦争を再び起こすことでレーバテン教徒を増やす。

 また両国の国力を疲弊させれば実質教国が覇権を握ることになり、その教国の中でも権威を得ている教会が大陸の中心になると同意だと。


「降臨祭に合わせた王都、帝都の襲撃なんざ大それた暗躍しておいて一人の犠牲と言い切れるなら随分と面の厚い神さまもいたもんだ」


 そして目的を果たすべく、これまで多くの犠牲を強いてきた教会その物に対して痛烈な嫌味で批判。

 もし計画が実行されていれば一人どころではない。

 王都、帝都で暮らす何も知らない多くの住民が命を落としていた。

 また両国の開戦が実現すればそれこそ大陸中の生きとし生けるものが被害に遭う。

 神に救いを求め教国に逃げ込んだ者も、心に生涯消えない傷を負い救われることはない。


「信者を増やすことが神を降臨させる条件か……降臨させた神の力をより強くさせるために信仰心を集めているのかまでは知らんがな。もし俺の言っていることが戯れ言というなら――笑い飛ばして構わんぞっと」


「…………お爺さま」


 聖教士団をあざ笑うかのように、しかしギリギリの防戦を強いられながらも軽口を叩くアヤトからミューズの視線がギーラスら三人の枢機卿に向けられた。

 アヤトの批判から訪れるであろう悲惨な未来を想像するに容易いからこそ。

 待っているのは多くの悲しみや憎しみに満ちた世界しかない。

 これが神の導く平等な安寧なのかと信じられなくて。

 ギーラスは無言を貫き、精霊力の輝きに揺らぎはない。

 だがタリスとコリスティンは表情そのまま、なぜアヤトが自分たちの行いを知っているとの動揺が精霊力の輝きから見て取れる。

 つまりアヤトの告発は真実で。

 全ての犠牲が教会の目的に通じているなら。

 それが神の降臨という儀式の為に行われていたのなら。


 ギーラスの言う真の安寧に導く()()()()()()()()


「また……わたしを騙したのですか……」


 その問いにギーラスは何も答えない。

 精霊力の輝きこそ曇っているがそれだけで。

 使命を果たした代償としてアヤトを救ったところで未来に安寧など待っていない。

 結局は自分の意思を無視した使命の押しつけるための言い分でしかなく、神の器という道具しか見ていないとミューズは痛感して。


「答えてください……お爺さま!」

「…………」

「なぜ何も答えてくれないのですか! わたしは――」


「ま、そんなことはどうでもいい」


 悲痛の叫びにも動じないギーラスへの更なる批判は、迫り来る風刃や火球を朧月で斬り捨てたアヤトの軽口と共に一蹴。


「どうでもいいはずがありません! このままでは多くの悲しみや憎しみに満ちた世界が……なによりアヤトさまが……っ」


「たく……ミューズ」


 たまらずミューズは否定するも、回避の僅かな間を縫ってまで向けてくるアヤトの視線は。


「テメェの責任を()()()()()()()()()()()()()


 言葉通り自分を批判するものだった。



   

聖教士団に囲まれたアヤトくんは実際かなりギリギリな状況です。

それでも焦りを微塵も見せずブレないのがアヤトくんの恐ろしいところですね……。


さて、そんなギリギリな状況の中でアヤトがギーラスたちの行いよりもミューズに批判の矛先を向けた理由はもちろん次回で。



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読んでいただき、ありがとうございました!


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