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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第九章 聖女の騎士編
362/780

呼び起こしたのは

遅い時間になって申し訳ございません!

アクセスありがとうございます!



『――神の黙示が届ききっていないようだ』


 ギーラスとの面会中に意識を失ったミューズが次に耳にしたのは聞き覚えのある声。

 この声はギーラスと同じ枢機卿の一人、タリス枢機卿で。


『やはり異端者の穢れが残っているのでしょうか。これでは使命に影響を及ぼしてしまいます』


 続いて聞こえたのは枢機卿で唯一の女性、コリスティン枢機卿のもの。


『穢れが残っているのなら浄化すればよい。ミューズさまは選ばれし神の器、変わりはいないのだ』


 二人がなにを話し合っているのか未だ意識が朦朧としているミューズは理解できない。

 また声でしか判別できないように視界も霧が掛かったように朧気で。


『では浄化の後、降臨の儀式に取りかかりましょう。私はミューズさまをお連れします』


 まるで夢の中を漂っているようなこの感覚は何なのか。


『ギーラス枢機卿は代理を使って剣聖の説得をお願いします』


『剣聖ですか……彼女も黙示の届かぬ者。ミューズさまの守護者として相応しいのですか』


『聖剣に選ばれたのだ。私たちが否定するわけにもいくまい』


『しかし私も疑問はあります。なぜ王国の友人をお連れするのですか』


『神となられても器はミューズ。せめてもの慰みになればと思いましてな』


 分からない中、聞こえるのは祖父の声。


『ギーラス枢機卿は聖職者である前にミューズさまの祖父というわけですか』


『なにかご不満でも?』


『……いいえ。いずれ神の器となられるミューズさまにせめてもの冒険として、王国に留学させた件も踏まえて私は否定しません』


『ですね……名誉な使命を与えられたとはいえ、ミューズさまにも人としての育みは必要。その留学で異端者と遭遇してしまいましたが、これもまた神の試練であったと思えばいいでしょう』


『ご理解、感謝しますぞ』



 しかしミューズは最後まで自分の身体が自分のものではない朧気な世界を漂いながら、三人のやり取りを聞いていて。

 以降もそのままどこかへ向かっているのは分かるのに自分が歩いているのか、そもそも立っているのか座っているかも分からず。

 僅かに感じ取れる感覚から自分が水浴びをして、誰かに服を着させてもらっていると他人事のように理解しつつ。


『ミューズ、使命を果たそう』


 セージの甘い香りが微かに嗅ぎ取れるどこかで再び聞こえた祖父の声を最後に、残されたミューズの意識も徐々に失われていく。


 聞き取れていた祈祷が小さく。

 嗅ぎ取れていたセージの香りもぼんやりと。

 霧が掛かっていた視界も暗転し。


 自分が自分でなくなるような感覚で。


 感情そのものが失われていく。

 故に怖いと思わない。


 ただ夢の世界の更に夢の世界に堕ちていくような感覚に身を委ね。


 なんとなく、ミューズ=リム=イディルツはこの世から消えていくのだろうと。


 他人事のように意識という瞼を閉じて――


()()()()()



「…………」



 寸前、不意に聞こえた声が閉じかけた意識の瞼を開かせた。




 ◇




 半ドーム型の天井は高く、床や壁もイディルツ家で見た礼拝室のように白いが大聖堂の聖域だけあり広さは比べものにならず、内奥の白い祭壇とレーヴァ神の彫像が置かれているところまで優に五〇メルはある。

 またセージの香りが漂い、ダリヤと同じ聖教士団の団服を纏った者、聖職者であろう者が中央に道を作るよう左右に整列して両膝を突き祈りを捧げていた。

 更にその奥ではギーラスを始めとした枢機卿の法衣を纏う三人。

 そして枢機卿よりも向こうの、一段高い祭壇の前では白を基調とした金糸の縁取りがされた聖法衣を纏う者が両膝を突き祈りを捧げていた。

 五〇人は居るであろう聖域内は静寂に包まれ、ただただ厳かに。

 誰一人身動ぎすることなく、気持ちを一つにその時を待ち続けていた。

 

 しかし聖域内の静寂は突如終わりを迎える。



「邪魔するぞ」


 ガチャンと扉が開く音と、厳かな空間に場違いな訪問の声が聖域内に響き渡るなり二人を除いた信者全てが祈りを中断して背後を振り返った。

 一斉に向けられた多くの視線を受けてもアヤトは動じることなく聖域内を軽く一瞥。


「なんだ、まだお誕生日会の準備中か」


 嘲笑交じりに聖域へと足を踏み入れる招かれざる来訪者にざわめきが起こる中、タリス枢機卿がアヤトを目視するなりわなわなと唇を震わせた。


「アヤト……カルヴァシア……ッ」

「なぜ……あなたが」


 続いてコリスティン枢機卿も表情を青ざめていて、大切な儀式を中断された怒りよりもアヤトがここに居る驚きが勝っている。

 アヤトは異端者として司祭と聖教士団の団員を犠牲に粛清されたはず。

 しかも精霊術の炎によって死体すら消し炭にしたとの報告を受けているのだ。

 にも関わらず五体満足で姿を現せば驚くのも無理はない。

 来訪者の正体がアヤトと分かるなり動揺する聖域内で、タリスとコリスティンに挟まれる形で祈りを捧げ続けていたギーラスが立ち上がり、ゆっくりと振り返った。


「これはこれは、アヤト殿ではありませんか」

「あんたは俺が生きていても驚きはしないようだな」


 柔和な笑みを向けるギーラスに対しアヤトは感心したように苦笑を。


「もちろん驚いてはおりますが、それよりもなぜここに居るのかと思いまして」

「だから、邪魔すると言っただろう」

「邪魔……ですか」


 太々しい返しにギーラスは怪訝そうに見据えるもアヤトは止まらない。


「テメェらはミューズを犠牲にして神さまを降臨させようとしているんだろう?」


「な、なぜそれを……っ」


 その挑発ともいえる問いかけにタリスを始めとする信者から緊張感が走る。

 ただアヤトからすればカナリアから得た神の器という言葉と、教会が神を信仰する組織、そしてマヤという神が存在している情報を踏まえれば予想は難しくない。

 問題はその神を降臨させる方法、これまで暗躍していた教会の不可解な部分までは読み切れていないこと。

 それでも予想通りの展開だったと口角をつり上げる中、ギーラスは悲しげに息を吐く。


「……犠牲とはとんでもない。ミューズは神に選ばれし器、これは使命なのですよ」

「本人の意思を無視し、使命を押しつけているのが犠牲でないとは実に身勝手な言い分だ」

「ミューズも受け入れております。現に今も、こうして神に祈りを捧げているでしょう?」


 と、アヤトに見えるようギーラスは横にずれて首を傾げる。

 確かにアヤトが聖域に足を踏み入れても尚、祭壇前のミューズは一心不乱に祈り続けていた。


「つまり、あなたの言い分こそ身勝手な押しつけではないでしょうか」

「たしかにそうかもな」


 ギーラスが避けたことでハッキリとミューズを捉えたアヤトは肩を竦めて自身の非を認めるも――


「だが、俺は疑り深い質でな――」


『…………っ』


「――本人に直接確認せんと信じられん」


 風が吹き抜けた次の瞬間、()()()()()()()()()()()()姿()()

 精霊力を解放しなければアヤトの動きを捉えられる者はまずいない。

 しかしダリヤとの模擬戦を間接的にしか知らない者には異質な力で移動したように感じられて。

 他の信者だけでなく、さすがのギーラスも目を見開き驚きを隠せない中、アヤトは変わらず祈りを捧げるミューズの前に移動するなり身をかがめた。


「で、確認するがお前は神の器とらやの使命を全うするのが望みか」

「…………」

「それとも俺に報告したように最後まで大冒険を続けたいのか」

「…………」


 声を掛けるもやはりミューズからは返答はなく、視線すら向けようとしない。

 その態度にアヤトは煩わしげにため息一つ、ミューズの頭に手を乗せた。


「たく……俺の話聞いてんのか?」


「なっ!?」

「ミューズさまに何をしているのですか!」


 アヤトの不敬な公道にタリスとコリスティンは聖域内でも構わず精霊力を解放。

 二人だけでなく他の精霊術士や精霊士の信者も解放し、剣を抜く者まで現れる一触即発の状況下においてもアヤトは相変わらずで。


「もし爺さんの説得で困ってんなら、協力してやると言っただろう」


 微かに身動ぎした感触を手の平から確認するなりアヤトはほくそ笑み。


「故にどうしたいかさっさと決めろ」


「…………」


 その呼びかけに応えるかのように、閉じていた瞼と共にミューズの顔が上げられて。


「……アヤト……さま?」


 焦点の定まらない瞳を向けているが、それでも目前に居るアヤトの名を呟いた。




いついかなる時もブレないのがアヤトくん。

さて、ついにミューズとアヤトが再びの対面となりました。

ここからどうアヤトらしく教会にカリを返していくのかこうご期待!



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みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!



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